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2025.10.20

鋼鉄を超える夢の木材「スーパーウッド」

スーパーウッドの商業生産が本格スタート

メリーランド大学の梁兵教授が設立したInventWood社が、2024年、スーパーウッドの商業生産を開始した。米国の建設現場で試験導入が進められ、家具や外装材としての実用例が次々と報告されている。この動きは、持続可能な建材への世界的なシフトを象徴する一大ニュースのように受け止められている。

つまり、スーパーウッドは、信じられないほど頑丈でありながら環境にも優しい理想的な未来の建築材料と一部で称賛されている。天然の木材から作られながら、その強度は鋼鉄をも上回る。その革命的なポテンシャルに注目が集まる一方で、誇大広告の先にある実用化への課題やデメリットから目を背けることはできない。

「スーパーウッド」とは何か

スーパーウッドとは、メリーランド大学の梁兵(Liangbing Hu)教授率いる研究チームが2018年に開発した超高強度化木材である。現在は、同氏が設立したスタートアップ企業InventWood社によって商業化が進められている。

その製造プロセスは、大きく2つのステップで構成される。まず、木材を水酸化ナトリウムと亜硫酸ナトリウムの混合水溶液で処理し、強度にあまり寄与しないリグニンやヘミセルロースといった成分を部分的に除去する。次に、その木材を熱しながらプレス(熱圧)することで、細胞壁を崩壊させて木材を高密度化し、主成分であるセルロースナノファイバーをきれいに整列させる。この処理により、天然の木材と比較して強度、靭性(粘り強さ)、耐久性が飛躍的に向上した新しい構造材料が生まれる。

スーパーウッドが「夢の素材」と呼ばれる理由

スーパーウッドは、その卓越した性能から次世代の建材として大きな期待が寄せられている。ここでは、その主なメリットを5つ挙げる。

鋼鉄を凌駕する強度と軽さである。引張強度は鋼鉄よりも最大で50%高く、比強度(強度対重量比)では鋼鉄の約10倍に達する。また、鋼鉄の6分の1という軽さを実現しており、より少ない材料で、より軽く、より強い構造物を作ることが可能である。

優れた耐久性と耐性も特徴である。耐火性においては、最も燃えにくいクラスAの等級を取得する。さらに、ポリマーを含浸させることで、水分、腐食、シロアリなどの害虫に対する高い耐性を発揮する。ある実験では、天然木材を貫通した弾丸状の投射物を、スーパーウッドは途中で食い止めるという結果を示している。

環境負荷の低減も顕著である。製造過程における二酸化炭素排出量は鋼鉄と比較して90%低い。再生可能な資源である木材を原料としており、建物に使用されることで長期間にわたって炭素を貯蔵する「炭素貯蔵庫」としての役割を果たし、持続可能な社会の実現に貢献する。

多様な木材から製造可能である。高強度化プロセスは、特定の樹種に限定されない。松やバルサといった成長が速く環境負荷の少ない針葉樹(ソフトウッド)を含む、さまざまな種類の木材に適用可能である。さらに、竹のような木材以外の植物からも製造できることが確認されており、原料の柔軟性が高い。

高級感のある美しい外観も魅力である。高密度に圧縮するプロセスにより、木材の色味が凝縮され、追加の塗装や染色を施すことなく、クルミ材やイペ材といった高級な熱帯広葉樹のような、豊かで深みのある美しい外観が生まれる。デザイン性を損なうことなく、高い性能を発揮できる点も利点である。

見過ごせない現実的なデメリット

輝かしいメリットの一方で、スーパーウッドが主流の建材となるためには、乗り越えるべき現実的な課題が存在する。

まず、コストの壁。鋼鉄との価格競争である。開発企業の目標は鋼鉄との価格競争力を持つことである。しかし、多くの用途における当面の障壁は、競合相手となる「従来の木材」と比較して高価であるという点はデメリットとなる。市場に普及させるためには、単に鋼鉄と価格競争力があるだけでなく、既存の材料から切り替えるインセンティブとなるほどに安くなる必要がある。

資源効率と環境負荷のトレードオフも懸念される。環境面での懸念も指摘されている。鋼鉄よりはるかに環境負荷が低い一方で、現在の製造プロセスは「従来の木材」と比較すると炭素コストが高い。また、製造過程で木材の厚さが元の約5分の1にまで圧縮されるため、同じ寸法の最終製品を作るためには、より多くの原木が必要になるという資源効率の問題が懸念されている。これが広く普及した場合、木材の過剰利用を招き、結果として森林伐採を助長する可能性も否定できない。

実用化へのハードルとしては、長期的な信頼性と市場の慣性である。建築材料には、50年以上の長期にわたる強度の維持が求められる。スーパーウッドのコア技術が発表されたのは2018年であり、現実の環境下での長期的な耐久性を証明するにはまだ時間が必要である。また、初期製品が必ずしも超高強度を必要としない外装材に焦点を当てている点に、懐疑的な見方も示されている。さらに、InventWood社にとって生産規模の拡大は当面の大きな課題であり、建設業界はリスクを嫌い、新しい材料の採用に慎重であるという「市場の慣性」も大きな障壁である。

設計上の懸念も残る構造材としてのサイズである。公開されている写真をもとに、一部からは同等の強度を持つ鋼鉄製の梁と比較して、スーパーウッド製の梁は「かなり大きく見える」という指摘もある。これが事実であれば、建築設計における空間の使い方やデザインに影響を与える可能性がある。

 

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