ジーナ・バッカウアー ~ ブラームス/ピアノ協奏曲第2番
難曲の代名詞のようなブラームスの《ピアノ協奏曲第2番》を録音している女性ピアニストは、意外に多い。
私が調べた限りでは、録音の古い順に、エリー・ナイ、モニク・ドゥ・ラ・ブリュショルリ、マイラ・ヘス、ジーナ・バッカウアー、セシル・ウーセ、アンネローゼ・シュミット、アリシア・デ・ラローチャ、エリザベート・レオンスカヤ、最新録音はエレーヌ・グリモー。
男性ピアニスト並みの技巧とパワーを持つアルゲリッチは、なぜか録音していない。(この曲は、アルゲリッチにはあまり似合わないような気がするし..)
個人的な印象としては、メカニックが安定しているのは、バッカウアーとウーセ。
バッカウアーの方が強靭でパワフルでスケール感があり、情緒表現はさっぱりして、演奏に甘さがない。
ウーセはバッカウアーよりも、ややフォルテの和音でタッチの切れが鈍くて重たい感じがするし、力感・量感で少し落ちる。緩徐部分はテンポが落ちて、ややベタっともたれた歌いまわしになる。
ブルショルリとレオンスカヤはパワフルでメカニックはかなり良いけれど、強奏部分のタッチに粗さを感じるし、レオンスカヤのルバートがかったような粘りのあるタッチとリズムがあまり好きではない。
ナイ、ヘス、ラローチャは、技術的にもともとかなり苦しい上に、ライブ録音なのでキズが多い。ラローチャは手の小さいので、和音が続くパッセージで、和音がアルペジオのようになったりスタッカート気味になったりして、変わった響きに聴こえるのが、私にはかなり気になる。
シュミットは、切れ良くシャープなタッチが冴えているが、線が細くて鋭角的なので、神経にひっかるような感じがする。(全曲聴いていないので、難所をどう弾いているのかわからない)
グリモーのブラームスは、もともとテンポが遅い上に、難所はさらにテンポが落ちてもたもた感があり、技巧的にはかなり聴きづらい。(その上、ソロと同様”女性”を感じるブラームスなので、残念ながら私の好みとは違っていた)
この中で一番気に好きなのは、バッカウアー。
バッカウアーは、ギリシャ出身のピアニストギリシャのイレーネ王女のピアノ教師をしていたこともある。
ステージ姿は女優のように華やかで美しく、パワフルでスケール感と風格のある演奏と相まって、”鍵盤の女王”とも言われていたらしい。
米国で開催されている「ジーナ・バッカウアー国際ピアノコンクール」は、クライバーンコンクールに次ぐ規模で、最近の優勝者では、ニコラ・アンゲリッシュがいる。
バッカウアーの十八番が、このブラームスの《ピアノ協奏曲第2番》。
それだけあって、男性ピアニストと比べても遜色ないメカニック、力感・量感豊かな音、速いテンポで難所でもテンポがほとんど落ちず、技巧面ではストレスなく聴ける。
2種類の録音があり、マーキュリー盤とチェスキー盤でいずれもオケはロンドン響。
指揮者が異なり、スタニスラフ・スクロヴァチェフスキ(1962年録音)とドラティ(1967年録音)。ドラティにとっては、この曲での唯一の録音。
演奏時間や音質はかなり違う。楽章順の演奏時間は以下の通り。全楽章とも再録音の1967年盤がテンポがかなり遅くなっている。
スクロヴァチェフスキ指揮盤(1962) 16:26/8:29/10:09/8:53
ドラティ指揮盤(1967) 17:55/9:10/12:39/9:33
スクロヴァチェフスキ指揮盤(1962年)
スクロヴァチェフスキ盤は、『Mercury Living Presence』シリーズとしてリリースされており、1962年の録音にしては音質がとても良い。
カッチェンのDECCA盤も同じ頃の録音なので、聴き比べてみると、Mercury盤の音質の良さがよくわかる。
ヘッドフォンで聴いても、全く古ぼけた感じはせず、クリアで臨場感豊かな音質なので、ストレスなく聴ける。
バッカウアー全盛期の録音だけあって、全体的にドラティ盤よりもずっとテンポが速く、打鍵もリズムも切れ良く、力感・量感とも充分。
速いテンポで、ルバートも多用せず、力強いタッチで突き進んでいく演奏は、女性ピアニストが弾いているとは思えないくらい。
難所の和音が連続するフォルティッシモでも、女性ピアニストにありがちなバンバンと鍵盤を叩くことも、もたもたすることもない。
テンポを落とさず、タッチの切れ味もよく、技巧的な余裕を感じさせるほどに、スラスラと弾いている。
(ところどころミスタッチが残っているのは、LP化する時にほとんど編集していなかったせい?)
