無効になる公正証書遺言
2025, 01. 19 (Sun) 00:00
1月16日にようやく遺言公正証書が完成した。原案を昨年10月上旬に作成してから、法定相続人の調査はどこまで可能か、自宅の換価処分が可能か、特定遺贈が包括遺贈と見なされる余地がないか、等について、遺言執行者に指定する予定のNPO(の顧問弁護士)と何度もメールで相談し、原案の修正を重ねた結果、遺言の内容が確定したのが昨年12月上旬。
次に公証人に遺言公正証書の文面を作成してもらい、3回修正後に最終確定版が出来上がったのが1月14日。
16日に公証役場で証人2名と遺言執行者が同席し、公証人が私に遺言公正証書原本を読み上げて内容に間違いがないか確認後(私が不動産の記載事項に1字脱字があるのを見つけて修正)、私と証人2名が署名捺印して完成。遺言者のみ本人確認のため印鑑証明書と同じ実印を押印。
公正証書原本は公証役場で140年間保管、正本は遺言執行者に渡して保管してもらい、謄本は私が持ち帰ってコピー後に謄本を受遺者(従妹)へレターパックプラスで郵送した。
10年以上前から遺言を作らなければと思っていたので、ついに遺言が完成して一安心。この3か月間は遺言作成のためにかなりの時間と労力をかけたので、遺言が出来上がるとすっかり気が抜けてしまった。
昨年7月に死後事務委任契約(関連する公正証書も作成)を締結後に、遺言も年内に作るつもりで情報を収集し始めた。
遺言を残す方法は3種類あり、家庭裁判所で検認が必要な自筆遺言、法務局に保管しておく自筆遺言、そして公正証書遺言。
重要な点は、法定相続人以外に遺贈するため、面倒な家庭裁判所での検認手続きを避ける必要があること。法務局に保管された自筆遺言は家庭裁判所での検認が不要とはいっても、遺言書情報証明書の交付申請に法定相続情報一覧図の写しか、相続人全員の戸籍謄本と住民票が必要なため、実質的には検認手続きと変わらない。
結局、作成費用はかかっても遺贈手続きがスムーズに進む遺言公正証書(遺言執行人を指定)を作ることにした。証人2人への謝礼を含めた合計費用は5万円台だったので、遺言執行時に受遺者にかかる負担を最小限に抑えられるコストとしてはかなり安く済んで良かった。
公証人が手配してくれた証人の方は2人とも元国家公務員だった。もしかしたら退職した公証人か司法関係者かも? 証人への謝礼は1万円くらいかと思っていたら、もっと少なかった。謝礼の額は公証人の作成手数料に応じて変わるとのこと。「謝礼」と表書きした白封筒(お布施を入れるのにいつも使っている)に新札を入れて証人へお渡ししたら、用意されていた領収書をすぐに渡された。たぶん何度も証人になっているので慣れているに違いない。
公正証書遺言のメリットは、①安全確実な遺言方法、②遺言者の自書が不要、③公証人の出張が可能、④遺言書の検認手続が不要、保管上の利点は⑤遺言書原本の役場保管、⑥遺言書原本の二重保存システム、⑦遺言情報管理システムで照会可能。(日本公証人連合会)
②~⑦については制度上保証されているので間違いない。しかし、「①安全確実な遺言方法」という点は100%保証されているわけではない。形式的な不備で無効になることはなくても、裁判で公正証書遺言が無効になった事例が複数あるし、文面がまずかったために相続実務で遺言内容が実現できなかった(相続手続きが不可能だった)公正証書の事例も見つけた。
実際、遺言公正証書の原案と修正案を私が確認すると、対象財産の記載方法や条文同士の関係が論理的に整合していないかった。その理由を公証人に確認したところ、間に入って連絡・修正をしている人が特定遺贈の遺言の書き方をよく理解していなかったことと、公証人に特定遺贈だと伝えていなかったことが原因だった。
後で知ったのは、公証人は原則として退官した元裁判官あるいは元検察官(元裁判官が多いらしい)。公正証書の文面について公証人に電話で問い合わせた時に「これは論理的に整合していないと思うんですが」と言ったのは、プロの法律家に対してかなり失礼だったかも...。(でも本当に整合していなかったのだから仕方ない)
遺言を作成するために数か月かけて法律・判例・事例を調べたおかげで、遺言の文面も細かくチェックすることができたので、専門家に全て任せずに自分でも遺言に関して十分な知識を持ち理解しておくのは大事だと実感した。
