期待のネット新技術
実効1Gbpsに到達、「1000BASE-SX/1000BASE-LX/1000BASE-CX」が1998年に策定
【光Ethernetの歴史と発展】
2020年4月21日 06:00
Ethernetというか10GBASE-Tに関しては、2017年から【10GBASE-T、ついに普及?】と題し、全11回と番外編2回をお届けした。だが、ツイストペアによる銅配線のEthernetは10GBASE-Tまでで、25/40GBASE-Tまだまだ実用化には至っていない。
【アクセス回線10Gbpsへの道】とも一部は被るかもしれないが、ここでは光ファイバーを利用する“光Ethernet”を紹介していこう。
「光Ethernetの歴史と発展」記事一覧
- 10BASE-Tと同じ仕組みの光ファイバーで最大2kmを実現「10BASE-F」
- 屈折率で伝送距離が異なる「光ファイバー」の材質と構造
- 最大100Mbpsながら伝送距離の異なる「100BASE-FX」「100BASE-SX」などの各規格
- 実効1Gbpsに到達した「1000BASE-SX/1000BASE-LX/1000BASE-CX」
- 拠点間接続に用いる「1000BASE-X」の各種関連規格
- 低価格な光ファイバーで1Gbpsを実現する車載向けがメインの「GEPOF」
- 10Mbpsの「MII」から1000MbpsのCisco独自規格「SGMII」まで
- 1波長で10Gbps、光源と到達距離の異なる「10GBASE-W/R」の各規格
- 10Gbpsのフレッツ光で使われる「10GBASE-PR」、既存ケーブルを流用できる「10GBASE-LRM」
- XENPAK→X2→XFP→SFP+と移った10GBASEのトランシーバーモジュール規格
- 10Gbpsのシリアル通信規格「XFP」、これを置き換えた「SFP+」
- 10GbEの次は40GbEと100GbE、HSSGによってともに標準化の開始へ
- 最大100Gbps、「IEEE 802.3ba」として標準化された8つの規格
- IEEE 802.3baで定義されたInterconnectとトランシーバー規格
- 100Gbpsで100mを目指す「P802.3bm」、IEEE 802.3baをブラッシュアップ
- 最大100Gbps・100mの「100GBASE-SR4」と40Gbps・40kmの「40GBASE-ER4」
- CFPのサイズ半分、最大200Gbpsの「CFP2」、さらに小型化された「CFP4」
- 40Gbpsの「QSPF+」、50Gbpsの「QSFP56」、112Gbpsの「SFP-DD」「QSFP28」
- 25Gbps×4で100Gbps、光Ethernet第2世代「IEEE 802.3bm-2015」の各規格が標準化
- 50Gbpsに対応する5つの規格「50GBASE-KR/CR/SR/FR/LR」
- 「25G PAM-4」で100/200Gbpsを実現する7規格と、SMF1対で100Gbpsの「100G PAM-4」
- 25Gbps×8の「200GBASE-R」では4つのモジュール規格が乱立
- 最大400Gbpsを実現する2つのモジュール規格「OSFP」「CDFP」
- 1レーン50Gbpsで最大400Gbpsを実現する「P802.3bs」
- レーンあたり50/25Gbpsで400Gbpsを実現する「IEEE 802.3bs」の各規格
- 53.125Gの「PAM-4」を4対束ねた「PSM4」で最大400Gbps「400GBASE-DR4」
- アクセス回線向けの光ファイバー規格「IEEE P802.3cp/P802.3cs/P802.3ct」
- 位相変調した光信号を復号するコヒーレント光、波長分離多重の「DWDM」併用の「400ZR」
- 「100GBASE-ZR」を残し「IEEE P802.3ct」から「400GBASE-ZR」を分割
- 1対のMMFで100Gbpsを目指す「IEEE P802.3db」
- IEEE標準ではない光Ethernetの各規格、100G/400G/800Gですでに登場
- SWDMを用いた100/40Gbpsの「100G-SWDM4-MSA」と「40G-SWDM4-MSA」
