期待のネット新技術
800Gで10kmの到達距離を実現する「800Gbps/10km Reach SMF」の4案
【光Ethernetの歴史と発展】
2021年10月19日 06:00
Ethernetというか10GBASE-Tに関しては、2017年から【10GBASE-T、ついに普及?】と題し、全11回と番外編2回をお届けした。だが、ツイストペアによる銅配線のEthernetは10GBASE-Tまでで、25/64GBASE-Tはまだまだ実用化には至っていない。
【アクセス回線10Gbpsへの道】とも一部は被るかもしれないが、ここでは光ファイバーを利用する“光Ethernet”を紹介していこう。
「光Ethernetの歴史と発展」記事一覧
- 10BASE-Tと同じ仕組みの光ファイバーで最大2kmを実現「10BASE-F」
- 屈折率で伝送距離が異なる「光ファイバー」の材質と構造
- 最大100Mbpsながら伝送距離の異なる「100BASE-FX」「100BASE-SX」などの各規格
- 実効1Gbpsに到達した「1000BASE-SX/1000BASE-LX/1000BASE-CX」
- 拠点間接続に用いる「1000BASE-X」の各種関連規格
- 低価格な光ファイバーで1Gbpsを実現する車載向けがメインの「GEPOF」
- 10Mbpsの「MII」から1000MbpsのCisco独自規格「SGMII」まで
- 1波長で10Gbps、光源と到達距離の異なる「10GBASE-W/R」の各規格
- 10Gbpsのフレッツ光で使われる「10GBASE-PR」、既存ケーブルを流用できる「10GBASE-LRM」
- XENPAK→X2→XFP→SFP+と移った10GBASEのトランシーバーモジュール規格
- 10Gbpsのシリアル通信規格「XFP」、これを置き換えた「SFP+」
- 10GbEの次は40GbEと100GbE、HSSGによってともに標準化の開始へ
- 最大100Gbps、「IEEE 802.3ba」として標準化された8つの規格
- IEEE 802.3baで定義されたInterconnectとトランシーバー規格
- 100Gbpsで100mを目指す「P802.3bm」、IEEE 802.3baをブラッシュアップ
- 最大100Gbps・100mの「100GBASE-SR4」と40Gbps・40kmの「40GBASE-ER4」
- CFPのサイズ半分、最大200Gbpsの「CFP2」、さらに小型化された「CFP4」
- 40Gbpsの「QSPF+」、50Gbpsの「QSFP56」、112Gbpsの「SFP-DD」「QSFP28」
- 25Gbps×4で100Gbps、光Ethernet第2世代「IEEE 802.3bm-2015」の各規格が標準化
- 50Gbpsに対応する5つの規格「50GBASE-KR/CR/SR/FR/LR」
- 「25G PAM-4」で100/200Gbpsを実現する7規格と、SMF1対で100Gbpsの「100G PAM-4」
- 25Gbps×8の「200GBASE-R」では4つのモジュール規格が乱立
- 最大400Gbpsを実現する2つのモジュール規格「OSFP」「CDFP」
- 1レーン50Gbpsで最大400Gbpsを実現する「P802.3bs」
- レーンあたり50/25Gbpsで400Gbpsを実現する「IEEE 802.3bs」の各規格
- 53.125Gの「PAM-4」を4対束ねた「PSM4」で最大400Gbps「400GBASE-DR4」
- アクセス回線向けの光ファイバー規格「IEEE P802.3cp/P802.3cs/P802.3ct」
- 位相変調した光信号を復号するコヒーレント光、波長分離多重の「DWDM」併用の「400ZR」
- 「100GBASE-ZR」を残し「IEEE P802.3ct」から「400GBASE-ZR」を分割
- 1対のMMFで100Gbpsを目指す「IEEE P802.3db」
- IEEE標準ではない光Ethernetの各規格、100G/400G/800Gですでに登場
- SWDMを用いた100/40Gbpsの「100G-SWDM4-MSA」と「40G-SWDM4-MSA」
- 「100GBASE-LR4」と「100GBASE-SR10」の間を埋める最大100Gbpsの「100G PSM4 MSA」
- SMF1本で25Gbps×4の100Gbpsを実現、到達距離2kmの「CWDM4 MSA」、40kmの「4WDM MSA」
- 100Gbpsで10/20/40kmの到達距離を狙った「100G 4WDM-10/20/40」
- 「100G PAM-4」で最大100Gbps、到達距離2kmの「100G-FR」と10kmの「100G-LR」
- SMF1対で100Gbpsの「100G LR1-20/ER1-30/ER1-40」、4本束ねて400Gbpsの「400G-FR」
- 最大400Gbps、到達距離2kmの「400G-FR4」と到達距離10kmの「400G-LR4-10」
- 最大100Gbpsで250kmを伝送可能な「MSA-100GLH」、巨大なサイズと消費電力で採用進まず
- 最大400Gbps、到達距離10kmの「CWDM8」、8×50G NRZの採用で低コストと低電力を実現
- 400Gbpsで到達距離2kmと10kmの「CWDM8 2km/10km」、低OH濃度SMFの採用で損失を抑える
- 400Gを光ファイバー1本で双方向通信する「400G BiDi MSA」、「400GBASE-SR8」を先行規格化
- 50Gが8対で400Gbpsの「400G-BD4.2」、消費電力増や高コストが課題に
- IEEE「400GBASE-SR4.2」は先行した「400G-BD4.2」と相互互換性を確保
- 高コストで普及に至らない「400GBASE-SR8」と、さらに高価な「400GBASE-SR4.2」
- 最大800Gbpsの100G PAM-4 PHY、ベンダー各社がサポート、受発光素子普及のカギは940nm?
