官僚による法解釈を転換させた大臣 - 選挙公報のネット掲載を問われる選挙管理委員会
選挙公報平成23年8月20日
http://www.city.sendai.jp/senkyo/1196691_2477.html
候補者の氏名・経歴・政見等が掲載された「選挙公報」(PDFファイル)を、このページの下の添付ファイルでご覧いただくことができます。なお、選挙公報(印刷物)については、投票日の2日前(8月26日)までに、皆さんのお宅へお届けするほか、8月22日より、市役所市民のへや、区役所・総合支所、8月23日より市民センターにも配置しますので、こちらで入手することもできます。
震災の影響により、住所地以外の区にお住まいの方は、お申込みにより住所のある区の選挙公報をお届けします。詳しくはこちらをご覧ください。
これは、ちょっとした事件。
過去の関係文書を以下にまとめる。
日本の選挙行政は、国政選挙に対しての海外からの邦人投票の制度を設けておきながら、在外有権者のために選挙公報をウェブに載せることさえ、おざなりにしている。
「在外選挙制度」(国立国会図書館 政治議会課 佐藤令 調査と情報 第514号ISSUE BRIEF NUMBER 514 MAR.1.2006
http://www.ndl.go.jp/jp/data/publication/issue/0514.pdf
6 情報周知方法
現在の在外選挙では、在外選挙人に対する公的な候補者情報として、在外公館に設置される資料や、総務省及び外務省のホームページで名簿届出政党や名簿登載者の一覧等を見ることはできるが、選挙公報等の候補者情報は提供されていない。これは候補者の確定(=選挙の公示)から投票日までの期間が衆院選で12日、参院選で17日と短く、さらに投票日の数日前に投票を行わなければならない在外選挙人に対して選挙公報を印刷・発送するのが間に合わないためである。この点や、他の選挙公営による選挙運動は在外選挙人に対して及ばないことが、選挙区選挙での投票が適用を除外されていることの理由とされていた。
諸外国では、公的な候補者情報を提供している国もあるが、選挙人の責任によって候補者情報を取得することとしている国も多い。そもそも大多数の国ではインターネットを利用した選挙運動は禁止されていないため、国、政党及び候補者等がその情報をインターネットで提供しており、候補者情報等の取得は容易である。また、国が日本の選挙公報にあたる紙媒体による候補者情報を在外選挙人に送付する国も多いが、日本に比べて候補者の確定から投票日までが長いため、印刷・発送が間に合わないということは起こらない。
日本では候補者の確定から投票日までが短いこと及びインターネットを利用した選挙運動が禁止されていることが候補者情報の提供の大きな阻害要因であるといえよう。最高裁の判決*1でも「通信手段が地球規模で目覚ましい発達を遂げていることなどによれば、在外国民に候補者個人に関する情報を適正に伝達することが著しく困難
であるとはいえなくなった」と判示して、インターネットによる情報の提供を促しており、インターネット選挙運動の解禁も議論されているところである。インターネット選挙運動解禁となれば候補者情報の提供について障害は小さくなるといえよう。
そんな流れを変えたのは、東日本大震災と、参議院における日本共産党井上哲士による総務大臣に対する質問。*2
4月に実施されるはずだった統一地方選挙は、東日本大震災の影響により、被災地では延期されていた。
そして7月、地域を区切って地方選挙の再延期を行い、それ以外の地域は地方選挙を実施する、という法案の審議が国会で行われていた。
井上議員は、片山善博総務大臣に対して、避難先で不在者投票を行う有権者のために、法律改正を行えば選挙公報をウェブに載せることはできないのか、と質問。*3
果たして、片山大臣は、総務省のそれまでの解釈を転換する答弁を行い、井上議員を驚かさせた。
すなわち、公職選挙法により禁じられているのは、候補者による選挙運動のネット利用に対してであって、選挙管理委員会に対するネット利用は可能、と発言した。
片山大臣によれば、選挙管理委員会によるネット利用に関して総務省は従来ネガティブな見解は示していたが、これは候補者によるネット利用禁止に影響を受けた共連れ的なもの、と指摘。実際には、選挙管理委員会は、ウェブに対する改ざんがされるようなことを防ぎ、そのことを恐れなければ、選挙公報をウェブに載せられる、という解釈を披露したのだ。
