期待のネット新技術
「100GBASE-LR4」と「100GBASE-SR10」の間を埋める最大100Gbpsの「100G PSM4 MSA」
【光Ethernetの歴史と発展】
2020年12月1日 06:00
Ethernetというか10GBASE-Tに関しては、2017年から【10GBASE-T、ついに普及?】と題し、全11回と番外編2回をお届けした。だが、ツイストペアによる銅配線のEthernetは10GBASE-Tまでで、25/40GBASE-Tはまだまだ実用化には至っていない。
【アクセス回線10Gbpsへの道】とも一部は被るかもしれないが、ここでは光ファイバーを利用する“光Ethernet”を紹介していこう。
「光Ethernetの歴史と発展」記事一覧
- 10BASE-Tと同じ仕組みの光ファイバーで最大2kmを実現「10BASE-F」
- 屈折率で伝送距離が異なる「光ファイバー」の材質と構造
- 最大100Mbpsながら伝送距離の異なる「100BASE-FX」「100BASE-SX」などの各規格
- 実効1Gbpsに到達した「1000BASE-SX/1000BASE-LX/1000BASE-CX」
- 拠点間接続に用いる「1000BASE-X」の各種関連規格
- 低価格な光ファイバーで1Gbpsを実現する車載向けがメインの「GEPOF」
- 10Mbpsの「MII」から1000MbpsのCisco独自規格「SGMII」まで
- 1波長で10Gbps、光源と到達距離の異なる「10GBASE-W/R」の各規格
- 10Gbpsのフレッツ光で使われる「10GBASE-PR」、既存ケーブルを流用できる「10GBASE-LRM」
- XENPAK→X2→XFP→SFP+と移った10GBASEのトランシーバーモジュール規格
- 10Gbpsのシリアル通信規格「XFP」、これを置き換えた「SFP+」
- 10GbEの次は40GbEと100GbE、HSSGによってともに標準化の開始へ
- 最大100Gbps、「IEEE 802.3ba」として標準化された8つの規格
- IEEE 802.3baで定義されたInterconnectとトランシーバー規格
- 100Gbpsで100mを目指す「P802.3bm」、IEEE 802.3baをブラッシュアップ
- 最大100Gbps・100mの「100GBASE-SR4」と40Gbps・40kmの「40GBASE-ER4」
- CFPのサイズ半分、最大200Gbpsの「CFP2」、さらに小型化された「CFP4」
- 40Gbpsの「QSPF+」、50Gbpsの「QSFP56」、112Gbpsの「SFP-DD」「QSFP28」
- 25Gbps×4で100Gbps、光Ethernet第2世代「IEEE 802.3bm-2015」の各規格が標準化
- 50Gbpsに対応する5つの規格「50GBASE-KR/CR/SR/FR/LR」
- 「25G PAM-4」で100/200Gbpsを実現する7規格と、SMF1対で100Gbpsの「100G PAM-4」
- 25Gbps×8の「200GBASE-R」では4つのモジュール規格が乱立
- 最大400Gbpsを実現する2つのモジュール規格「OSFP」「CDFP」
- 1レーン50Gbpsで最大400Gbpsを実現する「P802.3bs」
- レーンあたり50/25Gbpsで400Gbpsを実現する「IEEE 802.3bs」の各規格
- 53.125Gの「PAM-4」を4対束ねた「PSM4」で最大400Gbps「400GBASE-DR4」
- アクセス回線向けの光ファイバー規格「IEEE P802.3cp/P802.3cs/P802.3ct」
- 位相変調した光信号を復号するコヒーレント光、波長分離多重の「DWDM」併用の「400ZR」
- 「100GBASE-ZR」を残し「IEEE P802.3ct」から「400GBASE-ZR」を分割
- 1対のMMFで100Gbpsを目指す「IEEE P802.3db」
- IEEE標準ではない光Ethernetの各規格、100G/400G/800Gですでに登場
- SWDMを用いた100/40Gbpsの「100G-SWDM4-MSA」と「40G-SWDM4-MSA」
- 「100GBASE-LR4」と「100GBASE-SR10」の間を埋める最大100Gbpsの「100G PSM4 MSA」
- SMF1本で25Gbps×4の100Gbpsを実現、到達距離2kmの「CWDM4 MSA」、40kmの「4WDM MSA」
- 100Gbpsで10/20/40kmの到達距離を狙った「100G 4WDM-10/20/40」
- 「100G PAM-4」で最大100Gbps、到達距離2kmの「100G-FR」と10kmの「100G-LR」
- SMF1対で100Gbpsの「100G LR1-20/ER1-30/ER1-40」、4本束ねて400Gbpsの「400G-FR」
- 最大400Gbps、到達距離2kmの「400G-FR4」と到達距離10kmの「400G-LR4-10」
- 最大100Gbpsで250kmを伝送可能な「MSA-100GLH」、巨大なサイズと消費電力で採用進まず
- 最大400Gbps、到達距離10kmの「CWDM8」、8×50G NRZの採用で低コストと低電力を実現
- 400Gbpsで到達距離2kmと10kmの「CWDM8 2km/10km」、低OH濃度SMFの採用で損失を抑える
- 400Gを光ファイバー1本で双方向通信する「400G BiDi MSA」、「400GBASE-SR8」を先行規格化
- 50Gが8対で400Gbpsの「400G-BD4.2」、消費電力増や高コストが課題に
- IEEE「400GBASE-SR4.2」は先行した「400G-BD4.2」と相互互換性を確保
- 高コストで普及に至らない「400GBASE-SR8」と、さらに高価な「400GBASE-SR4.2」
- 最大800Gbpsの100G PAM-4 PHY、ベンダー各社がサポート、受発光素子普及のカギは940nm?