- ETCがリリースした「800G Ethernet」の仕様は400Gを2つ並べる構造に
- 「QSFP-DD MSA」を発展させる「QSFP-DD800」、供給電源など今後に課題も
- 最大800Gbpsを目指す「800G Pluggable MSA」、3つの変調方式を採用
- 高帯域と低レイテンシーの一方で到達距離は限界へ、800Gへ想定される4つのシナリオ
- PSM4とCWDM4で1.6Tb/secを実現し、到達距離も延長「800G Pluggable MSA」
- 800G Ethernetに関連、OSFP MSAと2つのIEEEの動向
- 800Gの本命「IEEE 802.3 Beyond 400 Gb/s Ethernet」、100/200Gの信号で800G/1.6Tを実現
- 200G×8の1.6Tbps、×4の800Gbpsでの転送実現は2023年?
- 100Gが8対の「800GBASE-VR8/SR8」が仕様に追加、BERの目標値決定にはさらなる情報が必須
- 200GにおけるElectricalインターフェースを検討、通信に必要な消費電力は半減へ
- Beyond 400 Gb/s EthernetにおけるOTNサポートは4月の投票でいったん否決
- 1.0E10年のMTTFPAを維持、1.0E-14のBER Targetには高コストなFECが必要に
- FacebookやMicrosoftのDC事業者が先行、Beyond 400G Study Groupは800Gと同時に1.6Tの標準化を主張
- 200Gの光伝送は技術的に実現可能、一定の損失を前提にすれば現実的なPAM6の検討も?
- 800Gb/sと同時に1.6Tb/s Ethernet仕様も策定へ 200Gb/sレーンの製品出荷は2027年頃?
- 到達距離10kmの「800G-LR」に向け、Coherent-Lite方式を検討を求めるGoogle
- 200Gのシリアルと800GのWDM、どっちが先に100万ポート出荷を実現できるのか?
- 400・200Gb/sのサポートなど、2021年7月ミーティングへの投票は可決が多数
- 800Gで10kmの到達距離を実現する「800Gbps/10km Reach SMF」の4案
- 800Gで到達距離40kmを目指す「ER8」、MZMを採用し、400G向けDSPを2つ並列
- 銅配線での8レーン800Gが規格化、レーンあたり200Gも実現へ?
- 「IEEE P802.3df」のPAR分割に向けた動き、作業効率化の一方で異論も?
- 800G実現に向け、PDM-32QAMで96G/192GBaudとPDM-16QAMで120G/240GBaudをリストアップ
- これまでの光Ethernet規格振り返りと、「40GBASE-FR」をめぐる議論の経緯
- 「IEEE 802.3cn-2019」は若干のパラメーター変更のみ、「100GBASE-AR/400GBASE-AR」は現時点で幻に
- 「100GBASE-AR」と「400GBASE-AR」は「IEEE P802.3cw」に、PMDの仕様を定義して2023年中ごろに標準化?
