ツィンマーマン&パーチェ ~ サン=サーンス/ヴァイオリンソナタ第1番
サン=サーンスといえば、一番ポピュラーなのが《動物の謝肉祭》。曲名が有名なわりには、全曲通して聴かれているとはあまり思えないけれど。
ヴァイオリン協奏曲や交響曲第3番も有名。それに比べてピアノ協奏曲はあまり知られていない。
ピアニスティックで、5曲あるピアノ協奏曲の曲想もそれぞれ違って、結構面白い曲なんだけれど、ちょっと印象に残りにくい気はする。(録音ならロジェとハフがとってもお薦め)
ピアノ独奏曲もあまり弾いているのを聴いたことがないし、有名な曲があったかな?と記憶も定かではない。
サン=サーンスはピアニストだったので、ピアノ作品だけでなく、室内楽でもかなりピアノ・パートは凝っている。
《ヴァイオリンソナタ 第1番ニ短調 Op.75》(1985年)は、サン=サーンスの室内楽曲の代表作の一つだそう。
フォーレ、ドビュッシー、ラヴェル、フランクのヴァイオリンソナタは、数曲をまとめて録音されていることが多いのに、サン=サーンスのヴァイオリンソナタはそれに比べて録音は少なめ。
第1番は、華やかで色彩感があってとても綺麗な曲なのに録音が少ないのは、難易度が高いせいなのか、それほど人気がないからなのか...。とっても不思議。
ヴァイオリンソナタは2曲あり、演奏機会が多いのは第1番。
ピアノパートに限って言えば、指回りの良さを要求される技巧的なパッセージが多くて、かなり凝っていて華やか。
こういうところを軽快で柔らかなタッチで弾かないと、ピアノ伴奏がガチャガチャして目立ってしまうし、音の粒立ちが悪かったりペダル過剰だと、もやもやした混濁した響きになりそう。
指回りが良ければ綺麗に弾ける...なんていう曲ではないのは確か。
ピアノパートの多彩な音色や響きの移り変わりを聴くのがとても楽しい。こういう曲は、色彩感豊かでソノリティに対するセンスの良いピアニストで聴くのが一番。
スタジオ録音なら、カントロフ&ルヴィエ、シャハム&オピッツなど。(私はピアノパートに神経が集中してしまうので、伴奏がとっても気になります)
ピアノパートは、オピッツは全体的に打鍵が明確、一音一音くっきりと聴こえ過ぎて、音も太め。アルペジオの抑揚にもふんわりとした膨らみのようなものが少なくて、(私には)わりと直線的に聴こえる。全体的に骨っぽくてゴツゴツ硬いなあ..という感じ。
オピッツはベートーヴェン弾きというイメージが強かったので、フランス音楽というとどうかな?...と思っていたけど、近々ドビュッシーの前奏曲第1集のCDをリリースするらしい。一体どんなドビュッシーになるんだろう...。
ルヴィエは試聴しただけでも、柔らかいタッチと色彩感が豊かな音で、抑揚も大きく滑らか。
崩したような弾き方はしないところが品良く、フランス音楽らしい流麗で瀟洒な雰囲気も漂って、とっても良い印象。
結構魅かれるところがあるピアノなので、カントロフ&ルヴィエのCDはすぐにオーダー。
フランス・ヴァイオリン・ソナタ集 カントロフ / サン=サーンス/ラロ/プーランク (2003/03/26) カントロフ(ジャン=ジャック) 試聴する |
ライブ録音で聴いたパーチェのピアノは、オピッツとルヴィエの中間ぐらいのタッチ。
軽やかで柔らかだけれど切れのよいタッチとカラフルな色彩感があり、全体的にはルヴィエよりもシャープで明晰、オピッツよりも軽やかで詩情があるし、音楽の流れが滑らかで勢いがあるので、急速系の楽章はとても爽快。
いつもながら鮮やかなピアノで、シャープだけれど繊細さもあるツィンマーマンのヴァイオリンと相性がぴったり。
サン=サーンス/ヴァイオリンソナタ第1番
第1番は4つの部分からなり、全てアタッカで演奏される。
明確に4楽章に分けてはいないけれど、各部分の構成・曲想は明確に異なるので、4楽章形式の曲を聴くのと変わらない。
1. アレグロ・アジタート(ニ短調)
ややほの暗さのある情熱的な旋律と、爽やかな開放感の旋律とが交錯し、緩急・明暗のコントラストも鮮やかな印象的な曲。
ヴァイオリンが、比較的シンプルな音の構成で流麗な旋律を弾いているのに対して、ピアノパートは典型的な伴奏タイプで、主旋律を弾くことは少ない。
といっても、ピアノパートはサン=サーンスらしい流麗さでピアニスティック。
上下下降するアルペジオやスケールの泡立つような細かいパッセージが詰め込まれて、色彩感豊か。