- 「100GBASE-LR4」と「100GBASE-SR10」の間を埋める最大100Gbpsの「100G PSM4 MSA」
- SMF1本で25Gbps×4の100Gbpsを実現、到達距離2kmの「CWDM4 MSA」、40kmの「4WDM MSA」
- 100Gbpsで10/20/40kmの到達距離を狙った「100G 4WDM-10/20/40」
- 「100G PAM-4」で最大100Gbps、到達距離2kmの「100G-FR」と10kmの「100G-LR」
- SMF1対で100Gbpsの「100G LR1-20/ER1-30/ER1-40」、4本束ねて400Gbpsの「400G-FR」
- 最大400Gbps、到達距離2kmの「400G-FR4」と到達距離10kmの「400G-LR4-10」
- 最大100Gbpsで250kmを伝送可能な「MSA-100GLH」、巨大なサイズと消費電力で採用進まず
- 最大400Gbps、到達距離10kmの「CWDM8」、8×50G NRZの採用で低コストと低電力を実現
- 400Gbpsで到達距離2kmと10kmの「CWDM8 2km/10km」、低OH濃度SMFの採用で損失を抑える
- 400Gを光ファイバー1本で双方向通信する「400G BiDi MSA」、「400GBASE-SR8」を先行規格化
- 50Gが8対で400Gbpsの「400G-BD4.2」、消費電力増や高コストが課題に
- IEEE「400GBASE-SR4.2」は先行した「400G-BD4.2」と相互互換性を確保
- 高コストで普及に至らない「400GBASE-SR8」と、さらに高価な「400GBASE-SR4.2」
- 最大800Gbpsの100G PAM-4 PHY、ベンダー各社がサポート、受発光素子普及のカギは940nm?
- ETCがリリースした「800G Ethernet」の仕様は400Gを2つ並べる構造に
- 「QSFP-DD MSA」を発展させる「QSFP-DD800」、供給電源など今後に課題も
- 最大800Gbpsを目指す「800G Pluggable MSA」、3つの変調方式を採用
- 高帯域と低レイテンシーの一方で到達距離は限界へ、800Gへ想定される4つのシナリオ
- PSM4とCWDM4で1.6Tb/secを実現し、到達距離も延長「800G Pluggable MSA」
- 800G Ethernetに関連、OSFP MSAと2つのIEEEの動向
- 800Gの本命「IEEE 802.3 Beyond 400 Gb/s Ethernet」、100/200Gの信号で800G/1.6Tを実現
- 200G×8の1.6Tbps、×4の800Gbpsでの転送実現は2023年?
- 100Gが8対の「800GBASE-VR8/SR8」が仕様に追加、BERの目標値決定にはさらなる情報が必須
- 200GにおけるElectricalインターフェースを検討、通信に必要な消費電力は半減へ
- Beyond 400 Gb/s EthernetにおけるOTNサポートは4月の投票でいったん否決
- 1.0E10年のMTTFPAを維持、1.0E-14のBER Targetには高コストなFECが必要に
- FacebookやMicrosoftのDC事業者が先行、Beyond 400G Study Groupは800Gと同時に1.6Tの標準化を主張
- 200Gの光伝送は技術的に実現可能、一定の損失を前提にすれば現実的なPAM6の検討も?
- 800Gb/sと同時に1.6Tb/s Ethernet仕様も策定へ 200Gb/sレーンの製品出荷は2027年頃?
- 到達距離10kmの「800G-LR」に向け、Coherent-Lite方式を検討を求めるGoogle
- 200Gのシリアルと800GのWDM、どっちが先に100万ポート出荷を実現できるのか?
- 400・200Gb/sのサポートなど、2021年7月ミーティングへの投票は可決が多数
- 800Gで10kmの到達距離を実現する「800Gbps/10km Reach SMF」の4案
- 800Gで到達距離40kmを目指す「ER8」、MZMを採用し、400G向けDSPを2つ並列
- 銅配線での8レーン800Gが規格化、レーンあたり200Gも実現へ?
- 「IEEE P802.3df」のPAR分割に向けた動き、作業効率化の一方で異論も?
