Clear Consideration(大学職員の教育分析)

大学職員が大学教育、高等教育政策について自身の視点で分析します

日本教育工学会 2024年秋季全国大会に参加しました。

high190です。

2024年9月7日(土)、9月8日(日)の2日間で東北学院大学で開催された標記学会に参加しました。当日は大学行政管理学会の定期総会・研究集会が日本福祉大学東海キャンパスで開催されていたため、大学職員で学びを深めようと思っている方々はそちらに行っていたかと思いますが、私は自分の研究領域に近い所属学会に参加しました。

当学会には2021年に入会し、同年の秋季全国大会でポスター発表したのですが、対面での参加は初です。2日間のプログラムの所感を書いていきたいと思います。

9月7日(土)

チュートリアルセッション1「日本教育工学会へようこそ!学会と全国大会の見どころを紹介します!」

対面参加初なので、最初のチュートリアルセッションから参加。
たまたま以前から知っている大阪大学の村上先生にお会いできて、初学会の緊張が解れました。大会の見どころを聞く。
会長からは「会員数は約3,700名。どの学会も学問細分化で人数が少なくなっているが、学際融合もあり会員数は純増の傾向。」とのコメント。

一般研究発表1

ポスター発表は以下のものを興味深く拝見、勇気を出して質問してみる。
麻布大の松井先生は、今年卒業した学部学生と一緒に発表。
愛媛大学職員の二宮さんは、防災eラーニング設計の発表。現在、どの大学でも防災教育は喫緊の課題だと思うので、取り組む意義は大きいです。現時点でもきちんと設計されていて、最終的な成果が楽しみだと思いました。

  • 小学校低学年を対象とした鳥類発生標本を用いた理科講座の実施および効果の検証(◎安部 遥香,松井 久実(麻布大学))
  • 1-L610-012 大学職員の安全確保と安否確認行動を促す防災eラーニングの設計(◎二宮 和真(愛媛大学/熊本大学),久保田 真一郎,川越 明日香,喜多 敏博(熊本大学))

一般研究発表2

ここは自分の興味関心に合致するものがそれほどなかったので回遊しながら色々見て聞いていました。
稲垣先生の発表には多くの聴衆が。初等中等教育での生成AI利用の関心度の高さを感じる。

  • 2-L604-014 生成AIを用いたPBLシミュレーターのログと評価の分析(○稲垣 忠(東北学院大学),佐藤 雄太(みんがく))

一般研究発表3

  • シラバスチェック、各大学で膨大な手間をかけていると思うので、そこに生成AIの助力を得るのはとても良い着眼点だなと思いました。こうした取り組みで各大学の負担軽減に繋げられると良いですね。
  • 3-L605-005 高等教育におけるシラバスチェックのための生成AIの活用(◎根岸 千悠(京都外国語大学),金 賢眞,田尾 俊輔,梶原 久梨子(大阪大学),大山 牧子(神戸大学),浦田 悠,村上 正行,佐藤 浩章(大阪大学))

一般研究発表4

業務遂行のためのコンピテンシー基盤型教育。面白かったです。修論頑張ってください!
北大の重田先生にも挨拶に行ってみたかったが、発表が人気でなかなかトライできず。次回への課題に持ち越し。

  • 4-L610-005 業務遂行のためのコンピテンシー基盤型教育に移行するための現状調査(○濱田 勇,久保田 真一郎,喜多 敏博,合田 美子(熊本大学大学院))
  • 4-L610-017 事前学習とグループワークを組み合わせたリベラルアーツ研修の開発と評価(○重田 勝介,杉浦 真由美,沙 華哲(北海道大学),佐々木 基弘(ドコモgacco))

ウェルカムレセプション

主に大学院時代にゼミ等でオンラインのみでお会いしていた方々と名刺交換。
本人の名刺よりもブログ名刺(猫の名刺)が威力を発揮する。

9月8日(日)

企画セッション【学習環境部会】

座席で受講者の関心別に初等中等教育、高等教育を分けて実施。事例報告を聞いてグループに分かれてディスカッション。
瀬戸SOLAN小学校の取り組みは初めて知ったのですが、小学校段階で探究学習をガッチリ実践していてすごいなと思いました。
また、高等教育の事例の対象大学での上田勇仁先生の取り組みも非常に興味深く聞かせていただきました。

  • 学習環境のデザインプロセスに関する探索
    • 状況の観察
    • 観察の分析
    • 分析に基づく実践デザイン
  • 空間、人工物、活動、共同体
  • 初等中等教育と高等教育の実践例を共有
  • 瀬戸SOLAN小学校の探究の取組
    • 探究学習→子ども自身がルーブリックを設定する
    • 個人探究の学習を中核に据えている。習得→活用→探究
    • 学習主導者が教師から徐々に子どもに移っていく
    • 個人探究のテーマは子ども自身が設定する
    • 学修支援は全教員、保護者、外部専門家の協力
    • iPadをベースに様々な学習コンテンツを用意、思考ツール、図書、ホワイトボード、子どもたちが手を取りやすい箇所に配置
    • 子どもの関心を広げるために高校生、大学生との交流機会を設計
    • 子どもたちの「知りたい」を伸ばす教育
    • クォーター制を導入、探究学習の成果は年度末に保護者も含めた報告会を実施
    • 学修成果はeポートフォリオに蓄積、探究人材バンクを用い、子どもと専門家を繋げる仕掛け
  • 大学初年次におけるプロジェクト型教育「抽象的概念化を促す記述指示が抽象的概念化に与える影響」
    • 学生の振り返りの促進を促す「記述指示」とはどのような経緯で生まれたのか?
    • 大正大学のサービスラーニングでの実践事例(初年次教育の選択科目)
    • あらかじめ学生に対して「単位認定基準は厳しい」と表明。当該授業によって「何ができるようになったか」を学生本人が語れるように、毎回の振り返り課題を書かせた
    • コルブの経験学習モデルと内省支援
      • 具体的経験:授業での経験
      • 内省的観察:内省課題の記述
      • 抽象的概念化:記述された抽象的な課題
      • 能動的実験:抽象的か課題を踏まえた実践
    • 解釈を促す記述指示、分析を促す記述指示。振り返り課題はルーブリック評価表。ルーブリック評価表は上田先生が添削して返却
  • ワークショップ
    • 自己紹介、お題(上田先生へのインタビューデータを読んで、「状況の観察」「観察の分析」「分析に基づく実践デザイン」に分類)を読んで、グループ内でディスカッション。
    • 隣のグループと意見交換。観察に対する分析、というよりも教員の経験によるひらめきが大きい。元々考えていないと閃かない。その背景となる知識、経験などが重要。