【公正証書遺言が無効になるケース】
公正証書遺言の効力が無効になる5つのケース トラブル対処方法も解説[相続会議]
<公正証書遺言が無効になる5つのケース>
1.認知症など遺言能力がなかった
・遺言者が有効な遺言をするには、遺言能力、すなわち遺言内容やその影響の範囲を理解できる能力が必要です。この遺言能力がない状態で作成された遺言は無効です。
・公証人が遺言者に認知症かどうかの確認を常にするわけではない。
・実際、一部の相続人が遺言者は認知症であったなどと主張して、遺言能力が争われることは少なくない。この場合、病院のカルテや介護事業者のサービス提供記録などのさまざまな資料を参考に当時の遺言能力を判断する。
・認知症を理由に遺言の有効性が争われるケースは多く、裁判において実際に無効と判断されるケースも少なくはない。
2.証人が不適格であった
・証人(2名)になれない者:未成年者、推定相続人、遺贈を受ける者、推定相続人及び遺贈を受ける者の配偶者及び直系血族等。
3.口授を欠いていた
・公正証書遺言を作成する際、遺言者は、遺言の趣旨を公証人に口授しなければなりません(民法969条2号)。
・「口授」とは、口頭で述べる。病気などの理由で発話が困難になった遺言者の遺言を巡り、口授の有無が問題になることがある。遺言者が公証人の読み聞かせに単にうなずいたに過ぎない場合は口授があるといえず、遺言は無効となる可能性が高い。
4.詐欺、強迫、錯誤があった
5.公序良俗違反:配偶者がいながら他の交際相手に全財産を遺贈する遺言などが典型的なケース
<公正証書遺言の効力が争われたときの対処方法>
1.訴訟の前に、まずは交渉:方式違背等の形式的不備は決着可能。遺言の有効性で各人が取得できる財産に大きく差が生じる場合は決着困難。
2.遺言無効確認請求調停・訴訟
・交渉で決着しなければ、遺言無効確認請求調停や訴訟提起。(全財産を特定の相続人に相続させる遺言などが代表例)
・遺言無効判決が確定した場合:遺言がなかったものとして、相続人同士で遺産分割協議。
・遺言有効判決が確定した場合:遺言に沿って財産承継。
公正証書遺言がもめる理由は無効と遺留分!相続に強い弁護士が解説[弁護士法人サリュ]
<公正証書遺言が無効になる5つのケース>
1.遺言者に「遺言能力がなかった」と認められる場合
ポイントは「認知症や精神障害により、遺言を残す能力を持っていたか」という点です。遺言当時の遺言者の診療録や看護記録を調べたり、担当した主治医に確認したりする方法があります。
遺言作成時に遺言能力がなかったことが認められれば、遺言を無効にできます。
2.「口授を欠いていた」と認められる場合
事前に遺言内容を打ち合わせておき、作成当日には公証人が記載内容を読み上げて確認するだけで遺言書を作成できてしまう場合があります。打ち合わせ時に第三者が介入し、遺言作成を主導するケースがありえるのです。
裁判例で口授を欠くことが認定されたケースとしては、大阪高判平成26年11月28日判タ1411号92頁があります。この裁判例では、遺言者には当時認知症の兆候があり、公証人の説明に対する「はい」という返事が遺言内容を理解・許容する趣旨の発言だったか疑問であるという理由で、公正証書遺言が無効となっています。
3.立ち会った証人が欠格者だった場合
4.遺言者の真意と遺言内容に錯誤があった場合
・遺言者が「本来残したかった遺言内容」と「実際に残した遺言内容」が異なる場合、その事実が認められれば遺言を無効にできる。錯誤とは、書き間違いや言い間違い、勘違いなどが含まれる。
・錯誤が認められたケース(東京高裁平成25年12月19日判決):遺言者Aは、Yを自分の子と思っており、その親子関係を前提に、全財産をYに遺贈する旨の公正証書遺言を作成。Aの死後に行われたDNA鑑定結果でAとYには血縁関係が認められなかったため、Yが実子であることを前提に残された公正証書遺言は「錯誤により無効」という判決。
5.遺言内容が公序良俗に反する場合
<公正証書遺言の無効を主張する場合の流れ3ステップ>
