手形とは、以下のことを表す。
本記事では、2.について解説する。
手形(draft、bill)とは、銀行に当座預金口座を開設している人が発行する有価証券のことで、記載された期日以降において手形を銀行へ持参した人に対し金銭を支払うよう銀行へ委託するものである。
電子記録債権(電子債権)の普及に従い、手形の利用は減少傾向にある。また2026年をめどに民間における手形の利用を廃止させる方針を経済産業省が固めたと報じられている(2021年2月18日記事)。とはいえ、2021年の時点で、まだ手形は使われている。
毎月一定の給料を得ている賃金労働者にとっては意外に感じるが、多くの企業は毎月一定の売り上げを稼いでいるのではなく、売り上げに波がある。ある季節にドーンと売り上げて大儲けし、そのほかの季節ではあまり売り上げが伸びず暇でしょうがない、というタイプの企業が多い。つまり、繁忙期と閑散期がはっきり分かれる企業が世の中に多い、ということである。
そういう企業にとって、手形は重宝する。繁忙期の後に支払期限を設けた手形を使えば、手持ちの現金を超えた大きめの出費が可能になる。
手形というのは、発行されてから現金に換金できるようになるまで、時間的猶予がある。その猶予期間に、手形の所有者が支払い手段として第3者に譲り渡すことがある。これを手形の譲渡という。一番最初に手形を発行した人物に対して信用があれば、人から人へと次々と譲渡されていくことになる。発行者に対する信用が高く次々と譲渡される手形は、まるで通貨のように見える。
日本で流通する手形は2種類あり、約束手形と為替手形である。大部分が約束手形であり、為替手形はごくわずかにしか流通していない。為替手形については本記事の終盤で項目を設けて解説する。
ちなみに、約束手形(やくそくてがた)の略称は約手(やくて)で、為替手形(かわせてがた)の略称は為手(ためて)である。
手形を発行することを、「手形を振り出す」「手形を切る」と表現する。
手形に必要事項を記入して手渡す人、つまり手形を発行する人を振出人、振り出し人といい、振出人の住所を振出地という。
手形に書かれた金額の支払いを行う人を支払人、支払い人という。
小切手の支払人は「振出人の預金を送金する銀行」という意味だが、手形の支払人は「銀行預金を減らすことを約束する債務者」という意味である。
日本で流通する手形のほとんどを占める約束手形の場合、振出人と支払人が同一の存在である。日本でごくわずかに流通する為替手形の場合、振出人と支払人が別々の存在である。
手形所有者の銀行口座に向けて、手形に書かれた金額だけ、支払人の当座預金口座のお金を送金する銀行のことを支払場所といい、支払場所の住所を支払地という。ただ、支払場所のことを支払銀行と分かりやすく表現する人が多い。
一番最初に手形を受け取る人を受取人、受け取り人という。最終的に手形を所持して換金のため銀行を訪れる人を持参人という。
手形を所持する人を所持人という。手形は、譲渡されて所持人が次々と変わっていくことがある。
小切手と手形は、どちらも貸借対照表(バランスシート)において、振り出した者の負債として扱われるが、性質が異なっている。
小切手は、振り出した直後に銀行に持ち込まれて現金化されても、文句を言うことができない。
手形は、振り出してから一定期間をおいた後に限り、銀行に持ち込んで現金に換金することができる。振り出し人にとっては、お金を工面する猶予がある。
小切手と手形は振り出し人(発行者)にとっての負債だが、時間の猶予という点で大きく異なる。小切手は猶予がなくて厳しい負債であり、手形は猶予があって比較的に緩やかな負債である。
表にしてまとめると次のようになる。
小切手 | 手形 | |
貸借対照表における扱い | 発行者の負債 | 発行者の負債 |
時間の猶予 | 全くない。即時の支払いに応じる義務がある | 様々に設定されている。支払期日まで長いほど、義務が緩やかになる |
