期待のネット新技術
到達距離500mの「CWDM4-OCP-100G」、低価格な100G Ethernet規格として広く流通し始める
【光Ethernetの歴史と発展】
2021年12月21日 06:00
Ethernetというか10GBASE-Tに関しては、2017年から【10GBASE-T、ついに普及?】と題し、全11回と番外編2回をお届けした。だが、ツイストペアによる銅配線のEthernetは10GBASE-Tまでで、25/40GBASE-Tはまだまだ実用化には至っていない。
【アクセス回線10Gbpsへの道】とも一部は被るかもしれないが、ここでは光ファイバーを利用する“光Ethernet”を紹介していこう。
「光Ethernetの歴史と発展」記事一覧
- 10BASE-Tと同じ仕組みの光ファイバーで最大2kmを実現「10BASE-F」
- 屈折率で伝送距離が異なる「光ファイバー」の材質と構造
- 最大100Mbpsながら伝送距離の異なる「100BASE-FX」「100BASE-SX」などの各規格
- 実効1Gbpsに到達した「1000BASE-SX/1000BASE-LX/1000BASE-CX」
- 拠点間接続に用いる「1000BASE-X」の各種関連規格
- 低価格な光ファイバーで1Gbpsを実現する車載向けがメインの「GEPOF」
- 10Mbpsの「MII」から1000MbpsのCisco独自規格「SGMII」まで
- 1波長で10Gbps、光源と到達距離の異なる「10GBASE-W/R」の各規格
- 10Gbpsのフレッツ光で使われる「10GBASE-PR」、既存ケーブルを流用できる「10GBASE-LRM」
- XENPAK→X2→XFP→SFP+と移った10GBASEのトランシーバーモジュール規格
- 10Gbpsのシリアル通信規格「XFP」、これを置き換えた「SFP+」
- 10GbEの次は40GbEと100GbE、HSSGによってともに標準化の開始へ
- 最大100Gbps、「IEEE 802.3ba」として標準化された8つの規格
- IEEE 802.3baで定義されたInterconnectとトランシーバー規格
- 100Gbpsで100mを目指す「P802.3bm」、IEEE 802.3baをブラッシュアップ
- 最大100Gbps・100mの「100GBASE-SR4」と40Gbps・40kmの「40GBASE-ER4」
- CFPのサイズ半分、最大200Gbpsの「CFP2」、さらに小型化された「CFP4」
- 40Gbpsの「QSPF+」、50Gbpsの「QSFP56」、112Gbpsの「SFP-DD」「QSFP28」
- 25Gbps×4で100Gbps、光Ethernet第2世代「IEEE 802.3bm-2015」の各規格が標準化
- 50Gbpsに対応する5つの規格「50GBASE-KR/CR/SR/FR/LR」
- 「25G PAM-4」で100/200Gbpsを実現する7規格と、SMF1対で100Gbpsの「100G PAM-4」
- 25Gbps×8の「200GBASE-R」では4つのモジュール規格が乱立
- 最大400Gbpsを実現する2つのモジュール規格「OSFP」「CDFP」
- 1レーン50Gbpsで最大400Gbpsを実現する「P802.3bs」
- レーンあたり50/25Gbpsで400Gbpsを実現する「IEEE 802.3bs」の各規格
- 53.125Gの「PAM-4」を4対束ねた「PSM4」で最大400Gbps「400GBASE-DR4」
- アクセス回線向けの光ファイバー規格「IEEE P802.3cp/P802.3cs/P802.3ct」
- 位相変調した光信号を復号するコヒーレント光、波長分離多重の「DWDM」併用の「400ZR」
- 「100GBASE-ZR」を残し「IEEE P802.3ct」から「400GBASE-ZR」を分割
- 1対のMMFで100Gbpsを目指す「IEEE P802.3db」
- IEEE標準ではない光Ethernetの各規格、100G/400G/800Gですでに登場
- SWDMを用いた100/40Gbpsの「100G-SWDM4-MSA」と「40G-SWDM4-MSA」