一般研究発表5(日英発表含む)

熊本大学技術職員で熊本大学教授システム学専攻で学ぶ片山さんの発表。ご自身の業務領域を研究課題に設定されていて、これもまた最終的な評価が楽しみな研究。ストーリーセンタードカリキュラム(SCC)でどんな教材を開発できるのか楽しみです。
次は以前から懇意にしている岩澤さんの発表を聞く。自動採点システムも教師の負担軽減に役立てられそう。あとは形成的評価を受けて改善すると、さらにより良いものになりそうです。
あと、今回のポスター発表で個人的に一番楽しみだったのが木村紀彦さんの実践共同体の発表。パターン・ランゲージで著名な井庭先生のところで博士後期課程にいらっしゃるとのこと。個人的な関心もあったので多くのことを質問してみる。実践共同体に埋め込まれたナレッジ生成のサイクル(SECIモデルのような循環構造)、長年続く実践共同体のナレッジマネジメント・ナレッジ生成のプロセスはある種学会のような構造を持っていることなど、気づきが多く得られました。

  • 5-L610-005 化学物質のリスク管理の自律性を高めるeラーニングコースのデザイン(◎片山 謙吾(熊本大学/熊本大学大学院),喜多 敏博,中野 裕司,合田 美子(熊本大学大学院))
  • 5-L609-007 生成AIを用いた自由記述の自動採点支援システムの試作と構築(○岩澤 孝徳,久保田 真一郎,喜多 敏博,マジュンダール リトジット(熊本大学大学院))
  • 5-L610-009 実践共同体における「実践」概念の意味構造(◎木村 紀彦,井庭 崇(慶應義塾大学))

チュートリアルセッション2「教育システム論文をどのように記述していくか」

チュートリアルセッションに参加。教育システム論文はJSETとしても課題とのこと。
この辺りは他の学会等の特徴をよく見た上で、どこに投稿するのが良いのか、各研究者は色々考えているんだなと思わされました。

  • どういう研究が「教育システム開発論文」への投稿に適しているか。
    • 関連する学会は多くある。そもそもJSETが投稿先として適しているのか?
    • 教育現場の課題、実践上の課題を解決するようなもの。また教育支援者への技術的支援など。
    • 技術的な部分の新奇性はそこまで厳格ではなく、教育への影響がどのようなものだったかを主張するとよい。
    • 例えばTAの支援に役立つシステム、保育士の業務支援システムなどが挙げられると思う。
    • システムの場合、使ってみての試行錯誤が重要
  • 「教育システム開発論文」を執筆する際に気をつけるべきことは何か。
    • 技術に対する認識が曖昧では通らない。使っているシステムの構成、組み合わせ方の的確な言語化は必要。評価の観点との適合は必要。システムの有用性の評価。
    • 教育のみならず開発物(システム全体の説明)が説得的であること。
    • 性能に関する評価(10分→1分に短縮など)
  • どのような「教育システム開発論文」の投稿を期待するか。
    • 固有課題をシステムで解決する実践面での新奇性
    • SIGなどで専門を同じくする研究者と連携すること、併せて他分野の研究者と連携して課題解決を図る研究
    • 新しい技術の適用可能性を開拓する研究

チュートリアルセッション3「査読を通っていく投稿論文はどのように記述されている論文か」

論文のお作法的な話題を聞く。これは教育工学分野に留まらず、一般的な研究での留意点という点でもとても面白かったです。

  • JSETの論文誌を読む
    • 傾向として投稿数は純増の傾向にある
    • 会員でない人が投稿しようとする場合は、まず書き方があるので、その点をまず把握する必要がある
    • 引用文献にJSETの学会誌が含まれていないのは先行研究レビューが足りない
  • 論文の基本のきを徹底する
    • 先行研究レビューがなされているか
    • RQは書かれているか
    • 自分の実践をアピールするだけになっていないか(理論的背景は何か)、論文は宣伝メディアではない
    • 研究は後の人が見て積み重ねていけるかにかかっている
  • 他の人に読んでもらう
    • 誤字脱字は意外とある。順番がずれている、図があるとされているが添付されていないなど。出す前に形成的評価を受けること。
    • 査読者もピアで読んでいるので、関係する協力者にコメントをもらうことは重要。院生なら指導教員コメントがあるとよい。
  • その他の大切なこと
    • 通ったら直せない
      • 早期公開は便利だが修正できないので注意
      • 取り下げになった場合、JSTAGEにもその履歴が残る
    • 著作権に気をつけること
      • 原稿はJSETでコピペルナーにかけている
      • オリジナル原稿をしっかり書くこと
      • 他者の図を引用する場合は、適切にJSETの著作権規程に適合している
      • 自己剽窃にも気をつけなければならない。例えば研究会の原稿をそのまま論文誌等に掲載するのはNG。同じ実践を土台にして書くとしても、具体的な表現とその後の実践・検討が加わっていること
    • 研究協力者や利益相反
      • 著作権、他者の人権等への配慮
      • 研究倫理審査
      • 教育実践に基づくデータを用いる場合、そのことの承諾等は適切に取る必要がある。
      • また、子どもが実践した内容を元に実践論文とするのもNGなので、その点にも留意してほしい。
      • 投稿手引きと投稿規定は今後改訂予定
      • 教育データ利活用については、ELSIの議論も踏まえる必要性