若い頃のポートレートを見ると、気品漂うかなりの美人。
外見はかなり細身で、パワーがあるようには見えないけれど、これだけ豊かな音量のフォルテを速いテンポの和音移動でも出せるのは、腕力が思いのほか強いのか、奏法によるものなのか、よくわからなかった。
でも、CDジャケットの写真をよく見ると、腕の筋肉の太さは尋常ではない...。上半身も結構ボリュームがあるし、あれだけ力強いブラームスが弾けるのも納得。
バッカウアーの演奏は、メカニックの良さだけではなく、一音一音明瞭な粒立ちの良いやや硬質のタッチで、刃物のような鋭い切れ味があり、和音が連続していても音が混濁せず。
ルバートを多用せずほぼインテンポで弾き、リズミカルで引き締まった演奏には強い推進力があり、淀むことがない。
ブラームス的なほの暗い陰影や重たさはあまり感じないけれど、力感豊かで決然とした演奏は男性的で爽快。
特に、第2楽章は、一気呵成に弾きこんでいき迫力十分。
緩徐部分や緩徐楽章でも、情感たっぷりのもたれた表現はせず、さっぱりとした叙情感は品良くて清々しい。(第3楽章の中盤部分は、テンポが速くてフォルテも力強すぎて、ちょっと騒々しくはあるけれど)
第4楽章も、切れ良いタッチとリズムで、快活明瞭。
こういうブラームスを弾く人は今では少ないのだろうけれど、これは私の好きなタイプのブラームス。
GINA BACHAUER, PIANO BRAHMS -- PIANO CONCERTO NO. 2 1962
カップリング曲は、ブラームスのパガニーニ変奏曲、リストのハンガリー狂詩曲第12番、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第9番。
タイプの異なる曲が多くて、これも面白い。好きなベートーヴェンの初期ソナタの第9番は、ブラームス演奏とは違った愛らしさがある。
(リーフレットに、”オリジナル・マスターテープからリマスタリングしているが、ピアノ協奏曲だけはマスターテープのコピーを使用”という旨の記載がある)
ドラティ指揮盤
1967年の再録音。残響がやや多くなり、音響的な重層感と流麗さが強くなった気がする。
加齢による技術的な問題のせいか、演奏解釈が多少変わったのか、指揮者の違いも影響しているのか、テンポが旧盤よりも遅くなっている。(それでも、かなり速い)
旧盤のような白熱感や一気呵成の迫力がやや薄くなった代わりに、タッチが明瞭で一音一音芯のしっかりした張りのある音と演奏には、揺ぎ無い堅牢さと強靭さがある。
難所では技巧的に多少落ちているような感じはしたけれど、全体的にはメカニックの安定感と豊かな力感・量感はほとんど変わらない。
緩徐部は、若干表現が柔らかくしっとりとした叙情感が強くなっている。
といっても、ロマン派のコンチェルトだからといって、ルパートを多用したり情緒的にもたれたりするようなことはなく、しなしなウェットな甘さがないところは、旧録と変わらず。
明晰で冗長さの全くない引き締まった演奏は、古典的な造形美さえ感じさせる。
第3楽章は、スクロヴァチェフスキ盤よりも2分半以上も長い。
特に旧盤と違うのは、曲半ばあたりでクレシェンドして盛り上がっていく部分。
それほどテンポを速めず、フォルテのタッチも穏やかで騒々しさもなく、じっくりと弾きこんでいるところ。
第3楽章は、この新盤の方が落ち着いた深い叙情感があって良い感じ。
全編通して、女性、それも60歳をすぎたピアニストが弾いているとは思えないスケール感があり、全く堂々としている。
スクロヴァチェフスキと録音した旧盤とはまた違った味わいがあり、どちらも聴けば聴くほど惚れ惚れするブラームス。
Brahms Piano Concerto No. 2 In B-Flat Major, Op. 83: II. Allegro appassionato
レビュー:バッカウアーとドラティによるブラームスのピアノ協奏曲第2番[鎌倉スイス日記]
バッカウアー,ジーナ[総合資料室/一世による歴史的ピアニスト紹介]
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女性ピアニストによる「ブラームス:ピアノ協奏曲第2番」の録音
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マイラ・ヘス( Myra Hess)
録音年:1951年(ライブ録音)
伴奏:ブルーノ・ワルター指揮ニューヨーク・フィルハーモニー管弦楽団