- 「100GBASE-LR4」と「100GBASE-SR10」の間を埋める最大100Gbpsの「100G PSM4 MSA」
- SMF1本で25Gbps×4の100Gbpsを実現、到達距離2kmの「CWDM4 MSA」、40kmの「4WDM MSA」
- 100Gbpsで10/20/40kmの到達距離を狙った「100G 4WDM-10/20/40」
- 「100G PAM-4」で最大100Gbps、到達距離2kmの「100G-FR」と10kmの「100G-LR」
- SMF1対で100Gbpsの「100G LR1-20/ER1-30/ER1-40」、4本束ねて400Gbpsの「400G-FR」
- 最大400Gbps、到達距離2kmの「400G-FR4」と到達距離10kmの「400G-LR4-10」
- 最大100Gbpsで250kmを伝送可能な「MSA-100GLH」、巨大なサイズと消費電力で採用進まず
- 最大400Gbps、到達距離10kmの「CWDM8」、8×50G NRZの採用で低コストと低電力を実現
- 400Gbpsで到達距離2kmと10kmの「CWDM8 2km/10km」、低OH濃度SMFの採用で損失を抑える
- 400Gを光ファイバー1本で双方向通信する「400G BiDi MSA」、「400GBASE-SR8」を先行規格化
- 50Gが8対で400Gbpsの「400G-BD4.2」、消費電力増や高コストが課題に
- IEEE「400GBASE-SR4.2」は先行した「400G-BD4.2」と相互互換性を確保
- 高コストで普及に至らない「400GBASE-SR8」と、さらに高価な「400GBASE-SR4.2」
- 最大800Gbpsの100G PAM-4 PHY、ベンダー各社がサポート、受発光素子普及のカギは940nm?
- ETCがリリースした「800G Ethernet」の仕様は400Gを2つ並べる構造に
- 「QSFP-DD MSA」を発展させる「QSFP-DD800」、供給電源など今後に課題も
- 最大800Gbpsを目指す「800G Pluggable MSA」、3つの変調方式を採用
- 高帯域と低レイテンシーの一方で到達距離は限界へ、800Gへ想定される4つのシナリオ
- PSM4とCWDM4で1.6Tb/secを実現し、到達距離も延長「800G Pluggable MSA」
- 800G Ethernetに関連、OSFP MSAと2つのIEEEの動向
- 800Gの本命「IEEE 802.3 Beyond 400 Gb/s Ethernet」、100/200Gの信号で800G/1.6Tを実現
- 200G×8の1.6Tbps、×4の800Gbpsでの転送実現は2023年?
- 100Gが8対の「800GBASE-VR8/SR8」が仕様に追加、BERの目標値決定にはさらなる情報が必須
- 200GにおけるElectricalインターフェースを検討、通信に必要な消費電力は半減へ
- Beyond 400 Gb/s EthernetにおけるOTNサポートは4月の投票でいったん否決
- 1.0E10年のMTTFPAを維持、1.0E-14のBER Targetには高コストなFECが必要に
- FacebookやMicrosoftのDC事業者が先行、Beyond 400G Study Groupは800Gと同時に1.6Tの標準化を主張
- 200Gの光伝送は技術的に実現可能、一定の損失を前提にすれば現実的なPAM6の検討も?
- 800Gb/sと同時に1.6Tb/s Ethernet仕様も策定へ 200Gb/sレーンの製品出荷は2027年頃?
- 到達距離10kmの「800G-LR」に向け、Coherent-Lite方式を検討を求めるGoogle
- 200Gのシリアルと800GのWDM、どっちが先に100万ポート出荷を実現できるのか?
- 400・200Gb/sのサポートなど、2021年7月ミーティングへの投票は可決が多数
- 800Gで10kmの到達距離を実現する「800Gbps/10km Reach SMF」の4案
- 800Gで到達距離40kmを目指す「ER8」、MZMを採用し、400G向けDSPを2つ並列
- 銅配線での8レーン800Gが規格化、レーンあたり200Gも実現へ?