全体会

会長挨拶。会場校挨拶。表彰。40周年の学会の歴史を知る機会に。

シンポジウム テーマ「教育工学研究の発展に学会は何ができるか」

  • 取組の紹介
    • 科学教育研究(一般社団法人 日本科学教育学会の学会誌)
      • 科学教育研究という研究領域のアイデンティティ構築
      • 科学教育研究の次世代を担うコミュニティ構築(投稿資格を若手会員に限定した特集)
    • 教育システム情報学会
    • JSET:重点活動領域
      • 情報教育部会
      • 学習環境部会
      • 学習評価部会
      • 先端科学技術とELSI部会
      • JSETの研究精神を大事にしつつこれからの時代に貢献
        • 研究結果だけではなく、研究プロセスの共有が成長の鍵ではないか?
        • 多様な視点を持って創発させる場
    • JSET:SIG活動
      • 課題研究を発展させて”SIG”に
  • ディスカッション
    • 山内先生:山口先生への質問
      • アイデンティティの共同構築は「同じ目標を探求しており、活動の種類は違っても実践を共有している」ことの確認も重要ではないか。
      • 山口先生:ハンドブックのイントロ的チャプター
        • イントロを地図として自分や他者を位置付ける
      • 山内先生:学会の知の体系化としてユニーク
        • 今までにない新しい問いを立てるために、このマップはどう貢献できるのか。
      • 近藤先生
        • 研究者なら読めると思うが、新参の者は読めない。例えばそのための正統的周辺参加のデザイン、学会での新入会員へのガイダンス・ワークショップなどに活用可能と思う。
      • 山内先生:各領域に共通したマネジメント上の工夫は
        • メンバーの興味関心を活かし、個々の研究者のメリットも担保しながら、研究の深化が求められる組織的なミッションを遂行するマネジメント手法とは
      • 益川先生
        • 重点活動領域の成果は学会となるとともに、関わる個人研究者の成果ともなる
      • 山内先生
        • 小回りのきく領域に特化したコミュニティはよいが、そのコミュニティのみに留まらない交流機会をどう作るのか
      • 重田先生
        • SIG合同研究会の開催
      • 共通質問
        • 社会や実践現場における、学会の学術知の認知/活用/普及/深化等の促進
      • 研究者の成長の支援
        • 「研究の舞台裏の支援」もまた何か必要ではないか
        • 教育工学研究者を育成する機関が少ないという背景に、何らかのアプローチは必要だろう。
      • 他学会とのコラボレーション
        • Jsiseのマップは教育工学の全体像を可視化する一助のためのツールとして有益だが、更新が大変。
        • マップWGの議論でも、枠組みは作ってもどうメンテナンスするのかは課題。作成以後もマップを発展させていける人向けのアプローチが必要か。
          • 人的なマップもまた必要では。
  • 総括コメント
    • 近接学会との共同大会等の検討は必要
      • 歴史を知る
      • 日本教育学会のこれまで
        • 近接領域と積極的に越境できるようにコミュニティが形成されてきた
      • 教育工学研究と学会のこれからの役割
        • 教育工学分野のイントロダクション
        • JSET研究成果のサマライズ
        • 近接領域のコミュニティと積極的に交わる仕掛け(例えばJSETとJsise)

ということで2日間あっという間でしたが、自分自身が大学院で教育工学・インストラクショナル・デザインを学んだこともあって、どのプログラムも学習してきた内容との関連が多く、面白かったです。JSETの全国大会はまさに全国各地で開催されるので、なかなか毎回参加は難しいかもですが、また参加してみたいと思わせる内容でした。

株式会社立大学の大学設置を通じた組織の「正統的周辺参加」-デジタルハリウッド大学の事例

high190です。
最近はアフターコロナになって人と会う機会が増えたように感じます。よく知る人との再会を喜び、語り合う中で人間は社会的な動物なのだなと改めて感じているところです。

さて、久しぶりのブログ更新です。少し前ですがとても面白く読んだ論稿がありました。株式会社立大学のデジタルハリウッド大学の創立から関わった方が、振り返りを含めて書かれたものです。大学設置認可制度に関わる者として、非常に興味深く読むとともに、「大学」に勤める人にとって「社会」とのギャップを認識する上で有用なのではないかと思い、ブログに書いてみようと思います。

ここでは筆者の関心に沿って大学設置認可制度、認証評価等に関わる部分を中心に取り上げます。

3.1 株式会社のまま大学を設立
 杉山学長はもともと、デジタルハリウッド創設時に大学院大学を作ろうと考えていた。しかし当時は大学を設立するには法人格を学校法人にする必要があり、経営要件が厳しかったことから大学院大学は見送り、専門スクールからスタートすることになったのである。
 2002年に小泉政権により構造改革特区制度(以下特区制度)が創設された。特区制度とは、法律で規制されている要件について自治体ごとに緩和し、その緩和が地域を活性化させるものであれば全国に拡大されるというものである。杉山学長と当時の藤本社長はこの制度を利用し、デジタルハリウッド設立10年目の2004年2月に、株式会社のままデジタルハリウッド大学院大学を設立し、デジタルコンテンツ研究科を開設した。その翌年の2005年4月にはデジタルコミュニケーション学部を開設し、それを機に名称が「デジタルハリウッド大学」となった。特区制度を活用し、株式会社が大学を設立できるという緩和以外に、校地・校舎の自己所有の緩和や、校地面積の引き下げ、運動場や空地は代替措置とする緩和の適用を受けて開設した。

