そこには二人の王子があった。
兄は岩の塔のごとく静かに立ち、
父王の影を継ぐ者として人々に仰がれた。
弟は風の笛のように軽やかで、
王宮の調べを己の胸に響かせることはなかった。
その姫は光をまとうも、
王宮の律に馴染まぬ星であった。
されど弟の眼には、
その光が唯一の道しるべとなった。
こうして弟は、姫に導かれ、
波のかなたへと去り、
城には父王と兄王子とが残された。
そこにあったのは沈黙と嘆き、
そして空虚の鐘であった。
やがて父王の胸に病の影が差し、
国土を覆う霧のように広がった。
その報せは海を渡り、
弟の耳に届いた。
彼は灰色の門をくぐり、
父王の館の扉を叩いた。
ふたりは茶を分かち、
その盃より立ちのぼる湯気は、
風となって広間を満たし、
堅く閉ざされた扉に、
かすかなひびを刻んだ。
そのひびはやがて道となるのか、
あるいは石に吸い込まれて消えるのか。
それを知るのは、
ただ霧の向こうに住まう時のみであった。