第211回コラム「うまく教える、うまく教わる」
上塚 朋子
新年度が始まり、新しい入職者を迎えた職場も多いのではないでしょうか?これまで多くの新入職を迎え、研修に携わってきたものの、毎年毎年達成感よりも反省点が多いのが現状です。何を教えるかについては、ある程度定まったものがあるので、大きく悩むことはないのですが、年々その内容は増加し、複雑になっているところに問題はあると認識はしています。一方どのように教えるかについては、万能な方法は存在せず、一つの方法が良いと信じて試してみても、うまくいったり行かなかったりと難しさを感じます。何年たっても永遠に解決しないのではないかといった、今も昔も共通の悩みがある一方、近年変化している悩みもあると感じています。これは、私個人だけではなく、他施設の薬剤師や職場の看護師などの他職種からも同じ悩みが聞かれます。ある日、書店で「若者に辞められると困るので、強く言えません」というタイトルが目に留まりました。
自分自身は厳しい指導、別の表現をすれば雑な指導を受けてきた世代ですが、自らが受けてきた指導法のままで部下を教えればよいという時代ではなくなってきているというところに難しさがあります。といって、嘆いていても時が過ぎるだけで、何も解決しないので、上司自身が変わっていくしかないことになります。
前述の書籍で一番印象に残ったのは、「経験から学ぶのだから、“とりあえず”やってみるには注意が必要。まず先に、見通しを立てさせる」というところです。挑戦する仕事に対して、遂行に必要な基本的知識は備わっているか?を事前に確認することが重要になります。基本的知識がない場合には、先も見通せず、結果失敗に終わったり、ダメ出しをされたりして、自信を喪失するという展開になりがちです。そして、新しい仕事に挑戦するのが怖くなる・積極性がなくなるという負のスパイラルに陥る。そうならないように、見通しを立てるところは丁寧に部下に問いかけながら、明確化させる。その中で紹介されている問いかけのコツは、尋問にならないような柔らかい表現で質問していくこと。そして適宜助け舟をだすこと。見通しを立てた後で取り組むメリットとしては、事前に見通せなかった質の高い気付きを得ることができることが挙げられています。例えば事前の下調べなく聞いた講演会と、タイトルから事前に内容を予想して、自分に必要な情報はどんなことだろうと準備して臨んだ講演会からの気づきの違いを想像すれば、見通しを立てることの意義に納得いただけるのではないでしょうか?
ただ、この書籍を読み終わっても、なんだか私の中ではモヤモヤが残っていました。そして偶然、目に留まったオンラインの記事を読んで、必要なのはこちらなのかもしれないと思ったのです。「教えられ上手になるために」というタイトルで、研修医としてより多くの学びを得るためのテクニックが挙げられていました。私自身はここ数年、教える側がどうするべきかについて考えてきましたが、教わる側がこの記事を読んで学ぶことで得るものは大きいし、それによって教える側との相互作用も良い方向に働くのではないかと。紙面の都合上抜粋してお伝えするので、興味があれば引用元の記事をご覧ください。
<教えられ上手になるための6つのテクニック>
・明るい表情・反応・相づち
・積極性・旺盛な好奇心
・率直さ・素直さ
・アクティブにメモを取る
・迅速な自主トレ
・報告と感謝
いかがでしょうか?教えられる側としては、入職同期が複数人いる場合、自分のプリセプターより他人のプリセプターがよく見えて、自分より他人のほうがうまく教えてもらっていると思うこともあるかと思いますが、上記テクニックを身に付ければ研修の効果も高まると思います。薬剤師として身に付けなければいけないことは山のようにありますが、より効果的に研修をすすめていくうえで、この情報が参考になれば幸いです。
参考:横山信弘、若者に辞められると困るので強く言えません、東洋経済新報社
松尾貴公、連載 医学界新聞プラス レジデントのためのビジネススキル・マナー、第2回教えられ上手になるために、https://www.igaku-shoin.co.jp/paper/archive/y2024/rbm_02
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