期待のネット新技術
最大400Gbps、到達距離2kmの「400G-FR4」と到達距離10kmの「400G-LR4-10」
【光Ethernetの歴史と発展】
2021年1月12日 06:00
Ethernetというか10GBASE-Tに関しては、2017年から【10GBASE-T、ついに普及?】と題し、全11回と番外編2回をお届けした。だが、ツイストペアによる銅配線のEthernetは10GBASE-Tまでで、25/40GBASE-Tはまだまだ実用化には至っていない。
【アクセス回線10Gbpsへの道】とも一部は被るかもしれないが、ここでは光ファイバーを利用する“光Ethernet”を紹介していこう。
「光Ethernetの歴史と発展」記事一覧
- 10BASE-Tと同じ仕組みの光ファイバーで最大2kmを実現「10BASE-F」
- 屈折率で伝送距離が異なる「光ファイバー」の材質と構造
- 最大100Mbpsながら伝送距離の異なる「100BASE-FX」「100BASE-SX」などの各規格
- 実効1Gbpsに到達した「1000BASE-SX/1000BASE-LX/1000BASE-CX」
- 拠点間接続に用いる「1000BASE-X」の各種関連規格
- 低価格な光ファイバーで1Gbpsを実現する車載向けがメインの「GEPOF」
- 10Mbpsの「MII」から1000MbpsのCisco独自規格「SGMII」まで
- 1波長で10Gbps、光源と到達距離の異なる「10GBASE-W/R」の各規格
- 10Gbpsのフレッツ光で使われる「10GBASE-PR」、既存ケーブルを流用できる「10GBASE-LRM」
- XENPAK→X2→XFP→SFP+と移った10GBASEのトランシーバーモジュール規格
- 10Gbpsのシリアル通信規格「XFP」、これを置き換えた「SFP+」
- 10GbEの次は40GbEと100GbE、HSSGによってともに標準化の開始へ
- 最大100Gbps、「IEEE 802.3ba」として標準化された8つの規格
- IEEE 802.3baで定義されたInterconnectとトランシーバー規格
- 100Gbpsで100mを目指す「P802.3bm」、IEEE 802.3baをブラッシュアップ
- 最大100Gbps・100mの「100GBASE-SR4」と40Gbps・40kmの「40GBASE-ER4」
- CFPのサイズ半分、最大200Gbpsの「CFP2」、さらに小型化された「CFP4」
- 40Gbpsの「QSPF+」、50Gbpsの「QSFP56」、112Gbpsの「SFP-DD」「QSFP28」
- 25Gbps×4で100Gbps、光Ethernet第2世代「IEEE 802.3bm-2015」の各規格が標準化
- 50Gbpsに対応する5つの規格「50GBASE-KR/CR/SR/FR/LR」
- 「25G PAM-4」で100/200Gbpsを実現する7規格と、SMF1対で100Gbpsの「100G PAM-4」
- 25Gbps×8の「200GBASE-R」では4つのモジュール規格が乱立
- 最大400Gbpsを実現する2つのモジュール規格「OSFP」「CDFP」
- 1レーン50Gbpsで最大400Gbpsを実現する「P802.3bs」
- レーンあたり50/25Gbpsで400Gbpsを実現する「IEEE 802.3bs」の各規格
- 53.125Gの「PAM-4」を4対束ねた「PSM4」で最大400Gbps「400GBASE-DR4」
- アクセス回線向けの光ファイバー規格「IEEE P802.3cp/P802.3cs/P802.3ct」
- 位相変調した光信号を復号するコヒーレント光、波長分離多重の「DWDM」併用の「400ZR」
- 「100GBASE-ZR」を残し「IEEE P802.3ct」から「400GBASE-ZR」を分割
- 1対のMMFで100Gbpsを目指す「IEEE P802.3db」
- IEEE標準ではない光Ethernetの各規格、100G/400G/800Gですでに登場
- SWDMを用いた100/40Gbpsの「100G-SWDM4-MSA」と「40G-SWDM4-MSA」
- 「100GBASE-LR4」と「100GBASE-SR10」の間を埋める最大100Gbpsの「100G PSM4 MSA」