- 800G実現に向け、PDM-32QAMで96G/192GBaudとPDM-16QAMで120G/240GBaudをリストアップ
- これまでの光Ethernet規格振り返りと、「40GBASE-FR」をめぐる議論の経緯
- 「IEEE 802.3cn-2019」は若干のパラメーター変更のみ、「100GBASE-AR/400GBASE-AR」は現時点で幻に
- 「100GBASE-AR」と「400GBASE-AR」は「IEEE P802.3cw」に、PMDの仕様を定義して2023年中ごろに標準化?
- 到達距離500mの「CWDM4-OCP-100G」、低価格な100G Ethernet規格として広く流通し始める
1995年の「IEEE 802.3u」登場直後から、さらなる高速化のニーズが
前回は100Mbpsだったが、その100BASE-TXが普及し始めてすぐに「もっと帯域を」という声が出始めた。これは、このころから急速にCPUの性能が上がり始めたことと、無縁ではないだろう。
「IEEE 802.3u」が出た1995年といえば、IntelがPentium Proを発売した年だが、この直後からクライアント向けのCPUは急速に性能を上げていく。
そのPentium Proはもちろんサーバー向けCPUでもあったが、CPU性能の向上は単位時間あたりに処理できるデータ量増大につながり、必然的にネットワークを流れるデータ量も増えることになる。ここから、より高速なEthernetが必要になることは火を見るより明らかであった。
これはある意味、十分に予想可能な話であり、これを受けてIEEEは1995年11月、「HSSG(Higher Speed Study Group)」を立ち上げる。
余談だが、IEEEは新しいEthernetの規格を策定する際に、このHSSGという名称をほぼ毎回のように使うようで、HSSGというだけでは、どの規格を指すのか分からないという面倒くささはある。しかし、逆に毎回変えていたら名前を付けるのに困りそうな気もするので、これはこれで賢明なのかもしれない。
さて、この1995年に立ち上げられたHSSGのその後の進展は、以下の通りだ。
上段は100BASE-X、つまりIEEE 802.3uのタイムラインで、下段が1000BASE-XであるIEEE 802.3zのタイムラインとなる。これは1996年9月におけるもので、それ以降は“予定”であり、最終的にはIEEE 802.3uとほぼ変わらないものとなった。ただ、逆に言えば、それなりに順調に標準化が進んだという言い方もできる。
1999年に標準化された1000BASE-X、当初1000BASE-Tは含まれず
さて、このIEEE 802.3zのObjectives、つまり目標は以下のようになっていた。
これを見ると面白いことが分かる。1~8については、100Mbps時代との互換性を保とう、という話で特に不思議でもないのだが、9が「光ファイバーメディアがメインで、可能なら銅配線」となっていたあたり、1Gbpsはもう光ファイバーがメインだったことが分かる。
実際11では、マルチモードファイバーで最低500m、シングルモードファイバーで最低2kmの到達距離となっていた一方、銅ケーブルは25m以上(できれば100m)だったことが分かる。そして、ここには全くツイストペアの話が出てこない。だが実は、1GbpsのEthernetの仕様策定からはとりあえず除外する決断が、割と早い時期になされていたらしい。
もちろん“やらない”ということではなく、こちらは別のTask Forceで標準化作業を行うとの話であり、「P802.3ab」としてのPAR(Project Authorization Request)が1997年1月31日付で出されている。最終的にはIEEE 802.3zの1年遅れとなる1999年7月、「IEEE 802.3ba-1999」として標準化が完了した。だが、1000BASE-Xには当初、1000BASE-Tは含まれていなかった。
同じ1Gbpsながら物理層が異なる「1000BASE-SX/1000BASE-LX/1000BASE-CX」
策定されたのは1000BASE-SX/1000BASE-LX/1000BASE-CXの3種類だ。1000BASE-Tに関してはとりあえず次回以降においておくが、あまり大きな問題はないまま、最終的に1998年6月に承認されている。100BASE-Xまでは、光ファイバーを使う規格は(標準規格のみならず、独自規格も)名称に"Fiber"のFを利用することが多かったが、1000BASE-Xからはこれが廃止になった。この3種類の通信規格は基本的に以下の点が共通している。
- 信号速度は1.25Gbps