ちなみに、日本で振り出される手形のほとんどが確定日払い手形で、支払い期日を決めてから振り出すものである。しかし、ごくまれに、支払い期日を決めずに振り出される手形があり、それを一覧払い手形(いちらんばらいてがた)という。一覧払い手形は、振り出した日から1年以内に銀行へ持ち込むことができ、所持人が銀行に持ち込んだ日が自動的に支払い期日になる。つまり、小切手に非常に近いものである。小切手は振り出された日を含めて11日以内に銀行へ行かねばならないが、一覧払い手形は債権者にとってもっと余裕がある。
手形が振り出された日から支払期日までの日数を手形サイトという。
このサイトはsightのことで、「視野」という意味を持つ英単語である。ちなみに英語で手形サイトを表現するときはsightという単語を使わずdraft maturityとかbill maturityと表現する(資料)。ゆえに「手形サイト」は和製英語といえる。
手形は、手形サイトの長さで、負債としての厳しさが変化する。
支払期日が1週間後の手形なら誰しも厳しさを感じ、支払期日が6ヶ月の手形ならだいぶ厳しさが緩和され、支払期日が100年後の手形ならもはや厳しさが皆無である。
現実の日本で振り出される手形の手形サイトは、どれぐらいの長さのものが多いのだろうか。
手形サイトは、振出人の財政事情や、振出人や受取人が所属する業界によって決まる。とはいえ、1ヶ月以上4ヶ月以内のものが多く、30日、60日、90日、120日といった手形サイトが多い。
当然のことながら、手形サイトが長いほど、債権者すなわち受取人にとって損をすることになる。5ヶ月(150日)や6ヶ月(180日)の手形になると、受取人が嫌な顔をするようになるので、振り出される数が少なくなる。
手形サイトが長い手形には異名が付いている。7ヶ月(210日)の手形には台風手形、10ヶ月(300日)の手形にはお産手形、12ヶ月(365日)の手形には七夕手形という名前が付いている。
古来から、立春の2月4日頃から210日が過ぎた9月1日頃は台風が多く襲来すると言われてきた。このため、210日の手形サイトの手形を台風手形と呼ぶ。
古来から、人の出産までの日数は十月十日(とつきとおか)と言われてきた。このため、10ヶ月の手形サイトの手形をお産手形と呼ぶ。
七夕祭りは、天の川に隔てられた彦星と織姫とが七月七日の夜、年に一度だけ会うという中国の伝説をお祭りにしたものである。このため、1年の手形サイトの手形を七夕手形と呼ぶ。
1年を超える手形サイトの手形は、ほとんど流通していない。
※この項の資料・・・記事1、記事2
下請法では、資本力の大きい大企業(親事業者)が、資本力の小さい中小企業(下請事業者)に対して支払いをするときの行動を規制している。
その下請法を運用している中小企業庁と公正取引委員会は、1966年(昭和41年)3月11日に、通達を出している。「親事業者が振り出す手形の手形サイトは、繊維業については90日以内、その他の業種については120日以内とするとともに、下請法の趣旨を踏まえ、更に短縮するよう努力するように」という内容だった。
2016年(平成28年)12月14日にはさらに通達が出され、「親事業者が振り出す手形の手形サイトは、繊維業については90日以内、その他の業種については120日以内とするのは当然として、下請法の趣旨を踏まえ、段階的に短縮に努めることとし、将来的には60日以内とするよう努めること」と周知された。
支払いサイトという言葉がある。
これは、商品を納入した日の後にやってくる締め日から、代金が銀行預金に化ける日までの期間のことを指す。
「4月1日に商品を受領して、4月30日に締め日を迎え、30日後の5月30日に『手形サイト120日の手形』で支払う」というのは、「支払いサイト30日」ではなく、「支払いサイト120日」でもなく、「支払いサイト150日」である。
締め日から手形支払いまでの日数と、手形サイトを足したものが、支払いサイトになる。
支払いサイトについては、売掛金の記事にも記述があるので、参照のこと。
この項目では、日本で最も一般的に使われる約束手形の使い方を解説する。
まずは、銀行のどこかの支店と当座勘定契約を結び、当座預金口座を開設する。当座勘定契約とは、「自分が振り出した小切手や手形について、自分に代わって支払ってほしい」と委託する契約である。