- SMF1本で25Gbps×4の100Gbpsを実現、到達距離2kmの「CWDM4 MSA」、40kmの「4WDM MSA」
- 100Gbpsで10/20/40kmの到達距離を狙った「100G 4WDM-10/20/40」
- 「100G PAM-4」で最大100Gbps、到達距離2kmの「100G-FR」と10kmの「100G-LR」
- SMF1対で100Gbpsの「100G LR1-20/ER1-30/ER1-40」、4本束ねて400Gbpsの「400G-FR」
- 最大400Gbps、到達距離2kmの「400G-FR4」と到達距離10kmの「400G-LR4-10」
- 最大100Gbpsで250kmを伝送可能な「MSA-100GLH」、巨大なサイズと消費電力で採用進まず
- 最大400Gbps、到達距離10kmの「CWDM8」、8×50G NRZの採用で低コストと低電力を実現
- 400Gbpsで到達距離2kmと10kmの「CWDM8 2km/10km」、低OH濃度SMFの採用で損失を抑える
- 400Gを光ファイバー1本で双方向通信する「400G BiDi MSA」、「400GBASE-SR8」を先行規格化
- 50Gが8対で400Gbpsの「400G-BD4.2」、消費電力増や高コストが課題に
- IEEE「400GBASE-SR4.2」は先行した「400G-BD4.2」と相互互換性を確保
- 高コストで普及に至らない「400GBASE-SR8」と、さらに高価な「400GBASE-SR4.2」
- 最大800Gbpsの100G PAM-4 PHY、ベンダー各社がサポート、受発光素子普及のカギは940nm?
- ETCがリリースした「800G Ethernet」の仕様は400Gを2つ並べる構造に
- 「QSFP-DD MSA」を発展させる「QSFP-DD800」、供給電源など今後に課題も
- 最大800Gbpsを目指す「800G Pluggable MSA」、3つの変調方式を採用
- 高帯域と低レイテンシーの一方で到達距離は限界へ、800Gへ想定される4つのシナリオ
- PSM4とCWDM4で1.6Tb/secを実現し、到達距離も延長「800G Pluggable MSA」
- 800G Ethernetに関連、OSFP MSAと2つのIEEEの動向
- 800Gの本命「IEEE 802.3 Beyond 400 Gb/s Ethernet」、100/200Gの信号で800G/1.6Tを実現
- 200G×8の1.6Tbps、×4の800Gbpsでの転送実現は2023年?
- 100Gが8対の「800GBASE-VR8/SR8」が仕様に追加、BERの目標値決定にはさらなる情報が必須
- 200GにおけるElectricalインターフェースを検討、通信に必要な消費電力は半減へ
- Beyond 400 Gb/s EthernetにおけるOTNサポートは4月の投票でいったん否決
- 1.0E10年のMTTFPAを維持、1.0E-14のBER Targetには高コストなFECが必要に
- FacebookやMicrosoftのDC事業者が先行、Beyond 400G Study Groupは800Gと同時に1.6Tの標準化を主張
- 200Gの光伝送は技術的に実現可能、一定の損失を前提にすれば現実的なPAM6の検討も?
- 800Gb/sと同時に1.6Tb/s Ethernet仕様も策定へ 200Gb/sレーンの製品出荷は2027年頃?
- 到達距離10kmの「800G-LR」に向け、Coherent-Lite方式を検討を求めるGoogle
- 200Gのシリアルと800GのWDM、どっちが先に100万ポート出荷を実現できるのか?
- 400・200Gb/sのサポートなど、2021年7月ミーティングへの投票は可決が多数
- 800Gで10kmの到達距離を実現する「800Gbps/10km Reach SMF」の4案
- 800Gで到達距離40kmを目指す「ER8」、MZMを採用し、400G向けDSPを2つ並列
- 銅配線での8レーン800Gが規格化、レーンあたり200Gも実現へ?
- 「IEEE P802.3df」のPAR分割に向けた動き、作業効率化の一方で異論も?
