MUTO(ムートー)とは、ゴジラシリーズに登場する架空の怪獣である。
2014年公開のハリウッド映画「GODZILLA ゴジラ」に登場し、ゴジラと壮絶な戦いを繰り広げる。
MUTOとは「Massive Unidentified Terrestrial Organism」(未確認巨大陸生生命体)の頭字語(アクロニム)であり、特定の怪獣をさすものではなく、いわば「図鑑に載っていない巨大な生物」を一括りにした呼称である。そのため同作の世界観ではゴジラも広義のMUTOであるといえる。しかし劇中ではもっぱらゴジラと敵対する2体の怪獣に対して用いられていた。よって本稿でもそれに準ずることとする。
古代ペルム紀と呼ばれる太古の時代、地表の空間放射線量は現代にくらべ非常に高く、それをエネルギー源とする生物たちによる生態系が築かれていた。MUTOもまた放射線をエサとする巨大生物の一種であり、生きた原子炉であるゴジラに卵を産みつける寄生生物でもあった。今日の地球でいうところの狩人バチ(寄生バチ)のような繁殖法であると考えられる。
狩人バチはクモやゴキブリなど比較的大型の獲物を麻酔で捕らえ(狩人バチも複数存在し、捕獲する獲物の種類も決まっている)、掘っておいた穴に通常1個の卵とともに埋める。獲物は麻痺しているだけで死んではいないので腐敗することもない。やがて卵から孵化した幼虫は、親が置いていってくれた獲物を食べて育っていく。そして全て食い尽くしたとき、蛹から変態し成虫となるのである。
フィリピンの鉱山ではゴジラの骨格とともに2個の卵が眠っており、芹沢博士はフォード大尉に「こいつら(MUTO)に殺された」と語っている。このことからMUTOによるゴジラへの寄生はクモバエのようなこっそりとしたものではなく、狩人バチ同様、そのライフサイクルの過程で獲物の命を奪う排他的なものであると推測できる。
ゴジラからすれば種族レベルで憎むべき敵であり、地球の裏側までも追いかけて殺しにくるほど。
外観は、巨大な昆虫といった風貌で、全身が外骨格のような強固な表皮に覆われ、とくに脚部に節足動物の特徴がみられる。しかし顎は上下に開閉し(節足動物の顎は前肢が変化したものであるため左右に可動する)、牙が生え揃い、口腔からは滴るほどに大量の唾液を分泌し、舌も確認できる。ゴジラによって首をもがれた際、胴体側の頚部から脊椎のような器官が一瞬だけ覗いていることから、もしかしたら脊椎動物かもしれない。怪獣好きならギャオスとレギオンとクローバーフィールドの怪獣を足して3で割ってガイガンっぽい目をつけた感じといえばわかりやすいか。
オスとメスとでは大きさがまるで異なり、劇中で確認された個体はオスが身長200フィート(61m)、メスが身長300フィート(91m)となっている。オスは飛翔能力を持つがメスには翅がない。これはデュビアというゴキブリの仲間と同様である。ちなみにデュビアは本編において、フォードとジョーの親子が隔離区域となった雀路羅(ジャンジラ)市の家へ侵入するシーンで、太いヤスデとともにさりげなく登場している。どちらも日本には生息していない。
外見に性差が顕著に現れることからMUTOは性的二型といえる。既存の動物ならカブトムシの成虫やインドクジャクなどが該当しよう。
性質はきわめて凶暴で、軍からの攻撃を受けても意に介さないゴジラとは対照的に、人間に対しても容赦なく排除行動をとる。
核燃料を口から摂取するほか、少なくとも蛹の状態では全身から放射線を吸収することができるようだ。MUTOが元凶であるとはいえ、雀路羅市の原発から漏洩する放射線は全てMUTOに吸われており、そのために町は汚染を免れていたともいえる。すなわち、MUTOは核物質から四方へ放射される放射線を自身へ向け屈曲させることができるのである。どのようなメカニズムがそれを実現しうるのか現代の科学では実証不能であり、芹沢博士らがMUTOの蛹を殺さずにいたのは核汚染を防ぐためでもあったろうが、貴重な研究対象として見ていたことも否定できない。
