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乙一 『大樹館の幻想』

大樹館の幻想 (星海社 e-FICTIONS)
乙一初の館物ミステリ。
大樹を胸中に抱えるような異形の館。続々と集まる館の主の親族たち。姿を現さない主人。そして殺人事件と閉鎖状況の発生。
乙一得意の落ち着き払った筆致で淡々と事件が綴られる。
古式ゆかしい館物の本格ミステリのコードをなぞりつつ、特殊要素としてはタイムリープがある。視点人物・時鳥は妊娠しており、これから生まれる胎児に対して未来の同一人物から意識が乗り移り、胎内から母・時鳥に問い掛ける。胎児は未来から母を救おうと過去への介入を試みる。胎児と母という一風変わった探偵コンビとも言える。
この歴史介入により未来の時間軸で起きた事件と、現在の時間軸で起きる事件は、内容の乖離を見せていく。

見取り図はないが、時折現れる図解などはまさに本格ミステリの香りが芳しい。乙一が本格ミステリ、と聞いた瞬間の印象よりも遥かにしっかりと本格ミステリをしているように思う。

以下は若干トリックにかかるネタバレ含む。











しかし、唐突な解決編での算数教室化には少しシュールな笑いを感じた。
面積、角度の求め方、さらに実際の長さからの計算式。
探偵が行なっているのならばショーだが、状況はそうではなく、ある種の暇つぶし。
生真面目さからくるものか、ひょっとしてギャグか、掴みかねる。