現行法令の根底にある「思想」・・・・学界の木造建築観、耐震観

2009-06-27 11:08:18 | 構造の考え方

ここ50回ほど、再び「日本の建築技術」について見てきました。
現在の法令が進めている木造工法・技術と、ここで見てきたことが、まったく関係がないこと、つまり、わが国の建築技術の歴史上で断絶していること、そして現在の法令が進めている木造工法・技術は、長い時間をかけて培われてきた技術の蓄積を、無視・黙殺していることが分っていただけた、と思っています。

そこで、念のために、現在の法令を支えている建築の学界の考え方を、学界を代表する「日本建築学会」のホームページから抜粋して紹介します(これは以前にも紹介したことがあると思います)。

ホームページのなかに、「市民のための耐震工学講座」というのがあり、そのなかに、「一般の人びと」向けの「木造建築」についての「解説」が載っています(下記「目次」の「木造建築」の冒頭にある「木造軸組工法」の解説)。
以下は、その部分からの転載です。

上掲の図は、その「解説」中にある図27、図28を、下本である「構造用教材」から別途コピーしたものです。なお、「図28」の右側の仕口図は、ホームページにはありません。「考え方」を知るために同じく「構造用教材」から転載し追加したものです。
そしてこれが、先回私が「世界中のどこに出しても恥しい」と呼んだ木造軸組工法で、それがわが国の代表的建築教育用の教科書「構造用教材」に、モデルとして載っているのです。

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市民のための耐震工学講座

 1995年1月17日の阪神・淡路大震災では,木造住宅で多数の人々が犠牲になりました。また,鉄筋コンクリート造や鉄骨造のマンションも大きな被害をうけました。
 日本建築学会では,この地震による被害の調査結果やこれまでの耐震の研究成果を,住宅建設の現場や一般市民の方々に還元するために,文部省の科学研究費補助金をうけて,住宅の安全性に関するセミナーを全国的に開催しました。
 本書は,そのセミナーのテキストとして編集したものです。その構成として,前半では,地震と地盤および建物の構造に関する基礎的なことがらについて説明しています。後半は,今回の地震の被害状況の報告になっています。
 専門的なことがらを,できるだけ正しく伝えるように努力しましたが,説明不足のところや素人の方には難しいところがあると思います。しかし,本書を読むだけでも,相当の知識が得られるように配慮したつもりですのでできるだけ多くの方々に読んでいただいて,耐震について考える手がかりとしてくだされぱ幸いです。
 本書のために資料や写真を提供してくださった方々と編集に協力していただいた方々に感謝いたします。

目次

安全と安心について
阪神・淡路大震災の被害について
地震について
地盤について
建物について
木造(住宅について)
鉄筋コンクリート造
鉄骨造
新耐震基準について
防災について
地盤の被害
木造の被害
鉄筋コンクリート造の被害
鉄骨造の被害
火事災害
引用文献・編集委員会
   

木造は日本の豊富な森林資源を背景として,昔から現在まで日本の住宅生産において大きな役割を果たしてきています。そして現在では,木造のつくり方には大きく,木造軸組工法と木造枠組壁工法と木質パネルエ法があります。

木造軸組工法

 木造軸組工法は,図27,28のように柱と はり と すじかい が主要な部材で,地震の水平力に すじかい で耐える構造です。木造軸組工法は「在来工法」とも呼ぱれます。しかし,木造軸組工法と一つの工法のように言っていますが,厳密には一つの工法とは言えません。木造軸組工法は在来工法と呼ばれていることからも分かるように,昔からある様々なつくり方をまとめてそう呼んでいるのです。そのためにこの工法の中では,現在も地方的な差や技術的な幅があります。逆に考えると,そのように様々なつくり方や技術のレベルが存在していたために,阪神・淡路大震災では,在来工法の中に大きな被害をうけたものがでてしまったといえます。

 木造軸組工法の住宅が地震にあうと,柱,はり,すじかいで地震のカを受け持って,土台,アンカーボルト,基礎,地盤と力が伝わります。

図27 木造軸組構法の構造
図28 木造軸組構法の軸組
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編集:日本建築学会「わが家の地震対策」セミナー企画・編集委員会

日本建築学会(C)1995
このページは,日本建築学会編のリーフレット「わが家の地震対策」をもとに作成したものです。

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「前文」に、「専門的なことがらを,できるだけ正しく伝えるように努力しましたが,説明不足のところや素人の方には難しいところがあると思います。しかし,本書を読むだけでも,相当の知識が得られるように配慮したつもりです・・・・」とあります。
この「木造軸組工法」の「解説」を読まれて、「相当の知識」が得られたでしょうか?

これは「相当な代物」です。
もしこれが「学界」「学会」の共通認識だとするのならば、その「知性」のほどを疑われてもよいのではないか、と私は思います。
それとも、一般向けだからどうせ分らないだろう、とでもいうことなのでしょうか。

前段の木造軸組工法=在来工法、という解説も無茶苦茶ですが、それを超えて「すごい」のは、「木造軸組工法の住宅が地震にあうと,柱,はり,すじかいで地震のカを受け持って,土台,アンカーボルト,基礎,地盤と力が伝わります。」という部分です。

「地震の力」「地震の水平力」はいったいどこから来て「柱、梁、すじかい」にかかるのでしょうか。「重力」のように、いつでも物体にかかっている力なのでしょうか。

皆さまは、どのようにお考えですか。
「相当の知識」が得られたでしょうか。

いわゆる「耐震補強」も、こういう「考え方」の下で進められているのです。
ここでは載せませんが、この「解説」の続きにある「耐震診断法」で診断すると、ほとんどすべての「古建築」「古い農家住宅」「古い町家」・・・・は、過去の大地震で、とっくの昔に倒壊していなければなりません。


「おかしいもの」はおかしい、そういう声を高らかに発したいものです

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