当座預金口座を開設するには、銀行の審査が必要である。銀行にとっては、不渡りの小切手・手形を出すような存在に当座預金を開設させたくない。
当座預金口座とは特殊な口座である。誰もがすぐに開設できる銀行の口座というと普通預金口座だが、その普通預金口座とはいくつかの点で異なっている。
普通預金には金利が付く。インフレ率が3%台で推移していた昭和末の時代には、普通預金の金利が1.5%を超えて2%に迫るほどだった。ところが当座預金にはインフレ率が何%になろうが一切の金利が付かない。臨時金利調整法の第2条で、政府・日銀の指示で各銀行の最大金利を定めることができると決まっているのだが、その条文に基づき、当座預金の金利を0%にする制度が維持されている。
銀行が破綻した場合、預金保険制度によって預金者への補償が行われる。普通口座の預金は1000万円までしか保護されない。しかし、当座預金は全額保護される。
簡単に表にまとめると以下のようになる。
当座預金 | 普通預金 | |
口座開設 | 銀行が経済力の審査をしてから開設する。経済力が低い人は開設できない | 誰でもすぐに開設できる |
金利 | 一切、金利が付かない。 | 金利が付く。インフレ率に応じて変化する |
預金保護 | 全額が保護される | 1000万円までしか保護されない |
※この項の資料・・・記事1、手形・小切手の基礎知識(7ページ)、記事3、記事4
銀行から手形帳を買う。20枚から50枚程度の手形の束となっていて、1枚1枚切り離すことができる。
手形に必要事項を書く。手形に書かれた文言には非常に強い力が与えられ、書き間違いがあった場合でもその文言の通りに事態が動いてしまう。10万円というつもりで100,000と書いたがついうっかり1000,000と書いてしまった場合も、100万円の手形として通用してしまい、100万円の支払い義務が発生する。このことを文言証券性という。このため、全神経を集中させて慎重に記入せねばならない。
必要事項は6つで、金額と、振出日(手形を振り出した日)と、支払期日と、振出人の署名(会社名と代表取締役氏名)と、振出地(振出人の住所)と、受取人の会社名である。
小切手は受取人の会社名を書かなくて良いが、手形は受取人の会社名を書く必要がある。
振出人に関する情報は会社名と代表取締役氏名と住所の3つを書かねばならないが、受取人に関する情報は会社名だけでよい。振出人は債務者なので居場所を突き止めねばならず多くの情報を書く必要があるが、受取人は債権者なので会社名だけでよい。
さらに、振出人は、署名の横に銀行届け印(銀行に登録した印鑑)を押す必要がある。
金額を手書きで書く場合、漢数字で書くことが慣習となっている。アラビア数字で書いてもよいのだが、「書き間違いしやすいから望ましくない」と皆に言われるので、誰もが漢数字で書く。15万2300と記載するとき、拾伍萬弐阡参佰と書く。漢数字の方が偽造しにいから重宝される。また、「二」という漢字は線を1本入れて「三」と偽造することが容易なので、「弐」という表記を使う。漢数字の表記を調べるには、エクセルなどの表計算ソフトを使ってもよいし、このサイトを使ってもよい。そして、金額の前に「金」、金額の後ろに「円也」と書く。こんな具合の表記となる。
金額を手書きで書くのは神経をすり減らして大変なので、チェックライター(check writer 小切手記入機)を使って記入することが多い。その場合はアラビア数字で金額が書かれ、金額の前に「¥」、金額の後に「※」という文字が入る。
15万2300円を手書きで書くときとチェックライターで書くときの違いをまとめると、次のようになる。
手書き | チェックライター |
---|---|
金拾伍萬弐阡参佰円也 | ¥152,300※ |
そして、手形を振り出すときには収入印紙を貼らねばならない。小切手には収入印紙が不要なのだが、手形には必要である。
10万円未満は収入印紙不要だが、10万円から100万円までの金額になると200円収入印紙が1枚必要になる。金額が増えるたびに、必要とされる収入印紙の数が増える。10億円を超える手形になると、収入印紙が20万円分必要になる(国税庁資料1、国税庁資料2)
