もう10年くらい前になるが、とある漫画家のアシスタントをやっていた。
当時はまだリモートではなく、先生の仕事場にアシ数人が通っていた。
その数人のアシ仲間のひとりにスーパークソバイザーがいたのだった。
彼女はリアルで接しているぶんには普通で、仕事場では当たり障りのないオタク話を交わしていた。
さほど親しくはなかったが、当時のアシ仲間と先生とは皆SNSで繋がっていた。
そして彼女はネット上で華麗にスーパークソバイザーに変身するのである。
彼女のクソバイスには特徴があって、こっちが言ってもいないことを勝手に推測して二、三歩先回りしたアドバイスをし、そしてその方向が明後日に逸れているのだった。
たとえば私が「雨だけどこれから出かけなきゃ」と書き込むと「革は濡れると染みになるので革のカバンは持たないようにしてくださいね」とかリプしてくる。
こっちは革のカバンで出かけるとは一言も言ってない。しかし波風たてることでもないし「はーい。そうしまーす」と返信する。
どうってことないと言えばそうだが、これが頻発されるとじわじわと堪えてくるのである。
彼女はそんな実のないアドバイスを先生やアシ仲間にもしていたが、さらに恐ろしいのが漫画家、作家、声優などの著名人にも同様のクソバイスを繰り出していたのである。
ある著名人が「最近は折り畳み自転車で移動しています」と書き込めば「電車に乗るときは袋に入れてくださいね」などとリプを送る。
前述したがその人は「袋に入れてない」などとは一言も言っていない。
しかし著名人ともなればリプも膨大だしクソリプも日常茶飯事だろうし、彼女のクソバイスはほぼスルーされていた。
彼女の助言にもなっていない助言は端から見るぶんにはシュールな味わいを生んでいて、アシ仲間のひとりは彼女のクソバイスウォッチャーと化していた。
そんなアシ仲間がある日「ちょっとこれ!」とリンクを送ってきた。
飛んでみると、ある声優が彼女のクソバイスに「いいかげんにしてください。なんでそんなことばかり言ってくるんですか」とキレていたのだった。
これには血の気が引いた。自分が同じ立場だったら垢消して布団のなかで泣いて震える事態だった。
しかし数分後、声優はその発言を消し、彼女に「すいません。言い過ぎました」とリプをしてきた。
それに対して彼女は「わかってくれてよかったです」と言い放ち、その胆力の強さに震撼した…。
数年後、アシ先の先生がデジタルに移行をしたのを機に、彼女とは疎遠になり、SNSのフォローも切った。