- 到達距離500mの「CWDM4-OCP-100G」、低価格な100G Ethernet規格として広く流通し始める
「800Gbps/10km Reach SMF」を実現する4つの方式
話を2021年8月のミーティングに移すと、もう議論はほぼ以下の2点のみとなった。
- 800Gbps/10km Reach SMF
- 800Gbps Copper
このうち1つ目の「800Gbps/10km Reach SMF」について、HuaweiのTingting ZHANG/Sen ZHANG/Yan ZHUANGの3氏による"Technical feasibility of the "10km @ 800Gb/s" objective"から。
3氏は『200Gのシリアルと800GのWDM、どっちが先に100万ポート出荷を実現できるのか?』で紹介した7月のミーティングでも"Considerations on the "10km @ 800Gb/s" objective"というプレゼンテーションを行っており、ここからもう少し踏み込んだ格好だ。
その7月のプレゼンテーションを簡単におさらいすると、800Gbpsで10kmの到達距離を実現するため、以下5種類の方式それぞれの実現可能性を紹介したものだった。
- 800G LR8(100G×8のLWDM)
- 800G LR4(200G×4のLWDM)
- 800G LR1(800G Coherent)
- 800G LR2(400G Coherent×2)
- 800G LR4(200G×4 SHD)
そして、今回のプレゼンテーションは、ここから「800G LR2」を外した残り4つについて、もう少し実現可能性を詰めた格好になっている。
波長の違いに起因する分散の増大が課題の「800G LR8」
まず「800G LR8」は、既存の100Gをそのまま使える点は問題ないものの、問題は波長の違いに起因する分散がどうしても大きくなりがち、という点だ。
このあたりを比較した以下のスライドを見ると、CWDM8のままだと、Dispersion(分散)が-59.4~96.4ps/nmで、155.8ps/nmとかなり大きくなってしまう。同じCWDMでも、CWDM4かつ到達距離が6kmで済む「400G-LR-6」は-35.6~20.1ps/nmであり、トータル55.7ps/nmと比較的分散が少なくて済むものの、やはり8波長かつ10kmになると分散の増大は免れない。
このあたりは、より波長の間隔を詰めたLWDM8にすることで、-50.8~9.4ps/nmとトータル60.2ps/nmに抑えることができるとしている。とはいえ、それでも若干分散が増えることは否めないので、400G-LR4-6より、もう少し電力マージンを取る必要があるとしている。
また、この方式の問題は、8対の送受信を行うために、400G-LRと比較して倍のADC/DACや送受光素子が必要になることで、さらに言えばDSPも倍ではないにせよ、それなりに消費電力が増えるだろう(これも400G用のDSP×2、とかにしてしまうと倍になりかねない)。
この点は、モジュールの供給電力に対して結構厳しい部分がある。プロセスの微細化で消費電力を下げやすいDSPならともかく、ADC/DACの場合はそこまでプロセス微細化で消費電力は下がらないし、受光素子や発光素子は微細化の恩恵は受けられない。
さらに言えば、パワーバジェットを引き上げるということは、発光出力または受光感度を引き上げる必要があるわけで、これはそのまま消費電力増につながる。こうした辺りは、実現に際しての大きな阻害要因になるのは間違いない。
ADC/DACや送受光素子が4対で済み、消費電力面でも実現可能性が高い「800G LR4」
「800G LR4」も、CWDM4を使えば分散は-59.4~33.4ps/nmで、92.8ps/nmほどになる。800G LR8でCWDM8にした場合に比較すればだいぶマシではあるが、それでもまだ結構に大きい。こちらもLWDM4にすれば、分散は-28.4~9.4ps/nmでトータル37.8ps/nmほどに抑え込めることになり、これは特性的には問題ないことになる。また、ADC/DACも送受光素子も4対で済むので、消費電力面でも800G LR8より実現可能性が高い。
もっとも、同じ200G×4ながら到達距離2kmの「800G-FR4」と比較すると分散は大きめになるため、FECに関してはKP4のものより強化する必要がある、としている。
減衰の少ないC Bandの1波長のみであるCoherentを利用する「800G LR1」
3つ目の案であるCoherentを用いた「800G LR1」だと、そもそも波長は1つなので分散は考える必要がないし、減衰の少ないC Bandの波長を利用することで、10kmの到達もそれほど難しくないと考えられる。
その一方、既存のCoherentは400Gbpsに対応した規格であり、既存のコンポーネントをそのまま流用するわけにはいかないとの懸念点が挙げられている。ただ、これは「現在の」という但し書き付きではある。
『高帯域と低レイテンシーの一方で到達距離は限界へ、800G Pluggable MSAが想定する4つのシナリオ』で説明した通り、OIFでは既に800GのCoherent通信方式(おそらくは「800ZR」)の開発を2020年末に表明しており、これの開発が進めば、この案でそのコンポーネントを流用することも現実的な選択肢となりそうだからだ。