- 「IEEE P802.3df」のPAR分割に向けた動き、作業効率化の一方で異論も?
- 800G実現に向け、PDM-32QAMで96G/192GBaudとPDM-16QAMで120G/240GBaudをリストアップ
- これまでの光Ethernet規格振り返りと、「40GBASE-FR」をめぐる議論の経緯
- 「IEEE 802.3cn-2019」は若干のパラメーター変更のみ、「100GBASE-AR/400GBASE-AR」は現時点で幻に
- 「100GBASE-AR」と「400GBASE-AR」は「IEEE P802.3cw」に、PMDの仕様を定義して2023年中ごろに標準化?
- 到達距離500mの「CWDM4-OCP-100G」、低価格な100G Ethernet規格として広く流通し始める
Facebookによって立ち上げられた「OCP」
今週はOCPの規格の話。前々回の『これまでの光Ethernet規格振り返りと、「40GBASE-FR」をめぐる議論の経緯』で示した一覧で、OCPに関しては以下3つの規格があることを紹介した。
また、これ以外に100G CWDM4-OCPというものもあったが。これらを順に説明していきたい。
- 200G-FR4-OCP 200G
- 400G-FR4-OCP 400G
- 800G-FR4-OCP 800G
まずはOCP(Open Compute Project)について。Facebook(現Meta)によって立ち上げられたプロジェクトであるが、最初のデザインは2009年にスタート。2011年にそれをOCPというかたちで公開し、ここからプロジェクトがスタートしている。
OCPそのものは、幸い僚誌「クラウドWatch」にいろいろ記事が上がっているが、立ち上げ前後の事情は、『データセンター標準化の流れになるか ハードのオープンソース化目指す「OCP」』が分かりやすい。
要するにOCPは、Facebookのみならず自社でサーバーを立てたいと考える企業や、そうした企業にシステムを導入したいと考えるベンダーに対してのデファクトスタンダードを提供する組織で、そこにはサーバーの仕様だけでなくネットワークスイッチやEthernetそのものも含まれている。
OCPとしては、互換性とか相互接続性が担保されるのであれば、必ずしも標準化が済んでいなくても積極的に採用する方向を見せており、その意味では、過去に紹介したさまざまなMSAと非常に近い立場にある。
そのOCPが2017年1月9日に最初にリリースしたのが、「Facebook: CWDM4-OCP 100G Optical Transceiver Specification」である。ちなみにこれはSpec Version 0.1となっているが、この状態でShared(共有)とされ、この内容でほぼ確定している。OCPとしては、IEEEのように、きちんとVersionを1.0まで引き上げるということには頓着していないようだ。
CWDM4-100Gをベースに仕様を緩めた「CWDM4-OCP-100G」
そのCWDM4-OCP-100Gであるが、仕様そのものは恐ろしく簡単だ。ベースになる「CWDM4-100G」はCWDM4 MSAが定めたもので、こちらの記事でも紹介している。その仕様を緩めたのが「CWDM4-OCP-100G」で、具体的な違いは以下の通りだ。
最初の変更点は、2kmの到達距離を500mへと縮めたことだ。『25Gbps×4をSMF1本に集約し100Gbpsを実現、到達距離2kmの「CWDM4 MSA」と、10/20/40kmの「4WDM MSA」』ではGoogleのデータセンターに絡めて触れたし、『400GbEはFacebookやMicrosoftのDC事業者が先行、Beyond 400G Study Groupは800Gと同時に1.6Tの標準化を主張』ではFacebookのデータセンターの例を示しているが、データセンターそのものがかなり巨大で、500mの到達距離では十分ではない、というのがCWDM4 MSAの出発点である。
こうした事情が特に変わったわけではない。例えば、Facebookのデータセンターの例を出した記事でも示した以下のスライドにもあるように、全体の79%は500m未満である。そうであれば、残りの21%は到達距離2kmの規格を使うとして、近距離の配線はより短距離向けの規格で代替しても支障はないことになる。
