東京駅(概説・その1) - 京葉線新東京トンネル(18)



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■NATMトンネル:0km225m08~0km297m73(L=72.65m)
▼参考
京葉線工事誌 833~835ページ
京葉都心線東京地下駅の施工 建設の機械化1989年1月号 22~29ページ

工期:工事誌その他資料に記載なし(隣接工区の工期より1987(昭和62)年~1988(平成元)年頃と思われる)

●概説

NATMトンネルの位置(京葉線工事誌835ページ 図3-8-11を元に作成)
(C)国土交通省 国土情報ウェブマッピングシステムカラー空中写真データ(平成元年)に筆者が加筆


MFシールド工法で建設された京橋トンネルを抜けると、そこは京葉都心線の終点東京駅構内である。京葉線の東京地下駅は横須賀線・総武快速線のと同じ島式ホーム2面4線の構造であるが、同線の東京地下駅とは異なり全列車が折り返すため駅の入口に上下線間の両渡り(ダブルクロス)分岐器を置き、上下線がそれぞれ2線ずつに分岐するだけの単純な構造となっている。この両渡り分岐器を置く区間は大都市の地下鉄道では初となるNATM工法で建設された。
NATM工法(New Austrian Tunneling Method:新オーストリアトンネル工法)は1960年代にヨーロッパで開発されたトンネルの掘削技術で、主に山岳トンネルの建設に使用されている。日本では難工事を極めたことで有名な上越新幹線中山トンネルで初めて採用され、以後トンネル建設の安全性・耐久性・施工スピードの向上に貢献している。一般的なNATM工法の流れは以下の通り。


NATM工法の手順 ※クリックで拡大

1、発破や重機により地山を掘削する。
2、掘削した土砂(ズリ)を速やかに搬出し、壁面にコンクリートを吹き付ける。
3、吹き付けたコンクリートが固まったらトンネル中心から壁面に向かって放射状にロックボルトを打ち込む。
4、さらに壁面にコンクリートを打ち、内面を仕上げる。

従来の工法では地山を掘削した後、崩壊を防止するため一時的に鋼材や木材による支保工により壁面を支えていた。しかし、この支保工は完成後トンネル壁面に埋め込まれてしまうため、地下水などにより腐食して空洞ができると壁面に亀裂が入ったりトンネル全体が変形するという欠点があり、トンネル自体の寿命にも少なからず影響を与えていた。NATM工法では支保工を造らない代わりに吹き付けコンクリートとロックボルトでトンネルと地山を一体化し、強度を得ている。NATM工法は山岳トンネルでの施工が中心となっているが、その理由はこのように地山の強度を利用するためであり、今回のような軟弱な沖積層や被圧地下水がある場所では別に何らかの補強をする必要がある。


京葉線東京駅で採用されたサイロット工法(左)とCD工法の比較(右)。丸囲みの数字は掘削順序を示す。

この京葉線東京駅のNATMトンネルではまず基本となる工法として「サイロット工法(側壁導坑先進工法)」と「CD工法(中壁分割工法)」の2種類が検討された。前者はトンネル幅方向を3分割し、左右(側壁)部分を掘削した後中央部を掘削するのに対し、後者は2分割とし左右片方ずつ掘削するものである。これら2つの工法について有限要素法(FEM)解析によりシミュレーションを行ったところ、前者のサイロット工法が地表面の沈下量が25%少ないという結果となったためこちらが採用された。なお、実際の工事ではトンネル幅方向を3分割するのに加え、側壁を上下2段、中央部を3段へさらに細分化して掘削が行われている。
また、前述のような不安定な地盤の状況を考慮し、以下のような補助工法が併用された。


NATMトンネルの位置と補助工法の概略

1、泥水固化壁
NATMトンネル両側にセメントを壁状に注入する泥水固化壁により地下水の流入や地盤の崩壊を防止した。なお、ビルに近接していて壁が形成できない部分については後述する薬液注入で連続性を確保した。

2、垂直縫地ボルト
このNATMトンネルの直上は隣接する京橋トンネルの坑外設備を設置するため地表面から10mの深さまで掘削されている。NATMトンネルを掘削する際はこの掘削底面から地盤の緩みを防止する目的で長さ20m(トンネル中央までの深度に相当)の垂直縫地ボルトを打ち込んだ。これは山岳トンネルにおけるロックボルトと同じ働きをする。