第177回国会政治倫理の確立及び選挙制度に関する特別委員会第4号
平成二十三年七月二十九日(金曜日)
http://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kaigirok/daily/select0203/main.html
○井上哲士君 …それから、ネット選挙の解禁についてはいろいろ各党間でも議論をしておるところですが、大臣も必要だということは衆議院でも言われておりました。政党候補者がやるネットの活動については政党間議論があるんですが、選管のホームページに各候補者が出した公報をそのまま載せるというのは、私は一定の法改正などをすれば、これはむしろ総務省サイドでの提案でもできるんじゃないかと思うんですが、この二点、いかがでしょうか。
○国務大臣(片山善博君) 選管のネットを通じた、ホームページを通じた情報提供を充実させるべきだというのは私も賛同いたします。現在でも、例えば選挙公報というのを出すことができる、選挙管理委員会が出すことができるわけですけれども、これを紙媒体ではなくてホームページ上に掲載するということは、法的には可能だと思います。ただ、実際にはやられておりません。
それは、いろんな危惧、心配があるようであります。例えば、違法な侵入者が出てきてその情報をかき混ぜたときに選挙の有効性に疑念が生じるんではないかとか、そんなことも含めて、実際は活用されておりませんが、私は今回のような福島県のような事情に鑑みますと、いろんなところに避難されているそういう方々にできるだけ多く早く情報を提供したいということでありますれば、そういうネットを通じて選挙公報に掲載しているような情報を一種の選挙公報として選管のホームページに掲載するというのは非常に有効な手段だろうと思いますので、是非これは該当の選挙管理委員会には、これは選挙管理委員会が決めますので、選挙管理委員会には是非ポジティブに前向きに考えていただきたいということをお伝えをしたいと実は思っているところであります。その上で、今後選管のホームページ利用というもの、情報掲載に現行法が支障になるようなこととか改善すべき点があれば、総務省の方から積極的にこれを法改正が必要ならば提案をしていきたいと思います。
○井上哲士君重要な答弁なんですが、これまでは、これ私ども例えば地方議会なんかでも質問しますと、公選法上は、選挙公報については各世帯に配布することが基本だと。それが困難と認められる特別な事情がある場合は、新聞折り込みその他これに準ずる方法による配布で代えることができるという規定になっているので、ホームページに載せるのはできないというのが大体地方の答弁だったし、大体総務省もそういう説明をされてきたんではないかと思うんですが、確認しますけれども、地方の選挙管理委員会が判断をすれば法的には可能であるということでよろしいわけですね。
○国務大臣(片山善博君) 私はホームページに選挙公報として掲載することは法的には可能だと思います。ただ、先ほど言いましたように、ちょっと一例を申し上げましたけれども、いろいろ懸念事項があります。ですから、そこを乗り越えて選挙管理委員会が割り切ってやられるかどうかということが一つポイントだろうと思います。
今までは、正直言いまして、候補者のサイドのネット利用というものが解禁されていないといいますか、ネガティブな解釈をしておりましたので、言わば共連れのようなことで、選挙管理委員会のネット利用というものに対しても、恐らく総務省自体もネガティブな見解を各選挙管理委員会にお話をしていたと私は思います。ですけれども、法的には可能だと思います。もしいろんな支障があるとすれば、これを機に少し見直してみたいと思います。
井上議員は、自身のブログで、以下のように舞台裏を明かす。
被災地の地方選挙の再延長を可能とする法案の審議に立ち、避難者への選挙情報の提供のためにも選挙公報を選挙管理委員会のホームページに掲載できるようにすべきと要求。片山総務相から「法的には可能」と答弁を得ました。
これまで総務省は選挙公報の選管HP掲載について、公選法に規定がなく出来ないとの対応でした。それに基づき、地方自治体の選挙管理委員会も、HP掲載はできないという態度でした。
