ひょっとして,あなたの所属する企業や組織は「ITメタボリック症候群」に陥っていないだろうか?
ご存じのように,いま中高年世代で話題の「メタボリック症候群」は,血圧や血糖値などの小さな異常に内臓肥満が加わることで,深刻な病気になる確率がぐんと高くなるというもの。ITメタボリック症候群は,その“IT版”のつもりで日経コンピュータが考えた造語である。
実は,日本のユーザー企業の多くが,ITメタボリック症候群に陥っている。これが,「多額の投資の割に,どうもITの効果が薄い」と経営者が感じることが多い最大の要因となっている――。30人近い情報システム部長やIT分野のコンサルタントに取材した結果,こうした結論に達した。
いったいITメタボリック症候群とは,どのようなものか。それを実感していただくために,以下のチェックリストを用意したので,ぜひ試してほしい。あなたの企業あるいは組織の「ITメタボリック度」がどの程度か,感触をつかむことができるはずだ。
このリストは,本誌10月30日号特集『ITメタボリック症候群』に載せたものと同じで,ユーザー企業のシステム部門を想定している。ITベンダーの方は,担当している顧客(ユーザー企業)のIT部員になったつもりで,回答してみてほしい。
※該当箇所にチェック印を付け、下の「回答を送信する」ボタンを押してくだ さい。別ウインドウに診断結果が表示されます。
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診断結果は,どうだっただろうか? 意外と多くの企業や組織が「注意」や「危険」と診断されたかもしれない。でも,心配は無用だ。一度は,この症状に見舞われたものの,脱“ITメタボリック”を果たした企業も数多く存在するのである。
「8割主義」で投資効果の増大を狙う
チェックリストをご覧いただければ想像がつくと思うが,ITメタボリック症候群とは,システムが気づかぬうちに肥大化することを指す。システムを,とにかく利用部門からの要求通りに作り込む。年に1回,使うか使わないか程度の機能であっても,盛り込む。システムの使い勝手も,できる限り追求する――。こうしたシステム部門の態度が,ITメタボリック症候群につながっていくのである。
もちろん,こうしたシステム部門の生真面目は,必ずしも否定されるべきものではない。むしろこれによって,充実した機能を備え,品質の高い数々の企業システムを生み出しているのも事実だ。
本誌はあえて,「もう少し違う発想をしてみたらどうか」と提言したい。「何が何でも完璧を目指す」という,システム部門の“かたくなさ”が,ビジネス・スピードに追従するのが困難,使われない機能が増えてしまい保守が面倒になる,投資の割に効果が得られない,といった弊害をもたらすことにつながっているからだ。
すでに,脱“ITメタボリック”の発想で,システム開発に取り組む企業が登場している。全日本空輸(ANA)はその1社。チケットレス搭乗サービス「SKiP」を2006年9月に始めるにあたり,必要なすべての機能をシステムに作り込む方針をあえて採らず,企画からわずか半年でサービスを開始した。「システムで処理できない事態が発生したら,従来通り,紙のチケットを使えばいい」と割り切り,サービス開始までのスピードを優先させたのである。
ANAのような脱“ITメタボリック”を果たした企業に共通しているのは「8割主義」。「10割をじっくり目指す」のではなく,「8割を素早くやる」ことを重視することをいう。あるITコンサルタントは,「たいていの場合,自社システムで実現している機能要件の2割を削ったとしても,ビジネスに支障が出ることはない」と指摘する。
8割主義を実践するのは,実はそう簡単ではない。「どの2割を捨てるか」を的確に判断する体制作りが不可欠で,そのためにはシステム部門だけでなく,利用部門,経営陣の協力が欠かせない。当然,ベンダーに依存しているユーザー企業が実践するのは不可能に近い。
だが,ITメタボリック症候群から脱却しないと,システムの投資効果増は期待できない。システム部門の地位も上がらない。本誌特集では,ANAに加えて10分1000円の理容店「QBハウス」を展開するキュービーネットや,「ユニクロ」や「ジーユー(g.u.)」を展開するファーストリテイリングなど,ユーザー企業15社の事例を紹介している。より効果的にシステムを生かすための,参考にしていただければ幸いだ。