収入印紙は政府が発行するもので、これの販売代金は国庫に入り、毎年の予算の歳入の項目の「1. 租税及び印紙収入」の欄に入る(平成31年度予算)。つまり、手形の決済には、平たくいってしまえば税金がかかることになる。
収入印紙には、何らかの印鑑で消印を押し、収入印紙を剥がして再利用するといった不正を防ぐ必要がある。収入印紙と手形の両方に印影がうつるように押す(画像)。不正防止のためのものなので、銀行届け印を使わなくてよい。
こうやって作成した手形を相手に渡すと、手形を振り出したことになる。
※この項の資料・・・手形・小切手の基礎知識(10~12ページ)、手形・小切手の利用方法(23~24ページ)
手形は、支払期日がくるまで、銀行に持ち込こんでも現金にすることができない。「受け取った手形を誰か宛の支払いに使おう。手形を譲渡しよう」と思う人も出現する。
手形を譲渡する側にとって、譲渡した手形を回し手形(廻し手形 まわしてがた)という。手形を受け取る側にとって、受け取った手形を回り手形(廻り手形 まわりてがた)という。「回し手形で代金を支払う」「回り手形をもらう」などと表現する。
手形の譲渡をしようと思ったら、まず、手形の裏側(画像)に、譲渡人(ゆずりわたしにん 与える側)の会社が、譲渡日時と会社名と代表取締役氏名と会社住所を書いて印鑑を押す。手形を振り出されて真っ先に受け取った人(受取人)が、手形の裏側の一番上に名前を書くことになる。このことを「手形を最初に入手する受取人が、第一裏書人になる」と表現する。
そして、「被裏書人」の欄に、譲受人(ゆずりうけにん 貰う側)の会社名を書く。こちらは会社名だけなので、一行だけで済む。
こうした記入行為を裏書(うらがき)という。
この時点での手形の裏側を表現すると、次のようになる。
令和2年4月26日 第一製作所株式会社 東京都千代田区千代田1-1 代表取締役一之瀬太郎 | |
被裏書人 | 第二工業株式会社 |
振り出された手形を真っ先に入手した受取人(第一裏書人)から手形を譲渡された人が、また、現金の代わりに何かの支払い手段として手形を譲渡したいと思ったとする。
その場合は、手形の裏側の上から2番目の欄に譲渡日時と会社名と代表取締役氏名と会社住所を書いて印鑑を押し、「被裏書人」の欄に、手形を譲渡する相手の会社名を書く。
この時点での手形の裏側を表現すると、次のようになる。
令和2年4月26日 第一製作所株式会社 東京都千代田区千代田1-1 代表取締役一之瀬太郎 | |
被裏書人 | 第二工業株式会社 |
令和2年5月30日 第二工業株式会社 東京都中央区佃2-2 代表取締役二ノ宮次郎 | |
被裏書人 | 第三製薬株式会社 |
この裏面からは、第一製作所が第一裏書人で、第二工業が第二裏書人で、現在の所持人は第三製薬だということが分かる。
先ほど述べたように、手形の表面は債務者である振出人の情報が多く、債権者である受取人の情報が少ない。手形の裏面も、表面と同じようになっていて、債務者である裏書人の情報が多く、債権者である被裏書人の情報が少ない。
手形の振出人に対する信用が極めて高い場合、たとえば東証一部上場で業績好調なことが知れ渡っている優良企業である場合、そのときは手形に対する信用が極めて高いので、次々と譲渡されていく。
また、手形を一番最初に発行した振出人の信用が低くても、手形を真っ先に受け取った第一裏書人の信用が極めて高いのなら、その場合も手形に対する信用が極めて高いので、次々と譲渡されていく。なぜかというと、次の項で述べるように、振出人が債務不履行を起こしたとき、裏書人が支払い責任を負うことになるからである。
手形の裏側には第四裏書人とその被裏書人(譲渡相手)まで書くことができるが、第五裏書人が発生することになったら、第四裏書人は自分の職場にある手形帳から1枚手形を切り取り、裏面をコピーして、コピーしたものを譲渡したい手形にくっつける形で貼り付ける。それで、第八裏書人の項目まで書き込めるようになる。
※この項の資料・・・手形・小切手の利用方法(25ページ)、記事2
手形が不渡り(債務不履行。振出人の当座預金が空っぽのときに発生する)になったとき、手形の裏に裏書きをした人物が、支払い責任を負うことになる(手形法第15条)。
