ノムさん

この人

金曜の夜は、サッカーの試合を見ないで「野村克也物語」を見てしまった。
野村は現役の最後は西武ライオンズにいたんだけど、45歳の最後のシーズンの終盤、先発でマスクをかぶっていて、その試合は1試合で9個も盗塁を奪われるぐらいぼろぼろだったんだけど、チャンスで自分の打席が回ってきたときに自信があるのに若い選手(鈴木健)を代打に出されて、グランドを見ながら味方の攻撃なのに「失敗しろ、失敗しろ」と念じていた。その念が通じたのか鈴木が凡退したのを見て、「ざまあみろ」と思っている自分に気がついたとき、もう現役を続けられないと思ったという話。分かるなあ。
しんみりしちゃったよ。


この話をするとき、野村は本当に情けなさそうな顔をしていた。
よく強いチームでは、実力のある選手が自チームのライバル選手の失敗を心のなかで願うぐらい競争心が激しいものだということが言われるけど、この場合は、そんな格好のいい話ではないのだ。
インタビューのなかで、「43歳で一選手として拾ってもらったこと以外、自分には現役時代で何一つ誇れるものがない」と言ってたけど、あれは誇張でも韜晦でもなく本音だと思う。最後のどんつきまで行って、自分のほんとの姿を見たときに、「日本初の三冠王」も、「球史唯一の3千試合出場」も、「通産本塁打6百本以上」も、全部消えてしまった。そういうものが虚しいということが分かってしまった。「なんや俺?」と思ったんと違うかな。
でも、そんな場所まで自分から行く人は、きっとほとんどいない。王や長嶋なら、絶対こんな話にならないだろう。
頂点を極めた人なのに、そういう自分を見てしまう場所まであえて行ったというのは、すごいことだと思った。