CD:モーツァルト:「エクスルターテ・ユビラーテ」/ブラームス:ピアノ協奏曲第2番(キングレコード)
Youtube:Myra Hess plays Brahms Piano Concerto No. 2 (1/6)
モニク・ドゥ・ラ・ブリュショルリ(Monique de la Bruchollerie)
録音年:1952年12月(モノラル録音)
伴奏:ロルフ・ラインハルト指揮シュトゥットガルト・プロ・ムジカ管弦楽団
CD:ブラームス:ピアノ協奏曲第2番(コロムビア)
Youtube:Bruchollerie ブルショルリ Brahms ブラームス Piano Concerto No.2.
エリー・ナイ(Elly Ney)
録音年:1955年3月3日(モノラル録音)
伴奏: フランツ・コンヴィチュニー指揮ライプツィッヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団
CD:ブラームス:ピアノ協奏曲第2番変ロ長調(WEITBLICK)
Youtube:Elly Ney - Brahms: Piano concerto #2 complete 1955
セシル・ウーセ(Cécile Ousset)
録音年:1974年
伴奏: クルト・マズア指揮ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団
CD:Brahms: Piano Concerto No. 2(Berlin Classics)
Youtube:Johannes Brahms - Piano Concerto No. 2 in B-flat major, Op. 83 - I. Allegro non troppo
アンネローゼ・シュミット(Annerose Schmidt)
録音年:1979年(デジタル)
伴奏:カール=ハインツ・シュレーター指揮ドレスデン・フィルハーモニー管弦楽団
CD:ブラームス:ピアノ協奏曲第2番(コロムビア)
アリシア・デ・ラローチャ(Alicia de Larrocha)
録音年:1981年6月7,8日(ライブ録音)
伴奏:オイゲン・ヨッフム指揮ベルリン・ドイツ響
CD:ピアノ協奏曲第2番OP.83(WEITBLICK)
Youtube:Alicia de Larrocha plays Brahms - Concerto No.2, Op.83 [live,1981]
エリザーベト・レオンスカヤ(Elisabeth Leonskaja)
録音年:1994年
演奏:クルト・マズア指揮ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団
CD:Piano Concerto 2(Teldec)
Youtube:1)Brahms piano conc. 2 in B flat major - 1st mvt. part 1 of 2 DRSO-K. Sanderlin/E. Leonskaja (DR Symfoniorkestret - Kurt Sanderling - 1997)
Youtube:2)Brahms: Piano concerto No.2 I.Allegro ma non troppo, Elisabeth Leonskaja, PART I. (Israel Philharmonic Orchestra,Paavo Järvi,Tel Aviv 2001)
エレーヌ・グリモー(Hélène Grimaud)
録音年:2013年(デジタル録音)
伴奏:アンドリス・ネルソンス指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
CD:Piano Concertos Nos. 1 & 2(DG)
Youtube:Hélène Grimaud: Brahms the Piano Concertos - EPK long
※右カラム中段の「タグリスト」でタグ検索できます。
私が調べた限りでは、録音の古い順に、エリー・ナイ、モニク・ドゥ・ラ・ブリュショルリ、マイラ・ヘス、ジーナ・バッカウアー、セシル・ウーセ、アンネローゼ・シュミット、アリシア・デ・ラローチャ、エリザベート・レオンスカヤ、最新録音はエレーヌ・グリモー。
男性ピアニスト並みの技巧とパワーを持つアルゲリッチは、なぜか録音していない。(この曲は、アルゲリッチにはあまり似合わないような気がするし..)
