Clear Consideration(大学職員の教育分析)

大学職員が大学教育、高等教育政策について自身の視点で分析します

大学職員の目線から、経済同友会の大学に対する提言文を読む

high190です。
3月27日付で中央教育審議会から「実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関の在り方について(審議のまとめ)」が公表されましたが、*1その6日後に経済同友会から、大学教育に対する提言が公表されています。提言では、グローバル社会・経済の中で、日本の置かれた状況を踏まえ、求める人材像を示し、求める人材の育成に向けて、企業、大学がなすべきことを提案することが目的として掲げられています。この提言の中に「大学職員の資質能力向上」についての記述がありましたので、こちらを職員の目線から読み解いていきたいと思います。


(上記提言から関連部分を抜粋、強調部分は筆者による)

大学職員の資質能力向上

大学においてこれまで以上に高い資質能力の人材育成が求められるなかで、教員のみならず大学職員の資質能力の向上も不可欠である。大学職員は本来、学校運営に係る重要な役割を担うべきであるが、その役割を十分には発揮してこなかった。今後は職員に、本来果たすべき役割を発揮できるような場を与えるとともに、職員の資質能力の向上を図り、教員と協力して大学運営に関わっていくことが期待される。職員は各自の専門性を高めて、教員と分担して業務の効率化、高度化を目指す役割を負っている。
大学業務は、教学マネジメント、広報、学生募集、産学連携や研究支援、国際化、就職やインターンシップの支援、資産運用等、多岐にわたる。これらの業務を担う職員を専門職として位置づけ、本格的に活用すべきであるが、わが国では教員がこれら業務を兼務したり、専門職員がいても任期制や非常勤のため雇用が不安定で、ノウハウが蓄積されない構造になっている。
各大学が職員の専門性の重要度を認識したうえで、その専門性が十分に発揮できるよう、職員に対しても成果に応じた処遇を適用し、各職員の長期的なキャリアパスを考えた配置を行うことで、培ったノウハウが組織内で有効に活用できるようにすべきである。
さらに専門職員については、民間企業のノウハウ、経験が有効に生かされる部分が多いと考えられるため、外部人材を活用しやすい環境を整備していくことが望ましい。

設置形態によって人事制度が大きく異なるため、一概には言えませんが、指摘されているように職員に対しても成果に応じた処遇を適用していくことは、能力開発に対するモチベーションなどに与える影響なども考慮すると、各大学が制度化していくべきものだと思います。ただ、大学職員の専門職化についての議論は色々なところでなされていると思いますが、大学職員を広義の「ホワイトカラー」と定義した場合、能力開発指標を設けていくことが必要になってくると思います。
私個人がひとつのモデルとして捉えたいと思っているのが、厚生労働省所管の中央職業能力開発協会が実施する「ビジネス・キャリア検定」です。こちらは公的資格ですが、会員名簿には産業能率大学、東海学園大学、法政大学キャリアデザイン学会、学校法人立教学院立教大学などが名を連ねています。大学職員も広義のホワイトカラーであることは明らかだと思いますが、職業能力評価基準*2などの議論を踏まえつつ、実践的なSDに繋げていく必要があるはずです。


ビジネス・キャリア検定試験の目的
ビジネス・キャリア検定試験は、事務系職種の幅広い分野を対象とした職業能力検定のための試験を実施することによって、我が国の雇用の安定と産業の健全な発展に寄与することを目的としています。
事務系職種の労働者又は労働者になろうとする者の職業能力の評価を、全国統一的かつ適正に実施することを通じて、労働者がその能力にふさわしい職務に就くこと、その能力のさらなる向上に努めること及び労働者になろうとする者がその能力にふさわしい職業に就くことを支援します。また、企業等においては、試験の評価結果を活用することにより、労働者の適正な採用、配置及び処遇の適正化促進に役立てていただけます。

ビジネス・キャリア検定試験の特徴
ビジネス・キャリア検定試験は、技能系職種における技能検定に並び、国が定める職業能力評価基準に準じて、事務系職種の幅広い分野をカバーする、唯一の包括的な職業能力検定試験です。幅広い試験分野とそれに応じた等級を設けていますので、受験する人にとっては、より上位の等級を目指すことにより、職業能力向上の目標設定に役立つほか、人事異動などで担当業務が変わった際に、必要な知識を体系的に把握・理解することが可能になります。また、企業等においては、社員の職務能力を判断する基準として活用することもできます。

「ビジネス・キャリア」という名称
「ビジネス・キャリア」という名称は、中央職業能力開発協会のみが使用できるものです。したがって、ビジネス・キャリア制度、ビジネス・キャリア検定試験という名称も、当協会のみが使用できるものです。
ビジネス・キャリア検定試験は、職業能力開発促進法という法律に基づいて設立された当協会が、責任を持って実施する試験です。