3.2 最初のカルチャーショック
 大学設置認可申請を通して、カルチャーショックとも言える経験にいくつか遭遇した。
 まずは説明の仕方についてである。プレゼンテーションしてなんぼであったベンチャー企業としては、Word の書式に文章だけで全てを表現しなければならないこと*1が、思いのほか難儀であった。
そもそもデジタルコミュニケーションの説明が難しい。また、大学という高等教育機関になることで、自分たちのやろうとしていることが、産業界だけではなく社会に対してどのように良い影響を与え得るのか、意志はあってもアカデミアに説明した経験はなく、言葉を編むのに苦労した。
 次に印象的だったのが、他大学の教員による審査である。大学の設置審査は、大学設置・学校法人審議会(以下大学設置審議会)という主に他大学の教員で構成された委員会で審査される。委員は日本の高等教育を守ってきた重鎮らで構成されており、批判的なやりとりが多く、我々のロジックとは明らかに正反対であるように思えた。*2
 今にして思うと、正しい知を発見し蓄積することが使命であるアカデミアが、その精度を上げるためにクリティカルな指摘をしてくる習性があるのは当然であったが、当時はなぜそこまで敵対視されるのかが全く分からず、ベンチャー企業の文化との間に大きな乖離を感じていた。
 一方で、我々がアカデミックな世界の考え方やお作法について無知である自覚はあったことから、数々の指摘も天の声と思って受け入れ、デジタルハリウッドの思想を逸脱しない限り対応した。郷に入っては郷に従えである。この姿勢は今でも変わっていない。ちなみにデジタルハリウッド大学というカタカナの名称も変更するよう助言があったが、そこは断固として譲らなかった。

3.3 社会と向き合うということ
 学部の設置審査は、大学院単体の審査より要件が多く、それらをクリアするのに苦労したが、書面審査、面接審査、実地調査を経て、2004年 11月に無事に認可されることとなった。認可の際は、その後の改善要求が留意事項として付される。デジタルハリウッド大学の留意事項は、大項目が 9つ、小項目で数えると22個も付されており、他の認可校と比べて一段と目立っていた。留意事項は文部科学省のホームページに公表され、解消されるまで毎年文部科学省の細かなチェックが入る。前途多難な出発であった。*3

(中略)

3.4.5 文部科学省
 大学を開設したことで、官公庁とのやりとりが多くなった。まずは文部科学省である。大学は設置認可された後、その設置計画の履行状況について、毎年、文部科学省による調査を受ける。調査方法は、分厚い設置計画履行状況報告書の提出と、授業見学や学内関係者との面接等を行う実地調査である。設置計画履行状況等調査委員会は、これまた他大学の教授等で組成され、調査の状況に応じて必要な指導や助言を行うとされている。本学も開学当初は学内の整備が発展途上であったため、指導や助言に従って必死に運営していた。しかしここでも大学組織等に関する考え方が噛み合わず、幾度も厳しいアドバイスをいただいた。時には事務局長の交代をアドバイスされたほど*4であった。
 この設置計画履行状況等調査(以下履行状況調査)は、通常は最初の入学者が卒業する 4年目まで実施される。しかし開学時に付された22個の留意事項は4年間では解消されず、その後も調査が続いた。全て解消されたのは、大学を開学してから7年が経過した2011年であった。そこでようやく完全なる大学の自治が始められることになったのである。留意事項がとうとうなくなったという知らせを聞いて一緒に喜んでくれた1期生もいた。
 ちなみに、文部科学省に認められ学位授与が可能な大学となったが、株式会社立であることから、大学に関する文部科学省からの助成金は適用されなかった。学内のリソースは、まずは何をおいても教育に集中させ、研究活動等については、企業連携などによる外部資金を獲得することで捻出していった。ここは株式会社立としての腕の見せどころであった。

4.3 真に認められた日
 大学の中身も着実に進化していった。大学発ベンチャー創出数は全大学で 10〜12位、私立大学で 2〜4位を恒常的にマークするようになった。開学して最初の 10年はとにかく教育に力を入れていたが、その後は研究活動も盛んになり、毎年メディアサイエンス研究所から研究紀要を発刊するようになった。産学官連携センターによる学発プロダクトの開発もコンスタントに行われている。中長期的視点においては、教職協働で描く未来構想として「DHU2025構想」が策定され、「DHU 2025 VISION BOOK」として広く社会に公表された。
 そんなデジタルハリウッド大学史上、最大級と言っても過言ではないと筆者が思う出来事は、大学基準協会の専門職大学院認証評価にて適合を受けたことである。
 認証評価とは、文部科学大臣の認証を受けた機関による第三者評価のことである。2004年度より学校教育法にて、国公私立全ての大学、短期大学、高等専門学校がその認証評価を受審することが義務付けられた。その頻度は 7年以内に 1回(専門職大学院は5年以内に1回)である。法改正の趣旨は、学校設置申請時の国による事前規制を弾力化しつつ、大学等の教育研究の質を保証するというものであり、複数の法的要件の緩和を受けて開学した本学としては、まさに対象のど真ん中にいる。デジタルハリウッド大学は 2017年度に、デジタルハリウッド大学大学院は 2017年度と2021年度に、大学基準協会の認証評価を受審した。
 これまでの大学設置認可申請や履行状況調査でのやりとりを振り返ると、株式会社立の我々の考え方が認証評価団体側に理解いただけるのか、一抹の不安があった。そもそも専門職大学院とは、理論と実務を架橋した教育を行うことを基本とした比較的新しい制度であり、その在り方についてはどの専門職大学院も試行錯誤しているところである。案の定、実地調査で教職員との面接が行われた時は、デジタルコミュニケーションにおける理論とは何なのか、その理論と実務の架橋とは何なのか、デジタルハリウッドの大学としての存在意義は何なのか等について、強くて深い議論が繰り返された。この認証評価においても、委員は主に他大学の教員で構成される。ピアレビューを目的としていることから敵対的姿勢でないことは分かっていたが、真実を追求するアカデミック流の強い議論となることもあった。
 結果的には、どの年度においても無事に「適合」をいただけた。加えて、2021年度の認証評価結果においては、総評の締めくくりにこのような記述をいただいた。「当該専攻は、常に最先端の取組みを通じてデジタルコンテンツを活用した高度情報化社会におけるデジタルコミュニケーションのあり方を提唱していくことに取り組んでおり、その意義は今後の社会にとって重要であるといえる。」。大学設置認可申請時からずっと噛み合わなかったアカデミック界と完全に歩み寄れた瞬間であり、歴代スタッフの苦労が報われた瞬間でもあった。*5