【ステップ1】他の相続人・受遺者の意見を確認する。相続人や受遺者(遺言で指定されて財産を受け取る人)全員が同意すれば、遺言と異なる遺産分割を行うことが可能。全員の同意を得ることができなければ、調停・訴訟で決着をつける。
【ステップ2】家事調停を申し立てる
【ステップ3】遺言無効確認訴訟を起こす
また、遺留分が侵害されている場合は「遺留分侵害額請求」が可能(遺留分侵害額請求の時効・除斥期間あり)
公正証書遺言の無効【相続問題】>[なかた法律事務所]
・自筆証書遺言と比べて、公正証書遺言が無効と判断されるハードルは高い。
・遺言の効力を争うには、基本的に遺言無効確認訴訟等訴訟が必要。
・遺産分割調停を申し立てても、家庭裁判所は遺言の有効性を判断しない。地方裁判所に訴訟提起が必要。
・相続人間で遺言の無効を確認すれば、遺言はないものとして遺産分割協議が成立する。
・公正証書遺言の無効を裁判で争うには、遺言者が遺言時に遺言能力を失っていたと認められるような客観的資料が必要。一番重視されるのは医療記録(CT、MRI、長谷川式簡易知能評価スケール、Mini-Mental State(MMS)などがあれば重視される)、介護記録。
・公正証書遺言の効力が争われるケースでは、遺言の書き替えがなされていることが多い。遺言能力に疑義があるような被相続人が従前の遺言を書き替えるケースでは、遺言の合理的理由の有無が重視される。
・後日の紛争を防ぐためには、遺言作成時にきちんと診断書(知能テストをしてもらった方がベター)の取得を推奨。
【遺言専門解説】遺言書が無効になるケースについて[町田市 相続遺言手続代行センター]
<遺言書の実質的無効>
・形式的には有効な遺言でも、相続開始時の状況や遺言内容の表現によっては実質的に無効となる。
①受遺者がすでに死亡しており、そのような場合の記載がないとき
②遺産の記載が間違っているとき
③すでに存在していない口座から預貯金を渡すことになっているとき
④遺産額が減っており各相続人に金銭を分けられないとき
⑤同じ遺産について違うことが書いてある等、全体として矛盾した内容になっているとき
⑥「死後のことは妻に全て任せます」といった抽象的な表現の記載のみであるとき
等
【公正証書遺言が無効になった事例】
認知症の父の公正証書遺言を無効にできますか?[横浜の弁護士による 遺産分割・相続トラブル相談/伴法律事務所]
「遺言を有効と判断した裁判例」と「遺言を無効と判断した裁判例」
東京・恵比寿10億円不動産を他人が相続 認知症「要介護5」なのに書き換えられた遺言書[産経新聞]
(係争中の事案)
・当時80歳を超えていた伯母は東京・恵比寿に土地や建物、賃貸マンションの部屋を複数所有。
・平成26年12月に、伯母の死後、恵比寿の土地や建物、賃貸マンションの部屋など13物件を当時40歳超の姪に相続させる遺言公正証書を作成。
・平成31年に新たに遺言公正証書が作成され、全財産を交流があった地元不動産会社の男性に遺贈する内容に書き換えられた。遺言公正証書作成から4カ月後の令和元年6月時点で、介護関係資料によると、伯母は短期記憶に「問題あり」、意思の伝達能力は「具体的要求に限られる」うえに、今の季節を理解することは「できない」、「要介護5」の認知症で判断力が低下していた。
・伯母が94歳で死去。遺言公正証書が書き換えられていたことを知った姪は、地元不動産会社の男性に遺贈された伯母の不動産について第三者へ売却することなどを禁止する仮処分を東京地裁に申請し、仮処分が決定。
・姪は知人男性への遺贈が無効であることを求めた民事訴訟を近く起こすとともに、詐欺罪で警視庁に刑事告発する意向。
・遺言公正証書の作成に際しては公証人が遺言者本人の意思を確認する。ある公証人は「遺言者本人が認知症でも、それを理由に作成を拒むことはない。形式が整っていれば基本的に認めるため、後になってトラブルが生じ記載内容が『本当に本人の意思で間違いなかったか』と追及されても、答えようがない」。
公正証書遺言が無効となったケース[司法書士法人 行政書士法人鴨宮パートナーズ]
・公正証書遺言が無効とされる確率は少ない。稀に無効となるケースで、代表的なもの。
(1)遺言作成時に遺言者本人が認知症等を患い、遺言能力が無いと判断されるケース