- 800G実現に向け、PDM-32QAMで96G/192GBaudとPDM-16QAMで120G/240GBaudをリストアップ
- これまでの光Ethernet規格振り返りと、「40GBASE-FR」をめぐる議論の経緯
- 「IEEE 802.3cn-2019」は若干のパラメーター変更のみ、「100GBASE-AR/400GBASE-AR」は現時点で幻に
- 「100GBASE-AR」と「400GBASE-AR」は「IEEE P802.3cw」に、PMDの仕様を定義して2023年中ごろに標準化?
- 到達距離500mの「CWDM4-OCP-100G」、低価格な100G Ethernet規格として広く流通し始める
100G-FRを4つ並べた最大400Gbps、到達距離2kmの「400G-FR4」、2018年9月に標準化
前回の最後で少しだけ触れた「400G-FR4」の到達距離は2m~2kmで、その意味では「100G-FR」の延長にある。強いて言えば、WDMを利用する関係でMux/Demuxを通ることによる減衰を考慮する必要があるくらいだ。
以下は100G-FR/LRと400G-FR4のtransmit characteristicsを比較したものだが、レーンあたりの最大出力は100G-FRが4dBmなのに対し、400G-FR4は3.5dBmとむしろ下がっているのが分かる。これは、4対の光源を駆動する必要があり、モジュールの電力供給枠を確保するには出力を下げざるを得ないところから来ていると思われる。
実際の出力は、100G-FRが-2.4~4dBm、つまり6.4dBの幅なのに対し、400G-FR4は-3.3~3.5dBmで6.8dBmと、若干ダイナミックレンジが広げられている。だが、大きな違いはこれ(と前回も少し触れた波長が4つとなること)程度しかない。
同様に、receive characteristicsを見ても、そもそも送信側でやや出力を絞った上で、Mux/Demuxを経由する関係で信号出力が減衰していることを前提として、Average receive powerの最小値が-7.3dBmまで下がっているのが特徴と言えば特徴だろう。ダイナミックレンジで言えば、100G-FRが-6.4~4.5dBmで10.9dBm、一方の400G-FR4が-7.3~3.5dBmで10.8dBmと、ほとんど変わらない。
Mux/Demuxは言わばアッテネーターのようなもので、信号のバラつきそのものは距離で決まるから、ダイナミックレンジそのものは11dB弱あれば十分という話。ただ、全体に1dBmほど低くなっていて、これがMux/Demuxによる減衰分ということだろう。ほかのパラメーターはおおむね同等で、基本は100G-FRを4つ並べたという以上の話ではない。
そんなわけで前回も書いた通り、400G-FR4はかなり早い(2018年9月)タイミングに標準化が完了しており、10月に100G Lambda MSA(Multisource Agreement)からプレスリリースも出ている。
その翌日である10月9日には、Ciscoが公式ブログで100G Lambda MSAをを取り上げており、その結びの文章で「向こう12カ月以内にこの(100G-FR/LR/400G-FR4)モジュールがベンダーから出荷されると思う」としている。
実際、現時点ではQSFP-DDの400G-FR4モジュールが複数のベンダーから出荷され、広く利用されている。2kmという到達距離ではあるが、SMFが1対で済むので、既存の配線を有効利用しやすいという面もあるのだろう。100G-FRからのアップグレードというシナリオもあり得るので、より高速な規格が登場するまでは、広く利用され続けることになると思われる。
到達距離10kmの長距離版「400G-LR4-10」
この400G-FRの長距離版が「400G-LR4-10」である。こちらは2020年9月にRevision 1.0がリリースされたばかりだ。2年余りかかった事情は、前回紹介した「100G LR1-20/ER1-30/ER1-40」とおそらく同じではないかと思う。
400G-LR4-10は2m~10kmの到達距離をカバーする規格であり、その意味では100G-LRを4本並べた「だけ」のはずだ。その構造は「400G-FR4-10」と同じで、到達距離が純粋に最大10kmへ延びただけである。
利用する波長も以下であり、400G-FR4と同じものだ。
波長(nm) | |
L0 | 1271(1264.5~1277.5) |
L1 | 1291(1284.5~1297.5) |
L2 | 1311(1304.5~1317.5) |
L3 | 1331(1324.5~1337.5) |