以上、少し長くなりましたが、ご紹介です。私個人としては、著者の方が認証評価受審時のコメントで高く評価されたことを受けて、「アカデミック界と完全に歩み寄れた瞬間」と書かれているのが印象的でした。これは組織レベルでの「正統的周辺参加」ではないかと思います。

www.cultibase.jp

www.jstage.jst.go.jp


正統的周辺参加(LPP:Legitimate peripheral participation)とは、「社会的な実践共同体への参加の度合いを増すこと」が学習であると捉える考え方*6のことです。

学校教育法では、大学を設置できるのは国、地方公共団体、学校法人のみに限定していました。構造改革特区制度を活用して参入が可能となった株式会社立大学ですが、2023年度現在では4校のみに留まっています。*7
著者が語る「アカデミック界」へ大学参入を通じて洗礼を受け、履行状況調査で苦労し、その後も運営等を試行錯誤しながら「アカデミック界という社会的な実践共同体」への参加の度合いを如何にして増してきたかが、このテキストで雄弁に語られていると思います。例えば設置認可申請時の「プレゼンテーションしてなんぼであったベンチャー企業としては、Wordの書式に文章だけで全てを表現しなければならないことが、思いのほか難儀」という部分は、読んでいてなるほどと思いました。大学職員として働く自分にとって所与のものとして捉えていることが、外から見ると違うと。

レイヴ・ウェンガーの「状況に埋め込まれた学習」に書かれているように、「学習とそれが生起する社会状況との関係」という点で、デジタル・ハリウッドという組織が社会状況としての文部科学省・大学基準協会等の質保証システムと接触することによって、大学組織として「アカデミック界」に「正統的周辺参加」することで、組織学習してきた成果が現れているように感じました。大学設置から16年の長きに亘り、試行錯誤してきた組織変革の取り組みからは「アカデミック界」も学ぶべき点は多いように感じます。

*1:「設置の趣旨等を記載した書類」のことを指していると思われます。

*2:ここに書かれているように、日本の大学設置認可制度は「ピアレビュー」、アカデミアの同僚たる他大学教員による審査を受けます。この点は大学固有のものであり、理解に苦しまれたことはよく分かります。

*3:開設時の留意事項は社会的に注目度も高く、また株式会社立大学の参入当初でしたので、内部の方は様々な苦労があったものと推察します。

*4:こうした行政指導は設置業務に関わった大学職員ならばよく分かると思います。

*5:開設が2005年なので、16年の経過を経て大学としてアカデミアから高く評価を受けたことに対する関係者の感慨は深かっただろうと思います。

*6:https://www.gsis.kumamoto-u.ac.jp/opencourses/pf/3Block/09/09-1_text.html

*7:株式会社立大学 - Wikipedia

「新たな時代を見据えた質保証システムの改善・充実について(審議まとめ)(素案)」から見る論点

high190です。ご無沙汰しています。
約1年振りに記事を書きます。中央教育審議会大学分科会質保証システム部会で議論されている表題の件、審議まとめの素案が公表されました。

www.mext.go.jp

このことについて他の大学職員猫ブロガーが早速記事を書かれていたので、触発されて書くことにしました。

www.daigaku23.com

現行制度の問題点や改善の方向性が示されています。以下はざっと読んだ感想です。

「既存制度の周知や大学現場での効果的な運用」は良い方向性

大学設置認可でも「何故認可申請をするのか」「認可と届出の違いは何か」をトップマネジメント層が理解していない状況に遭遇することは多いです。こういった点を改善することは重要だと思います。個人的には学長向けの研修*1 *2を行うなら、こうしたテーマに取り組むべきだと考えています。
文科省も「相談しやすくなる体制の充実」を挙げているので、開示する情報の充実(大学設置室HPは見やすいとは言えない)、設置認可のチャットボット開発などを検討してもらいたいです。

「遠隔教育の普及・進展」をチャンスと捉える

4ページに以下の言及があります(赤字強調箇所は筆者による)。この辺りが次の高等教育政策の政策目標に掲げられてくる可能性がありますね。

遠隔教育の取組はまだ試行錯誤をしながら改善を図っていく段階にある。学修者本位の観点から遠隔教育の取組を充実させていくためには、安全で快適な通信環境の整備や技術的な支援体制の構築も重要となる。また各大学のディプロマ・ポリシーを達成するための教育方法としてカリキュラム・ポリシーに遠隔教育が適切に位置づけられ、面接授業と遠隔授業の双方の良さを生かした教育が提供されることが求められる。このことを踏まえれば、今後、大学における先進的・先導的な取組が積極的に行われ、その実践の検証や評価を通じて、遠隔教育がどのような授業に適しているのか、面接授業との効果的な組み合わせ方はどのようなものか、遠隔教育を効果的に行う上でどのような指導体制の整備、サポートスタッフの配置が必要となるのかなどについて、知見を蓄積していくことが求められているといえよう。

「3つのポリシー」は実質化しているのか。

7〜8ページに以下の記述があります。3つのポリシーを中心とした教学マネジメントの重要性は「教学マネジメント指針」にまとめられています。

教学マネジメントが適切に行われており、学生が入学時から実際に3つのポリシーに沿ったカリキュラムで学ぶことができるように設計されていることが必要である。その際、学内に3つのポリシーに基づいた教育が行われていることを確認するための自己点検・評価の仕組みが学位プログラム単位で整備されており、学生や社会の声を反映しつつ不断の見直しが行われていることが重要である。

「ポリシーが策定されたことでカリキュラムは変わったのか?」という問いは重要だと思います。シラバスレベルでの科目間の整合性、それによってカリキュラムが成り立つこと、これまでの大学教育でそのことを意識するのは設置認可時のみ*3という鈴木克明先生の指摘は興味深いと思いました。
www.ihe.tohoku.ac.jp

インストラクショナル・デザイン(ID)を活用した大学教育の抜本的な「革新」を指向する試み

質保証システムの改善と並行して、コロナ禍を起点としたオンライン教育の充実化を図っていくことが必要です。そのために取りうる方法としてどのようなものがあるのか。こうした部分での先行研究に当たっておくことが重要です。

