期待のネット新技術
200Gのシリアルと800GのWDM、どっちが先に100万ポート出荷を実現できるのか?
【光Ethernetの歴史と発展】
2021年10月5日 06:00
Ethernetというか10GBASE-Tに関しては、2017年から【10GBASE-T、ついに普及?】と題し、全11回と番外編2回をお届けした。だが、ツイストペアによる銅配線のEthernetは10GBASE-Tまでで、25/40GBASE-Tはまだまだ実用化には至っていない。
【アクセス回線10Gbpsへの道】とも一部は被るかもしれないが、ここでは光ファイバーを利用する“光Ethernet”を紹介していこう。
「光Ethernetの歴史と発展」記事一覧
- 10BASE-Tと同じ仕組みの光ファイバーで最大2kmを実現「10BASE-F」
- 屈折率で伝送距離が異なる「光ファイバー」の材質と構造
- 最大100Mbpsながら伝送距離の異なる「100BASE-FX」「100BASE-SX」などの各規格
- 実効1Gbpsに到達した「1000BASE-SX/1000BASE-LX/1000BASE-CX」
- 拠点間接続に用いる「1000BASE-X」の各種関連規格
- 低価格な光ファイバーで1Gbpsを実現する車載向けがメインの「GEPOF」
- 10Mbpsの「MII」から1000MbpsのCisco独自規格「SGMII」まで
- 1波長で10Gbps、光源と到達距離の異なる「10GBASE-W/R」の各規格
- 10Gbpsのフレッツ光で使われる「10GBASE-PR」、既存ケーブルを流用できる「10GBASE-LRM」
- XENPAK→X2→XFP→SFP+と移った10GBASEのトランシーバーモジュール規格
- 10Gbpsのシリアル通信規格「XFP」、これを置き換えた「SFP+」
- 10GbEの次は40GbEと100GbE、HSSGによってともに標準化の開始へ
- 最大100Gbps、「IEEE 802.3ba」として標準化された8つの規格
- IEEE 802.3baで定義されたInterconnectとトランシーバー規格
- 100Gbpsで100mを目指す「P802.3bm」、IEEE 802.3baをブラッシュアップ
- 最大100Gbps・100mの「100GBASE-SR4」と40Gbps・40kmの「40GBASE-ER4」
- CFPのサイズ半分、最大200Gbpsの「CFP2」、さらに小型化された「CFP4」
- 40Gbpsの「QSPF+」、50Gbpsの「QSFP56」、112Gbpsの「SFP-DD」「QSFP28」
- 25Gbps×4で100Gbps、光Ethernet第2世代「IEEE 802.3bm-2015」の各規格が標準化
- 50Gbpsに対応する5つの規格「50GBASE-KR/CR/SR/FR/LR」
- 「25G PAM-4」で100/200Gbpsを実現する7規格と、SMF1対で100Gbpsの「100G PAM-4」
- 25Gbps×8の「200GBASE-R」では4つのモジュール規格が乱立
- 最大400Gbpsを実現する2つのモジュール規格「OSFP」「CDFP」
- 1レーン50Gbpsで最大400Gbpsを実現する「P802.3bs」
- レーンあたり50/25Gbpsで400Gbpsを実現する「IEEE 802.3bs」の各規格
- 53.125Gの「PAM-4」を4対束ねた「PSM4」で最大400Gbps「400GBASE-DR4」
- アクセス回線向けの光ファイバー規格「IEEE P802.3cp/P802.3cs/P802.3ct」
- 位相変調した光信号を復号するコヒーレント光、波長分離多重の「DWDM」併用の「400ZR」
- 「100GBASE-ZR」を残し「IEEE P802.3ct」から「400GBASE-ZR」を分割
- 1対のMMFで100Gbpsを目指す「IEEE P802.3db」
- IEEE標準ではない光Ethernetの各規格、100G/400G/800Gですでに登場
- SWDMを用いた100/40Gbpsの「100G-SWDM4-MSA」と「40G-SWDM4-MSA」
