サキ短編集
有名なO・ヘンリーとはどうも肌合いが合わず、サキやモームの方にリアリティと核心的なものを感じる。
小学生の頃から、角川文庫から出ていた世界の「ポケット・ジョーク」シリーズやアンブローズ・ビアスの『悪魔の辞典』は好きだったせいか、シニカルなタッチのサキやモームとも相性が良い。
ノンフィクションや評論・伝記・歴史書ばかり読むようになって以来、小説はほとんど読まなくなってしまったので、久しぶりに読むサキの短編集がとても新鮮。
サキを初めて読んだのは、高校時代の英語リーダーの教科書に載っていた「開いた窓」。
面白いけど、どこか背筋が寒くなるようなブラックユーモア的なセンスに魅かれるものがあって、すぐに新潮文庫の『サキ短編集』を購入したのだった。
サキ短編集の邦訳は数種類。私は新潮文庫版(21編)だけ読んだけれど、岩波(21篇)、筑摩、それに角川 (ハルキ文庫)からも出ている。
ちくま文庫の「ザ・ベスト・オブ・サキ」は2巻物。新訳4篇を含む86篇を発表順に編集。これが既出訳本の中では一番収録作品が多い。(サキに限らず、ちくま文庫は全集ものが充実している)
角川・ハルキ文庫の「サキ傑作選」は、他の文庫とは収録作品がかなり違う。25編中7編が新潮文庫版に収録されているらしい(未確認)。
新潮文庫版以外も読みたくなってきたけれど、在庫がないか、絶版のようで、中古本で買うしかない。
サキの作品は、青空文庫には掲載されていないけれど、<ghostbuster's book web>の”サキ コレクション ”で、「開いた窓」などの短編(30篇)を読むことができる。
サキ短編集 (新潮文庫) (1958/02) サキ 商品詳細を見る |
サキ傑作集 (岩波文庫 赤 261-1) (1981/11/16) サキ 商品詳細を見る |
ザ・ベスト・オブ・サキ〈1〉 (ちくま文庫) (1988/06) サキ 商品詳細を見る |
サキ傑作選 (ハルキ文庫) (1999/03) サキ、Saki 他 商品詳細を見る |
やや斜に構えたようなシニカルな文体と、人間のバカバカしい振る舞いや運命罠に嵌まってしまった悲惨さなど、心温まるような話ではないところに、彼の人間性に対する捉え方が出ているのだろう。
新潮文庫には、コメディ的なタッチの作品(「二十日鼠」「宵闇」「新米家」など)も入っているけれど、これは登場人物の勝手な思い込みで大騒ぎした結果、実はその思い込みが大間違いだったとわかるお話。
プロフィールを読むと、ミャンマー生まれのスコットランドの小説家という、地理的に辺境なミャンマーと、陰鬱な気候のスコットランドという風土に生まれ育っている。
警察官やジャーナリストという、人間や社会の裏側を見ざるをえない世界にいたらしいので、それが彼のシニカルでブラックユーモア漂う作風に影響しているに違いない。
一番面白くてしっかり記憶に残ったのが「狼少年」。
最初に登場するところからなにやら不気味なものがあり、主人公が彼の正体に気がついた時にはもう...。
ラスト近くの夕暮れのシーン~忽然と姿を消したエンディングがとても印象的。このお話はなかなかコワイ。
レビューを読むと、この話の原題は「ゲイブリル・アーネスト」。
これを「狼少年」とか「人狼」という邦題にしているので、”妖しい男の子の正体バレバレ”というコメントが書かれていた。
これは全くその通り。結末がわかってしまうタイトルをつけるのは止めて欲しい。
”成りすまし”物なら、「運命」と「ある殺人犯の告白」。
ある人物に成りすまして、当人はこれで人生も好転すると思ったところが、実は...というパターン。
「運命」のラストは、ドラマか映画のシーンが浮かんでくるような臨場感があって、もう絶体絶命。
「平和的玩具」や「開いた窓」、「話上手」に描かれているのは、子供が大人に手玉にとるマセタところや、子供特有の攻撃性や残酷さ。無垢で屈託のない子供の二面性はまるでコインの表と裏。
久しぶりに読んでも、サキはやっぱり面白い。
Tag :
※右カラム中段の「タグリスト」でタグ検索できます。| ・ ノンフィクション・歴史・小説、写真集、動画 | 2013-05-27 12:30 | comments:2 | TOP↑
珠玉の短編
こんばんは。
サキの短編集、私も新潮文庫版を読んでいます。「シニカルなタッチ」、まさにサキのスタイルを言い当てておられると思います。翻訳者によると、新潮文庫に収録されている21編についての選択基準はほとんどないとのことです。となると、収録数の多いちくま文庫に興味が湧きます。
私はO・ヘンリも好きですが、こちらはいささか甘口というか、おとぎ話風なものが多い印象です。
| ポンコツスクーター | 2013/05/28 21:16 | URL |