職業能力という点で、ポテンシャルの高い職業の一例を考えると、私にはキャリア官僚がイメージとして浮かんできます。異動が多いこと、担当される仕事の幅も非常に広くかつ高いレベルの仕事が求められているのだろうと推察しますが、実際に働く人の仕事の質は総じて高いものだと思います。もちろん、官僚組織という点で捉えると色々と問題もあるのだとは思いますが、個々のプレイヤーとしての質を考えると優秀な人が多いのではないかと。(そう思いたい部分も多分にありますが)こういった点については、国立大学法人の幹部人事で本省から受け入れる異動官職などの例が参考になると思います。*3 *4今までは大学に正規職員として雇用された場合、大半の方がそのまま定年までお勤めだっただろうと思いますが、異動・出向・転籍などが多いキャリア官僚の働き方は参考にできる部分が多分にあるのではないかと感じています。

また、培ったノウハウを共有していくためには、「共通の言語」が必要になると思います。例えば教学マネジメントに関してでは、大学に関わる法令の理解や各種答申の時系列での論点整理、教学マネジメントに関わる知識に関する諸外国の制度に関するリサーチなどが挙げられます。あとは、個別の部署に留まらない形で仕事ができるような制度設計が必要ではないかと思います。部署横断型のワーキンググループや教職協働プロジェクトなどです。*5
なお、経済同友会の提言では「外部人材の活用」を進めるべきとの記述がありますが、そうなった場合に真っ先にイメージできるのが「国際交流系部署」での英語話者の人材を登用するなどの例です。確かに語学に関してはこれからのグローバル人材育成の必要性を鑑みても重要ですが、その反面、大学という教育機関で働く人材のコンピテンシーのような部分も是非考慮していただきたいと思います。その助けになる論文が以下です。大学での国際交流に長年携わってきた方が書かれている分、非常に重みがあります。


(上記提言から関連部分を抜粋、強調部分は筆者による)

むしろ「誰でもが国際交流担当者」という意識を持つことのほうが、「英語ができることくらいしか、取り柄のない」人を国際交流担当者として雇用し、雇用した側も雇用された側も期待外れに終わるリスクを背負うよりは賢明だと言える。「英語しか取り柄がない」人材が国際交流部門から異動しない前提で雇用された場合、そのような人材には、他部署と手を携えてあたらねばならないような業務を任せられないし、大学の全体を理解していないので、英語の翻訳業務すらも的確に内容を伝えることができないことも多く、国際交流部署内でも限られた業務しか任せられない人材となってしまう。
「国際交流部署でしか使えない人材」ではなく、「国際交流部署でも使える人材」を育成することが重要なのだ。

(中略)

大学のグローバル化を推進するためには、一部の教職員だけが、グローバル化された環境に適応すればいいということではない。大学の全ての教職員が、グローバル化された環境に適応できるようになっていないといけない。

経済同友会は大学に関する提言を定期的に出しています。例えば、2015年4月から学校教育法が改正されて、教授会の審議事項は従前と比較して限定的になりましたが、これは経済同友会が2012年に公表した提言が下敷きになっていると思われます。*6第8期の中央教育審議会大学分科会では、大学教育部会にて「学長補佐体制の強化」に関連して、職員の資質向上(スタッフ・ディベロップメント(SD))、高度専門職の設置等についての審議が行われる予定です。*7個人レベルでは、こういった政策提言を眺めながら、自らのキャリア開発にあたってどのような能力を獲得していくか、「自分のキャリアは自分で作る」という心構えを持つということも大切かも知れません。また、大学業界全体としては、提言内容を真摯に受け止めつつ、具体的にどのような点で改善が必要なのかを実業界とすり合わせていく、必要に応じて大学関係の業界団体を通じてもっと積極的に意見を発信していくことが求められているように思います。

*1:「実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関の在り方について(審議のまとめ)」の公表について http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/koutou/061/gaiyou/1356314.htm

*2:職業能力評価基準とは https://www.hyouka.javada.or.jp/user/outline.html

*3:異動官職について思う(大学職員の書き散らかしBLOG) http://kakichirashi.hatenadiary.jp/entry/2013/10/05/202113

*4:文部科学省出身の国立大学法人幹部に思う〜異動官職の是非〜(大学職員の書き散らかしBLOG) http://kakichirashi.hatenadiary.jp/entry/2014/09/03/222455

*5:上智大学の「教職協働・職員協働イノベーション研究」から今後のSDの方向性を探る http://d.hatena.ne.jp/high190/20141224

*6:経済同友会による私立大学のガバナンス強化を促す提言 http://d.hatena.ne.jp/high190/20120528

*7:大学教育部会(第34回)配付資料「第8期大学分科会の審議事項について」 http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/015/gijiroku/__icsFiles/afieldfile/2015/04/24/1357380_05.pdf