- 「100GBASE-LR4」と「100GBASE-SR10」の間を埋める最大100Gbpsの「100G PSM4 MSA」
- SMF1本で25Gbps×4の100Gbpsを実現、到達距離2kmの「CWDM4 MSA」、40kmの「4WDM MSA」
- 100Gbpsで10/20/40kmの到達距離を狙った「100G 4WDM-10/20/40」
- 「100G PAM-4」で最大100Gbps、到達距離2kmの「100G-FR」と10kmの「100G-LR」
- SMF1対で100Gbpsの「100G LR1-20/ER1-30/ER1-40」、4本束ねて400Gbpsの「400G-FR」
- 最大400Gbps、到達距離2kmの「400G-FR4」と到達距離10kmの「400G-LR4-10」
- 最大100Gbpsで250kmを伝送可能な「MSA-100GLH」、巨大なサイズと消費電力で採用進まず
- 最大400Gbps、到達距離10kmの「CWDM8」、8×50G NRZの採用で低コストと低電力を実現
- 400Gbpsで到達距離2kmと10kmの「CWDM8 2km/10km」、低OH濃度SMFの採用で損失を抑える
- 400Gを光ファイバー1本で双方向通信する「400G BiDi MSA」、「400GBASE-SR8」を先行規格化
- 50Gが8対で400Gbpsの「400G-BD4.2」、消費電力増や高コストが課題に
- IEEE「400GBASE-SR4.2」は先行した「400G-BD4.2」と相互互換性を確保
- 高コストで普及に至らない「400GBASE-SR8」と、さらに高価な「400GBASE-SR4.2」
- 最大800Gbpsの100G PAM-4 PHY、ベンダー各社がサポート、受発光素子普及のカギは940nm?
- ETCがリリースした「800G Ethernet」の仕様は400Gを2つ並べる構造に
- 「QSFP-DD MSA」を発展させる「QSFP-DD800」、供給電源など今後に課題も
- 最大800Gbpsを目指す「800G Pluggable MSA」、3つの変調方式を採用
- 高帯域と低レイテンシーの一方で到達距離は限界へ、800Gへ想定される4つのシナリオ
- PSM4とCWDM4で1.6Tb/secを実現し、到達距離も延長「800G Pluggable MSA」
- 800G Ethernetに関連、OSFP MSAと2つのIEEEの動向
- 800Gの本命「IEEE 802.3 Beyond 400 Gb/s Ethernet」、100/200Gの信号で800G/1.6Tを実現
- 200G×8の1.6Tbps、×4の800Gbpsでの転送実現は2023年?
- 100Gが8対の「800GBASE-VR8/SR8」が仕様に追加、BERの目標値決定にはさらなる情報が必須
- 200GにおけるElectricalインターフェースを検討、通信に必要な消費電力は半減へ
- Beyond 400 Gb/s EthernetにおけるOTNサポートは4月の投票でいったん否決
- 1.0E10年のMTTFPAを維持、1.0E-14のBER Targetには高コストなFECが必要に
- FacebookやMicrosoftのDC事業者が先行、Beyond 400G Study Groupは800Gと同時に1.6Tの標準化を主張
- 200Gの光伝送は技術的に実現可能、一定の損失を前提にすれば現実的なPAM6の検討も?
- 800Gb/sと同時に1.6Tb/s Ethernet仕様も策定へ 200Gb/sレーンの製品出荷は2027年頃?
- 到達距離10kmの「800G-LR」に向け、Coherent-Lite方式を検討を求めるGoogle
- 200Gのシリアルと800GのWDM、どっちが先に100万ポート出荷を実現できるのか?
- 400・200Gb/sのサポートなど、2021年7月ミーティングへの投票は可決が多数
- 800Gで10kmの到達距離を実現する「800Gbps/10km Reach SMF」の4案
- 800Gで到達距離40kmを目指す「ER8」、MZMを採用し、400G向けDSPを2つ並列
- 銅配線での8レーン800Gが規格化、レーンあたり200Gも実現へ?