次の変更点は、Passive Coolingでの動作だ。CWDM4-100Gの場合、2kmの到達距離を実現するために出力を高める必要がある。また、CWDM4ということで4波長を安定して出力する必要もあることから、モジュールにはActive Coolingが必要とされていた。
要するに、冷却ファンなどを取り付けることで強制的に風をヒートシンクに当て、温度を下げる方策が必要である。実際には、モジュール側へファンを付けるのは現実的ではないため、レセプタクルの側にヒートシンクとファンを取り付け、これで冷却を行うかたちとなる。
ただ、当然ながら発熱は増えることでもあるし、ファンということはモーターを動作させるわけで、可動部があるコンポーネントをシステム内に入れれば、故障はその分増えることとなる。
到達距離を500mまで減じたということは、送信出力を抑えても到達できるということででもあり、これはそのまま消費電力を減らせることにつながる。
Passive Coolingでも動作させるカギは温度範囲の設定にアリ
そこで、Passive Coolingでも動作するところまで消費電力を減らすというのが、2つ目の目的になった。
これに関係するのが動作温度範囲だ。CWDM4-100Gでは、0~70℃という動作温度範囲が設定されている。こうした動作環境が、CWDM4 MSA側では読み切れない以上、この程度の幅を持たせるのはある意味当然である。
ただ、OCPの場合、利用するデータセンターの環境なども別の仕様で定められているため、ここまで厳しい動作環境を想定する必要がない。そこで動作温度範囲を15~55℃へと緩めることとした。
これは発光/受光素子の動作条件を緩めることになり、より安価な素子を利用してトランシーバーを構築できることになるわけだ。要するに、CWDM4-100Gをベースとしつつ、OCPが想定しているデータセンターの、比較的近距離の接続向けと割り切って最適化を図ったものが、CWDM4-OCP-100Gというわけだ。
その結果、OMA Each Laneの最小値である「Tx OMA」が、-4dBm(≒0.4mW)から-5dBm(≒0.3mW)へ、OMAからTDPを引いたLaunch Powerの最小値である「Tx OMA-TDP」が-5dBmから-6dBm(≒0.25mW)へそれぞれ減っており、BERに5E-5を保証した状態での受信感度も、-10dBm(0.1mW)から-9.5dBm(≒0.11mW)へ引き上げるといった仕様変更が可能になった。また、Link Lossも3.5dBから5dBへ引き上げられており、やや質の悪いSMFであっても利用可能となっている。
ちなみに、例えば送信側で言えば、レーンあたりの最大出力であるAverage Launch Power, each lane(max)の値である2.5dBm(≒1.78mW)や、全レーン合計での最大出力であるTotal average launch power(max)の8.5dBm(≒7.1mW)といったパラメーターそのものは変更されていない。このため、既存のCWDM4-100Gのモジュールをそのまま利用することも、もちろん可能である。
ただ、こうしたものはあくまでも最大値であって、実際はもっと出力を落としても利用できるという話だ。そして、その分消費電力を減らして、Passive Cooling可能なモジュールをCWDM4-OCP-100Gとして定義した、という格好である。
低価格な100G Ethernet規格として広く流通し始める
問題は、このモジュールやスイッチを誰が製造するのか?という話なのだが、これも仕様が発表された時点で、トランシーバーモジュールをColorChipとII-VI Incorporated(旧Finisar)が、スイッチをEdgecore NetworksとCelesticaがそれぞれ提供することが明らかになっている。
その後も各社からこれに対応したトランシーバーやスイッチがそれぞれ提供されているので、入手性という意味でも悪くはなさそうだ。
あくまでOCPの仕様に沿ってデータセンターを構築する場合でなければ、いろいろと面倒はありそうだが、低価格な100G Ethernet規格として比較的広く流通を始めているのが、この「CWDM4-OCP-100G」というわけだ。
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