Clear Consideration(大学職員の教育分析)

大学職員が大学教育、高等教育政策について自身の視点で分析します

読売新聞社の"「大学の実力」検索・WEB版"から大学ポートレートのあるべき姿を展望する

high190です。
大学のリアルな実態を明らかにする調査として、すっかり定着した感のある読売新聞社の「大学の実力」ですが、これまで紙面でしか見られなかった各大学の状況をWEB上で確認できるサイトを構築されたようですので、本ブログでも取り上げたいと思います。


大学は大きく変わっています。親御さんや進路指導の先生がご存知の大学ではありません。最も大きく変わったのは、教育です。
2人に1人が進学する時代ですから、学ぶ意欲のない人も珍しくありません。そういう学生をぴかぴかに磨き上げ、社会に送り出すため、大学が教育の見直しに取り組み、情報公開を進めています。
そんな時代だからこそ、偏差値や知名度より教育の中身で!2008年から始まった読売新聞の「大学の実力」調査が、あなたの選択をサポートします。

公表されたので、早速使ってみたのですが、複数の大学を一覧表示で比較できるのは分かりやすくていいなと思いました。具体例として国立大学法人のうち、経済学部で大学を8つ(一橋大学、名古屋大学、大阪大学、東京大学、東北大学、横浜国立大学、神戸大学)選んで比較してみました。(検索して知ったのですが、京都大学は大学の実力調査には回答していないみたいですね。紙面でも確認してみたいと思いますが、検索しても出てきませんでした。それともエラー?)
ただ、表を横にスライドする形だとちょっと見ずらいので、アメリカのCollege Portraitsのように単一ページに数字が一覧で表示されるような形態の方が利用者側が使いやすいと思います。(College Portraitsの表示内容については、過去の記事で取り上げていますので、そちらをご参照下さい)*1

表示画面のユーザーインターフェースなど、改善の余地はまだあると思いますが、大学受験で志望校を考える際、数量的な比較を行えるという点で便利なサイトだと感じました。他のブログなどにおいても、大学選びに有効なサイトであるというような声もいくつかあるようです。NPO法人NEWVERY理事長の山本繁さんはいち早く賛同するブログ記事を書かれています。*2
このように「大学の実力」検索は、おおむね好意的に捉えられているようですが、私が一番最初に感じたのは「本来、この役割を担うものが大学ポートレートではなかったか?」という疑問です。大学ポートレートが整備されたことによって、同一のプラットフォームで大学情報を閲覧できるようになった点はメリットだと思いますが、機関毎の比較にこそ真価が発揮されますし、大学情報を公表する意味があるはずです。なお、大学間での比較ができないことのデメリットについては、筑波大学の金子元久先生が度々指摘してきたことです。本ブログでも過去記事で取り上げましたが、重要なご指摘だと思うので、平成25年10月2日に開催された中央教育審議会大学分科会組織運営部会の第4回議事録を抜粋して再掲したいと思います。


それから,作られようとするポートレートは非常にきれいで,様々な指標は入れられていって,その意味では,もう2年もかかって検討をして,お金もかけてやっているのだろうと思いますが,しかし,先ほどもお話がありましたが,大学によって,これにエントリーしないことは選べますし,それから今後も,別にエントリーしないことは任意です。私は,この任意はいいと思うのですが,しかし逆に最大の問題は,このポートレートでは複数の大学を比較することはできません。一つの大学を決めてしか,この大学について情報があるということを見ることしかできません。例えば私の行きたい大学は三つ,四つある場合,この大学の間を比較することは,このポートレートからはできないという設計になっています。諸外国の大学情報公開は二段構えになっていまして,一つは自由に検索できるデータベース,2段目はステークホルダー,高校生を中心として,大学を選ぶ際に比較ができる画面が出るような工夫がされています。
いずれにしても,日本の大学でポートレートと称しているものは,そういった基本的な情報公開の要件を満たしていません。私は,これは何回も大学ポートレート委員会に私,委員で入っていますが,主張しましたが,全くどうしてか分かりませんが,それは認められないと言われました。私は,この委員会の民主的な運営から見ても,これはおかしいと思いますし,日本の大学改革の全体の展望からいっても,なぜ先進国の間の中で日本だけがここでとどまるのかというのは分かりません。これについて何回も私は申し上げておりますけれども,著しく遺憾であると申し上げます。文部科学省の責任だけであるのかどうかは分かりませんが,とりあえずは文部科学省に説明していただきたいと思います。これは,むしろ日本の大学全体を交えた問題だと思います。
こういったところで,従来の秩序を壊したくないというプレッシャーが,私は端的に言って働いていると思いますが,こういったところを一つ一つ整理していかなければ,幾らここで議論していても余り意味がない。でも,この組織運営部会もそれで議論をやっているわけで,何も手が打たないというのを大変不満に,部会長も指摘されているところでありますが。しかし,私は,こういう基本的なところで,実際にやろうと言ったことも進まないようでは,きちんとした手を打っていないのは当たり前だと思います。これについては,私は何回も申し上げますけれども,非常に強く主張したいと思います。以上です。

