第176回コラム「オピオイド・クライシスへの対応 」
磯 友菜,PharmD
オピオイド・クライシス
アメリカでは、2019年の薬物の過剰摂取による死亡者数は71,125人にのぼります。1) アメリカでの薬物使用の問題は、違法薬物だけでなく、処方による薬物の誤使用も含まれ、2017年に「オピオイド・クライシスは公衆衛生上の緊急事態である」と大統領宣言が出されました。2018年には推定1,030万人が過去一年間にオピオイドを誤使用し、そのうち990万人は処方された鎮痛薬を誤使用したと報告されています。2)このオピオイド・クライシスに対応するため、アメリカでは様々な取り組みがなされています。ここではその一部を紹介させていただきます。
オピオイドスチュワードシップ
オピオイドスチュワードシップとは、他職種連携により安全で適切なオピオイドの使用を推進し、患者アウトカムを向上するための取り組みで、(1)オピオイドの適切な処方と代替薬の推進、(2)医師と患者への教育、(3)オピオイドの不正使用のリスク評価、(4)オピオイドが処方されている患者の適切な監視などが重要な項目として含まれています。3,4) テキサス州にある私の勤務する病院の薬剤部では、オピオイドスチュワードシップの一環として、オピオイドの頓用処方の重複を減らす取り組みをしています。オピオイドの頓用処方が重複している場合、電子カルテと連動したモニタリングシステムから、オピオイドスチュワードシップ担当薬剤師のポケットベルにアラートが送られます。また薬剤師は、処方監査時に重複処方を見つけた場合、薬剤師の判断で一方の処方を中止する、重複したオーダーをリンクして投与時に一方しか投与できないようにオーダーを変更する、または投与指示をオーダーに明記することなどが病院の方針で許可されています。
処方せんモニタリングプログラム (PMP)
処方せんモニタリングプログラムとは、州内で規制薬物の処方せんを追跡する電子報告システムで、処方状況、投薬状況、処方薬の使用状況の収集、分析、報告を促進するもので、様々な医療機関を受診して処方箋をもらっている患者の減少、ハイリスク薬の多剤併用の発見と防止、州内の処方せんデータの共有などを目的にしています。5,6)テキサス州では、外来患者に規制薬を投薬する全ての薬剤師は、PMPデータベースに処方情報を投薬後1日以内に報告することが義務付けられており、また、薬剤師と処方する医師は、処方や投薬前に患者の過去のPMP情報を確認する必要があります。これはオピオイドだけではなく、ベンゾジアゼピン系やバルビツール酸系薬なども含まれます。テキサスのPMPではNarxスコア、過剰投与リスクスコアや付加リスク指標を確認することができます。7,8,9)
- Narxスコアは規制薬物の使用を相対的に表したスコアで、オピオイド、鎮静剤、中枢神経刺激薬ごとに000から999で表されます。最後の数字は使用中の薬の数、最初の二桁はPMPデータに存在する危険因子を0〜99の範囲の値に変換されます。少ない薬を限られた医師や薬局から処方されている場合は低スコアになり、たくさんの薬を様々な医師から処方され、重複処方がある場合は高スコアになります。
- 過剰投与リスクスコアは意図しない過剰投与による死亡の予測値で、000から999で表されます。スコアが100ポイント増えるごとにリスクはおよそ2倍になるとされています。
- 付加リスク指標は有害事象の指標で、以下の3つの項目が含まれます。
- 1年以内に5人以上の医師からの処方
- 90日以内に4つ以上の薬局からの投薬
- 過去2年間で平均40MEDD(Morphine Equivalent Daily Dose)以上かつ合計100MME(Morphine Milligram Equivalent)以上のオピオイドの使用
最後に
アメリカでは、オピオイド・クライシスに対応するために、さまざまな取り組みがなされています。その中で、薬剤の適切な使用のために、薬剤師はとても大きな役割を担っています。日本でもオキシコドンの慢性疼痛に対して適応が通り、これから少しずつオピオイド処方の機会が広がるかもしれません。その中で、薬剤師の役割は、病院や薬局での薬物使用のモニタリングだけではなく、公衆衛生の向上にも寄与することが求められています。
参考文献:
- CDC National Center for Health Statistics. Vital Statistics Rapid Release - Provisional Drug Overdose Data. https://www.cdc.gov/nchs/nvss/vsrr/drug-overdose-data.htm. Published September 16, 2020. Accessed November 7, 2020.
- Substance Abuse and Mental Health Services Administration. (2019). Key substance use and mental health indicators in the United States: Results from the 2018 National Survey on Drug Use and Health (HHS Publication No. PEP19-5068, NSDUH Series H-54). Rockville, MD: Center for Behavioral Health Statistics and Quality, Substance Abuse and Mental Health Services Administration. Retrieved from https://www.samhsa.gov/data/
- Clifford T. Opioid Stewardship. J Perianesth Nurs. 2017;32(4):377-378. doi:10.1016/j.jopan.2017.05.002
- Perrone J, Weiner SG, Nelson LS. Stewarding Recovery from the Opioid Crisis Through Health System Initiatives. West J Emerg Med. 2019;20(2):198-202. doi:10.5811/westjem.2018.11.39013
- CDC. Prescription Drug Monitoring Programs (PDMPs). https://www.cdc.gov/drugoverdose/pdmp/states.html. Published June 10, 2020. Accessed November 7, 2020.
- Prescription Drug Monitoring Program Training and Technical Assistance Center. https://www.pdmpassist.org/. Accessed November 7, 2020.
- Texas Prescription Monitoring Program (PMP) - NarxCare. https://www.pharmacy.texas.gov/PMP/Narxcare.asp. Accessed November 7, 2020.
- Explain the Overdose Risk Score. Retrieved from https://texas.pmpaware.net/narx-content/content/narxcare2/explain-overdose-risk-score.pdf. Accessed November 7, 2020.
- Texas Prescription Monitoring Program - Requestor User Support Manual. Retrieved from https://d1b1sdx6nwlphm.cloudfront.net/aware/tx_aws_prod/narxcare_user_guide.pdf. Accessed November 7, 2020.
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