卵生であり、核弾頭輸送中にフォードらがメスと遭遇したときには腹に無数の卵を抱えていた。しかもすでに受精しているらしく内部に未熟ながらも親に似た姿の幼生が透けて見える。いつどこでオスと交尾したのかは不明である。
飛び道具こそ持たないが、オス、メスともに強力な電磁パルス(EMP)を発生させることができ、周囲の電子機器はもちろん、電気系統にいたるまで使用不能にしてしまう。これにより都市は停電に見舞われ、コンピューターの塊である戦闘機も軍艦もただの金属と化してしまった。電子機器に依存している現代の人類からすれば最悪の敵である。
なぜ古代の生物であるMUTOがEMPを利用できるかは説明されていないが、ノベライズ版ではこれによりゴジラの熱線を不発に追い込んでいる描写がある。
巨体と前腕の爪を用いた肉弾戦を得意とし、小柄なオスでも体重9万トンのゴジラを飛びながら引きずるという怪力をみせている。巨大なメスはさらにパワフルで、ゴジラを体当たりで転倒させている。
とはいえ1対1ではゴジラの足元にもおよばない。メスですらゴジラに圧倒され、ケンカキックからのストンプで固定されてそのまま熱線でケリをつけられそうになった。しかし、飛翔能力を有するオスと地上戦で攻めるメスの連携はゴジラを翻弄し、ほとんどリンチにちかい様相さえみせ、一時は優勢に立ったのである。
MUTOの発信する音波の波形は見る人が見ればヘドラの頭部のようにも映る。MUTOの鳴き声はこの波形をもとに作成されたとメイキングで語られている。ちなみに監督のギャレス・エドワーズ氏はヘドラの大ファンだそうだ。
劇中での登場時間はゴジラよりも長い。ほぼ出ずっぱりである。
まずフィリピンの鉱山にて、ゴジラの化石とともにMUTOの巨大な卵が2個発見される。1個は無傷だったがもう一方は孵化した後だった。それはMUTOの幼生で、海を渡って日本・雀路羅市の原発を破壊し原子炉に寄生、それから蛹となって15年もの間、放射線を吸収し続けていた。ゴジラをはじめとした巨大生物を研究する極秘特務研究機関MONARCHは原発事故を地震によるものと偽り、周囲一帯を隔離して蛹と真相の隠蔽を図った。
成長しきったMUTOは羽化し、施設を破壊、翼をひろげて飛び去る。エネルギー補給のためロシアのアクラ型原子力潜水艦を捕らえ、ハワイ・ホノルルでその燃料棒を貪り食うが、ここにゴジラが出現。不利とわかっていたのかMUTOは飛翔して逃走する。なお、ノベライズ版ではこの時にゴジラの熱線を浴びるもやはり退却に成功している。
米軍が総力を挙げて捜索にあたっていた頃、米ネヴァダ州ユッカマウンテン放射性廃棄物処分場に保管されていた、無傷だったもう1個の卵から、より巨大なメスのMUTOが孵り、ラスヴェガスを蹂躙する。ことここに至ってMUTOの雌雄が揃っていることから繁殖の可能性が示唆される。ルートからゴジラと2体のMUTOはアメリカ西海岸に集結しようとしているとの予測が出され、米大統領は核攻撃による一網打尽を命令。放射線に誘引される怪獣たちの習性を利用し、沖合いに核弾頭を設置して3体を一度に蒸発させようと企図する。
だが、鉄道で輸送していた核弾頭2発のうち1発はメスが強奪し、もう1発は軍が回収したもののサンフランシスコ沖で今度はオスが奪う。ようやく邂逅した雌雄はイチャイチャしながらチャイナタウンで営巣、水爆の放射線を卵の栄養源にして幼体育成を行う。
核弾頭はMUTOのEMPを考慮して電子機器を廃し、ダイヤルと歯車のアナログなタイマーを採用しているため、遠隔操作で起爆を中止させることはできない。つまり人口10万が残るサンフランシスコで水爆が炸裂する危険性が発生してしまう。