- ETCがリリースした「800G Ethernet」の仕様は400Gを2つ並べる構造に
- 「QSFP-DD MSA」を発展させる「QSFP-DD800」、供給電源など今後に課題も
- 最大800Gbpsを目指す「800G Pluggable MSA」、3つの変調方式を採用
- 高帯域と低レイテンシーの一方で到達距離は限界へ、800Gへ想定される4つのシナリオ
- PSM4とCWDM4で1.6Tb/secを実現し、到達距離も延長「800G Pluggable MSA」
- 800G Ethernetに関連、OSFP MSAと2つのIEEEの動向
- 800Gの本命「IEEE 802.3 Beyond 400 Gb/s Ethernet」、100/200Gの信号で800G/1.6Tを実現
- 200G×8の1.6Tbps、×4の800Gbpsでの転送実現は2023年?
- 100Gが8対の「800GBASE-VR8/SR8」が仕様に追加、BERの目標値決定にはさらなる情報が必須
- 200GにおけるElectricalインターフェースを検討、通信に必要な消費電力は半減へ
- Beyond 400 Gb/s EthernetにおけるOTNサポートは4月の投票でいったん否決
- 1.0E10年のMTTFPAを維持、1.0E-14のBER Targetには高コストなFECが必要に
- FacebookやMicrosoftのDC事業者が先行、Beyond 400G Study Groupは800Gと同時に1.6Tの標準化を主張
- 200Gの光伝送は技術的に実現可能、一定の損失を前提にすれば現実的なPAM6の検討も?
- 800Gb/sと同時に1.6Tb/s Ethernet仕様も策定へ 200Gb/sレーンの製品出荷は2027年頃?
- 到達距離10kmの「800G-LR」に向け、Coherent-Lite方式を検討を求めるGoogle
- 200Gのシリアルと800GのWDM、どっちが先に100万ポート出荷を実現できるのか?
- 400・200Gb/sのサポートなど、2021年7月ミーティングへの投票は可決が多数
- 800Gで10kmの到達距離を実現する「800Gbps/10km Reach SMF」の4案
- 800Gで到達距離40kmを目指す「ER8」、MZMを採用し、400G向けDSPを2つ並列
- 銅配線での8レーン800Gが規格化、レーンあたり200Gも実現へ?
- 「IEEE P802.3df」のPAR分割に向けた動き、作業効率化の一方で異論も?
- 800G実現に向け、PDM-32QAMで96G/192GBaudとPDM-16QAMで120G/240GBaudをリストアップ
- これまでの光Ethernet規格振り返りと、「40GBASE-FR」をめぐる議論の経緯
- 「IEEE 802.3cn-2019」は若干のパラメーター変更のみ、「100GBASE-AR/400GBASE-AR」は現時点で幻に
- 「100GBASE-AR」と「400GBASE-AR」は「IEEE P802.3cw」に、PMDの仕様を定義して2023年中ごろに標準化?
- 到達距離500mの「CWDM4-OCP-100G」、低価格な100G Ethernet規格として広く流通し始める
4対のファイバーを並べて転送するだけの「100G PSM4 MSA」
今回紹介する「100G PSM4 MSA」は2014年1月21日、AVAGO Technologies、Brocade、JDSU、Luxtera、Oclaro、Panduitの6社によって立ち上げられた。その後、Delta Electronics。Finisar、Juniper Networks、MACOM、Microsoft、US Conecが加わり、現在は12社がメンバーとなっている。
「PSM4(Parallel Single Mode 4-lane)」という技法自体は、「400GBASE-DR4」の際に説明をしている。要するに4対のファイバーを並べて伝送する「だけ」のものだ。
なぜこんな規格が生まれたのかと言えば、100G PSM4 MSA立ち上げ時のプレスリリースでは"The joint efforts of the PSM4 consortium will address the gap between 100G 10 km single-mode multiwavelength solutions and 100G short reach multimode, multi-fiber solutions."とされていた。
そして、100G PSM MSAによればキーカスタマーから、500mの到達距離を持つ規格が欲しいとされた、としている。これが誰なのかは不明だが、GoogleやFacebookなどが2014年当時に建設していたデータセンターが、このクラスの距離をちょうど必要としていた。また、MicrosoftがMSAに加盟しているあたりから、同社も似たようなニーズを抱えていたように思われる。
「100GBASE-LR4」と「100GBASE-SR10」の間を埋める規格策定を目指す
これに先立つ2010年には、長距離向けに「100GBASE-LR4/ER4」が、単距離向けに「100GBASE-SR10」が、いずれも「IEEE 802.3ba-2010」で策定されている。
