F.P.ツィンマーマン ~ シベリウス/ヴァイオリン協奏曲
HMVでCDをオーダーしたけれどまだ届かないので、待ちきれなくてNMLで全曲聴いてしまった。こういう時はNMLは本当に重宝。
ツィンマーマンは、シベリウスのヴァイオリン協奏曲を10歳くらいの子供の頃に弾いていて、両親から”まだその曲を弾くのは早いから、弾いてはいけません!”と怒られてしまったという。
それくらい子供の頃からとても好きな曲だったので、まだ若手だった1991年にヤンソンス指揮フィルハーモニア管とEMIに録音している。
この演奏は、テクニカルな切れが良いし、若々しく爽やか。
あまりにサラサラと上手く弾いているので、もう少しスケール感とか骨っぽさが欲しいかなとちょっと贅沢な物足りなさを感じたけれど、それでも変なクセのないすっきりとしたところが、ツィンマーマンらしい真面目さ。
技巧的な難所でも苦もなくさらりと弾いているようだし、クセの強い独特の解釈はしないので、一見してヴィルトオーゾ的な派手なところや個性が強くなくて無味無臭とか言う人もいるらしい。
彼の演奏はどの曲を聴いても、良いバッハ(やベートーヴェンやブラームス、etc.)が聴けたという充足感があって、現役のヴァイオリニストでは一番好きなので、CDやライブ録音も(チャイコフスキーなど聴かない作曲家は別として)まめに集めている。
彼は結構人気はある(らしい)ので、ウェブラジオでも協奏曲のライブ録音や中継を時々放送している。
ツィンマーマンがリサイタル形式で弾いたバッハのヴァイオリン・ソナタのDVD映像に、最近のコンサートで弾いたシベリウスのヴァイオリン協奏曲のライブ映像(曲の一部)があって、これがEMIの録音よりもさらに磨きがかかったように良かったので、早く録音し直してなおしてくれないかなと長い間待っていた。
そのDVDのなかで、この曲についてツィンマーマンが話していたのは、初めて録音して以来長い間弾いていなかったけれど、最近再び弾き始めるようになって、もう一度初めから終わりまで勉強し直した、ということ。
この曲は難しいパッセージが多くて、タイトロープ(綱渡り)のようだとも言っていた。
シベリウス:ヴァイオリン協奏曲/交響詩 「吟遊詩人」/交響詩「森の精」 (2010/09/15) F.P. ツィンマーマン、ストルゴー指揮ヘルシンキ・フィル 試聴する(仏amazon) |
今回は、なぜかレーベルがフィンランドのOndine。(移籍したのか、それともSONYとの専属契約ではなくなったのかは知らないけど)
指揮者のストルゴーとは、ブゾーニのヴァイオリン協奏曲を録音していた。
この曲自体(演奏ではなく)がどうもパっとしなかったけれど、カップリングされているヴァイオリンソナタ第2番の方は曲も演奏も素晴らしく、バッハとブゾーニのヴァイオリンソナタを聴いてから、すっかりツィンマーマン(とパーチェ)の演奏にはまってしまった。
このブゾーニのCDとバッハのCD&DVDは、数え切れなくくらい(それこそ何十回と)毎日聴いて(観て)いたので、とうとう最近は聴かなくなったけれど、そのうちまた聴きたくなりそう。
シベリウスのコンチェルトは、最近ハーディングやドホナーニの指揮でもコンサートで弾いていて、かなり弾き込んできているらしい。
シベリウスで弾いているヴァイオリンは、旧録の時のヴァイオリンとは違うもので、クライスラーが所有していた1711年製のストラディバリウス。
(ドイツの銀行が貸与しているもので、CDの解説書にはいつもそのことがしつこく書かれているのには閉口してしまう)
バッハのDVDを見ていると、ツィンマーマンがこのストラディバリウスにとても惚れ込んでいるのが良くわかる。絹のようなまろやかさと深みのある落ち着いた音色が、とても品良く聴こえる。