・公証人は医療の専門家でない為、『あなたは認知症であるから遺言をする能力がない』と判断が出来ない。
・実際の公正証書遺言の作成は、余程難しい遺言内容でない限り、最低限の本人確認をしたうえで、遺言内容を読み上げて終了。そこでは必要以上に認知症であるか等の確認はしない。
・相続発生後に遺言無効確認訴訟を提起された場合、当時の被相続人の状態によっては一定程度の無効確認判決が出るが、認知症だから全てが無効となるわけではない。
・訴訟提起をした相続人が、当時の遺言者のカルテを主治医から取り付け、遺言能力がなかったことを立証すれば遺言能力が無いと判断されることはある。
・カルテがあっても認知症であったから即時無効との判断が下される訳ではなく、当時、遺言者が置かれていた事情・遺言を書くに至った動機・経緯・遺言の内容を総合考慮して判断される。
(2)遺言作成時に、司法書士等の専門家が公証人との間に入らず、遺言者と公証人のみで遺言作成したケース
・遺言者と公証人のみで作成された遺言が無効となることは稀。
・遺言としては有効だが、公証人が的確にアドバイスをせずに作成したが為に手続きに利用出来なくなることがある。
(実例)
『遺言者●●は、遺言者の長男●●が遺言者の妻●●の生活の面倒一切を看ることを条件として、遺言者の財産一切を相続させる。』
・上記事案での遺言内容のうち、最大のポイントは『条件』と言う文言。この遺言を用いて不動産の名義変更をしようとした場合、遺言者の妻の生活の面倒一切を看た事を法務局に立証しない限り、法務局は手続きしない。生活の面倒一切を看ることという抽象的事実の立証は、非常に困難。
(実務上有効な遺言例)
『一.遺言者●●は、遺言者の財産一切を遺言者の長男●●に相続させる。
二.前条の負担として、長男●●は遺言者の妻●●の生活の面倒一切を看なければならない。』
負担という文言を使えば、前記のような条件成就の立証書類は全く不要。
【遺言と遺産分割協議】
遺言書と異なる遺産分割協議の内容は有効か? 納得できない場合の対処方法[相続会議]
・遺言書と異なる遺産分割協議も可能(※公正証書遺言であっても可能)
①遺言執行者がいる場合:遺言と異なる遺産分割協議をするには、遺言執行者の同意が必要。相続人全員が同意しているのに遺言執行者が反対することはほとんどない。
②相続人以外の受遺者がいる場合:受遺者自身が遺言書と異なる遺産分割協議することを了承する必要あり。受遺者が「遺贈を放棄する」ことになる。
・ただし、被相続人(遺言者)が遺言書によって遺産分割を禁止している場合、相続人全員が合意しても遺言書と異なる遺産分割協議はできない。遺言書で遺産分割を禁止する場合、禁止期間は最大で相続開始のときから5年。
遺言書があっても遺産分割協議は可能|間違えやすいポイントを解説
<遺産分割協議により遺言と異なる遺産分割を行うことの条件>
①遺産分割協議が遺言で禁止されていないこと
②相続人と受遺者の全員が合意していること
③遺言執行者が同意していること
④既に遺言書に従っている場合は遺産の再分割となる。
【統計データ】
生活基盤の安定を図る生活設計[公益財団法人 生命保険文化センター]
・公正証書遺言書の作成件数(全国):2023(令和5)年11万8,981件
・自筆証書遺言書の保管申請件数(累計):2024(令和6)年7月時点79,128件
・遺言書の検認件数:2023(令和5)年22,314件
・遺産分割事件件数:2023(令和5)年13,872件、うち認容・調停成立件数(分割しないを除く)7,234件。遺産価格帯別件数は1,000万円超5,000万円以下3,166件(43.8%)、1,000万円以下2,448件(33.8%)。
※もし価格帯を1千万円ごとに区切ったなら1,000万円以下が最多になるかもしれない。
平成29年度法務省調査『我が国における自筆証書による遺言に係る遺言書の作成・保管等に関するニーズ調査・分析業務報告書』(平成30年3月、株式会社リベルタス・コンサルティング)
<図表9 年代別 自筆証書遺言・公正証書遺言を作成したいと思うか>
・全世代で3割以上が自筆証書遺言・公正証書遺言いずれかを「作成したい(どちらかといえば作成したい)」と回答。