手形の最終的な受取人は遡求を行い、手形の裏に裏書きをした人物からお金をもらう。手形の裏に裏書きをして手形金額を支払った人物は、振出人に対してさらに遡求することができる。
つまり、手形が不渡りになったときのゴタゴタに巻き込まれるリスクを負ってもよいと決心したもののみが、手形の譲渡を行うことができる。
手形の裏に裏書人がずらっと並んでいて、その中に1つでも優良企業が入っていると、一気に手形の信用が高まるのは、このためである。振出人が不渡りを出すようなポンコツ企業でも、裏書人のどれかが体裁を重んじるような優良企業なら、その優良企業がちゃんと払ってくれそうだからである。
※この項の資料・・・手形・小切手の利用方法(26ページ、32ページ)
手形を所持する人は、支払期日まで待ちきれず、どうしても現金化したくなることがある。
その場合は、銀行や貸金業者に、手形割引をお願いすることになる。詳しくは、該当記事を参照のこと。
手形を最終的に所持して、支払期限を迎えたら、支払期日を含めて3日以内に、その手形に記載されている支払銀行のところに行く。A銀行あいうえお支店が支払銀行、と書かれているのなら、そこまで行く。そして、A銀行あいうえお支店に対して手形を提出する。これを支払のための呈示(ていじ)という。
支払期日を含めて3日以内というが、その3日の中に休業日があれば、休業日の分だけ延長される。このため、「支払期日が営業日の場合、支払期日を含めた3営業日」「支払期日が休業日の場合、支払期日の次に来る営業日を含めた3営業日」となる。
ちなみに、支払いのための呈示を行うことができる3営業日を支払い呈示期間という。
実際には、A銀行あいうえお支店まで行くのは面倒なことが多い。その場合、手形を所持する人は、自分の取引銀行であるB銀行かきくけこ支店のところに行き、手形を提出して取り立てを依頼する。
取り立てを依頼されたB銀行は、翌営業日になってから、手形交換所に手形を持ち込む。A銀行も毎日手形交換所に顔を出すので、そこでB銀行はA銀行に対して手形を渡し、支払いのための呈示を行う。手形交換所で支払いのための呈示が行われるわけである。
このため、支払い呈示期間の最終日に、手形に記載された支払銀行とは異なる銀行へ行って取り立てを依頼すると、支払い呈示期間から1日遅れた日になって手形交換所で支払いのための呈示が行われることになり、「支払い呈示期間が過ぎています」と支払銀行に言われて手形を返却されてしまう。
ゆえに、実務上は、支払い呈示期間の最終日を避けることが賢明である。支払い呈示期間の3営業日の中の、2日目までに、銀行へ行って取り立て依頼をする。
手形を支払銀行以外の銀行に持ち込んで取り立て依頼してから銀行振り込みが行われるまで、最短で3営業日ほどかかる。支払銀行以外の銀行で取り立て依頼するのに1営業日、手形交換所に持ち込まれて支払銀行が手形を持ち帰るのに1営業日、支払銀行が手形について調べるのが1営業日であり、それからやっと銀行振り込みが行われる。
ちなみに、手形を受け取って銀行へ取り立て依頼する人は、当座預金口座を持つ必要がない。誰でも開設できる普通預金口座でよい。
※この項の資料・・・手形・小切手の利用方法(27~30ページ)、記事2、記事3、記事4、記事5
手形を支払銀行に持ち込むか、手形を手形交換所に持ち込むかして、支払銀行に対して支払いのための呈示を行うのは、支払い呈示期間の3営業日の中で行う。
うっかり忘れて、支払い呈示期間を過ぎたら、支払人として指定された銀行は「支払い呈示期間が過ぎています」といって、手形を返却してくる。この場合、どうすればいいだろうか。
手形の所持人は、振出人に対して電話を掛けて、銀行振り込みして貰うように要求できる。手形の時効は支払い期日から3年であり(手形法第70条)、時効が到達するまでの間は、手形所持人に債権がある。
ただし、手形の振出人は、支払い呈示期間を過ぎたら、手形所持人に対してのらりくらりと支払いを延期できる。支払い呈示期間に手形を銀行に持ち込まれた場合に当座預金口座をすっからかんにして債務不履行にしたら手形交換所規則に従って銀行たちから制裁を喰らうのだが、支払い呈示期間を過ぎたら債務不履行しても銀行から制裁を受けることがない。