- 8B10Bエンコードを採用(実効転送速度は1Gbps)
ただし、以下のように物理層には違いがある。
- 1000BASE-SX(Short Range)
770~860nmの光源を利用。光ファイバーはマルチモードファイバーを利用し、2本で1対。到達距離は220/275/500/550m - 1000BASE-LX(Long Range)
1270~1355nmの光源を利用。光ファイバーはマルチモードファイバーまたはシングルモードファイバーを利用し、2本で1対。到達距離はマルチモードファイバーで440m、シングルモードファイバーで5km - 1000BASE-CX(Coaxial:同軸ケーブル)
インピーダンス150Ωの2芯平衡型同軸ケーブル(STP:Shielded Twisted Pair)が2本で1対。到達距離は最大25m
1000BASE-SXの到達距離に違いがあるのは、複数の種類が定義されているためだ。IEEE 802.3zの仕様では、ファイバーのコア径として62.5μmと50μmの2種類が定義されている。
クラッド径はどちらも125μmで同じだが、材質の違いから、以下の4種類となる。
62.5μm MMF 160MHz・km:FDDIケーブル(FDDIに利用されていたもの)
62.5μm MMF 200MHz・km:OM1
50μm MMF 400MHz・km:不明
50μm MMF 500MHz・km:OM2
OM1/OM2といった呼称は、「ISO/IEC 11801:2002」(現在はISO/IEC 11801-1:2017へ置き換えられている)で定義されているファイバーの呼称であり、その後TIAでも、「ANSI/TIA-568.3-D」でこの名称を使うことを決め、一般的になっている。だが、IEEE 802.3z策定当時はなかったものなので、Specificationにはこの名称はない。
さて、上の表にある"Modal bandwidth as measured at 850nm"という数字は、要するに保証される到達距離だ。単位はMHz×kmであり、例えば信号が1MHzならFDDIケーブルなら160km、160MHzなら到達距離は1km届くことになる。これに従えば、信号の速度そのものは1250MHzだから、到達距離は160÷1250=128mということになるが、実際に検討したところ、もう少し到達距離は伸ばせる、という計算になったようだ。
ちなみにISO/IEC 11801では、ファイバーに関して以下のような定義となっている。
コア径 | Modal Bandwidth | 光源 | |
OM1 | 62.5μm | 200MHz・km | 850nm |
OM2 | 50μm | 500MHz・km | 850nm |
OM3 | 50μm | 2000MHz・km | 850nm |
OM4 | 50μm | 4700MHz・km | 850nm |
OM5 | 50μm | 4700MHz・km | 850nm |
2470MHz・km | 953nm |
Modal Bandwidth | 光源 | |
OS1 | 1.0dB/km | 1310/1550nm |
OS1a | 1.0dB/km | 1310/1383/1550nm |
OS2 | 0.4dB/km | 1310/1383/1550nm |
シングルモードファイバーのOS1/1a/2の方は、純粋に光の減衰率で規定されるかたちだ。ただ、この定義と先の図がいまいち一致していないのは、IEEE 802.3z策定当時には広く使われていたFDDI用のマルチモードファイバーや、400MHz・kmの50μmマルチモードファイバーが、2002年のISO/IEC 11801策定当時には既に使われなくなっていた、ということだ。そんなわけでSpecificationにはまだ残っているが、現実問題としてはOM1とOM2が広く使われている状況である。
同様に1000BASE-LXも、以下の表のようにファイバーの種類で到達距離が変わる。さすがにこちらはFDDIケーブルの利用は不可で、OM1とOM2、それとOS1/OS1a/OS2が利用可能となっている。
ちなみに、これはSpecificationに記載されている話ではないが、より高性能なファイバーを利用すれば到達距離は伸びる。実際、1000BASE-SXの場合、OM3を利用すると到達距離が1kmに達するとの情報もある。もっとも、こうした長距離では、本来1000BASE-LXで利用すべきで、1000BASE-SXのまま伸ばすことにどの程度意味があるのか、やや疑問ではある。
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