・「作成したい」と考えている人は全ての世代で1割以上。
・全世代で自筆証書遺言の方が公正証書遺言よりも多い。75歳以上は自筆遺言が公正証書遺言の2倍以上と特に多い。
次に公証人に遺言公正証書の文面を作成してもらい、3回修正後に最終確定版が出来上がったのが1月14日。
16日に公証役場で証人2名と遺言執行者が同席し、公証人が私に遺言公正証書原本を読み上げて内容に間違いがないか確認後(私が不動産の記載事項に1字脱字があるのを見つけて修正)、私と証人2名が署名捺印して完成。遺言者のみ本人確認のため印鑑証明書と同じ実印を押印。
公正証書原本は公証役場で140年間保管、正本は遺言執行者に渡して保管してもらい、謄本は私が持ち帰ってコピー後に謄本を受遺者(従妹)へレターパックプラスで郵送した。
10年以上前から遺言を作らなければと思っていたので、ついに遺言が完成して一安心。この3か月間は遺言作成のためにかなりの時間と労力をかけたので、遺言が出来上がるとすっかり気が抜けてしまった。
昨年7月に死後事務委任契約(関連する公正証書も作成)を締結後に、遺言も年内に作るつもりで情報を収集し始めた。
遺言を残す方法は3種類あり、家庭裁判所で検認が必要な自筆遺言、法務局に保管しておく自筆遺言、そして公正証書遺言。
重要な点は、法定相続人以外に遺贈するため、面倒な家庭裁判所での検認手続きを避ける必要があること。法務局に保管された自筆遺言は家庭裁判所での検認が不要とはいっても、遺言書情報証明書の交付申請に法定相続情報一覧図の写しか、相続人全員の戸籍謄本と住民票が必要なため、実質的には検認手続きと変わらない。
結局、作成費用はかかっても遺贈手続きがスムーズに進む遺言公正証書(遺言執行人を指定)を作ることにした。証人2人への謝礼を含めた合計費用は5万円台だったので、遺言執行時に受遺者にかかる負担を最小限に抑えられるコストとしてはかなり安く済んで良かった。
公証人が手配してくれた証人の方は2人とも元国家公務員だった。もしかしたら退職した公証人か司法関係者かも? 証人への謝礼は1万円くらいかと思っていたら、もっと少なかった。謝礼の額は公証人の作成手数料に応じて変わるとのこと。「謝礼」と表書きした白封筒(お布施を入れるのにいつも使っている)に新札を入れて証人へお渡ししたら、用意されていた領収書をすぐに渡された。たぶん何度も証人になっているので慣れているに違いない。
公正証書遺言のメリットは、①安全確実な遺言方法、②遺言者の自書が不要、③公証人の出張が可能、④遺言書の検認手続が不要、保管上の利点は⑤遺言書原本の役場保管、⑥遺言書原本の二重保存システム、⑦遺言情報管理システムで照会可能。(日本公証人連合会)
②~⑦については制度上保証されているので間違いない。しかし、「①安全確実な遺言方法」という点は100%保証されているわけではない。形式的な不備で無効になることはなくても、裁判で公正証書遺言が無効になった事例が複数あるし、文面がまずかったために相続実務で遺言内容が実現できなかった(相続手続きが不可能だった)公正証書の事例も見つけた。
実際、遺言公正証書の原案と修正案を私が確認すると、対象財産の記載方法や条文同士の関係が論理的に整合していないかった。その理由を公証人に確認したところ、間に入って連絡・修正をしている人が特定遺贈の遺言の書き方をよく理解していなかったことと、公証人に特定遺贈だと伝えていなかったことが原因だった。
後で知ったのは、公証人は原則として退官した元裁判官あるいは元検察官(元裁判官が多いらしい)。公正証書の文面について公証人に電話で問い合わせた時に「これは論理的に整合していないと思うんですが」と言ったのは、プロの法律家に対してかなり失礼だったかも...。(でも本当に整合していなかったのだから仕方ない)
遺言を作成するために数か月かけて法律・判例・事例を調べたおかげで、遺言の文面も細かくチェックすることができたので、専門家に全て任せずに自分でも遺言に関して十分な知識を持ち理解しておくのは大事だと実感した。
【公正証書遺言が無効になるケース】
公正証書遺言の効力が無効になる5つのケース トラブル対処方法も解説[相続会議]
