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2025.10.16

スペインから始まるNATO崩壊?

スペイン関税に関するトランプ発言

2025年10月15日、ホワイトハウスでドナルド・トランプ米大統領は、スペイン政府に対する貿易制裁を警告した。トランプは、「スペインはNATOに対する不敬を働いた。彼らは唯一、GDP比5%の防衛費目標を引き上げなかった。私はスペインに満足していない」と強い調子で述べたのである。この発言は、NATO加盟国に対する防衛負担分担の強化を求めるトランプ政権の姿勢を象徴する。

今回のトランプの発言の背景には、スペインの防衛費が現在GDP比1.3%にとどまっている事実がある。スペイン政府は、2025年末までに従来のNATO目標である2%を達成する方針を表明しているものの、新たに設定された5%目標には応じていない。スペイン外相ホセ・マヌエル・アルバレスは、「我々はGDP比2.1%を現実的な水準と位置づけ、NATO任務に3,000人の兵士を派遣している。信頼できる同盟国である」と反論した。

トランプ政権は、スペイン側からのこの拒否姿勢に対し、貿易罰則として関税の導入を検討している。具体的には、スペインの主要輸出品であるワイン、オリーブオイル、自動車部品が標的となる可能性が高い。トランプはさらに、「スペインだけが遅れている。他の国々はすでに動いている」と付け加え、スペインを名指しで孤立させる戦略を露わにした。この発言は、単なる批判にとどまらず、経済的圧力を伴う外交の転換点を示している。

このスペイン問題の重要性

この問題は、NATOの防衛負担分担をめぐる米欧間の緊張が、軍事同盟の枠を超えて貿易戦争に発展する可能性も示唆するが、注視されるのはNATOの動向である。米国は長年、欧州同盟国が自らの防衛力に過度に依存していると指摘してきた。2022年のロシアによるウクライナ侵攻以降、この不満は頂点に達し、トランプ政権はNATOの防衛費目標を従来の2%から5%へ引き上げるよう要求していた。

今回のスペインからの拒否は、NATO内部の結束を直接脅かすことになる。関係者の立場を整理すると、米国はNATO加盟国に5%目標の即時達成を要求し、関税を外交レバレッジとして活用するものだが、スペインは2.1%を現実的と擁護し、財政制約とNATO任務への兵士派遣を強調する。NATOは現下、ロシア脅威下での結束維持を優先しつつ、内部対立の拡大を懸念している。対して、EU(欧州連合)は米国の関税が大西洋横断貿易を混乱させる可能性を警戒し、当面はスペインの保護を表明している。

この対立がもたらしうる経済的影響は深刻である。スペインの対米輸出額は年間約300億ユーロに上り、関税導入により同国GDPの0.5%相当の損失が生じる見込みである。さらに、EU全体の貿易摩擦が拡大すれば、2026年の世界経済成長率を0.2ポイント押し下げるリスクがある。欧州委員会はすでに、「集団的な貿易防衛措置」を検討中である。

この問題は本質的に安全保障と経済の連動を象徴するものである。トランプ政権の「アメリカ・ファースト」政策は、対外的には防衛費未達国を経済的に罰する前例を確立しようとしている。これにより、NATOは単なる軍事同盟から、経済的相互依存を前提とした枠組みへ変容を迫られる。スペインのケースは、この変革の試金石となるだろう。

問題はスペインだけではない

トランプ発言が引き起こした今回の問題は、一見スペインに特化されたように見えるが、これはNATO全体の構造的課題の一部である点に要点がある。トランプ政権の5%目標は、27加盟国すべてに適用されるものであり、スペインと同様の抵抗を示す国は少なくない。主要国の防衛費状況を比較すると、スペインの1.3%は最低水準であり、イタリアは1.5%、カナダとベルギーはそれぞれ1.3%と1.2%、ドイツは2.1%、英国は2.5%、ポーランドは4.1%である。このように、スペインを含む8カ国が2%を下回っており、5%目標への到達はさらに困難である。

トランプから「次なる標的」と名指しされているのがイタリアで、現状GDP比1.5%である。カナダとベルギーも低水準を維持しており、トランプ政権の圧力に晒されている。一方、ポーランドの4.1%は例外的に高く、トランプのお気に入りとなっている。

こうしたトランプの恐喝手法は過去にも見られるものだ。2018年、彼はドイツのメルケル首相を「NATOの寄生虫」と公然批判し、カナダのトルドー首相に対しても関税をちらつかせた。今回は、スペインを「見せしめ」に据えることで、他国への波及効果を狙っている。フランスのマクロン大統領は、「貿易を安全保障に利用する愚策」と非難し、EU内での反トランプ連合を呼びかけた。トルドー首相は沈黙を守っているが、カナダ国内では対抗関税の議論が活発化している。

実際のところ、スペインの抵抗は、NATOの8割を占める「低負担国」の代弁者である。財政難、国内福祉優先、反米感情が共通の要因であり、トランプの関税戦略が全加盟国に及べば、NATOは複数国同時の経済制裁に直面することになる。

4.NATOはどうなるか

2026年のNATOサミットは、この問題の帰趨を決める分水嶺となる。スペインをめぐる対立が拡大すれば、NATOの結束は深刻な試練を迎える。3つのシナリオを提示した。

スペインの屈服。スペイン政府がトランプの圧力に折れ、5%目標への移行を約束する。Sánchez首相は財政再編を迫られ、国内の進歩派支持を失う可能性が高い。他国も追従し、NATOの目標達成率が急上昇する。ただし、トランプの「関税外交」が常態化し、同盟の信頼性が損なわれる。

関税戦争の勃発。トランプがスペインへの関税を正式に発動する。EUは即時報復措置として、米国の農産物・航空機に同等関税を課す。貿易戦争はイタリア、カナダへ波及し、NATOサミットは紛糾。ロシアのプーチン大統領はこれを好機とみなし、東欧での軍事演習を強化する。

NATOの分裂。低負担国8カ国が「欧州防衛イニシアチブ」を結成し、米国主導のNATOから距離を置く。トランプはこれを「除名」の口実にし、NATOを「有志連合」へ再編。東欧諸国(ポーランドなど)は米国側につくが、西欧はEU独自の防衛枠組みを加速させる。

これらのシナリオは、すべて防衛と貿易の不可分な連動を前提とする。NATO事務総長マーク・ルッテは、「結束の維持が最優先」と中立を保つが、内部対立の兆候は明らかである。EUの保護表明により、米欧間の貿易交渉は複雑化を極め、2026年サミット前の首脳会談が鍵を握る。

スペインの財政制約と同盟忠誠の狭間は、NATO全体のジレンマを映し出す。トランプの関税脅威が前例となれば、同盟の枠組みは根本から再定義を迫られる。ロシアの脅威が続く中、NATOの未来は不透明である。

さて、私はここで日米間の安全保障を連想するのであるが、いかがであろうか。

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