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2025.10.24

トランプ訪日と日本の試練:防衛費5%の衝撃

トランプ訪日間近、火種は防衛費大幅増額

2025年10月27~29日、ドナルド・トランプ米大統領の訪日が目前に迫っている。28日に予定される高市早苗首相との首脳会談は、就任直後の高市政権にとって初の大規模な外交舞台となる。議題は日米同盟の強化、北朝鮮による日本人拉致問題、そして日本の防衛費負担の増額である。

特に、トランプ政権が求める防衛費のGDP比5%への引き上げが最大の焦点となろう。米国防総省はこれを「中国・北朝鮮の脅威に対抗するグローバルスタンダード」と位置づけ、圧力を強めている。日本の現行防衛費は2025年度で約9.9兆円(GDP比1.8%)、2027年までに2%(約11兆円)を目指す計画だが、5%(約30兆円)となれば財政と政治に深刻な影響を及ぼす。この訪日は日本の安全保障と政治の行方を左右する転換点となりうる。

なぜ5%なのか:トランプの狙いと背景

トランプが日本に5%を求める背景は、2025年6月のNATOハーグサミットにある。同サミットで、トランプは加盟国に2035年までにGDP比5%(中核軍事費3.5%、インフラ・サイバー投資1.5%)の防衛費を合意させ、「グローバルスタンダード」と宣言した。

米国防総省のパーネル報道官は「アジアの同盟国も欧州並みに追いつくべき」と公言し、日本への非公式打診は当初3%から3.5%、最近では5%への移行を匂わせている。英フィナンシャル・タイムズ(6月20日)や日本経済新聞(6月20日)は「訪日でトランプが5%を要求する可能性」を指摘し、米ABCニュース(10月22日関連報道)も「高市を試す厳しい交渉」と報じる。

なにしろ、トランプの1期目(2017~2021年)ですでに在日米軍経費の増額を求め、2020年に数百億円規模の追加負担を日本に約束させた実績がある。この要求は「アメリカ・ファースト」を体現し、中国抑止と米兵器輸出の利益を狙うものだが、トランプの安全保障理解は表面的で、同盟の信頼や経済への影響を十分考慮していないとの批判も多い。

5%は受け入れ不可能、トランプも高市の面子を考慮

5%要求が公になれば、日本の政治は大混乱に陥る。現行の2%(11兆円)でも、法人税やたばこ税の増税で国民の不満は強く、「生活が苦しいのに防衛費か」「社会保障を削る気か」と怒りが噴出することは目に見えている。

5%(30兆円)は社会保障費(約40兆円)の8割近くに相当し、消費税15%相当の増税や国債増発が必要となる。野党は「米国言いなり」と攻撃を強め、与党内でも麻生派と保守派の対立が深まり、高市政権の支持率(現在40%台前半)は30%割れの危機に瀕する可能性がある。

とはいえ、トランプも中国の手前、高市に公開で恥をかかせる5%公言は避けるだろう。中国は台湾海峡や南シナ海で「日米の綻び」を狙い、人民日報(5月31日)は「米国の同盟は弱体化」と煽っている。トランプは2期目で「中国に強い大統領」をアピールする必要があり、日米同盟の「団結」を演出する動機が強い。ルビオ国務長官も「日本は中国抑止の要」(ロイター1月21日)と強調し、高市を追い込むより同盟のショーを優先する可能性が高い。

3.5%+1.5%の兵器購入で妥協か

現実的な落とし所として、GDP比3.5%(約21兆円)の防衛費に1.5%(約9兆円)の米製兵器購入を加え、5%相当を裏で補う取引が考えられる。これはトランプの「ディール好き」な性格に合い、2019年の韓国交渉(在韓米軍経費2倍+兵器購入で決着)のパターンを踏襲する。

高市首相は総裁選時の「3.5%も視野」(朝日新聞10月21日)の発言を活かし、「日本の自主努力」と演出できる。トランプは「俺の圧力で日本が動いた」とまいどのごとくSNSで自慢し、米兵器産業(F-35戦闘機、トマホークミサイル、サイバー装備)が潤う。

フィナンシャル・タイムズ(6月20日)は「日本が米兵器購入増で5%回避を模索」と報じたが、茂木敏充外相の「金額より中身」(読売新聞10月21日)発言もこのシナリオを裏付ける。共同声明では「日米同盟の段階的強化(3.5%+協力)」と曖昧に記載し、高市は「国民生活を守った」と国内向けにアピールするだろう。この裏取引なら、トランプの5%公言は封じられ、中国への「日米団結」メッセージも保たれる。ただし、国民への説明責任と財源負担の課題は依然として大きい。

日本の政治が耐えられない財政危機

3.5%+1.5%(計30兆円)の負担は、日本経済と政治に深刻な打撃を与える。現行の2%(11兆円)でも、2025年度予算(9.9兆円、1.8%)の財源論争は過熱し、法人税増などで国民の不満が爆発している。3.5%なら追加11兆円、5%相当なら20兆円超が必要で、所得税倍増や消費税15%相当の増税、国債増発が避けられない。国債頼みは将来世代の負担を増やし、債券市場は3.5%を警戒して円安リスクを高めている。30兆円は社会保障費の8割近くに相当し、医療や年金のカットは高齢者層の反発を招き、支持率急落は必至である。

米兵器購入は国内防衛産業を冷遇し、トランプの関税圧力で貿易交渉の余力も奪われる。日本経済新聞(10月22日)は「3.5%でも財政破綻リスク、5%なら経済崩壊」と警告する。拉致問題の進展など目に見える成果がなければ、国民の納得は得られないだろう。

高市政権はどう乗り越えるか

にもかかわらず、高市政権は、この危機に対応できる唯一の存在であろう。保守派の信念と「強い日本」のビジョンを持つ高市は、トランプの圧力を「同盟強化のチャンス」と捉え、2%の前倒し達成(朝日新聞10月21日)や安保3文書の改定指示で自主性をアピールしている。

しかし、3.5%+1.5%の裏取引を受け入れても、国民の反発と財政破綻リスクは避けられない。危機回避には、茂木外相によるルビオやヘグセス国防長官との事前根回し、「同盟強化と生活両立」アピール、さらには拉致問題でトランプに花を持たせる「高市勝利」といった演出が不可欠となる。麻生太郎副総裁のトランプ人脈を活用した水面下交渉も有効だが、現状は動きが鈍い。外務省は通常協議に終始し、トランプのSNSでの気まぐれが飛び出せば日本の政治崩壊は免れない。高市の外交手腕と国民への説明力が試されるが、負担増による「つらい時期」は不可避と見るべきだろう。

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