<公正証書遺言が無効になる5つのケース>
1.認知症など遺言能力がなかった
・遺言者が有効な遺言をするには、遺言能力、すなわち遺言内容やその影響の範囲を理解できる能力が必要です。この遺言能力がない状態で作成された遺言は無効です。
・公証人が遺言者に認知症かどうかの確認を常にするわけではない。
・実際、一部の相続人が遺言者は認知症であったなどと主張して、遺言能力が争われることは少なくない。この場合、病院のカルテや介護事業者のサービス提供記録などのさまざまな資料を参考に当時の遺言能力を判断する。
・認知症を理由に遺言の有効性が争われるケースは多く、裁判において実際に無効と判断されるケースも少なくはない。
2.証人が不適格であった
・証人(2名)になれない者:未成年者、推定相続人、遺贈を受ける者、推定相続人及び遺贈を受ける者の配偶者及び直系血族等。
3.口授を欠いていた
・公正証書遺言を作成する際、遺言者は、遺言の趣旨を公証人に口授しなければなりません(民法969条2号)。
・「口授」とは、口頭で述べる。病気などの理由で発話が困難になった遺言者の遺言を巡り、口授の有無が問題になることがある。遺言者が公証人の読み聞かせに単にうなずいたに過ぎない場合は口授があるといえず、遺言は無効となる可能性が高い。
4.詐欺、強迫、錯誤があった
5.公序良俗違反:配偶者がいながら他の交際相手に全財産を遺贈する遺言などが典型的なケース
<公正証書遺言の効力が争われたときの対処方法>
1.訴訟の前に、まずは交渉:方式違背等の形式的不備は決着可能。遺言の有効性で各人が取得できる財産に大きく差が生じる場合は決着困難。
2.遺言無効確認請求調停・訴訟
・交渉で決着しなければ、遺言無効確認請求調停や訴訟提起。(全財産を特定の相続人に相続させる遺言などが代表例)
・遺言無効判決が確定した場合:遺言がなかったものとして、相続人同士で遺産分割協議。
・遺言有効判決が確定した場合:遺言に沿って財産承継。
公正証書遺言がもめる理由は無効と遺留分!相続に強い弁護士が解説[弁護士法人サリュ]
<公正証書遺言が無効になる5つのケース>
1.遺言者に「遺言能力がなかった」と認められる場合
ポイントは「認知症や精神障害により、遺言を残す能力を持っていたか」という点です。遺言当時の遺言者の診療録や看護記録を調べたり、担当した主治医に確認したりする方法があります。
遺言作成時に遺言能力がなかったことが認められれば、遺言を無効にできます。
2.「口授を欠いていた」と認められる場合
事前に遺言内容を打ち合わせておき、作成当日には公証人が記載内容を読み上げて確認するだけで遺言書を作成できてしまう場合があります。打ち合わせ時に第三者が介入し、遺言作成を主導するケースがありえるのです。
裁判例で口授を欠くことが認定されたケースとしては、大阪高判平成26年11月28日判タ1411号92頁があります。この裁判例では、遺言者には当時認知症の兆候があり、公証人の説明に対する「はい」という返事が遺言内容を理解・許容する趣旨の発言だったか疑問であるという理由で、公正証書遺言が無効となっています。
3.立ち会った証人が欠格者だった場合
4.遺言者の真意と遺言内容に錯誤があった場合
・遺言者が「本来残したかった遺言内容」と「実際に残した遺言内容」が異なる場合、その事実が認められれば遺言を無効にできる。錯誤とは、書き間違いや言い間違い、勘違いなどが含まれる。
・錯誤が認められたケース(東京高裁平成25年12月19日判決):遺言者Aは、Yを自分の子と思っており、その親子関係を前提に、全財産をYに遺贈する旨の公正証書遺言を作成。Aの死後に行われたDNA鑑定結果でAとYには血縁関係が認められなかったため、Yが実子であることを前提に残された公正証書遺言は「錯誤により無効」という判決。
5.遺言内容が公序良俗に反する場合
<公正証書遺言の無効を主張する場合の流れ3ステップ>
【ステップ1】他の相続人・受遺者の意見を確認する。相続人や受遺者(遺言で指定されて財産を受け取る人)全員が同意すれば、遺言と異なる遺産分割を行うことが可能。全員の同意を得ることができなければ、調停・訴訟で決着をつける。
【ステップ2】家事調停を申し立てる