IDの理論家として数多い業績を残しているチャーリー・ライゲルースは、最新書(Reigeluth et al,2017)のID研究テーマとして学習者中心パラダイムへの変革を取り上げた.工業社会向けの選抜機能中心に設計されている学校を情報社会向けの誰もが自分の才能を開花させることができる機関へと再設計することが必要であり,そのためにIDの資産を役立てることができると述べている.
学習者中心パラダイムの教育機関は,学習時間に基づく進行ではなく達成基準型であり,学問体系中心ではなく課題解決中心であり,全員が同じことを同じ方法で学ぶのではなく学習者個々のニーズに応じて課題・目標・方法がカスタマイズ可能であるとする.また,教員の役割は情報の提供者からゴール設定・進捗・評価の支援者に代わり,学習者の役割もより活動的で自己主導的で互いに教えあう役割をも引き受けるようになる.テクノロジーの果たす役割はますます重要になり,学習記録・計画立案・学習指示・学習評価などを担うようになるとしている.
教授・学習過程の革新は,時代の変化に対応するだけでなく,新しい時代を切り開く次世代を養成する高等教育機関に求められている使命である.小手先の「改善」にとどまらない大学教育の抜本的な「革新」を指向する試みにIDの知見が活かされることを期待して,本稿の結びとしたい.

鈴木克明先生は日本におけるインストラクショナル・デザイン(ID)研究の第一人者ですが、実際に熊本大学大学院教授システム学専攻の取り組みは革新的なものが多いです。例えば「ストーリー中心型カリキュラム」の導入はまさにその典型例と言えます。詳細は以下の書籍と東北大学でのセミナー動画から確認できます。コロナ禍後にはNIIの「大学等におけるオンライン教育とデジタル変革に関するサイバーシンポジウム」でも発表されています。

www.ihe.tohoku.ac.jp

edx.nii.ac.jp

edx.nii.ac.jp

質保証システムの改善・充実の素案を読んで、改善の方向に向かっていることは分かりつつ、現状の延長線上に過ぎないのも事実です。大学教育の革新を担える大学が日本にもっと増えて、その手段の一つとしてIDがもっと活用される方向に向かえばいいと思っています。

*1:東京大学大学経営・政策コース http://ump.p.u-tokyo.ac.jp/news/2021-3.html

*2:大学基準協会 https://www.juaa.or.jp/president_seminar/

*3:教育課程等の概要、授業科目の概要、シラバス、教員名簿〔教員の氏名等〕など、申請者による整合性チェック。認可申請書に対しての大学設置・学校法人審議会でのピア・レビューのサイクル。

大学に関する「質問主意書」と「答弁書」をまとめてみた。

high190です。
普段大学に関するニュースや各省庁の通知などで高等教育の政策動向把握していますが、それ以外に注目しているのが「質問主意書」と「答弁書」です。

www.sangiin.go.jp

国会議員は、国会開会中、議長を経由して内閣に対し文書で質問することができます。この文書を「質問主意書」と言います。質問しようとする議員は、質問内容を分かりやすくまとめた質問主意書を作り、議長に提出して承認を得る必要があります(国会法第74条)。
議長の承認を受けた質問主意書は、内閣に転送され、内閣は質問主意書を受け取った日から7日以内に答弁しなければなりません。7日以内に答弁できない場合は、その理由と答弁できる期限が議長に通知されます(国会法第75条)。
内閣からの答弁は、原則として文書をもってなされ、これを「答弁書」と言います。答弁書は、各府省等で案文を作成し、内閣法制局の審査を経て閣議決定された後、議長に提出されます。

議員が本会議や委員会で質疑を行う場合、その内容は議題による制約を受けます。また、原則として所属する会派の議員数に比例して質疑時間が決まるため、少数会派の議員や会派に属しない議員にとっては必ずしも十分な質疑時間が確保できない場合があります。これに対し質問主意書は、議院の品位を傷つけるような質問主意書や単に資料を求める質問主意書は認められないなど、一定の制約はありますが、国政全般について内閣の見解を求めることができます。また、議員一人でも提出することができるので、所属会派の議員数等による制約もありません。

以上に書かれているように「答弁書は、各府省等で案文を作成し、内閣法制局の審査を経て閣議決定された後、議長に提出」され、「内閣の見解」として公表されます。日本は議院内閣制で、両院制*1なので衆議院と参議院の両方で質問主意書・答弁書が作成されます。実は衆議院と参議院では答弁書の作成過程が違います。この点を明らかにした田中信一郎さんの論文は面白いです。

国会議員から出た大学に関する質問主意書・答弁書には、どのようなものがあるのか調べました。何故大学に関するものを調べるのかというと、答弁書は閣議での決定を経て内閣の見解となる途上で、内閣法制局の審査を経るので、田中信一郎さんによれば「答弁書が政治見解でなく行政見解としての性格を有する。」ためです。大学も法の下にある組織なので、法令解釈の上でも確認しておくことが必要だと思い、国会会期中に確認しています。私が調べ始めたのが2013年ごろからなので、以下に紹介するものは2013年以後のものが中心です。今後も随時追加していきたいと思います。

衆議院

参議院

*1:両院制(りょういんせい)とは、二つの「議院」によって構成される議会が、それぞれ独立して活動する制度である。二院制(にいんせい)とも言う。対照的な制度に一院制がある。 http://ow.ly/vmZu30rLWeJ

大学職員インタビュー@high190編

high190です。
人事系大学職員の玉山さん、とある大学職員さんが大学職員インタビューをやっていたので、私もやってみます。
note.com
note.com
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埼玉大学の「若手職員アンケート」が元ネタのようです。読み物として面白いので是非。

1.前職について
Q.前職はありますか?また、前職がある場合は前職の業種、職種を教えてください。
前職も私立学校で職員をしていました。企画、学生支援、学長室、教務などを経験しています。


