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レオ・ベルサーニへの手紙

2010年04月10日 11:05


啓、レオ・ベルサーニさま

は大学・大学院をとおして性愛の研究をし続けてきました。
性愛を研究しはじめたのは、まずは男女間の性愛にすごく暴力
性を感じたからでした。男女役割を強制し、異性愛を強制し、
男性が加害者になり、女性が被害者になる。当時熱心に読んで
いたラディカルフェミニズムは、いっけん平等に見える男女間
の関係も、性愛行為そのもに強制が含まれているので、強制に
なると過激なことを言っていました。でも僕の感覚にすごくフィ
ットした。こんな感覚を僕は子供のころからずっともっていて、
ずっとこだわってきました。なぜか深い罪の意識がありました。

学生になって、これと同じ強制によって苦しむ同性愛者やト
ランスジェンダーたちと出会いました。そして僕は読むのがしんど
い英語の本を手にとって、Leo Bersaniさんを勉強したのです。ベル
サーニさんは同性愛者のおっちゃんです。文学研究者。ユリス・デュ
トワというパートナーといっしょに現代美術批評とかも書いていま
す。生殖行為なしの性愛行為(アナルセックス)を行う同性愛者た
ちの共同体をモデルにして、新しい世界を構想しようとするとする、
とんでもないおやじに見えました。

殖なき性愛による共同体。いま思うと、ベルサーニさんは子供を
生まず育てないことで、孤独になり、孤独とともに生きること
を(思想的に)選んだ人なのだと思います。ベルサーニさんは、
エイズ危機のどまんなかで、アナルセックスがHIV感染経路とさ
れ、差別がふきあれるのをみながら、「同性愛者たちよもっと
もっとアナルセックスをしよう!」と叫びました。「直腸は精
子(生殖細胞)が死ぬ墓場である」と。

ルサーニさんは、美術批評も書きまくりました。作品を読む人
や見る人は、異性愛者だったり、異性愛の物語を投影したりする。こ
れはいかん。強制を帯びていると言っておられました。そこで、
ベルサーニさんは、批評をつうじて、読み手がぜんぜん作品に
感情移入できないようにしてしいます。異性愛の物語なんてな
かったことにさせてしまうのです。物語が剥ぎ取られた後に残
る、むき出しの形、色、複製に、読者の感覚を直面させる。そ
うして、異性愛の物語をこわして、性愛だけが残されました。

ルサーニさんによると、性愛の本質はマゾヒズムであり、孤独
です。性愛は他者と理解しあうことではない。ましてや、男女
間の対等な関係なんて存在しない。性愛は、他者が理解できな
いという孤独を深めさせるもの。貧困と孤独が、豊かな性愛で
あるという逆接が性愛の本質なのですね。

のベルサーニさんの美術批評から僕が学んだのは、次世代再
生産(生殖)を想定しないでセックスを楽しむことであり(ヘ
テロである僕には不可能だ!)、次世代再生産に奉仕すること
なく、孤独を保つことでした。セクシャルマイノリティである
こと、単独者であること。このベルサーニさんのちょっとおばかで
真摯な生き方にふれて、かつて僕の罪の意識は少しだけ軽くな
りました(ヘテロ世界を変えないかぎり、ずっと有罪ではある)。

はいまでもベルサーニさんの言っていることは本質的だと感じ
ます。かりに僕が子をもち育てることがあったとしても、ベル
サーニさんを読んで救済されたときの感覚を忘れないようにし
たいです。健常者と障害者の差が残るように、ヘテロとセクシ
ャルマイノリティの差も残ります。僕が僕の中にある強制力と
向き合い、健常者性と向き合い、異性愛主義と向き合い、その
他もろもろと向き合うためには、大学の研究室で辞書を片手に
ベルサーニさんを読んだ時間を、忘れてはいけないのだと思い
ます。それは僕がいま一緒にいる仲間たちと生活するために、
本当に必要なことです。セクシャルマイノリティ、単独者であ
ることを選ぶとしたら、生きることは本当にしんどく豊かにな
るにちがいありません。結婚制度反対とか言いながら、パート
ナーと籍を入れるフェミニスト学者の欺瞞はもう見あきた! 
単独者であるといいながら子供二人を育てる哲学者の欺瞞もし
んどい! 僕はどのような欺瞞をもつのでしょうか? どのよ
うな生活を組み立てられるだろうか? ありがとう、ベルサー
ニさん。


コメント

  1. あんがぶ | URL | -

    なんでたーしさんの知ってるフェミニストさんは、入籍するのでしょうか

  2. screendrock | URL | -

    なぜでしょうね。フェミニストという点では女性の利害や思想を負っていても、階級(所得とライフスタイルと意識)が違うからでしょうかね。そういえば、セクハラ・パワハラ・アカハラ防止ガイドラインをつくろうとしていたら、「教員が言っても聞いてくれないわよ。学生さんがんばって」と言ったフェミニスト研究者がいました。まったく切ないです。

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