Clear Consideration(大学職員の教育分析)

大学職員が大学教育、高等教育政策について自身の視点で分析します

博士号取得者のキャリアパスは大学教員のみではない

high190です。
今ブックマークを集めている記事があります。
www.ki1tos.com

拝読して「うーむなるほど。学部卒からストレートで大学院に進学して博士号を取得してからキャリアを積んで大学教員になるというキャリアパスだけではなく、学卒または修士卒で企業等に勤める人が博士号を取得して活躍している実例があまり知られていないのかもしれない。」と感じました。
私の狭い観測範囲ではありますが、企業に勤めながら博士号を取得して、学位を活用して活躍されている方として取り上げたい人がいます。日刊工業新聞社の科学技術部論説委員兼編集委員の山本佳世子さんです。

newswitch.jp

山本さんは学部卒業後、修士号を取得して日刊工業新聞社で記者として活動されてきました。国立大学法人化後の産学連携担当をきっかけに東京農工大学で博士号を取得され、現在では恐らく日本で最も読み応えのある産学連携関係の記事を書かれています。Googleアラートで私が興味を惹かれる記事のテーマの多くが山本さんで、記事の質は高く大学職員の情報源として有用なソースです。
山本さんは博士号取得を実務にどのように活かしてきたのでしょうか。そのヒントとして広島大学のグローバルキャリアデザインセンター若手研究人材養成のインタビュー記事があります。

www.hiroshima-u.ac.jp

修士課程に進んだ時には当然、理工系で研究者という選択肢も考えていました。ところが、1年を費やした研究成果がうまくいかず、研究テーマを変えることになったときに考えが変わりました。研究が上手くいかなかったことがとてもショックで、その時に「研究者を一生続けていくのは向いていないかもしれない」と思いました。そこで、好きな科学技術分野と自分が得意な短期集中型の仕事を探していく中で、新聞記者という職業に行きつきました。それから20年以上新聞記者を続けていますが、自分のキャリアに悩む時期もありました。

(中略)

博士号を取ろうと思ったのは、産学連携専門の記事を書き始めてしばらく経った頃でした。その当時、産学連携の記事を専門に書く記者は日本でほかにいなかったと思います。産学連携を大まかに説明すると、企業と大学が連携して商品やベンチャー企業を作り出していく事業のことですが、その過程で利益や特許などの問題が渦巻くので非常に難しい側面を持ち合わせています。いろいろと取材を進める中で「産学連携」でのみ生じる問題やコミュニケーションに興味を待ち始めました。そこでこの「産学連携」をテーマに研究してみたい、博士号を取りたいと思うようになりました。

(中略)

最近、盛んに「イノベーションを創出できる人材を求める」という企業の声を聞きますが、それはスペシャリストでかつゼネラリストの方だと思います。これからDに進む人が仕事やキャリアを考えるときに意識していただきたいのは、やりたいことを突き詰めていくだけでなく、「社会を取り巻く状況の変化によって必要とされる人材はどういう人か」、「そういう人になるためには何を磨けばいいか」ということです。それらを考えながら色々な経験をしていってください。

「スペシャリティのあるゼネラリスト」こそ、これからの社会を支える人材だろうと思います。もちろん個々の方のキャリアパスは多様ですし、一律には考えられないですが、良い例を共有していくことは大切です。研究者からデータサイエンティストに転身された尾崎隆さんなども、良い例に入るでしょう。

tjo.hatenablog.com

社会人の大学院進学は成人教育学の原則に照らすとオンライン教育が整合的であること、インストラクショナルデザインの活用がその鍵であることなど、このテーマは引き続き考えていきたいです。今現在、私自身が社会人院生として修士課程で学んでいますが、働きながら博士課程に進むことも視野に入れてみるのも、今後の人生を楽しむ上で選択肢に入れても良いのかなと最近感じます。