個人的な印象としては、メカニックが安定しているのは、バッカウアーとウーセ。
バッカウアーの方が強靭でパワフルでスケール感があり、情緒表現はさっぱりして、演奏に甘さがない。
ウーセはバッカウアーよりも、ややフォルテの和音でタッチの切れが鈍くて重たい感じがするし、力感・量感で少し落ちる。緩徐部分はテンポが落ちて、ややベタっともたれた歌いまわしになる。
ブルショルリとレオンスカヤはパワフルでメカニックはかなり良いけれど、強奏部分のタッチに粗さを感じるし、レオンスカヤのルバートがかったような粘りのあるタッチとリズムがあまり好きではない。
ナイ、ヘス、ラローチャは、技術的にもともとかなり苦しい上に、ライブ録音なのでキズが多い。ラローチャは手の小さいので、和音が続くパッセージで、和音がアルペジオのようになったりスタッカート気味になったりして、変わった響きに聴こえるのが、私にはかなり気になる。
シュミットは、切れ良くシャープなタッチが冴えているが、線が細くて鋭角的なので、神経にひっかるような感じがする。(全曲聴いていないので、難所をどう弾いているのかわからない)
グリモーのブラームスは、もともとテンポが遅い上に、難所はさらにテンポが落ちてもたもた感があり、技巧的にはかなり聴きづらい。(その上、ソロと同様”女性”を感じるブラームスなので、残念ながら私の好みとは違っていた)
この中で一番気に好きなのは、バッカウアー。
バッカウアーは、ギリシャ出身のピアニストギリシャのイレーネ王女のピアノ教師をしていたこともある。
ステージ姿は女優のように華やかで美しく、パワフルでスケール感と風格のある演奏と相まって、”鍵盤の女王”とも言われていたらしい。
米国で開催されている「ジーナ・バッカウアー国際ピアノコンクール」は、クライバーンコンクールに次ぐ規模で、最近の優勝者では、ニコラ・アンゲリッシュがいる。
バッカウアーの十八番が、このブラームスの《ピアノ協奏曲第2番》。
それだけあって、男性ピアニストと比べても遜色ないメカニック、力感・量感豊かな音、速いテンポで難所でもテンポがほとんど落ちず、技巧面ではストレスなく聴ける。
2種類の録音があり、マーキュリー盤とチェスキー盤でいずれもオケはロンドン響。
指揮者が異なり、スタニスラフ・スクロヴァチェフスキ(1962年録音)とドラティ(1967年録音)。ドラティにとっては、この曲での唯一の録音。
演奏時間や音質はかなり違う。楽章順の演奏時間は以下の通り。全楽章とも再録音の1967年盤がテンポがかなり遅くなっている。
スクロヴァチェフスキ指揮盤(1962) 16:26/8:29/10:09/8:53
ドラティ指揮盤(1967) 17:55/9:10/12:39/9:33
スクロヴァチェフスキ指揮盤(1962年)
スクロヴァチェフスキ盤は、『Mercury Living Presence』シリーズとしてリリースされており、1962年の録音にしては音質がとても良い。
カッチェンのDECCA盤も同じ頃の録音なので、聴き比べてみると、Mercury盤の音質の良さがよくわかる。
ヘッドフォンで聴いても、全く古ぼけた感じはせず、クリアで臨場感豊かな音質なので、ストレスなく聴ける。
バッカウアー全盛期の録音だけあって、全体的にドラティ盤よりもずっとテンポが速く、打鍵もリズムも切れ良く、力感・量感とも充分。
速いテンポで、ルバートも多用せず、力強いタッチで突き進んでいく演奏は、女性ピアニストが弾いているとは思えないくらい。
難所の和音が連続するフォルティッシモでも、女性ピアニストにありがちなバンバンと鍵盤を叩くことも、もたもたすることもない。
テンポを落とさず、タッチの切れ味もよく、技巧的な余裕を感じさせるほどに、スラスラと弾いている。
(ところどころミスタッチが残っているのは、LP化する時にほとんど編集していなかったせい?)
