美の特攻隊

てのひら小説

2014-01-01から1年間の記事一覧

ゆくとしくるとし

この記事が今年最後になります。読者の皆様ありがとうございました。どうぞよいお年をお迎えください。。。

ペルソナ〜8

「驚かれたみたいですね。ひとまず少女の件はそれくらいにして、いえ、取り急ぐわけじゃないのですけど、別に時間がないとかではなく、息子さんの関わった事実もわかりましたし、何よりあなた自身が恥辱から抜け出せないご様子に見えておりますので、こう言…

望郷

ペルソナ〜7

「順序よくと申しますと、、、」喉元から流暢に滑り出させたい気持ちを精一杯いだきながら、滑舌とは明らかに隔たりのある実感に苛まれた現状を、孝之は苦々しく覚えつつも半面ではしかるべき安堵に即しているようで、錆び付いた金具を手にしたときに思いな…

大人は判ってくれない

自選作品

過去作品をふりかえってみました。 逆光 - 美の特攻隊

おもちゃのクリスマス

たなからぼたもち

【第3回】短編小説の集い 参加作品 「今日はえらい人出やな、クリスマスやからかの~、おやっ、べっぴんさんもぎょうさんおるわ」じいさん、いつものようにパチンコ帰りかと思いきや、「年金生活のわしらにケーキなんぞいらんわい。ばあさん、みょうなとこ…

トンネル抜けて

ペルソナ〜6

この店で形作られたものなのだろうか、一見ありふれた透明な硝子の器。すでに箸をつけながらその素朴な風味に、刺々しい感情や上昇する熱意など一切洗い流して、ここが夏日から遮断された屋内であることをはなから承知させる冷麺の涼味に、身もこころもさら…

昨日・今日・明日

ペルソナ〜5

真夏の幻想であろう汗ばむ想い出を払拭するに正確な涼感が伝わってくる五目冷や麦とやらは、現実には冷や汗となって居場所を確認していた孝博に良好な印象を授けた。もはや冷や汗は引いた。ほどなくすると湯気を立てたスープを盆に載せて現れる久道に対峙す…

白い空

ペルソナ〜4

緊張の糸をほぐしてくれたら、そんな久道の配慮が込められているのか、思わず頬をゆるめてしまったいかにも中華飯店ふうの皿にこじんまり、おそらく出来上がりを一度茶碗に盛って逆さにかえしたのだろう、どこかこぶりな乳房を連想させる形は色合いまで似通…

ミレナへの手紙

どうも私は貴女の顔をはっきり思い出すことができません。

ペルソナ〜3

思いもよらなかった昼飯のもてなし、しかも初めて訪ねた家で本人が腕をふるってくれた焼き飯の味。深沢の言うよう段取りがなされていたのか、室内を見渡している間がかりそめの裡へ過ぎてしまったことに即すほど、手際よく並べられた新鮮な驚きは、布張りの…

虚空のスキャット

ペルソナ〜2

期待以上の思惑をはらんでいたからには、初対面の人物を果たしてどういった印象で受けとめるのやら、気早に波立つ久道の眼に映じた男の年格好や人柄は、挨拶を交した時点でなにやら顔見知りに思えたりして、しかもよりどころのないままに胸のあたりに充満す…

まちの灯り

冬の宵 かじかむ想い ふれる暖

ペルソナ〜1

その朝も残暑のきびしさを予感させる日差しであった。いつものよう九時過ぎに目覚めた深沢久道へ最初に届けられたのは、聞きなれない名前の人から電話がと云う、妻のどこか慌ただし気な一声だった。「誰だろう、電話で起こされるのもそうないからな」たしか…

骨まで愛して

バンビさんとちび六

さむさむぴゅーぴゅーそとは木枯らし、うとうとスヤスヤおねむがたりないのかな、とろとろぬくぬくハイハイはってあちこちどちらへ、きゅっとまるまり又らいねん。いえいえ、まだもうすこしよ、ちび六、冬眠するまえにおもいでぴかぴか、きぶんツヤツヤ、そ…

ささやかだけれど、役にたつこと

鏡像

さげすみに甘んじる気性だと自他ともに認めだしたのはやはり夫人を娶ってからであろうか。ロベルトにしてみれば初婚であったが夫人はそうでなく、事情はどうあれ先代と昵懇の家柄にあった娘はひとりきり、誓約をかわした証跡があったとは思えない、何故なら…

黄昏れて

愛しき狩人

誰もがうらやむ境遇にあることを認め、なおかつ優雅な風の吹き抜けを当然と思いなしては、みぞおちあたりに妙なくすぐりを覚え、それが何の仕業かわかろうともしないまま、不敵な笑みを浮かべるのがマリアーヌに備わった美質であった。 まぎれもない鏡の作用…

冬へ

ロベルト伯爵夫人

ロベルト伯爵夫人にとってこれまでの道のりを振り返るとき、おのずと立ち現れてくる言葉には、枯葉が枝の先からこぼれ落ちようとする光景をあぶり出して、風の気配とは無関心な乾いた響きをもっていた。少女から艶冶な風貌へと移り変わる鏡のなかの自分に言…

秋庭歌一具

散りされど 深き息吹の 彩たる夢 秋の結びに 狂え酔いたし

蛇の歌

うすら笑いを張りつけたのではないだろう、見方によって苦笑にもとれる顔つきには、分別くささがのぞいていたし、また木漏れ日の加減のせいか、その影が光線を退けるよう戯れに誘われた無邪気さは、本来の性質をあらわにしているとうかがわれた。「お嬢さま…