ただし、前者はSMF×4の構成で10または40kmの到達距離を目指し、それなりの光源出力が必要となるので、安価とは言えず短距離接続へ用いるのに無駄が多い。後者はMMF×10なので1本あたりのファイバーは安価だが、10本も束ねるとそれなりになってしまうし、OM3では100m、OM4でも150mしか届かない。これは小規模なデータセンターや、少し大規模なマシンルームであればカバーできるが、ある程度本格的なデータセンター向けには距離の面で全然足りないのだ。
ちなみにこの時期は、「100GBASE-SR4」を含む「IEEE 802.3bm-2015」の策定作業も進んでいたが、その100GBASE-SR4でも到達距離はOM4で100mだったから、やはり不足に変わりはない。
そして、100GBASE-LR4と100GBASE-SR10/SR4の間を埋める規格を策定することが100G PSM4 MSAの目的となった。
MSA結成の3カ月後となる2014年3月5日には、早くも100G PSM4 Specification 1.0がリリースされる。基本的な構造は以下の通りで、もう本当に4対のSMFを並べて送り出しているだけだ。このレーンは25.78125GBdのNRZ変調信号を通しているだけで、その意味では100GBASE-SR4とほぼ同じ。相違点はSMFを利用することで、このために波長1310nmの光源を利用している。
ただしBERは5×10^-5未満、と規定されている。これは100GBASE-SR4の生のBERと同じで、このままでは利用できない。そこで100GBASE-SR4と同様、「RS-FEC」が利用されることになっている。以下は「P802.bm Task Force」で2013年7月に開催されたミーティングに100G PSM4 MSEが呼ばれて状況を説明したときの資料だ。
要するに、標準化の作業はMSA成立前からずっと進んでいた格好だ。話を戻すと、このFECについては100G PSM4 MSAの対象範囲外になっている。Specificationでも明示的に「"IEEE 802.3bj Clause 91(RS-FEC)"に準ずる」とされ、FECに関しては100GBASE-SR4と同じ仕組みが採用されることになった。
間口を広くして低コストに、「OIF CEI-28G VSR」や「InfiniBand EDR」へも対応
100G PSM4 MSAのターゲットは、先に書いた100GBASE-LR4と100GBASE-SR10/SR4のギャップを埋めることがメインではあるが、「OIF CEI-28G VSR」や「InfiniBand EDR」などにも対応できるとしている。前者は純粋にプリント基板上における電気的インターフェースの話であり、以下の図で言えばホストICとモジュールの間の規格となるが、ここにCEI-28Gを採用しても問題ないという話である。
一方のInfiniBand EDRは、やはりレーンあたり25Gbpsで、x4構成ならば“理論上は”100G PSM4との置き換えが可能だ。もっとも、InfiniBandで(Mellanox製モジュールの代わりに)100G PSM4が採用されたという話は、筆者が知らないだけという可能性はあるが、全く聞いたことがない。
100G PSMがなぜこんなに応用範囲を広く取ったかと言えば、間口を広く取った方がさまざまな顧客に対応でき、出荷量が伸びる目途が立てやすいという話のほかに、値段を下げやすいというメリットもあったからだ。
そもそも100G PSM4 MSA設立の動機の1つに、もともと日立研究所とOpnextが共同開発していた「LISEL(Lens Integrated Surface Emitting Laser)」という光源技術がある。LISELは、以下左のようにレーザー光源とレンズを一体化した構造を採用していて、コストだけでなく効率の面でも非常に有利としている。
実際のところ100GBASE-SR10/SR4では、例えば大規模データセンター内での接続において、100mという到達距離に不足がある。さらに言えば、出力を上げて最大200mまで伸ばした非標準の「100GBASE-XSR4」について、Aristaのデータシートを確認すると、OM3で150m、OM4で300mとしているモジュールも存在はするものの中途半端だ。
結局、利用できるのは「100G MSR4」か、次回説明する「100G CWDM4」ということになる。「100GBASE-CWDM4」は到達距離最大2kmと長い割にファイバーは送受信1本ずつで計2本で済むメリットがある。配線コストを考えると、敷設コストそのものは変わらないが、ファイバー代そのものは100GBASE-CWDM4では4分の1で済む計算だ。
他方で、トランシーバーはこの当時、圧倒的に100G MSR4の方が安価だ。100G MSA用の光ケーブルはそのまま400GBASE-DR4にアップグレード可能なので、将来400Gの帯域が必要になったとしても、モジュールの入れ替えだけで済む点もメリットとされた。
ちなみにFSなどでは、100G to 100Gだけでなく、まだ片方が25Gスイッチの場合、シームレスに移行できるオプションを提供しているが、これはちょっと特殊な例という気もする。
ちなみにここでの価格は2014年頃の話であり、現状では100G CWDM4モジュールの価格も大分こなれてきた結果、100G MSA4と大差ないレベルになっているそうだ。あとはデータセンター内の配線や、パッチパネルの構成などを勘案して選択されるという格好になっているという。
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