そこで「400G-FR4」と「400G-LR4-10」のtransmit characteristicsを比較してみると、レーンあたりのLaunch Powerが-2.7~5.1dBmと、400G-FR4の-3.3~3.5dBmからかなり強化されており、ダイナミックレンジそのものも6.8dBから7.8dBへ、1dB分増えている。その結果、全レーンを通じたTotal average launch powerも9.3dBmから11.1dBmまで増えているのは当然かもしれない。
受信側はさらに強化されている。Average receive powerは400G-FR4が-7.3~3.5dBmの10.8dBなのに対し、400G-LR4-10では-9~5.1dBmの14.1dBmまで広げられている。特にAverage receive powerの最小値が-9dBmまで下げられているのが特徴で、それだけ減衰が激しいことを想定しているのだろう。
ただ、この-9dBm(0.126mW)は、「100G-LR1-20」の-10dBm(0.1mW)にかなり近い値で、400G-FR4の-7.3dBm(0.186mW)に比べ、感度を50%ほど引き上げないといけないことになる。
おそらくは、100G-LR1-20や「100G-ER1-30」「100G-ER1-40」向けに開発してきた高感度の受光素子の実用化の目途が立った(MSAに所属する少なくとも1社以上が供給を確約した)からこその標準化規定であり、それゆえに標準化もこの受光素子の目途が立つまで遅れることになったのだと思われる。
逆に言えば、それ以外にあまり妙なところはない。受光素子の量産が始まれば、モジュールの供給も本格化していくのだろう。既に400G-LR4-10向けにモジュールの供給も始まっているが、現時点ではまだかなり高価だ。例えば台湾Optechの「OPDY-S10-13-CBE」は4600ドル程度。FSの「QSFPDD-LR4-400G」で3999ドルと、このあたりが底値であろう。
もっともモジュール単価で言えば、同じく到達距離10kmで400Gをサポートする400GBASE-LR8モジュール「QSFPDD-LR8-400G」は9999ドルなので、これと比べればずっと安価とも言える。
100G Lambda MSAの仕様を下敷きにIEEEの標準化を目指す「400GBASE-LR6」
ちょっと余談になるが、400G-LR4-10のプレスリリースの中に"The MSA believes that the 10 km reach specification will be fully interoperable with the 6 km version being developed by another industry standards group."なる文言が入っているのは面白い。これは何かというと、IEEE P802.3cu Task Forceで標準化作業が進行中の「400GBASE-LR6」のことである。
P802.3cu Task Forceの目的は、100Gと400Gを1本のSMFで接続する規格として、「100GBASE-FR」と「100GBASE-LR」が最大100Gbpsで2ないし10km、「400GBASE-FR4」と「400GBASE-LR4」が最大400Gbpsで2ないし6kmの到達距離を狙うものだった。
このうち400GBASE-LR4は当初6kmのみがターゲットだったが、後から10kmも追加されている。変調方式はPAM-4で、100Gは1波長、400Gは4波長をWDMで送るというもの。つまり、100G Lambda MSAが検討している方式の後追いだ。
「後追い」というのは、Task Forceの結成が2019年5月、標準化完了予定時期が2021年11月になっているからで、もう明らかに100G Lambda MSAの仕様を下敷きにIEEEの標準化を目指していると考えるべきだろう。実際、Task Forceのメンバーはかなり100G Lambda MSAのメンバー企業と重なっている。
さて、このようにP802.3cuはまだ審議中だが、400GBASE-LR4に関しては、到達距離6kmと10kmの2つが候補となっている。この話が出たのは2019年9月のミーティングであるが、MSAと異なって広く業界のコンセンサスを取るIEEEとしては、高感度の受光素子に頼るのは厳しかったようで、10kmを実現するためにはCWDMではなくDWDMにして波長のバラつきを抑える必要がある、と判断したようだ。
先のプレスリリースの文言は、このDWDMを利用する10km版とは互換性がないが、もともと400G-LR4-10の仕様をほぼそのまま引き継いだ6km版の400GBASE-LR4、つまり400GBASE-LR4-6とは相互互換性が確保できそう、という話なのだ。ただこうなると、果たしてIEEEの標準化が終わったとして、400GBASE-LR4-10がどの程度使われるのかは、やや疑問ではある。
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