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島田荘司 『星籠の海』

星籠の海 下 (講談社ノベルス)星籠の海 上 (講談社ノベルス)
御手洗潔シリーズ。玉木宏主演で映画化。ノベルス版のみの書き下ろしエピソードあり。
時系列は御手洗が日本を離れる前で馬車道で暮らしていた頃。というわけでワトソン役は石岡君。
愛媛の小島に数多く水死体が漂流するという不思議な事件の調査を請負い、御手洗と石岡は現地に向かう。舞台は愛媛の興居島に始まり広島県呉へ、そして福山市、その鞆地区の港、更に瀬戸内海の小島へ、新たな殺人事件の発生などの物語の進展とともに目まぐるしく変わる。不気味な宗教団体、江戸時代の古文書に残された「星籠」という文字、戦国時代の村上水軍の不思議、瀬戸内海に出没する怪物など、様々な謎が提示され、並行して描かれる御手洗らの行動や、東京で夢破れ鞆に出戻った若者の物語とクロスする。
あっと驚く大ネタというよりは、細かい謎+解決の組み合わせと、御大の筆力でカバーするタイプの作品。御大の故郷・福山が舞台の中心とあって、滲み出るリアルさ…特に小坂井という若者の周囲に漂う閉塞感は流石の一言。
御手洗の立ち振る舞いや縦横無尽の活躍を楽しむ方面では、ほぼ出ずっぱりでかつ躍動的な動きをするため、かなり充足度が高いと言える。ただ、石岡は語尾を伸ばしたりと明らかにキャラが変わった気がする。
しかし相変わらず女性に対する描き方というか、目線の偏りが強い。エピソードとしてその方向に持って行くのは仕方ないが、御手洗と対比させる目的だとか本筋と関連が低いところで滲み出て来るのは、読んでいてしんどさがある。まあそれも合わせての島荘御大だけれどもね。
なおノベルス版の追加エピソードは御手洗によるこの事件の総括のようなもの。必須でも蛇足でもないが、楽しめる要素あり。