若い頃のポートレートを見ると、気品漂うかなりの美人。
外見はかなり細身で、パワーがあるようには見えないけれど、これだけ豊かな音量のフォルテを速いテンポの和音移動でも出せるのは、腕力が思いのほか強いのか、奏法によるものなのか、よくわからなかった。
でも、CDジャケットの写真をよく見ると、腕の筋肉の太さは尋常ではない...。上半身も結構ボリュームがあるし、あれだけ力強いブラームスが弾けるのも納得。
バッカウアーの演奏は、メカニックの良さだけではなく、一音一音明瞭な粒立ちの良いやや硬質のタッチで、刃物のような鋭い切れ味があり、和音が連続していても音が混濁せず。
ルバートを多用せずほぼインテンポで弾き、リズミカルで引き締まった演奏には強い推進力があり、淀むことがない。
ブラームス的なほの暗い陰影や重たさはあまり感じないけれど、力感豊かで決然とした演奏は男性的で爽快。
特に、第2楽章は、一気呵成に弾きこんでいき迫力十分。
緩徐部分や緩徐楽章でも、情感たっぷりのもたれた表現はせず、さっぱりとした叙情感は品良くて清々しい。(第3楽章の中盤部分は、テンポが速くてフォルテも力強すぎて、ちょっと騒々しくはあるけれど)
第4楽章も、切れ良いタッチとリズムで、快活明瞭。
こういうブラームスを弾く人は今では少ないのだろうけれど、これは私の好きなタイプのブラームス。
GINA BACHAUER, PIANO BRAHMS -- PIANO CONCERTO NO. 2 1962
ブラームス:ピアノ協奏曲第2番 他 (2012/11/07) バッカウアー(ジーナ) 試聴ファイル |
カップリング曲は、ブラームスのパガニーニ変奏曲、リストのハンガリー狂詩曲第12番、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第9番。
タイプの異なる曲が多くて、これも面白い。好きなベートーヴェンの初期ソナタの第9番は、ブラームス演奏とは違った愛らしさがある。
(リーフレットに、”オリジナル・マスターテープからリマスタリングしているが、ピアノ協奏曲だけはマスターテープのコピーを使用”という旨の記載がある)
ドラティ指揮盤
1967年の再録音。残響がやや多くなり、音響的な重層感と流麗さが強くなった気がする。
加齢による技術的な問題のせいか、演奏解釈が多少変わったのか、指揮者の違いも影響しているのか、テンポが旧盤よりも遅くなっている。(それでも、かなり速い)
旧盤のような白熱感や一気呵成の迫力がやや薄くなった代わりに、タッチが明瞭で一音一音芯のしっかりした張りのある音と演奏には、揺ぎ無い堅牢さと強靭さがある。
難所では技巧的に多少落ちているような感じはしたけれど、全体的にはメカニックの安定感と豊かな力感・量感はほとんど変わらない。
緩徐部は、若干表現が柔らかくしっとりとした叙情感が強くなっている。
といっても、ロマン派のコンチェルトだからといって、ルパートを多用したり情緒的にもたれたりするようなことはなく、しなしなウェットな甘さがないところは、旧録と変わらず。
明晰で冗長さの全くない引き締まった演奏は、古典的な造形美さえ感じさせる。
第3楽章は、スクロヴァチェフスキ盤よりも2分半以上も長い。
特に旧盤と違うのは、曲半ばあたりでクレシェンドして盛り上がっていく部分。
それほどテンポを速めず、フォルテのタッチも穏やかで騒々しさもなく、じっくりと弾きこんでいるところ。
第3楽章は、この新盤の方が落ち着いた深い叙情感があって良い感じ。
全編通して、女性、それも60歳をすぎたピアニストが弾いているとは思えないスケール感があり、全く堂々としている。
スクロヴァチェフスキと録音した旧盤とはまた違った味わいがあり、どちらも聴けば聴くほど惚れ惚れするブラームス。
Brahms Piano Concerto No. 2 In B-Flat Major, Op. 83: II. Allegro appassionato
Brahms:Piano Conc.2 in Bb (1994/06/23) Brahms & Straus 試聴ファイル(Allmusic.com) |
レビュー:バッカウアーとドラティによるブラームスのピアノ協奏曲第2番[鎌倉スイス日記]
バッカウアー,ジーナ[総合資料室/一世による歴史的ピアニスト紹介]
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女性ピアニストによる「ブラームス:ピアノ協奏曲第2番」の録音