手形所持人がしびれを切らした場合は、裁判所で手形訴訟を起こすことができる。
手形を振り出した人の当座預金口座にお金がないなどの理由で、手形を額面通り支払えないことがある。そうなると、振出人に依頼された支払銀行は、手形に不渡付箋を貼り付けて、手形を持ち込んだ人に対し手形を返却する。これが不渡り手形である。
不渡付箋は、手形の左に貼り付けられる(画像)。民間企業経営者にとっては、トラウマものの画像である。「この手形 本日呈示されましたが、資金不足につき支払いいたしかねます」と銀行が宣言している。
不渡り手形を掴まされたら、振出人に対してすぐに裁判を起こす。手形・小切手に関する訴訟は、民事訴訟裁判の中でも簡易な形式であり、手形・小切手訴訟という。
振出人に対する民事訴訟と平行して、手形の裏面に社名を書いた裏書人たちに遡求(そきゅう)をすることも大事である。仮に第一裏書人から第四裏書人まで4名の裏書人がいた場合、4人同時に遡求をしてもいい。かりに、第三裏書人がその遡求に応じて手形の代金を支払った場合、今度は第三裏書人が頑張る番である。すなわち、振出人への民事訴訟と、第一裏書人や第二裏書人への同時の遡求をするなど、懸命の努力をする。
不渡り手形を出した振出人の情報は、手形交換所を通じて全国の金融機関に拡散される。不渡りを出すような人に融資をする金融機関はあまり多くないので、不渡り手形を出すと経営が非常に苦しくなる。
6ヶ月以内に2度の不渡りを出すと[1]、その振出人は銀行取引停止処分となり、2年間、当座勘定取引ができなくなる。手形を振り出せない事業者は、支払いの手段がなくなるようなものである。このため、6ヶ月以内に2度の不渡りを出すことは、事実上の倒産と扱われる。
不渡り手形を出した人への制裁の根拠は、手形交換所規則である。手形交換所は金融機関たちが集まって結成する業界団体なので、手形交換所規則というのは業界団体の自主的な規則である。
この項目では、振出人の資金が枯渇していて支払えないという理由の不渡りを例にとって解説した。実際の不渡りには、他に色んなものがある。それについては、『様々な不渡り』の項目を参照のこと。
※この項の資料・・・手形・小切手の利用方法(31ページ)、記事2、手形交換所規則(第62条、第65条)
手形の振出人は、支払を拒絶することがある。振出人の支払拒絶のことを不渡りという。不渡りは、3種類に分けられる。
支払拒絶の理由 | 解説 | |
第0号不渡り事由 | 形式不備、裏書不備、呈示期間経過後、期日未到来、除権判決、破産など、依頼返却など | 振出人や裏書人や所持人の単純ミスが該当する。銀行は不渡り届を出さない |
第1号不渡り事由 | 資金不足、振出人と銀行の当座勘定取引が解除された | 振出人に落ち度あり。銀行は不渡り届を出し、振出人は異議申し立てできない |
第2号不渡り事由 | 第0号と第1号に含まれないもの全て。例を挙げると、契約不履行、偽造、変造 | 振出人と最初の受取人のゴタゴタが多い。銀行は不渡り届を出し、振出人は異議申し立てできる |
第0号不渡り事由は、振出人や裏書人や所持人の単純ミスが該当する。つまり、一般市民が手形に抱く信用を叩き壊すほどのものではない、という位置づけである。
このため、手形の所持人が手形を持ち込んだ取り立て銀行と、手形の振出人が口座を開いている支払銀行は、手形交換所に不渡り届を出さない。
破産などの場合、所定の手続きに従って配当をすることになるわけなので、手形の決済を通すわけにはいかない。この場合は、第0号不渡りとなる。
依頼返却というのは、手形を一度呈示した後に、持参人がその呈示を取り下げて返却をお願いすることである。この場合も、第0号不渡りとなる。具体的には、支払人が持参人に対して、呈示を取り下げてほしいと依頼して、それに応じて取り下げるということになることが多い。この場合であっても、呈示したという事実は変わらないので、裏書人に遡求が可能である。
なお、一度不渡りになった手形は原則として再度手形交換所に持ち込むことはできない(再度の持出が予期できる理由であり、相手方金融機関の承認がある場合は除く)。これに違反した場合も依頼返却と同様の扱いとなり、第0号不渡りとなる。
