ある人が特定の人に対して行為を要求する権利を債権(claim)という。反対語は債務(debt、obligation)である。
債権者が債務者に要求する行為のことを給付という。債務者の給付によって債権が消滅することを弁済という。
債権は財産の1つであり、財産権の1つである。
また、金銭の提供を要求する債権などのような「資本(営利追求の事業活動の基金)になりうる財産」の提供を要求する債権は資産と扱われ、貸借対照表の資産の部に書き入れることができる。
第三者が見ていないところで踊ることを要求する債権などのような「金にならない行為」を要求する債権は、財産であるが資産とは見なされず、貸借対照表の資産の部に書き入れることができない。
財産権は、有体物を支配する物権と、無体物を支配する知的財産権と、債権の3つに大別される。
物権の代表格は所有権である。この物権と債権は多くの点で異なっている。
物権とは、有体物に対して直接的に支配する権利である。有体物に対する直接的な支配が侵害されたら物権的請求権を行使して侵害を排除できる。
一方で債権は、特定の人に対して「人の行動」という抽象的な概念を要求する権利であり、あまり直接的な支配ではない。債務者は一定の行動を債権者に対して行えばよく、その行動以外は自由に行動できる。
物権とは、有体物に対して排他的に支配する権利である。1つの有体物に対して二重に所有者が現れることがない。このことを一物一権主義という。
一方で債権は、特定の人に対して「人の行動」という抽象的な概念を要求する権利であり、あまり排他的な権利ではない。特定の人は、同じ内容の行動を複数の人に対して行うことがある。AさんとBさんとCさんにそれぞれ10万円ずつ債務を負っている多重債務者のDさんは、10万円の返済という行為を3人に対して重ねて行う。
物権は、この世のすべての人に対して主張できる権利である。このことを「物権は対世性・絶対性がある。物権は対世権・絶対権である」と表現する。
一方で債権は、特定の債務者に対して要求できる権利であり、この世のすべての人に対して要求できるわけではない。このことを「債権は対人性・相対性がある。債権は対人権・相対権である」と表現する。
以上のことをまとめると次のようになる。
物権(所有権が代表的) | 債権 | |
定義 | 有体物に対して支配する権利 | 人に対して行動を要求する権利 |
直接性 | 有体物に対して直接的に支配する | ある一定の行動を要求するだけで、それ以外は自由であり、あまり直接的な支配ではない |
排他性 | 排他的な支配。1つの有体物に対して1つの所有者が存在する | あまり排他的ではない。1つの債務者に複数の債権者が群がることがある |
対世性・絶対性 | 権利者は、この世のすべての人に対して主張できる。つまり、対世性・絶対性がある | 権利者は、債務者にだけしか主張できない。つまり対世性がなくて、対人性・相対性がある |
かつての世界各地には奴隷というものが存在した。奴隷主は奴隷に対する所有をしていて、奴隷を直接的・排他的に支配し、そのことをこの世のすべての人に主張できた。
2021年現在の世界は奴隷の所有が禁止されている。すべての人は人に対して所有権を行使できず、債権を行使して特定の行為を要求するだけである。
※この項の資料・・・記事1
債権には、「○年○月○日に行うべき」といったような期限が設けられることがある。
期限までの期間が短ければ短いほど、債権としての旨味が増す。また、期限までの期間が長ければ長いほど、債権としての旨味が減っていく。支払期日が1日後の100万円手形を受け取った場合は非常に美味しい債権であり、支払期日が100年後の100万円手形を受け取った場合は旨味がほとんど無い。
資産を受け取る債権は、期限までの期間が短ければ短いほど財務状況に好影響を与えると評価され、期限までの期間が長ければ長いほど財務状況に悪影響を与えると評価される。償還期日が30日後の100万円社債を所有している場合と、償還期日が10年後の100万円社債を所有している場合は、前者の方が会社の財務状況に好影響を与えると評価される。
貸借対照表(バランスシート)には一年基準というルールがあり、返済期限まで1年以内の債権を流動資産と扱い、返済期限まで1年を超える債権を固定資産と扱う。そして流動債権の金額が多いほど財務体質が良好であると評価する。
世の中には、受け取り期限が極端に遠い将来に先送りされていて「返済期限が無期限」と表現される債権がある。そういう債権は全く旨味がなく、資産としての価値がゼロである。
2010年代の日本の経済談義において、しばしば、「返済期限無期限・無利子の永久国債を発行しよう」と提案されることがあった。これは、所有する者の立場からすると、資産としての価値が完全にゼロで、紙屑と同等のものである。
債権者と債務者が合意して契約を結ぶことで発生する債権。現代社会の商取引は、商品売買契約や金銭消費貸借契約がとても多いのだが、その2つで発生する債権は約定債権である。
立法府(国会)が可決し行政府が執行する法律というものによって発生する債権をこのように呼ぶ。
特定のものを引き渡すように要求する債権で、売買契約に多く見られる。この世に1つしかない絵画を売買するとき、買い手は特定物債権を得る。「東京都墨田区押上1-1-2の土地」を売買するときも、この世に1つしかないものを売買するので、買い手は特定物債権を得る。
一定の種類に属する物の一定量の引渡しを要求する債権。現代の工業製品は大量生産が基本なので、この種類債権になることが多い。週刊少年ジャンプ2020年3号を100部買い取るとき、買い手は種類債権を得る。
金銭(通貨)の引き渡しを要求する債権。現代は通貨を仲立ちとした経済であるので、売買契約は売り手が金銭債権を得ることになる。物々交換は金銭債権が発生しない契約だが、現代においてほとんど見られない。
一部の贈与契約で見られるもの。現代の商品売買契約では、あまり見られない。子供に対して「○○学校に合格したら、パソコンか自転車か、どちらかを贈与しよう」といった風に贈与契約を結び、子供が合格したらその契約を履行する。
証券化されておらず、債権者の名前が決まっている債権。ごく一般的な債権とされる。売掛金がこれにあたる。
証券化された債権のなかで、債権者の名前を証券の券面に記入するもの。手形、記名式小切手(小切手の一部)が典型例である。この2つは券面に債権者の氏名を書く。
証券化された債権のなかで、債権者の名前を証券の券面に記入せず、所持人が自動的に債権者になる。券面には「持参人にお支払いください」といった文章がある。商品券、乗車券、劇場入場券、持参人払式小切手などが典型例である。
証券化された債権のなかで、債権者の名前(たとえば、ニコニコ銀行)を証券の券面に記入してあるが、「ニコニコ銀行または持参人にお支払いください」という文面があるもの。先述の無記名債権とほぼ同じだが、債権者の名前を書くことで証券の信用を高める狙いがある。ニコニコ銀行が金融庁の厳しい監督を受ける金融機関ならば、その名前が債権者として書かれた証券の信用度が上がる。ごくまれにしか見られない、とされる(※この項の資料・・・記事1)
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最終更新:2024/12/22(日) 23:00
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