Q.前職での経験で最も役立っていることは何ですか?
設置認可申請に関わったこと。特に設置認可を担当した後、教務で新設組織の運営実務を経験したのは現在も役立っています。


Q.学生時代の経験で最も役立っていることは何ですか?
通っていた大学で学生スタッフをやっていました。職員として大学を考えるきっかけがもらえたと思います。


2.現在の仕事について
Q.現在の担当業務はどれにあてはまりますか?
例示は「総務系」「財務系」「研究支援系」「教務・学生支援系」「国際系」「その他(図書系、出向中)」ですが、この括りでは総務系に該当します。


Q.教員・学生との距離感はどの程度ですか?
私の場合、私立学校の法人事務局所属なので、教員・学生との接点は薄く、法人役員・部門役職者とのやり取りが多いです。しかし設置認可案件だと教員とのやり取りが多く発生します。


Q.①仕事の自由度、与えられている裁量はどの程度だと思いますか?②また、自らが主導的な役割を果たして物事を進めた経験はありますか?
現在「監督職」なので、一定の裁量はありますが原則は管理職の指示に従って業務を進めます。プロジェクト業務、業務改善などで主導的な役割を担ったことがあります。


Q.仕事上英語を使う機会はありますか?
ありません。残念ながら英語が不得意なのですが、1週間ほど海外研修(調査訪問)に参加したことがあるので英語コミュニケーションの必要性は痛感しています。


Q.働くうえで、今後 伸ばしたい・身に付けたいと思う知識やスキル等があれば教えてください。
世代的にも中堅なので、今後は「コンセプチュアル・スキル」をより強化する必要があると感じています。
www.acpa.jp


Q.大学職員を志望した理由、また現在の大学のどのような点に魅力を感じ志望されたか教えてください。
教育に関わる仕事がしたかったことと、職員として教育を支える裏方としての仕事に魅力を感じました。現在の職場に感じた魅力は、母校でもあるので、建学の精神に対する共感によるところが大きいです。


Q.現在、働いていて満足している具体的な内容を選択してください
優秀な上司の下で働いているので、自己の成長に繋がる環境であることは満足度が高いです。


3.先輩職員の声
Q.大学職員として実際に働いてみて、働く前に想像していたこととの違いやギャップを感じた経験はありますか。また、それはどのようなことですか。
私は2つの私立学校を職場として経験していますが、組織的硬直性、官僚制、集団凝集性などは入職後にギャップとして感じました。ただし、これは私立学校という狭い集団内なので、国立大学法人などでは異なるのかもしれません。


Q.現在の大学で働き始めてから、これまでで最も印象に残っている又は最もやりがいのあった仕事について教えてください。
これも設置認可案件ですね。大変ですがやりがいのある仕事です。


Q.働く中で、目標としていることや、日頃から心がけていることがあれば教えてください。
職員には組織の中長期的な安定性と堅実性を担保するため、日々の業務を遺漏なく行うとともに、業務を改善し、組織を前に進めることが役割として求められています。よって前例は重視しつつも、常に改善の視点を持つことを心がけています。


Q.現在の大学で働くことを通じて、「自分のここが成長した」と思う点や、身に付いた知識・スキル等があれば教えてください。
現在の職場に来てからは、前職よりも規模が大きかったこと、所属部署が組織全体を俯瞰的に見る役割であるため、全体を見る視点と知識が身についたと思います。


Q.事務職員の仕事のうち、「この部署の仕事は面白い」「あの部署の仕事が面白そうだ」という仕事があれば、 理由も含めて教えてください。
財務部門の仕事は面白いと思います。一見地味かもしれませんが、私立学校は中長期的な計画に基づく健全な財務体質、戦略計画に基づく経営が必要であり、その根幹を支えるのが財務だからです。もっというと教学と経営と統合した戦略部門で働いてみたいです(総合企画部のイメージ)。


Q.自身はどのようなタイプの人だと思いますか?
面倒くさがり。だからこそ非効率な業務は改善すべきだと思います。


4.受験生へのメッセージ
Q.どのような後輩と一緒に働きたいと思いますか?
よく調べる人。改善提案を持ってきてくれる若手の人には、現状の業務の背景、従前のやり方の俯瞰的観点からの改善方策を聞いています。その上で論理的妥当性があるものは積極的に改善してもらっています。そのためにも「調べる」ことは重要なコンピテンシーです。「大学職員の書き散らかしBLOG」で紹介されていたIMRADフレームワークは私も使っています。
kakichirashi.hatenadiary.jp


Q.最後に受験生へのアドバイスやメッセージがありましたらお願いします。
どんな仕事もそうだと思いますが、一定の領域に到達するまでには学習が必要です。特に大学は社会的に厳しい視点で見られていますし、設置形態を問わず税金が投入されるため、説明責任を強く求められます。財政制度等審議会、経済財政諮問会議、総合科学技術・イノベーション会議などでは厳しい論調も多いです。

また少子高齢化による学生獲得競争の激化、現在では感染症対応など業務革新が必要であり、(私はそう思っていませんが)斜陽産業だと言われています。こうした難局を突破する人材が来てくれたら嬉しいですし、そういう人材に選択される大学業界であって欲しいと願っています。

国公私立大学のガバナンス・コード一覧を作成しました。

high190です。

2020年はコロナ禍で大学教育も翻弄された一年だったですね。オンライン教育、感染症対策、社会にとっての大学の価値など、色々なものが問われていると思います。そのことにも関連しますが、設置形態別にガバナンス・コードの策定が進んでいます。

設置形態別のガバナンス・コード

諸外国のガバナンス・コード

現時点で公表されている大学の一覧をリスト化しました。今後も順次更新します。この記事の公表時点(2020/12/30)では、国立大学法人で公表の事例はまだありません。そもそも国立大学ガバナンス・コードが公表されたのが2020年3月30日ですから、今年度内に策定されて順次公表されると思います。
※更新情報 私立大学を日本私立大学協会準拠、日本私立大学連盟準拠、大学監査協会準拠に分類。早稲田大学を追加(2022/02/04)