シベリウスのヴァイオリン協奏曲で、今までよく聴いたのはカヴァコスとパールマンの録音。
カヴァコスの線の細いしっとりした叙情感には、ちょっと脆さを感じさせる繊細さがあるけれど、水気を含んだ音がとても美しいシベリウス。
パールマンの全盛期に録音した、美音で明るい伸びやかなシベリウスは、楽天的に歌いだしそうになるのを抑えている気はするけれど、やっぱりロマンティックで爽やかな北欧の夏のよう。
ツィンマーマンのシベリウスはそれとはかなり違った趣き。
元来の切れのよいシャープさにさらに磨きがかかり、男性的な力強さも加わって、旧録よりも大小様々な起伏が多くなって濃淡が濃くなり、彫が深くてダイナミックなシベリウス。
それでもベタベタと感情移入の過剰なところはなくて、細部の端正な繊細さと爽やかな叙情感があるのはいつものツィンマーマンと同じ。(ツィンマーマンの演奏は地味という人もいたけれど)
子供の頃から弾いていた曲なのに、改めて一から勉強し直したというのが演奏に現れているような、細部まで表現が練られている印象。密度が濃くて中身の詰まった質感を感じるのがとても良い感触。
たまたまYoutubeで聴いた有名なアジアの女性ヴァイオリニストのシベリウスは、情念が渦巻く白熱感のある演奏だったので、こういう風に弾く人もいるのね~と珍しく思えたけれど、いろいろレビューを読んでみると、女性ソリストは変にメランコリックだったり、過剰なくらい濃厚なロマンティックな表現で弾く人が結構多いらしい。
こういうタイプの演奏は、ピアノでも苦手なので、それはヴァイオリンの場合でも同じ。
結局、ピアニストとヴァイオリニストの好みのタイプは共通しているので、私の好きなピアニストで一番近いタイプは誰だろう....と考えると、思い浮かんだのはスティーブン・ハフ。
技巧優れたところは同じだけれど、ツィンマーマンは、ハフよりもさらに現代的でシャープな切れ味と、演奏の線がやや太くて男性的な力強さがある。(ハフは、爽やかだけれどかなりロマンティックなところはあるし、線がちょっと細いかも)
現代曲の演奏が冴えているところも似ているし、二人ともとても真面目な性格みたいに思えるし。
このシベリウスの協奏曲も、潔く切れ味の良い急速楽章と、穏やかで端正な落ち着きのある緩徐楽章のバランスがほどよく、期待をはずすことなく良かったので、再録音をずっと待っていたかいがあったというもの。
ウェブラジオのライブ放送で最近聴いたブラームスやベートーヴェンも、やはり以前の録音よりも充実したものがあるので、SONYでもOndineでもどこでも良いから、早く再録音を出して欲しいものです。
| ♪ F.P.ツィンマーマン&エンリコ・パーチェ | 2010-09-13 12:00 | comments:2 | TOP↑
RE:シベリウス:バイオリン協奏曲
Yoshimiさん、こんにちわ
あれ、ツィンマーマンって、確か、ピアニストで、「ショパン:ピアノ協奏曲第1・2番」を演奏するために、1年間限りのオーケストラを作って、演奏旅行を行うと共に、CDも作成したのだと思いましたが、あれは、似た名前ですが、ツィマーマンのようですね。
私はツィンマーマンと言う名前のバイオリニストの名前は初めて知りましたが、「シベリウス:バイオリン協奏曲」の録音では、「スピロヴァスキー(vn)、ハイニカイン指揮ロンドンso.」のものが好きですが、現役のバイオリニストでは、ナージャ・ソレルノ・ゾネンバーグの録音が好きです。
そう言えば、この曲は、第1稿があって、現在のものとは大きく異なっていますが、CDを聴いた限りでは現行版の方が好きです。
| matsumo | 2010/09/13 15:23 | URL | ≫ EDIT