昆虫の共生体
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/17 16:12 UTC 版)
ゴキブリやシロアリの多くは、窒素含有量が著しく低く、かつ難分解性の高分子化合物を主成分とする腐植質(朽木など)を主食としている。こうした食物は動物の生理的能力では十分利用することが難しいため、これらの昆虫は原生動物、担子菌、細菌といった微生物との共生系を発達させている。 スピロヘータはゴキブリやシロアリの腸内における微生物との共生系の中にも確認されているが、その機能は十分に解明されているとはいいがたい。しかし、オーストラリアに分布する最も原始的なシロアリであるムカシシロアリ Mastotermes darwiniensis では、非常に興味深い現象が確認されている。ゴキブリやシロアリの腸内のスピロヘータには自由生活するものと、共生原生動物に付着して生活するものがあるが、ムカシシロアリの腸に共生している多鞭毛虫の一種 Mixotricha paradoxa の細胞の表面には50万個体前後ものスピロヘータが付着して、あたかも繊毛のように見える。それらは実際に繊毛のような波うち運動を行っている。 M. paradoxa は運動をこの体表におびただしく付着したスピロヘータの運動に依存していることも知られている。この現象は細胞内小器官の起源の細胞内共生説を唱えたリン・マーギュリスの関心を引き、鞭毛(繊毛・波動毛)のスピロヘータ共生起源説のアイディアを引き出した。しかし、真核生物の鞭毛構造とスピロヘータの構造に著しい差があることなどから、ミトコンドリアや葉緑体の細胞内共生説のようには受け入れられておらず、定説化していない。真核生物の鞭毛の形成中心となっている中心体に独自の遺伝子があるという説が過去に提唱されたが、現在ではほぼ否定されている。今後鞭毛の起源に細胞内共生説が再浮上する可能性は完全には否定できないが、今日ではスピロヘータの共生体がそのまま鞭毛となったと見なすのは困難であると認識されている。
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