下流への影響
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/16 15:31 UTC 版)
H19を発現しない膀胱がん細胞株T24PをCMVプロモーターの制御下でH19を発現するDNAコンストラクトでトランスフェクションすると、元のT24P細胞やH19アンチセンスDNAコンストラクトをトランスフェクションしたT24P細胞と比較して多くの変化が生じる。これら3つの細胞株は10% FCS(正常条件)での増殖に差はみられないが、0.1% FCS(飢餓血清)で生育を行うと、H19をトランスフェクションした細胞では生育速度が維持されるのに対し、他の2つの細胞株では増殖速度が約50%低下する。 3つの細胞株で0.1% FCS培地中でのp57の誘導を測定したところ、コントロールとアンチセンスH19トランスフェクション細胞ではp57が大きくアップレギュレーションされるのに対し、H19トランスフェクション細胞では10% FCSと比較して0.1% FCSにおけるp57の大きなダウンレギュレーションがみられる。さらに、細胞周期のS期の進行に必要なPCNA(英語版)の発現は3つの細胞株全てで大きくダウンレギュレーションされているが、コントロールとアンチセンスH19トランスフェクション細胞では約80–90%低下しているのに対し、H19トランスフェクション細胞ではわずかに30%であった。 H19トランスフェクション細胞とアンチセンスH19トランスフェクション細胞で発現している遺伝子の違いを調べたところ、以下がアップレギュレーションされていた。uPar(英語版)、c-src、TYK2(英語版)、c-jun(英語版)、JNK1(英語版)、JAK1(英語版)、TNF-α、インターロイキン-6、HB-EGF(英語版)、ICAM-1、NF-κB、エフリンA4(英語版)、エズリンなどである。また、アンギオゲニン(英語版)やFGF18(英語版)がH19 RNAの転写標的である可能性も示唆されている。H19 RNAによってアップレギュレーションされる遺伝子が関与する機能やシグナル伝達経路を明らかにした結果からは、H19 RNAが腫瘍形成において組織の浸潤、遊走、血管新生に重要な役割を果たしていることが示唆されている。 また、H19の過剰発現はチオレドキシンを転写後段階で正に調節していることも発見されている。チオレドキシンは細胞内の代謝と関係した酸化還元反応に不可欠なタンパク質であり、H19 RNAを過剰発現しているがん組織ではしばしば高レベルで検出される。
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