※この項の資料・・・記事1
第1号不渡り事由は、振出人に100%の落ち度があるものである。これを1回やらかすと、手形交換所を通じて全国の銀行に通達され、銀行からの融資を非常に受けにくくなって経営が危機に陥る。6ヶ月の間に2回の第1号不渡り事由を重ねてしまうと、銀行取引停止処分となり、すべての銀行から2年間にわたって当座勘定取引と貸し出し取引を解除され、事実上の倒産に追いこまれる。
第1号不渡り事由は、手形の所持人が手形を持ち込んだ取り立て銀行と、手形の振出人が口座を開いている支払銀行が、手形交換所に不渡り届を出す。
振出人は、不渡り届に対して異議の申し立てができない。
※この項の資料・・・記事1
第2号不渡り事由は、手形の振出人とその周囲の人々との間のゴタゴタが原因で発生するものである。
第2号不渡り事由は、手形の所持人が手形を持ち込んだ取り立て銀行と、手形の振出人が口座を開いている支払銀行が、手形交換所に不渡り届を出す。
そして、振出人は、不渡り届に対して異議の申し立てをすることができる。これを異議申立提供金制度という。手形交換所に異議申立書を出し、さらに手形の支払金額と同額の現金(異議申立提供金)を差し出す。
異議申立提供金を出さなくていい例外は、偽造・変造のときだけである。
100万円の商品を購入するために100万円の手形を振り出したが、納入された商品が傷だらけで使い物にならなかったとする。そういう場合は、第2号不渡り事由で、手形の支払を拒否する。銀行が不渡り届を出すので、それに対抗する形で異議申立書と異議申立提供金100万円を手形交換所に出す。
異議申立提供金100万円は、最長で2年間も手形交換所に預ける必要がある。長期間にわたって100万円という貴重なお金を使えなくなってしまうので、経営にとって大きな打撃となる。
※この項の資料・・・記事1
不渡りが複数の事由で発生した場合は、以下の手続きによる。
不渡りになったことを不満に感じる債権者は、手形訴訟を起こすことになる。手形訴訟において、各種の手形抗弁が、手形の振出人から発せられることになる。
第0号不渡り事由で不渡りになった手形の手形訴訟においては、被告が物的抗弁をすることになる。
第2号不渡り事由で不渡りになった手形の手形訴訟においては、被告が物的抗弁かまたは人的抗弁をすることになる。
手形を紛失してしまったら、どのようにすべきだろうか。
まず真っ先に行うことは、手形に書かれている振出人に電話か何かで連絡して、紛失した手形に書かれている手形番号を伝えつつ、振出人から支払銀行(支払場所)へ事故届を出してもらうことである。
続いて行うことは、警察へ遺失届または盗難届を出すことである。そうすると、警察に遺失(盗難)等届出受理証明書を出してもらえる。
そして、警察からもらった遺失(盗難)等届出受理証明書を簡易裁判所に提出し、公示催告の申立をする。手形に書かれている支払銀行を管轄する簡易裁判所に、郵送で提出する。
簡易裁判所は、公示催告をする。「紛失した有価証券を所持している人は、権利を争う旨の申述の終期までに、申述すると共に有価証券を提出すること。もしその期限までに申述及び提出がない場合には、その有価証券の無効を宣言することがある」という内容で、「手形を持っている人は名乗り出てください。期限までに名乗り出なければ、その手形をただの紙切れにします」と宣言するものである。
公示催告は、官報に掲載するという形式で行われる。官報に掲載されてから期限を迎えるまでは、だいたい3ヶ月ほどである。
紛失した手形を持って名乗り出るものが期限までに現れなかったら、簡易裁判所は除権決定をする。これで、紛失した手形に付着した債権がすべて消滅して、ただの紙切れになる。それと同時に、公示催告を申し立てた人物は、手形を紛失したままでも手形の権利を主張できるようになる。
※この項の資料・・・手形・小切手の利用方法(22ページ)、裁判所資料その1、裁判所資料その2、法務省資料、記事5、記事6
手形の支払いが難しくなった債務者が、手形の所持人に連絡して、「新規に手形を振り出すので、支払い期日が迫った手形を破棄するか、私に渡して頂けますか」と懇願し、それが了承されることがある。その場合、「支払期日が近い手形」が「支払期日が遠い手形」に変化することになる。このことを手形ジャンプという。