3、薬液注入
このNATMトンネルは現場のレイアウトの関係上区間の両端ではなく東京駅側からおよそ21mの位置に設けられた直径6mの中間立坑から切り拡げる形で行われた。この中間立坑や到達立坑の近傍、前述のビルに近接していて泥水固化壁が施工できない部分についてはこの薬液注入で地盤を強化した。

4、地下水低下
トンネル下部の被圧地下水を減少させるため、ディープウェル(深井戸)により地下水位を低下させた。

トンネル壁面の厚さは吹き付けコンクリートが20cm、鉄筋コンクリートが80cmの合計1mとNATMトンネルとしては異例ともいえる強固な造りとなっている。(一般的なNATMトンネルの覆工厚はだいたい30~50cm程度。)このような構造となったのは将来周囲でのライフライン整備や高層ビルの建設に伴う大規模な掘削を想定し、シールドトンネルと同等の強度を確保したためである。

このようにイレギュラーともいえる工法を多数併用していることを考慮すると、この区間では開削工法の方がコストや手間の面で有利であったのではないかと思えてしまう。そのような状況であえてNATM工法を採用したのはこれまで何度か述べてきた通り地上の鍛冶橋通りの幅員が狭いことや、駅の入口であるため線路間隔が広がる(トンネルの幅も広げる必要がある)ためである。

▼参考:CD工法について
三井住友建設 技術情報 - CD-NATM

■東京駅:-0km224m66~0km225m08(L=449.74m)
 (首都高速八重洲トンネルアンダーピニング区間:L≒72m)

▼参考
京葉線工事誌 841~848ページ
京葉都心線東京地下駅の施工 建設の機械化1989年1月号 22~29ページ

工期:工事誌その他資料に記載なし(隣接工区の工期より1985(昭和60)年~1988(平成元)年頃と思われる)

●概説

鍛冶橋交差点と首都高速・京葉線の交差状況(京葉線工事誌841ページ 図3-8-20を元に作成)
(C)国土交通省 国土情報ウェブマッピングシステムカラー空中写真データ(平成元年)に筆者が加筆


NATMトンネルの先は東京地下駅の終端まで全て開削工法での施工となる。開削区間に入って直後に交差するのが首都高速八重洲線八重洲トンネル(首都高速4号線)である。この首都高速八重洲トンネルは京葉線と交差する鍛冶橋交差点直下で丸の内出口のランプと交差点脇にある鍛冶橋換気所(換気塔)へのダクトが分岐しており、さらにその周りを深度が異なる東京電力の共同溝が取り巻くという非常に複雑な構造となっている。


京葉線と八重洲トンネルの交差状況(断面図)。左が新木場方面、右が東京駅方面を示す。
(京葉線工事誌848ページ 図3-8-24を元に作成)


この首都高速直下のトンネル建設は場所により必要とされる支持条件が大きく異なるため、土砂部(トンネルが無い部分)、八重洲トンネル上り、下り、換気ダクト部の4種類についてそれぞれ別々に設計を行った。実際の工事ではまず八重洲トンネル・東電共同溝の両側を掘削し、そこからトンネル下に5m間隔で幅3mの小トンネル(導坑)を掘削した。(東電共同溝の下についてはパイプルーフ工法を併用。)その後この小トンネル内から地下へ向けて5m前後の間隔で仮受け杭を打ち込み、杭の頭頂面とトンネル底面の間に油圧ジャッキを挿入して八重洲トンネルの躯体を支えながら周囲の残った土砂を掘削し、その下に京葉線のトンネル躯体を建設した。八重洲トンネルと東電共同溝を合わせた総重量は実に5万トンにも及び、八重洲トンネル躯体の鉄筋の方向と仮受け杭の位置が一致しないなど不確定な要素も多数あったが、八重洲トンネルや換気ダクトの躯体が非常に強固であったことが幸いし、最終的な沈下量は理論値2.2mmに対し実測値2.4mmとほぼ計算通りの結果となった。京葉線のトンネル躯体構築が完了した後は油圧ジャッキをナットで締め付け、八重洲トンネル躯体との間にコンクリートを充填した。(したがって、ジャッキはこのコンクリート内部に埋め込まれている。)このコンクリートは京葉線躯体への負担を極力低減するため、発泡モルタルとコンクリートの組み合わせ材料となっている。

(つづく)
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