その詳細は『到達距離10kmの「800G-LR」に向け、Coherent-Lite方式の検討を求めるGoogle』で説明した通りで、Task Forceではもう少し詰めるべき点が残っているが、Study Groupレベルでは十分な実現可能性の検討がなされている、としている。
200G×4構成のSHDを用いる「800G LR4」
そして最後がSHDを利用した「800G LR4」だ。SHDについては『200Gのシリアルと800GのWDM、どっちが先に100万ポート出荷を実現できるのか?』の後半で一通り説明しているが、Coherent方式の派生型である。
受信方式として、まだICRとSVDDの両方が提案されているあたり、今後Task Forceの中で詰めるべき作業ということになるのだろう。ただ、今回はSHD方式のメリットとして、もう少し実現可能性について踏み込んだ説明があった。
従来のIM-DDを利用した方式では、信号強度しか復元できないため、分散によるTDECQペナルティが発生していた。しかし、SHDを利用すると分散ペナルティが発生しない。また、O Bandでのエッジング波長によるわずかな色分散は、簡単なイコライザで補正できる。また、構成が簡単になる点もメリットとしている。
200Gになると、分散に伴うペナルティが100Gと比べて大きくなるため、従来型のCoherentだとこの分散補償が急激に難しくなるが、SHDを利用した場合にはこれが原理的に0になるため、その分仕組みが楽になるというわけだ。
実際に800Gで10kmが可能かどうなの試算は、あくまでもまだ研究室レベルでの話ではあるが、受信側がReceiver A/Bのどちらであってもレーンあたり200Gbps、トータルで800Gbpsの送受信には既に成功しており、また発光素子はDFBとECLのどちらであっても基本的には変わらない伝達性能が期待できるとしている(グラフ左)。
また、OFC 2021では、到達距離40kmに関してのペーパーが出ており、40kmであっても適切な補償機構を加味すれば、現実的に信号伝達が可能とされている(グラフ右)から、10kmであれば十分実現可能性が高い、というのがここでの説明である(余談だが、この論文の筆頭筆者は、この提案の2番目に名前を連ねているHuaweiのSen ZHANG氏)。
ちなみに、当該論文を読んでみたのだが、波長1547.72nmの光源を利用し、上の「Option 4 for 10km@800Gb/s(1/4)」のスライドで言うところのReceiver BタイプのものをSOI基板上に構築して利用。実際に40kmの光ファイバーを経由しての測定となっている。
この論文そのものは、何か特定の規格に向けての実証というよりは、800Gbps~1.6Tbpsの光ネットワーク構築のための提案というものなので、例えばOIFがこれをベースに規格を構築しているとかいう話ではないようだ。その意味ではこの論文も、あくまで研究室レベルで実証されたという話でしかないのだが、Study Groupとしてはこれで十分、という判断であろう。
ちなみに、第4案である「800G LR4」の派生型として、SHDを使いながらシンボルレートを倍に引き上げた方法も提案されている。ただし、これはSHDで116GBaudが可能なのか? という別の問題を提起しそうだ。
そして、まとめではなぜかこの派生型の方が一覧に出てきて、本来の200G×4 SHDが出てこないあたりが謎なのだが、それぞれの特性を比較した結果が以下である。
このプレゼンテーションも何かを提起するわけではなく、あくまでも議論のための叩き台という位置付けであるが、結論として4案ともに800Gで到達距離10kmは実現できるとしつつ、以下の項目としてまとめている。
- 800G LR8は、LWDMを使えば実現可能
- 800G LR4も、LWDMとより強力なFECを高性能なDSPと組み合わせれば実現可能
- 800G LR1は実現可能であり、既に業界で検討が始まっている
- 800G LR2は低コストに実現可能とみられる
ちなみにこのプレゼンテーションに対してのStraw PollあるいはMotionは、8月には行われていない。
「10GBASE-T、ついに普及へ?」記事一覧
【アクセス回線10Gbpsへの道】記事一覧
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- 「Bフレッツ」(100Mbps)に採用された最大622Mbpsの「B-PON」
- IEEE 802.3ahとして標準化された1Gbpsの「GE-PON」
- 2.488Gbpsの「G-PON」、B-PON後継のG.984.1/2/3/4として標準化
- 「10G-EPON」で10Gbpsに到達、IEEE 802.3avとして標準化
- NURO光 10Gに採用された10Gbpsの「XG-PON」、「G.987」として標準化
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- 25Gbpsの「NG-PON2+」、5G基地局向けバックボーン向け
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- 【番外編】XG-PONを採用する「NURO 光 10G」インタビュー