重音は少なく力技はそう必要ないけれど、アルペジオの音形のヴァリエーションが多いので、響きが多彩。
左手から右手へとつながる音幅の広いアルペジオ(1'26”くらい)の響きや、小鳥が囀るようなトレモロ(38秒くらいのところ)の響きは繊細でとても綺麗に聴こえる。
下手をすると練習曲風に平坦になりそうなところを、頻繁に、それも1つの小節の中に両方ついていることの多いクレッシェンドとデクレッシェンドをつけるので、細波のようなうねりに聴こえる。
パーチェはディナーミクを素早く変化させていくところが上手い人なので、この楽章でもツィンマーマンのシャープで起伏の多いヴァイオリンの抑揚によく合わせて、アルペジオやスケールにも細かいうねりやダイナミックなうねりのあるところがとても鮮やか。
ベートーヴェンやブラームス、ブゾーニを弾いているときよりも、ピアノの音の線が細くふんわり軽い感じなので、フランスのヴァイオリンソナタらしく、軽やかで流麗な雰囲気もあり。
色彩感も豊かで、芯のある音なので響きはしっかりしているし、単音のパッセージが多いけれど音数は多いので響きが厚くなりすぎないように、ペダルは短く浅め。重音も軽やかでタッチの切れも良くて、いつ聴いてもパーチェの伴奏は上手い。
Saint-Saens, Violin Sonata No. 1 Zimmermann - Pace (1/3)
2. アダージョ(変ホ長調)
緩徐楽章のようにゆったりと甘い雰囲気の冒頭主題。
それに対して、ピアノ伴奏が和音のスタッカート主体で軽快な中間部が入っている。ここはリズミカルでちょっと可愛らしい。
Saint-Saens, Violin Sonata No. 1 Zimmermann - Pace (2/3)
3. アレグレット・モデラート(ト短調)
スケルツォといっても、勇壮なタイプではなくて、軽妙な舞曲風。
短調でやや不安げな雰囲気のスタッカート主体の旋律。リズムが面白い。
ピアノが主旋律部分を担うことも多くて、ヴァイオリンとの対話やデュエットが、人間の会話や、心のなかの対話のように聴こえてくる。
このスケルツォは、いくつか録音を聴くと、わりとシャープで強めのタッチで弾かれていて、ちょっと賑やか。
ツィンマーマンとパーチェの演奏は、音量を押さえて、軽やかなタッチ。密やかで曖昧さのある雰囲気が強くて、このスケルツォの弾き方はとっても印象的。
特に、ピアノの音色がとっても甘く可愛らしくて、この演奏の雰囲気にぴったり。
4. アレグロ・モルト(ニ長調)
優雅さと疾走感をあわせもったフィナーレ。
ついバリバリと勢いよく弾いてしまいそうな楽章のところを、速いテンポの軽やかなタッチとリズムで弾いているので、柔らかく優美さな雰囲気をもった淀みない疾走感がとても品が良い。
Saint-Saens, Violin Sonata No. 1 Zimmermann - Pace (3/3)
さすがにサン=サーンスの室内楽曲の代表作と言われるだけあって、一度聴いただけでしっかり記憶に残ってしまうほど印象的。
ラヴェルやドビュッシーとは違って、枠組みがかっちりして構成もわかりやすく、ヴァイオリンの優美な旋律とピアニスティックな伴奏が相まって、繊細だけれど華やかさと躍動感もあるところが魅力的。
フランクのヴァイオリンソナタのような深い感情移入を受け入れないクールな情熱と明晰さを感じさせるのが、サン=サーンスらしいところ。
ロマン派のヴァイオリンソナタでは、ブラームス、ブゾーニに次いで好きになったほどに、とっても気に入りました。
| ♪ F.P.ツィンマーマン&エンリコ・パーチェ | 2010-09-28 18:00 | comments:4 | TOP↑
大好きな曲なのです♪
この曲も素敵なのにちょっとマイナーですよね。
私はシャハム&オピッツのCDでこの曲を初めて知り、大好きになりました。多分発売されてすぐの頃です。シャハムがすごく若い時の演奏ですよね。
このCDで知ったせいか、オピッツの伴奏も気に入ってます。
息子のバイオリンでこの曲をやったことがあるので、特に伴奏は注目して聴いてしまいます。(バイオリンは意外と簡単なようですよ)
ツィンマーマン&パーチェも素晴らしいですが、カントロフ&ルヴィエは良さそうです。フランスものの空気感が十分に表現できてそうで・・・。
是非聴いてみたいです。
| マダムコミキ | 2010/09/29 00:42 | URL | ≫ EDIT