耳介
耳介
耳介
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/02 03:06 UTC 版)
外観として目立つヒトの耳介は、体外の音波を集める集音器の機能を持ち、3,000Hzを中心に約10-15dBの音響利得があるとされる。耳介軟骨(弾性軟骨)に耳介筋と呼ばれる横紋筋が取り付き、その全体を皮膚が覆う構造をしている。ヒトの場合、この耳介筋は退化しているため、動かす事は難しい。耳介の下端には耳朶(耳垂)という柔らかい部分がある。一般的な形状として、前は1個の黄色繊維軟骨がもたらす複雑な浮き上がりの中にくぼみがあり、後ろは滑らかな凸状になっている。人によって見られるダーウィン結節(英語版)は、耳輪の下向きになった部分にある突起で、長い耳を持つ哺乳動物の耳の穂先に対応する。 ヒトの耳介は身体の中でも特徴的な形状をしており、成人後は基本的に変化しないので、まれに個体識別の材料となることもある。また、よく遺伝するので、DNAや血液型による親子鑑定が一般的となる前は、親子鑑定の材料として用いられていた。ただし、柔道、レスリング、相撲などの組技格闘技をすると、耳介がこすれて内出血を起こしやすく、これを繰り返すうちに耳全体が腫れ上がって形状が変わってしまう場合がある(耳介血腫)。 耳介の血流の変化は見て取りやすく、興奮時などには耳介が赤くなる場合がある。そのため、俗に興奮した際や強い羞恥を感じた際の比喩表現として「耳まで赤くなる」と言うことがあるが、冷気に曝された場合などにおいて、精神的な活動とは無関係に赤くなることもある。また、ヒトの身体の中では比較的凍傷になりやすい部分であり、寒冷地では耳介を保護する防寒具が用いられることがある。 ヒトだけでなくオランウータンやチンパンジーなど霊長類は、耳にあまり発達しておらず機能も持たないが識別に充分な大きさがある筋肉を持つ事が知られている。この未発達の筋肉は遺残構造(英語版)に当たり、理由はどうあれ耳介を動かせないこの筋肉は、生物学的機能を失ってしまったと言うことができ、近縁種間にある相同の証拠ともみなされる。なお、ヒトの中でも変異性があり、この筋肉を使って耳介を動かせる者もいる。この筋肉の目的は一般的なサルが持たない首を水平に回す能力で代替されており、これはある器官が備えた機能がのちに別の器官の機能に移ってしまう例に当たる。 美容整形手術によって耳を小さくしたり形を整えたりすることは耳介形成術(英語版)と言う。まれにある耳介が形成されない先天性閉鎖症や発達が小さい小耳症などへの対応として、耳介の再建も行われている。通常、肋骨部など身体の別の部位から軟骨を採取して耳の形に成形し、移植用皮膚や回転皮弁で覆う。近年ではラットの背中で耳介を発達させ、然るべき後に移植する方法もある。しかし、閉鎖症や未発達状態の耳介を持って生まれた新生児の抱える問題は外耳にとどまらず、三半規管の未発達や欠落、または奇形を伴うことがある。医学的な初期対処は、赤ちゃんの聴力や外耳道とともに三半規管の状態を調べる必要があり、その結果から耳介を含む耳全体の修復治療計画が立てられる。 20世紀後半までは、「サザエさん」や「ドラえもん」といった子供向け番組で、家族の年長者が耳介を引っ張るという児童虐待がしばしば見られたが、近年では自主規制によりあまり見られなくなっている。
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