手形ジャンプは、手形の振出人の経営が苦しくなっていることを示す現象である。手形ジャンプをしていることが銀行に知られてしまうと、銀行はその手形の振出人に対して融資を渋るようになってしまう。
手形ジャンプについては、借り換えの記事も参照のこと。
手形は約束手形と為替手形の2種類に分けられる。日本において、為替手形はあまり使われておらず、貿易取引で輸出者が輸入者から代金を取り立てるために利用されている程度とされる。
為替手形の大前提となるのは、A社とB社があって、その2社の間に債権・債務の関係があるということである。
B社がA社から500万円分の商品を購入したが、A社に対して「○ヶ月後にまとまったお金が入るので、それまで支払いを待ってくれ」といった。この場合、B社は500万円の買掛金(負債)があり、A社は500万円の売掛金(債権)がある。
B社に対しては強い立場のA社だが、C社に対しては弱い立場で、このたび、C社に対して500万円の商品代金を払うことになった。
表にすると、以下のようになる
A社 | →債務 | C社 |
↑債務 | ||
B社 |
そこでA社は為替手形を振り出すことを考えた。B社のところに行き、「○ヶ月後の△月◇日に、C社に向けて500万円の支払いをしてくれ。それに合意するなら、この為替手形の引受人になってくれ」とお願いし、B社がそれに合意して、為替手形の引受人の欄に社名を書いて、支払場所の欄にB社の取引銀行を書く。
A社は、それに満足して、為替手形の振出人に自社の名前を書いて、C社に向けて為替手形を渡して支払いを行った。
為替手形によって、下記の表の状態になる。
A社 | C社 | |
↗債務 | ||
B社 |
為替手形の引受人が銀行である場合、その為替手形は、約束手形とほとんど同じようなものとなる。
A社とD銀行の間に債権・債務の関係があり、A社はD銀行に対して500万円の銀行預金を持っていて、500万円の債権があるとする。そんなA社だが、C社に対して500万円の債務を負うことになった。そのことを表にすると、次のようになる。
A社 | →債務 | C社 |
↑債務 | ||
D銀行 |
A社は為替手形を振り出すことに決め、D銀行のところに行って「○ヶ月後の△月◇日に、C社に向けて500万円の支払いをしてくれ。それに合意するなら、この為替手形の引受人になってくれ」とお願いし、D銀行が合意して、為替手形が振り出される。それによって、次の表のようになる。
A社 | C社 | |
↗債務 | ||
D銀行 |
この為替手形の振り出しを繰り返したあと、D銀行はA社に対して「為替手形の振り出しをするたびに当行へ来店するのは面倒でしょう。約束手形というものがありますから、それに移行したらどうですか」と提案して、A社は素直に従った。
以上のように、「引受人が銀行である為替手形」と約束手形はよく似ている。「引受人が銀行である為替手形」が簡略化されて発展したものが約束手形、と考えておいてよい。
掲示板
4 ななしのよっしん
2021/03/21(日) 13:50:58 ID: 570ezvGfu7
そもそもズレたことダラダラ長く書かずに
・会社の生死に直結する堅い約束の証文である
のひとことで済むのよ
その他のもろもろは信用の高さからオマケでついてくる話よ
5 削除しました
削除しました ID: xgQLIAE7N5
削除しました
6 ななしのよっしん
2022/04/11(月) 16:40:59 ID: 5hC3W/imDF
取立依頼を受けた銀行のほうにだけ関連する話だけど、手形交換所の役割を受け継ぐ電子交換所が今年の11月から稼働だって
>> https://
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最終更新:2024/12/22(日) 23:00
最終更新:2024/12/22(日) 22:00
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