爆発物処理班であるフォードがタイマーを解除するべく、EMPによる停電で漆黒の闇に包まれたダウンタウンへ部隊とともに空挺降下。そこはゴジラとMUTOが死闘を繰り広げる魔境と化していた。巣を守るMUTO2体がゴジラを追い詰める。その隙に巣へと接近したフォード達は、核ミサイルをフジツボのようにびっしりと覆いつくす無数の卵に戦慄しながらも弾頭を引き抜き、起爆装置の解除を試みるが、衝撃で外殻が歪んでしまっておりモジュールに触れる事ができない。やむなく弾頭を運び、ボートに乗せて沖で爆発させ被害を抑えるプランBへ切り替える。
しかし、ミサイルに産みつけられた卵たちはまだ生きている。卵がすでに核弾頭からじゅうぶんなエネルギーを吸収し終わっていたとしたら? フォードは近くで横転していたタンクローリーのガソリンに火災の炎を引火させ、大爆発で卵を残らず焼き尽くす。
いままさにゴジラの息の根を止める寸前だったメスはこれにひどくうろたえ、我を失い、戦闘を放り出して巣に急行する。駆けつけたメスがそこで見たのは、焼けただれ、炭化した卵たちの変わり果てた姿だった。せめてひとつでも無事なものはないか……悲痛な声をあげ必死に探すメスが音に気づく。彼女の赤く輝く目が捉えたのはひとりの人間……フォードだった。本能でこの人間の仕業であると見抜いたメスに、復活したゴジラが立ちはだかる。怪獣王の奥の手、放射能火炎の直撃にさしものMUTOも倒れる。
とどめを刺そうとしたゴジラにまたしてもオスが妨害に入る。空からヒットアンドアウェイを繰り返すオスはゴジラの怒りを買った。ついにはゴジラの長大な尻尾の一撃で高層ビルとサンドイッチされ、オスは息絶える。
息を吹き返したメスは、核弾頭が持ち去られた事を覚ったのか部隊を追跡。抵抗する兵士らを血祭りにあげ、フォードが弾頭の積まれたボートを沖に誘導しようとするのをEMPでエンジンを停止させて阻止し、憎悪のこもった咆哮を浴びせかける。
しかし、背後に迫っていたゴジラによってむりやり顎をこじあけられ、口内へ放射能火炎を叩き込まれ、首が焼ききれて断頭されるという壮絶な最期を迎えた。
こうして、ゴジラに格闘戦と尻尾、噛みつき、そして熱線という、持てる武器全てを使わせ、全米をひっかきまわし、アメリカの大都市でゴジラとプロレスをやってのけた怪獣MUTOは見事倒されたのだった。
2019年5月31日公開の続編「キングオブモンスターズ」では、別個体と思われるメスのMUTOが登場。偽りの王ギドラの出現に呼応し、破壊活動を行う姿が描写された。そしてギドラに加勢するため、他の怪獣とともにサンフランシスコを目指した。しかしそのギドラがゴジラに倒されたため、ゴジラを王と認めてひざまずいた。寄生対象に頭を下げて良いのか。
対するゴジラは、ひざまずくMUTOに手出しをせず勝ち鬨と言わんばかりに咆哮を上げた。憎むべき敵であっても、無抵抗の怪獣には手を出さない王の器が窺える。
前述したとおり、本作の世界観での怪獣はすべて未確認巨大陸生生命体(MUTO)と総称されている。そのため、世界観を一にする2017年の映画『キングコング:髑髏島の巨神』に登場するコングやその他の怪獣たちもMUTOであり、実際に劇中でMONARCH所属の科学者によりそう呼ばれている。
ちなみに、MUTOのなかで固有の名前が設定されていないのは、いまのところ本稿で記述した『GODZILLA ゴジラ』の敵怪獣だけである。
詳細は、個別記事「Shinomura」を参照。
本作の前日譚にあたる「ゴジラ:アウェイクニング<覚醒>」では、別種のMUTOがゴジラと戦っている。芹沢博士の父親によってShinomura(シノムラ)と命名された。日本語の「死の群れ」が由来であり、篠村さんとかは関係ない。
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最終更新:2025/01/26(日) 03:00
最終更新:2025/01/26(日) 03:00
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