国立大学

公立大学

私立大学

私立短期大学

私立大学は、日本私立大学協会と日本私立大学連盟がそれぞれにコードを公表しています。その比較をしたブログ記事がありますので、ご紹介しておきます。
www.daigaku23.com

また、2021年度からガバナンス・コードの遵守状況調査を行う大学が出てきています。公表している大学をまとめているブログを御紹介します。
www.daigaku23.com


さて、ここで別の視点で考えてみます。大学のガバナンスは何のためにあるのでしょうか。

色々なステークホルダーがいますが、究極的には大学で教育を今受けている人、今後受ける人にとって適切な教育研究体制を取る。そのために適切な管理運営を行う。教育研究と質保証の両輪を適切に実行するための統治機構がガバナンスだと思います。もちろん設置形態、大学の規模・学部等の分野によってあるべき姿は異なると思います。

ガバナンス・コードに一定の役割があるとすれば、各大学が自律的に自分たちのガバナンスを整えるための仕組みとして機能するか否かでしょう。今の大学には認証評価、内部質保証など評価基準がたくさんあります。どのように大学運営を設計していくのか、中長期計画なども含めて、自分たちのあり様を自分たちの手で描く。そのためのガバナンス・コードであって欲しいと思います。

【参考情報】

上記URLのサマリーを抜粋

高等教育機関に対する自律性と信頼性のバランスから、高等教育ガバナンスは 「21世紀の重要な政策」 となると考えられる(ケネディ2003)。ここでは、2つの主要なトレンドに焦点を当てました。

  1. グッド・ガバナンス・ガイドラインの策定
  2. 品質認定と監査におけるガバナンスの問題の包含

前者は、高等教育システムの管理ミスや変革プロセスの際の非強制的な対応として起草されることが多いが、後者は、教育機関内での改善と 「質の高い文化」 の創造に重点を置いている。レビューされたガイドラインの特定されたキーポイントを簡単に紹介した後、品質保証とグッド・ガバナンス・ガイドラインによる制度ガバナンスのアプローチの違いを評価する。グッド・ガバナンス・ガイドラインは高等教育ガバナンスの唯一の解決策ではないかもしれないが、相互に合意した説明責任の仕組みを自発的に取り入れた場合に、機関や個人が最も効果的に機能することに留意すべきであると論じられている。

博士号取得者のキャリアパスは大学教員のみではない

high190です。
今ブックマークを集めている記事があります。
www.ki1tos.com

拝読して「うーむなるほど。学部卒からストレートで大学院に進学して博士号を取得してからキャリアを積んで大学教員になるというキャリアパスだけではなく、学卒または修士卒で企業等に勤める人が博士号を取得して活躍している実例があまり知られていないのかもしれない。」と感じました。
私の狭い観測範囲ではありますが、企業に勤めながら博士号を取得して、学位を活用して活躍されている方として取り上げたい人がいます。日刊工業新聞社の科学技術部論説委員兼編集委員の山本佳世子さんです。

newswitch.jp

山本さんは学部卒業後、修士号を取得して日刊工業新聞社で記者として活動されてきました。国立大学法人化後の産学連携担当をきっかけに東京農工大学で博士号を取得され、現在では恐らく日本で最も読み応えのある産学連携関係の記事を書かれています。Googleアラートで私が興味を惹かれる記事のテーマの多くが山本さんで、記事の質は高く大学職員の情報源として有用なソースです。
山本さんは博士号取得を実務にどのように活かしてきたのでしょうか。そのヒントとして広島大学のグローバルキャリアデザインセンター若手研究人材養成のインタビュー記事があります。

www.hiroshima-u.ac.jp

修士課程に進んだ時には当然、理工系で研究者という選択肢も考えていました。ところが、1年を費やした研究成果がうまくいかず、研究テーマを変えることになったときに考えが変わりました。研究が上手くいかなかったことがとてもショックで、その時に「研究者を一生続けていくのは向いていないかもしれない」と思いました。そこで、好きな科学技術分野と自分が得意な短期集中型の仕事を探していく中で、新聞記者という職業に行きつきました。それから20年以上新聞記者を続けていますが、自分のキャリアに悩む時期もありました。

(中略)

博士号を取ろうと思ったのは、産学連携専門の記事を書き始めてしばらく経った頃でした。その当時、産学連携の記事を専門に書く記者は日本でほかにいなかったと思います。産学連携を大まかに説明すると、企業と大学が連携して商品やベンチャー企業を作り出していく事業のことですが、その過程で利益や特許などの問題が渦巻くので非常に難しい側面を持ち合わせています。いろいろと取材を進める中で「産学連携」でのみ生じる問題やコミュニケーションに興味を待ち始めました。そこでこの「産学連携」をテーマに研究してみたい、博士号を取りたいと思うようになりました。

(中略)

最近、盛んに「イノベーションを創出できる人材を求める」という企業の声を聞きますが、それはスペシャリストでかつゼネラリストの方だと思います。これからDに進む人が仕事やキャリアを考えるときに意識していただきたいのは、やりたいことを突き詰めていくだけでなく、「社会を取り巻く状況の変化によって必要とされる人材はどういう人か」、「そういう人になるためには何を磨けばいいか」ということです。それらを考えながら色々な経験をしていってください。

「スペシャリティのあるゼネラリスト」こそ、これからの社会を支える人材だろうと思います。もちろん個々の方のキャリアパスは多様ですし、一律には考えられないですが、良い例を共有していくことは大切です。研究者からデータサイエンティストに転身された尾崎隆さんなども、良い例に入るでしょう。

tjo.hatenablog.com

社会人の大学院進学は成人教育学の原則に照らすとオンライン教育が整合的であること、インストラクショナルデザインの活用がその鍵であることなど、このテーマは引き続き考えていきたいです。今現在、私自身が社会人院生として修士課程で学んでいますが、働きながら博士課程に進むことも視野に入れてみるのも、今後の人生を楽しむ上で選択肢に入れても良いのかなと最近感じます。