兵食
兵食
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/05/07 09:01 UTC 版)
「地方(「娑婆」を意味する軍隊用語)」生活と異なり特に身体や頭を使う軍隊生活において、日々の食事は食欲のみならず娯楽の観点からも特に大事な要素であった。そのため帝国陸軍の兵食には戦前の日本人が特に慣れ親しんでいた和食のみならず、洋食・肉食を積極的に取り入れた数百種類のメニュー、おやつ(デザート)といった嗜好品、飽きさせない副食の設定がされていた。 当時の大日本帝国の一般庶民、特に大多数を占めた第一次産業従事者の生活水準は総じて低く、また昭和期においても多くは伝統的な日本の生活を営んでいたため、徴兵により軍隊に入営(入隊)するそれら庶民層の新兵にとって、カツレツ・コロッケ・ハンバーグ(挽肉油焼)・フーカデン・ロールキャベツ(玉菜巻)・ビーフステーキ・オムレツ(ヲムレツ)・カレー(カレー、ライス/ライスカレー)・シチュー(スチウ/シチウ)・ドーナツ・フレンチトースト(焼パン牛乳かけ)といった「地方」生活と異なる帝国陸軍の豪華な食事・洋食は、兵舎のベッド(寝台)や本格的な洋服(軍服)と共に新鮮なものであった。 一例として、のちに「兵隊作家」となる棟田博は、昭和恐慌当時の1929年(昭和4年)1月から1930年(昭和5年)11月にかけて現役兵として在隊していた岡山歩兵第10連隊の兵食事情について、以下の如く懐古している。 「あの時代の一般家庭の食事にくらべると、たしかに当時の軍隊の食事は上等であり、ご馳走の名にふさわしいものだったと思う」 「こういう時代背景を思いあわせると、軍隊の兵食は、眉に唾をつけて聞きたくなるほどのゼイタクであったといえる」 「ぼくは、じかに聞いたわけではないが、Aは同年兵の仲良しに洩らしていたそうである。こんなうまいもの(たぶん、トンカツとかコロッケであったろう)は、うちの者は口にすることがない。わしだけこうして食べるのが辛い、と」(同じ内務班の初年兵Aについて) 情報量の少なかった戦前において、日本全国津々浦々への「国民食」の普及という観点からすると本書の影響は大きかった(#炊事場・調理員)。『軍隊調理法』および兵食について作家の山本七平は「おふくろの味という言葉があるが、当時の軍隊食は、まさに日本的平均おふくろの味であった」と、伊藤桂一は「元兵隊だった人たちは、この本の料理を通じて、当時を郷愁し、話題をゆたかにされるだろう」との言葉を残している。また、「天皇の料理番」こと秋山徳蔵が少年期当時に家業の関係で訪れた鯖江歩兵第36連隊将校集会所で初めて口にしたカツレツの味に衝撃を受け、これをきっかけに西洋料理人を志し、のちに宮内省大膳寮司厨長(宮内庁管理部大膳課主厨長)となったことが知られている。 なお、改訂昭和12年版『軍隊調理法』の前書きに 本書ハ軍隊兵食調理ニ關スル一般ノ原則竝標準ヲ示セルモノナルヲ以テ、之カ實施ニ當リテハ部隊ノ性質、土地、氣候、物資、設備、嗜好等ニ應シ適宜斟酌ヲ加ヘ克ク其ノ實状ニ適應セシムルモノトス — 『軍隊調理法』 とある通り、『軍隊調理法』はあくまで合理的な参考レシピであり、帝国陸軍においては同じ料理であっても各部隊等によってある程度の独自性・個性がありバラエティ豊かなものであった。
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