【ステップ3】遺言無効確認訴訟を起こす
また、遺留分が侵害されている場合は「遺留分侵害額請求」が可能(遺留分侵害額請求の時効・除斥期間あり)
公正証書遺言の無効【相続問題】>[なかた法律事務所]
・自筆証書遺言と比べて、公正証書遺言が無効と判断されるハードルは高い。
・遺言の効力を争うには、基本的に遺言無効確認訴訟等訴訟が必要。
・遺産分割調停を申し立てても、家庭裁判所は遺言の有効性を判断しない。地方裁判所に訴訟提起が必要。
・相続人間で遺言の無効を確認すれば、遺言はないものとして遺産分割協議が成立する。
・公正証書遺言の無効を裁判で争うには、遺言者が遺言時に遺言能力を失っていたと認められるような客観的資料が必要。一番重視されるのは医療記録(CT、MRI、長谷川式簡易知能評価スケール、Mini-Mental State(MMS)などがあれば重視される)、介護記録。
・公正証書遺言の効力が争われるケースでは、遺言の書き替えがなされていることが多い。遺言能力に疑義があるような被相続人が従前の遺言を書き替えるケースでは、遺言の合理的理由の有無が重視される。
・後日の紛争を防ぐためには、遺言作成時にきちんと診断書(知能テストをしてもらった方がベター)の取得を推奨。
【遺言専門解説】遺言書が無効になるケースについて[町田市 相続遺言手続代行センター]
<遺言書の実質的無効>
・形式的には有効な遺言でも、相続開始時の状況や遺言内容の表現によっては実質的に無効となる。
①受遺者がすでに死亡しており、そのような場合の記載がないとき
②遺産の記載が間違っているとき
③すでに存在していない口座から預貯金を渡すことになっているとき
④遺産額が減っており各相続人に金銭を分けられないとき
⑤同じ遺産について違うことが書いてある等、全体として矛盾した内容になっているとき
⑥「死後のことは妻に全て任せます」といった抽象的な表現の記載のみであるとき
等
【公正証書遺言が無効になった事例】
認知症の父の公正証書遺言を無効にできますか?[横浜の弁護士による 遺産分割・相続トラブル相談/伴法律事務所]
「遺言を有効と判断した裁判例」と「遺言を無効と判断した裁判例」
東京・恵比寿10億円不動産を他人が相続 認知症「要介護5」なのに書き換えられた遺言書[産経新聞]
(係争中の事案)
・当時80歳を超えていた伯母は東京・恵比寿に土地や建物、賃貸マンションの部屋を複数所有。
・平成26年12月に、伯母の死後、恵比寿の土地や建物、賃貸マンションの部屋など13物件を当時40歳超の姪に相続させる遺言公正証書を作成。
・平成31年に新たに遺言公正証書が作成され、全財産を交流があった地元不動産会社の男性に遺贈する内容に書き換えられた。遺言公正証書作成から4カ月後の令和元年6月時点で、介護関係資料によると、伯母は短期記憶に「問題あり」、意思の伝達能力は「具体的要求に限られる」うえに、今の季節を理解することは「できない」、「要介護5」の認知症で判断力が低下していた。
・伯母が94歳で死去。遺言公正証書が書き換えられていたことを知った姪は、地元不動産会社の男性に遺贈された伯母の不動産について第三者へ売却することなどを禁止する仮処分を東京地裁に申請し、仮処分が決定。
・姪は知人男性への遺贈が無効であることを求めた民事訴訟を近く起こすとともに、詐欺罪で警視庁に刑事告発する意向。
・遺言公正証書の作成に際しては公証人が遺言者本人の意思を確認する。ある公証人は「遺言者本人が認知症でも、それを理由に作成を拒むことはない。形式が整っていれば基本的に認めるため、後になってトラブルが生じ記載内容が『本当に本人の意思で間違いなかったか』と追及されても、答えようがない」。
公正証書遺言が無効となったケース[司法書士法人 行政書士法人鴨宮パートナーズ]
・公正証書遺言が無効とされる確率は少ない。稀に無効となるケースで、代表的なもの。
(1)遺言作成時に遺言者本人が認知症等を患い、遺言能力が無いと判断されるケース
・公証人は医療の専門家でない為、『あなたは認知症であるから遺言をする能力がない』と判断が出来ない。