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マイラ・ヘス( Myra Hess)
録音年:1951年(ライブ録音)
伴奏:ブルーノ・ワルター指揮ニューヨーク・フィルハーモニー管弦楽団
CD:モーツァルト:「エクスルターテ・ユビラーテ」/ブラームス:ピアノ協奏曲第2番(キングレコード)
Youtube:Myra Hess plays Brahms Piano Concerto No. 2 (1/6)
モニク・ドゥ・ラ・ブリュショルリ(Monique de la Bruchollerie)
録音年:1952年12月(モノラル録音)
伴奏:ロルフ・ラインハルト指揮シュトゥットガルト・プロ・ムジカ管弦楽団
CD:ブラームス:ピアノ協奏曲第2番(コロムビア)
Youtube:Bruchollerie ブルショルリ Brahms ブラームス Piano Concerto No.2.
エリー・ナイ(Elly Ney)
録音年:1955年3月3日(モノラル録音)
伴奏: フランツ・コンヴィチュニー指揮ライプツィッヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団
CD:ブラームス:ピアノ協奏曲第2番変ロ長調(WEITBLICK)
Youtube:Elly Ney - Brahms: Piano concerto #2 complete 1955
セシル・ウーセ(Cécile Ousset)
録音年:1974年
伴奏: クルト・マズア指揮ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団
CD:Brahms: Piano Concerto No. 2(Berlin Classics)
Youtube:Johannes Brahms - Piano Concerto No. 2 in B-flat major, Op. 83 - I. Allegro non troppo
アンネローゼ・シュミット(Annerose Schmidt)
録音年:1979年(デジタル)
伴奏:カール=ハインツ・シュレーター指揮ドレスデン・フィルハーモニー管弦楽団
CD:ブラームス:ピアノ協奏曲第2番(コロムビア)
アリシア・デ・ラローチャ(Alicia de Larrocha)
録音年:1981年6月7,8日(ライブ録音)
伴奏:オイゲン・ヨッフム指揮ベルリン・ドイツ響
CD:ピアノ協奏曲第2番OP.83(WEITBLICK)
Youtube:Alicia de Larrocha plays Brahms - Concerto No.2, Op.83 [live,1981]
エリザーベト・レオンスカヤ(Elisabeth Leonskaja)
録音年:1994年
演奏:クルト・マズア指揮ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団
CD:Piano Concerto 2(Teldec)
Youtube:1)Brahms piano conc. 2 in B flat major - 1st mvt. part 1 of 2 DRSO-K. Sanderlin/E. Leonskaja (DR Symfoniorkestret - Kurt Sanderling - 1997)
Youtube:2)Brahms: Piano concerto No.2 I.Allegro ma non troppo, Elisabeth Leonskaja, PART I. (Israel Philharmonic Orchestra,Paavo Järvi,Tel Aviv 2001)
エレーヌ・グリモー(Hélène Grimaud)
録音年:2013年(デジタル録音)
伴奏:アンドリス・ネルソンス指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
CD:Piano Concertos Nos. 1 & 2(DG)
Youtube:Hélène Grimaud: Brahms the Piano Concertos - EPK long
| ♪ サスキア・ジョルジーニ,マリア・ユーディナ,ジーナ・バッカウアー | 2013-10-25 18:00 | comments:0 | TOP↑