実は前日の質問通告の際も、総務省の担当者からは「現行法の下ではできない」との返答だったので、質問では、法改正を求める予定でしたが、大臣が「法的に可能」と踏み込んだ答弁をされたのでビックリしました。
その後の片山大臣の記者会見。
http://www.soumu.go.jp/menu_news/kaiken/48527.html
問: 被災地の地方選挙の関係なのですけれども、延期された、選挙を延期した自治体の中には、もう十数の団体がですね、実際に選挙にこぎつけているわけですけれども、投票率を見ますと、前回と比べてかなり落としているところがありまして、その辺、どう思われているかということと、あと、これから選挙ラッシュに入るわけですけれども、各自治体の取組、どう取り組めばいいのか、それを総務省としてどう支援するのか、という話を聞かせてください。
答: …それから、域外に避難されている方の不在者投票が、ある程度余裕を持って可能となるようにするとかですね、そういう工夫が必要だろうと思いますし、それから、以前もお話ししたことがあるかもしれませんけれども、遠隔地に避難されている方に、選挙の情報ができるだけ的確に伝わるようにということで言いますと、もちろん郵便で資料を郵送するということが必要ですけれども、それ以外に、ICTを活用して、選挙管理委員会のホームページに選挙関係の情報を掲載することはもちろんですけれども、例えば、選挙公報というものを紙で配布するというのが今までのやり方ですけれども、併せて選挙管理委員会のホームページに選挙公報を掲載するということも、是非、取り組んでいただきたいと思います。
次の国政選挙では、在外選挙のために、選挙公報がウェブに載ることになるだろう。
地方自治体の選挙管理委員会が、片山大臣が指摘したウェブサイト改ざん恐れを乗り越えたわけであり、国の選挙管理委員会は、この前例に知らんぷりを決め込むことはムリだろう。
一方、インターネット選挙活動について、民主党は政権政策 Manifesto 2009 では、その解禁を掲げているが、これについて議論の進んでいるのか。政治主導?の勢いは、ここでも感じられない。*4
マニフェスト政策各論
1 むだづかい
【政策目的】
○政治不信を解消する。
○多様な人材が政治家になれる環境を整備する。【具体策】
○誹謗中傷の抑制策、「なりすまし」への罰則などを講じつつ、インターネット選挙活動を解禁する。
民主党政権が、なりすまし対策に取り組めるのかは、大いに疑問。
政府が、閣議決定までして設けるとした ハトミミ.com を、個人になりすましされてしまった事件が、象徴的*5。
民主党は、情報セキュリティにも脆弱。2010年、同党東京都総支部連合会は、ウェブ改ざんを受けている。*6
2006年、前原誠司代表(当時)、野田佳彦国対委員長(当時)下における、ライブドア社内における堀江貴文送信とされた電子メールに関する民主党の永田寿康議員(当時)偽装問題も、思い出される。
*1:最高裁判例 事件番号:平成13(行ツ)82 事件名:在外日本人選挙権剥奪違法確認等請求事件 裁判年月日:平成17年09月14日 法廷名:最高裁判所大法廷
*2:選挙間際に法律改正を求めることは、現実には、国会手続の点でも、選挙実務においても、このタイミングで問うには時機を逸している。間に合わない。
*3:選挙間際に法律改正を求めることは、現実には、国会手続の点でも、選挙実務においても、このタイミングで問うには時機を逸している。間に合わない。
*4:なお、片山善博氏は、菅直人総理が民間から登用した大臣であり、国会議員ではない。
*5:「ハトミミ.com」内閣府ドメインでスタート 同名の風刺サイトも - ITmedia NEWS
*6:http://www.tokyo.dpj.or.jp/news/o/20100105/ 当Webサイト改ざんについてのお詫び 2009年12月25日12時20分頃より,当Webサイトにおいて一部ページが第三者によって改ざんされ不正ファイルが混入し,当該ページにアクセスした時に悪意のある不正なファイルがダウンロードされ実行される可能性のある状態となっていたことが判明いたしました。2010年1月4日までに改ざんされた可能性のあるページをすべて公開停止にしましたが,これまでの期間にサイトを閲覧された方にウィルスの感染の恐れがあることが判明しました。 当サイトをご覧いただいている皆様にご迷惑をおかけしましたことを心よりお詫び申し上げます。