連載第2回では前回に引き続き、過去の失敗プロジェクトの反省に立った、特許庁の新たなシステム刷新体制を検証する。
(3)開発の難易度を引き下げ
過去プロジェクトと異なる3番目の特徴は、スケジュールやアーキテクチャーを工夫して、システム開発の難易度を引き下げたことである。
今回のシステム刷新は今後8年をかけ、大きく3段階に分けて実施する(図1)。まず特許と実用新案の形式・実体審査を担うシステムを刷新。次に審判・公報システムを、最後に意匠・商標システムを刷新する。
過去のプロジェクトでは、全てのシステムやデータベースを、一斉に新システムに切り替える計画だった(図2)。このためシステム構築の規模が肥大化し、プロジェクトの管理が極めて難しくなっていた。今回は、機能ごとに複数のサブシステムに分け、順次刷新する形にする(図3)。
システムアーキテクチャーについても、一定の実績があるものを採用した。というのは、かつてプロジェクトが失敗した要因の一つに、採用したアーキテクチャーの難易度が高かったことがあったためだ。
過去のプロジェクトで特許庁が採用したアーキテクチャーは、出願特許など全ての書類データをXML形式に統一して共通データベースに保存。審査の進行状況などもすべて書類データのXMLデータに落とし込む(図4、図5)。この書類データを起点に、庁内の全ての業務プロセスを管理する。
このアーキテクチャーの評価は、技術者によって大きく異なる。ある技術者は「アイデアとして極めて優れている」と評価する一方、実際にプロジェクトに関わった技術者は「確かに実現すれば『夢のアーキテクチャー』だが、本当に実装できるとは思えなかった」と語る。
「XMLで全ての業務を管理する」という理想がある一方、参考になる開発手法も、開発ツールもなかったからだ。加えて現場の業務プロセスも、このアーキテクチャーに合わせて大幅に書き換える必要があった。