- 「IEEE P802.3df」のPAR分割に向けた動き、作業効率化の一方で異論も?
- 800G実現に向け、PDM-32QAMで96G/192GBaudとPDM-16QAMで120G/240GBaudをリストアップ
- これまでの光Ethernet規格振り返りと、「40GBASE-FR」をめぐる議論の経緯
- 「IEEE 802.3cn-2019」は若干のパラメーター変更のみ、「100GBASE-AR/400GBASE-AR」は現時点で幻に
- 「100GBASE-AR」と「400GBASE-AR」は「IEEE P802.3cw」に、PMDの仕様を定義して2023年中ごろに標準化?
- 到達距離500mの「CWDM4-OCP-100G」、低価格な100G Ethernet規格として広く流通し始める
到達距離10kmで800Gを実現する5つの案
到達距離10kmの規格に関しては、HuaweiのTingting ZHANG/Sen ZHANG/Yan ZHUANGの3氏もプレゼンテーションを行った。もっとも、こちらは具体的なプロポーザルというより、議論のための叩き台といった内容である。
新規性には乏しいが確実に実現できる「800G LR8」
「800G LR8」は、100G×8のLWDMとなっている。このアイデアは、送信側に8対のレーザー光源(それも冷却が必要)という点ではコスト増になる。しかも、Chromatic Dispersion Limit(前回も触れた通り、あえて訳せば「色分散限界」)に引っ掛からないようするため、波長は1273.54~1309.14nmの間の35nmほどと狭い範囲に、8つの波長を通すため、各波長の差は5nm前後とかなり狭い。必然的に、WDMのMUX/DEMUXのコスト上昇につながる。
その一方で、レーザー光源そのものは既存の800Gのものでいいし、DSPも400Gの延長で行ける(何なら400GのDSPを2個並べてもいいからだ)ということで、新規性には乏しいが、確実に実現できるソリューションである。
低コスト化は期待できるが、大幅削減には至らない「800G LR4」
次が「800G LR4」。こちらはレーンあたり200Gにすることで、4波長のDWM構成を取る手法である。光源は1295.56~1309.14nmと引き続きLWDM方式を取るが、波長の間隔を狭めることで、シンボルレートが上がってもChromatic Dispersion Limitの影響は最小限に抑えられるとしている。
レーザー光源も4つで済むから、その分消費電力とコストは抑えられる。その一方、200Gを使う関係で技術的には当然チャレンジになる。レーザー光源とDSP、どちらも新規開発が必要になるからだ。WDMのMUX/DEMUXについては、波長の数が減る分低コスト化を期待できる一方で、波長の間隔はさらに厳しくなるので、大きくはコストが下がらないと想像される。
Coherentを利用した「800G LR1」
Coherentを利用した「800G LR1」については、前回細かく説明しているので割愛するが、C-Bandを利用できる分、光ファイバーの減衰は少なく、10kmの到達距離を確保するのはそう難しくないだろう。
その反面、DSP周りやモジュレーター周りが高コストになることは必須だ。まだ、800Gに関してはOIF Forumでも実現していないので、技術的面でのチャレンジがある点も懸念事項の1つである。
「Coherent 400G」の2波長をWDMでやる「800G LR2」
800G LR1をもう少し手堅い方法で実現しようというのが、第4案の「800G LR2」である。まさかのCoherent 400Gの2波長をWDMという、なんというか猛烈な力技である。
コスト面はどう見ても800G LR1より割高になるのは間違いない(WDM MUX/DEMUXまで必要になるし、光源も2つ必要)し、消費電力も端的に言って400ZRの2倍以上になるなど、問題点は多い。
その一方で、端的に言えば400ZRを2つ並べれば実現できる(もちろん上位層で細工は必要だが)というあたり、実現可能性が高いのは事実である(電力の問題さえ何とかなれば、という条件付きではあるが)。
SHDを使用して、1対の光ファイバーで送受信を可能に
5番目の案はすごいモノが出てきた。構成としては第3案に近いCoherentであるが、ここに「SHD(Self-Homodyne Detection:自己ヘテロダイン検波)」を使おう、というものだ。