大学ポートレートが構築された一番の理由は、大学教育の質保証のためです。しかし、実態として税金を投入して構築した大学ポートレートではなく、民間の新聞社が行っている調査の方が大学教育の質保証に資するということであれば、これほど大きな自己矛盾はないのではないでしょうか。ポートレートの構築に関しては国家予算も投入されている訳ですから、*3 質保証に繋がっているかどうかを政策的に検証していく必要があります。
また、これは私立大学に限った話ですが、今年からは私立大学等改革総合支援事業のタイプ1で「大学ポートレートに参加しているか」という設問が新規に追加されました。補助金獲得のために各大学は動くでしょうから、今後も大学ポートレートに情報を登録していくことが容易に想像できます。しかし、大学間比較ができないことで受験生や保護者に情報が伝わらないと仮定するならば、行政・大学・受験生の3者にとっても不幸なことです。この点を踏まえても、やはり大学ポートレートに大学間比較が可能となる機能を実装することこそ、あるべき姿に繋がるのではないかと私は思います。真に利用されるための公的データベースを目指して、大学ポートレートの進化に期待したいです。

【2015/09/14追記】
文部科学省が平成27年度に行った政策評価・独立行政法人評価のうち、中期目標管理法人評価にて私学事業団の業務実績評価が公表されていますが、その中に私学版大学ポートレートについての記述がありますので、こちらでもご紹介します。なお、私学版大学ポートレートの構築に係る費用も公表されており、事業団の助成業務の収益から3億4千2百万円を拠出したとあります。*4具体的な費用なども明らかになってきましたので、今後の大学ポートレートの充実化に関する議論を継続して望みたいですし、大学の質保証に繋がる仕組み作りを考えていかねばなりません。

<評定に至った理由>
大学ポートレートの構築にあたっては、私学版ポートレートを構築し、予定どおり平成26年10月に稼働させたこと、また、私立大学等への積極的な働きかけや学校法人へ配慮したプレリリース等の実施により、平成 26 年度末の学校参加率について、稼働前に行った学校法人に対する参加意向調査の結果(参加見込み率71.1%)を上回る約9割と高い参加率となったことは高く評価できる。また、広報活動等については、本ポートレートの利用者である高等学校を所管する都道府県にリーフレットを配布するなど適切に取り組んでいると言える。これらのことから、大学ポートレートへの参加学校数が、見込み数より増加したことについて、ポートレートの構築と広報活動による成果と考えられるものの、その因果関係は明確ではなく、所期の目標を上回る成果をあげているとは判断しがたいことから、中期目標に向かって順調に実績をあげていると言うにとどまるため、評定をBとする。
<指摘事項、業務運営上の課題及び改善方策>
特になし
<その他事項>
有識者からは「私学事業団におけるポートレート参加校の増加に向けての努力や取組は評価されるべきであるが、計画及び評価の視点は「ポートレートの構築」と「広報活動」であることから、これらの取組等が中期計画における所期の目標を上回る成果にどのように繋がるのかを明確にしたうえで評価をすること。」と意見があった。

*1:大学ポートレートに関わる私立大学の状況を整理する http://d.hatena.ne.jp/high190/20140408

*2:読売新聞、グッジョブ!!ついに、大学間の教育情報の比較が可能に(「大学・NPO経営」と「初めての子育て」) http://blog.livedoor.jp/kotolier/archives/51978489.html

*3:構築にかかる費用等を調べていますが、まだ情報を見つけられていないので、見つけ次第掲載します

*4:日本私立学校振興・共済事業団(助成業務)の平成26年度における業務の実績に関する評価(文部科学省)によると、「大学ポートレート(私学版)の構築にかかる開発費(3億4千2百万円)は、参加学校に費用負担をかけず、その全てを助成業務の収益でまかなった。」とあります。 http://www.mext.go.jp/component/b_menu/other/__icsFiles/afieldfile/2015/09/11/1361260_15.pdf