学生実験で大豆80gから油を抽出しようと考えました。 大豆を粉末にしてから大豆:ヘキサン=40g:150mlを2回行って濾過とエバポレートにより油を抽出しよう思ったのですが上手く行くのでしょうか？ 文献を調べるとsoxhletを使うのが出てきますが物がないため使えません。 油がエバポレートにより蒸発しないでしょうか？

ソックスレー装置がなくてもヘキサンによる回分抽出（maceration / batch extraction）で大豆から油を取り出すことは十分に可能です。 ただし「可能」と「効率的に、安定して、安全に」行えるかは実験条件の設計に依存します。 原因と対処を理解しておけば、あなたが提示した「大豆を粉末にして大豆:ヘキサン = 40 g : 150 mL を2回行う → 濾過 → ロータリーで濃縮」という流れは基礎的に成り立ちますが、いくつかの点で改善や注意が必要です。 まず原理面から。油（トリグリセリド）は疎水性で有機溶媒でよく溶けます。ソックスレーは溶媒消費を抑え、溶媒を連続的に循環させることで抽出効率と時間当たりの回収性を高めますが、同じ化学的原理は回分抽出でも成立します。 回分法では固相（粉砕大豆）と液相（ヘキサン）を接触させ、拡散と溶媒和によって油を溶出させます。接触面積、湿度、試料の前処理、溶媒の量と交換頻度、攪拌（運動）などが効率の主要因です。 粉砕は非常に重要で、表面積が増えるほど短時間で油が溶媒に移行しますが、粉を細かくし過ぎるとろ過が極端に遅くなったり、ろ紙が詰まるため実験の停滞を招きます。 目安としてはふるいや肉眼で見て粉末の粒径が揃う程度、あるいはトウモロコシの粉くらい（非常に微粉すぎない範囲）を目指すとよいです。粉砕後は可能な限り乾燥させて下さい。 水分が多いと溶媒中にエマルジョンができやすく、油の分離やろ過が難しくなります。乾燥はオーブンの低温（たとえば40–60℃）で短時間、あるいは風乾で十分です。 溶媒量と回数について。あなたの組合せ（40 g に対してヘキサン150 mL を2回）は溶媒比が約3.75 mL/g（= 150 mL ÷ 40 g）になり、総溶媒は300 mL/40 g で7.5 mL/gに相当（もし同じ固形に2回同じ量をかけるとすると合計溶媒量で換算するとそうなります）。 経験的には抽出の固液比は一般に 5–10 mL/g の範囲が有効で、溶媒量が多いほど単回抽出で取れる油の割合は増えますが溶媒回収の負担も増します。 したがって、40 g を150 mLで1回、さらにもう1回同量で再抽出する設計は妥当です。もし80 gまとめて処理するなら単純に倍量の溶媒（300 mL × 2 回、あるいは合計600 mL）にしても良いし、作業性の観点からは40 gずつ分割して処理する方が攪拌・ろ過が楽です。 抽出時間は短すぎると効率が落ちますから、磁気攪拌下で1–3時間、あるいは一晩振盪するのが一般的で、振とう器や超音波浴が使えればより短時間で高効率になります。 次に得られる油の量の見積もりを数値で示します。一般的な大豆の油分はおおよそ18–20%程度（品種や脱脂・加工の有無で変動）ですから、80 g の乾燥粉末から理論上得られる油は次の通り計算できます。 まず、80 g × 0.18 = 14.4 g（18%の場合）、次に、 80 g × 0.20 = 16.0 g（20%の場合）。したがって理論上は約14–16 g の油が期待されます。 抽出効率は条件に依存しますが、適切に粉砕・乾燥・十分な溶媒・攪拌を行えば回分抽出でも 80–95% 程度の回収率が可能で、現場実験では 70–90% 程度に落ち着くこともあります。 したがって、実測で得られる量はおそらく 10–14 g 程度になる見込みです。これはあくまで目安で、もし豆に含まれる油分が低ければさらに少なくなります。 ヘキサンの除去については、安心してよい点と注意点があります。 ヘキサンの常圧沸点は約69℃で、ロータリーエバポレーター（rotavap）を用いて減圧で濃縮すると、実験で通常使うバス温度（多くは20–40℃）と真空条件ではヘキサンのみが効率よく蒸発して除去され、油（トリグリセリド）は非常に沸点が高く、これらの条件で蒸発してしまうことはまずありません。 したがって「油がエバポで蒸発して無くなる」という心配は不要です。ただし操作上、過度の真空や高温をかけすぎると溶媒のバンプ（急沸）、乳化の飛散、あるいは揮発成分（ごく微量の遊離脂肪酸や低分子揮発物）のロスが起こる可能性があるため、穏やかな回転、適切なバス温度（30–40℃程度を基準に）と段階的に真空を下げる操作が推奨されます。 ロータリーで濃縮した後、残留ヘキサンが気になる場合、窒素吹き流し（軽く）や真空デシケータ、あるいは軽く加熱した真空下での保持で取り除けます。 さらに、油の水分や溶媒残留を下げるため、得られた油は無水硫酸ナトリウムなどで乾燥し、ろ過してから最終計量すると安定した重量が得られます。 安全管理は最優先です。ヘキサンは可燃性で吸入毒性もあるため、必ずドラフトフード下で作業し、耐溶媒手袋と保護眼鏡を着用し、加熱器具や点火源を近くに置かないこと。 廃溶媒は実験室の有機溶媒廃棄規定に従って回収し、合図や容器表示を適切にしてください。ロータリー使用時も冷却水の循環、ガラス器具のクランプ、適切なフラスコサイズ選択（フラスコの容量に対して適切な充填率を守る）など基本操作を厳守してください。 実験上よく遭遇するトラブルとその対処法も触れておきます。 ろ過が非常に遅い・詰まる場合は、ろ紙の前に粗いフィルターや、ガーゼを挟む、またはセライトを用いて前処理ろ過する方法が有効です。 遠心分離機が利用できるなら遠心分離で固形物を沈降させて上澄みだけを取ると速やかに処理できます。抽出後に乳化が生じたときは、室温で静置して層を分離させるか、遠心で分離し、上澄みを回収します。 抽出量が期待より少ない場合、主に（1）粉砕不足、（2）水分が多い、（3）溶媒量が少ない、（4）浸漬時間が短い、いずれかが原因であるため、これらを順に検討してください。 溶媒の置換性を上げるために二段階抽出（同じ試料に新しい溶媒を追加して再抽出）を行えば大部分の残留油を取り出せます。 もしあなたが本実験で分析的な裏付けを取りたいなら得られた油の純度・脂肪酸組成を薄層クロマトグラフィー（簡易的に脂質の種類を確認）、あるいは可能であれば GC-FID による脂肪酸メチルエステル（FAME）分析で定量的に確認することを推奨します。 あるいは単純に回収重量から理論量に対する回収率を算出するだけでも実験の評価ができます。回収率は「(得られた油重量) ÷ (試料重量 × 既知の油含量想定)」で計算します。既知の油含量が不明なら、複数回抽出して飽和的に抽出した後の収率が実測の総油量に近いと考えられます。 あなたの方法は、正しいが改善の余地あり。 粉砕と乾燥、適切な溶媒量（必要なら増やす）、十分な攪拌時間、穏やかなロータリー条件、乾燥処理、安全対策をきちんと守れば、ソックスレーがなくても実験室レベルで満足できる油回収ができます。