・実際の公正証書遺言の作成は、余程難しい遺言内容でない限り、最低限の本人確認をしたうえで、遺言内容を読み上げて終了。そこでは必要以上に認知症であるか等の確認はしない。
・相続発生後に遺言無効確認訴訟を提起された場合、当時の被相続人の状態によっては一定程度の無効確認判決が出るが、認知症だから全てが無効となるわけではない。
・訴訟提起をした相続人が、当時の遺言者のカルテを主治医から取り付け、遺言能力がなかったことを立証すれば遺言能力が無いと判断されることはある。
・カルテがあっても認知症であったから即時無効との判断が下される訳ではなく、当時、遺言者が置かれていた事情・遺言を書くに至った動機・経緯・遺言の内容を総合考慮して判断される。
(2)遺言作成時に、司法書士等の専門家が公証人との間に入らず、遺言者と公証人のみで遺言作成したケース
・遺言者と公証人のみで作成された遺言が無効となることは稀。
・遺言としては有効だが、公証人が的確にアドバイスをせずに作成したが為に手続きに利用出来なくなることがある。
(実例)
『遺言者●●は、遺言者の長男●●が遺言者の妻●●の生活の面倒一切を看ることを条件として、遺言者の財産一切を相続させる。』
・上記事案での遺言内容のうち、最大のポイントは『条件』と言う文言。この遺言を用いて不動産の名義変更をしようとした場合、遺言者の妻の生活の面倒一切を看た事を法務局に立証しない限り、法務局は手続きしない。生活の面倒一切を看ることという抽象的事実の立証は、非常に困難。
(実務上有効な遺言例)
『一.遺言者●●は、遺言者の財産一切を遺言者の長男●●に相続させる。
二.前条の負担として、長男●●は遺言者の妻●●の生活の面倒一切を看なければならない。』
負担という文言を使えば、前記のような条件成就の立証書類は全く不要。
【遺言と遺産分割協議】
遺言書と異なる遺産分割協議の内容は有効か? 納得できない場合の対処方法[相続会議]
・遺言書と異なる遺産分割協議も可能(※公正証書遺言であっても可能)
①遺言執行者がいる場合:遺言と異なる遺産分割協議をするには、遺言執行者の同意が必要。相続人全員が同意しているのに遺言執行者が反対することはほとんどない。
②相続人以外の受遺者がいる場合:受遺者自身が遺言書と異なる遺産分割協議することを了承する必要あり。受遺者が「遺贈を放棄する」ことになる。
・ただし、被相続人(遺言者)が遺言書によって遺産分割を禁止している場合、相続人全員が合意しても遺言書と異なる遺産分割協議はできない。遺言書で遺産分割を禁止する場合、禁止期間は最大で相続開始のときから5年。
遺言書があっても遺産分割協議は可能|間違えやすいポイントを解説
<遺産分割協議により遺言と異なる遺産分割を行うことの条件>
①遺産分割協議が遺言で禁止されていないこと
②相続人と受遺者の全員が合意していること
③遺言執行者が同意していること
④既に遺言書に従っている場合は遺産の再分割となる。
【統計データ】
生活基盤の安定を図る生活設計[公益財団法人 生命保険文化センター]
・公正証書遺言書の作成件数(全国):2023(令和5)年11万8,981件
・自筆証書遺言書の保管申請件数(累計):2024(令和6)年7月時点79,128件
・遺言書の検認件数:2023(令和5)年22,314件
・遺産分割事件件数:2023(令和5)年13,872件、うち認容・調停成立件数(分割しないを除く)7,234件。遺産価格帯別件数は1,000万円超5,000万円以下3,166件(43.8%)、1,000万円以下2,448件(33.8%)。
※もし価格帯を1千万円ごとに区切ったなら1,000万円以下が最多になるかもしれない。
平成29年度法務省調査『我が国における自筆証書による遺言に係る遺言書の作成・保管等に関するニーズ調査・分析業務報告書』(平成30年3月、株式会社リベルタス・コンサルティング)
<図表9 年代別 自筆証書遺言・公正証書遺言を作成したいと思うか>
・全世代で3割以上が自筆証書遺言・公正証書遺言いずれかを「作成したい(どちらかといえば作成したい)」と回答。
・「作成したい」と考えている人は全ての世代で1割以上。
・全世代で自筆証書遺言の方が公正証書遺言よりも多い。75歳以上は自筆遺言が公正証書遺言の2倍以上と特に多い。