SHD自身は以前から研究されている手法であり、Coherent通信の一種である。「HD(Heterodyne Detection」に分類される第3・4案の場合は、信号光とは別に「LO(Local Oscillator)」と呼ばれる連続光を用意し、信号光とLOを干渉させることで信号光複素振幅を取り出す方式であるが、この信号光と連続光は周波数や位相が完全に一致はしていない。
これに対してSHDは、LOの周波数や位相を完全に信号光と一致させるというものだ。その結果、信号感度は10~20dB向上し、WDMの利用時には隣接チャネルの干渉を(光→電気信号への変換後に)理想的なフィルタで除去できるため、特にDWDMにおいて有利、波長分散などに起因するひずみを電気回路で補償可能、などいくつかの大きなメリットがある。
もっとも、DWDMを利用した長距離伝送システムならともかく、10kmオーダーの「短距離」ネットワークではまず使われたことがない方式だけに、現実的なコストでの実装が可能か?と言われるとかなり疑問符が付く。
それはともかく、SHDを利用する方式はレーンあたり200Gとなるので、これを4波長並べてWDMのMUX/DEMUXを噛ませることで、1対の光ファイバーで送受信を可能にしよう、というものだ。
この方式と800G LR4の違いというかメリットは、波長を広く取れる(CWDMでも対応できる)というものだ。Chromatic Dispersion Limitに起因する歪みや、伝達特性の悪化に対して原理的に強い(というか、DSP段で補正ができる)ため、レーザー光源は使い慣れたものが利用できるし、WDMのMUX/DEMUXも800G LR4と比べれば安く上がると思われる。
「IEEE 802.3bs」の200Gb/s対応製品は2021年、400Gb/sは2023年に
これとは別にスケジュールに関しての問題提起をしたのがParallax GroupのChris Cole氏である。余談だが、プレゼンテーションのサブタイトルは"IEEE 802.3df Beyond 400 Gb/s Study Group"であり、非公式ではあるが「IEEE 802.3df」の番号が振られたらしい。
そこで、既存の規格の標準化完了時期と、その規格に基づいた製品が100万ポート出荷される(た)時期をまとめたのが右の表で、「IEEE 802.3bs」の200Gb/s対応製品は2021年、400Gb/sは2023年になるとされる。これをもう少しBreakdownしたのが以下の左(右はそのための補足説明)となる
上記は2020年3月時点のデータだが、100GbE/200GbEこそWDM/PSMが多いものの、10/40Gや100/400GではSerialの方が多い。以下のその1年後のグラフを見ると、IEEE 802.3bsの200Gが100万ポートに達するのは2021年後半~2022年前半あたりだろうし、400Gはこの調子だと2023年に本当に100万ポートに達するのか、かなり怪しい感じはある。ただ、逆に言えば、200Gが2021年以降、400Gが2023年以降という上での推定が前倒しになることはないと考えてよさそうだ。
これを念頭に、現在策定中の800G/1.6Tの登場時期を外挿のかたちで推定したのが以下の表だ。
800Gですら2029年、1.6Tは2031年になる、ということになる。これは、標準化完了が2025年という前提の話なので、例えば実際にIEEE 802.3dfのTask Group結成後に、レーンあたり200Gに関しては別仕様分離し、レーンあたり100G/Laneだけで標準化を進めた場合にはもう少し早くなる(2023年末~2024年?)こともあり得るが、その可能性はあまり高いとは言えないだろう。
上記はここまでの議論をまとめたものだが、このままでは、以下としたうえで、200Gのシリアルと800GのWDM、どちらが先に100万ポート出荷を実現できるのか? と問い掛けている。
- 800Gは40GbEや200GbEと同じタイムラインに
- 1.6Tは10/100/400GbEと同じタイムラインに
もし、200Gのシリアルが先行するようであれば、1.6TのWDMが800GのWDMに先んじて市場を席捲する可能性があるわけで、これは標準化の方向性を決めるにあたって、重要な問い掛けになると思える。