2週間ほど時間が空きました。風邪は何とか治ったようです。再び「紹介」を続けます。
[文言補訂 17日 11.00]
今回は、「足固め(堅め)」、「二階梁・桁:胴差」など、柱へ横材を取付ける方策についての解説です。
まず、「足元の構造」について。
ここで「足元」と言っているのは、立上がりを設ける「布基礎」を用いない時代の「足元」です。
すなわち、
「礎石」の上に「柱を直接立てる」、あるいは「礎石」の上に「土台を流し、その上に柱を立てる」工法の時代の「足元」。
この書の解説は、このことを前提に書かれています。
「布基礎」主流の今では、「足固め(堅め)」を知る人が少なくなりました。
一階の床は、通常、地面より高い位置に置かれます。
「布基礎」を見慣れた目には奇異に映るかもしれませんが、
その「床高」位置のあたりで「柱相互を結ぶ横材」を「足固め(堅め)」と呼びます。
「床高」を確保するための部材は、「大引」「根太」ですが、
特に、「柱の通り」に設けられる「大引」材を「足固め(堅め)」と呼ぶ、と言えば分りやすいかもしれません。
柱通りに「大引」のような横材が設けられると、足元まわりがしっかりと固まってくることが知られ、
その結果多用されるようになり、その役目を表わす呼称としてこの名称が付けられたのだ、と思われます。
これも、現場生まれの知恵です。机上では生まれません。
なお、古代にも「大引」様の材が使われていますが、そこでは「床桁」と呼ばれていたようです。
「床桁」の方が意味が分りやすいかもしれません。[文言補訂]
このあたりのことについては、「再検:日本の建物づくり-7」をご覧ください。
「第一 足固め(堅め)及び床束」
「足固めの上端を床板の仕上り面と同じにする場合には、『足固め』材の両側面の上端を床板が掛かる幅を板厚分欠きとる。これを『板决り(いた しゃくり)』と呼ぶ。
『足固め』の継手は『鯱(しゃち)継』とするのがよい。
第三十二図は、『足固め』の『四方差(しほう ざし)』の『鯱(しゃち)継』の仕口の解説図。
「柱」で「足固め」が交差するので、一方を『下小根(枘)』(図の【甲】)、他方は『上小根(枘)』(図の【乙】)とする。
『鯱(鯱)継』に代えて(『枘』を『柱』に差した後、『柱』の側面から)『込栓打ち』とすることもある。
一般に『鯱(しゃち)継」は、『鎌継』などのように上から落として継ぐことのできない場合に用いられる(作業は横方向の移動で済む)。
『大引』の『柱』への取付きは『枘差し』とし、『足固め』材に取付くときは、図の【丙】のように、『蟻枘差し』とする。
『床束』は、図の【丁】のように、上部は『足固め』『大引』に『枘差し』とし、下部は『沓石』に『太枘(だぼ)差し』とし、『束』相互に『根搦み(ねがらみ)貫』を差し通す。
『太枘(だぼ)』とは、『束柱』の径の1/3ぐらいの正方形で長さ1寸ほどの『枘』の一。
粗末な工事では、『根搦み(ねがらみ)貫』を通す代りに、『束』の側面に『貫材』を釘打ちとする。
『根太』は『大引』に『渡り欠き』で掛ける(図の【戌】)。」
注 『渡り欠き』:『渡り腮(わたり あご)』にするため木の一部を欠くこと。
『渡り腮(わたり あご)』:下図参照。
図の【カ】が『渡り欠き』 (「日本建築時彙 新訂版」より)
補註 この解説は、『足固め』の上面を仕上げの一部とする方法についてのもの。
縁側の『縁框』を『足固め』に兼用する場合などが、これにあたります。
一般には、『足固め』を設けても、床仕上げで隠してしまうのが普通ではないかと思います。
この方法では、『根太』は、その上端を『足固め』上端より床板の厚さ分低い位置に取付ける必要があり、
したがって『大引』は『足固め』の中腹に取付けることになります。
『大引』~『足固め』の仕口が『蟻枘差し』程度で済むためには、
『大引』断面が大きく、かつ、『束』が『大引』を確実に支持していることが必要。
そうでないと、『足固め』の際で、床が暴れてしまいます。
次は「軸の構造」
「第三十三図の【甲】のように、『柱』に『横差物』を『追入れ(おおいれ)』に納め、『追入れ』の深さを柱径の1/8程度とし、図の【(い)】のように『柱』の『枘穴』の左右の一部分を残し他を彫り取り、差し合わせる方法を『鴻の巣(こうのす)』(→注)と呼んでいる。
『鴻の巣』を『差物』の『成(せい):丈』に通して設けることもある。
『鴻の巣』は、『柱』の力を弱めることがなく、『差物』の曲(くるい):捩れを防ぎ、また【(ろ)】の穴底に『柱』を密接させ、『枘』を堅固にする効果がある。
注 「鴻の巣」 工人仲間の《常用語》 「日本建築辞彙」の解説をそのまま載せます。
第三十三図は、『二階梁』が『柱』に三方から取付く『三方差』の図。
【甲】のように、一方向:この場合『桁行』:では、『柱』を介して左右の材を『鯱(しゃち)継』で継ぎ、他方『梁行』は、『柱』に『小根(枘)』差しで取付け、【(に)】の穴から【(は)】に『込み栓』を打ち、『桁行』の右側の『材』に差すと、『梁』の【(ほ)】の欠きこみ部分を【(へ)】が通り、『鯱(しゃち)継』で左右の材が継がれることで、『梁」は抜けなくなる。
【乙】は『柱』への『根太掛(ねだ かけ)』けの取付け方。『根太掛』材に『襟輪欠き(えり わ がき)』を施し『柱』に取付け、『根太彫(ねだ ほり)』の穴から釘打ちで留める。
『隅柱』も同様に『襟輪欠き(えり わ がき)』をして大釘打ちとする。
『際根太(きわ ねだ)』は、『柱』に1寸ぐらい掛かるように掘り込み、その他の『根太』は1本置きに『二階梁』および『根太掛』などに【(ち)』のように『蟻掛』とする。」
注 『襟輪』:木材の組手継手などに於いて、一つの木の縁(ふち)に設けたる突出をいう。
「入輪(いりわ)」とも称す。 (「日本建築辞彙」より)
補注 『襟輪』は、材の捩れなどを防ぐための「目違い」の一と考えられます。
このような念入りな仕事は、最近見かけなくなりました。
「柱」に添えて釘打ちするだけで、「根太掛け」が少し掛かるように「柱」を欠きこむことさえしないようです。
補注 「梁行」にも「柱」を挟んで横材が伸びる場合が「四方差」です。
つまり「柱」に十文字に横材が架かる場合。
いわゆる『鴻の巣』は、「三方差」「四方差」の丁寧な刻みの例に過ぎず、
「三方差」「四方差」をすべてこのようにしなければならないわけではありません。
その意味で、最初に一番手の込んだ仕事を紹介することには、私は賛成いたしかねます。
継手・仕口は面倒だ、という誤解を生じる一因になってしまうからです。現にその気配が感じられます。
大事なことは、「原理」を知ることではないでしょうか。
単に《面倒で手の込んだ仕事を知っている》だけでは何の意味もない、と私は思います。
次回は「小屋組」についての解説になります。