筆者は,10月11日付けのこの欄で,9月26日から10月2日にかけて実施した「ITエンジニアのメンタルヘルスに関するアンケート」の調査結果を報告した(3割弱が「こころの病と診断されたことがある」)。アンケートでは,「こころの病」に関するご自身の悩みや会社の体制など,ITエンジニアのこころの病に関する意見を自由に記入していただいた。このコメント数は406件にも上った。

 今回は,アンケート回答者に記入していただいたコメントを基に,こころの病にかかる原因や背景,会社のサポート体制の現状,エンジニアに必要な心構えなどを探っていきたい。まずは,「最近,こころの病が急増している」と指摘するコメントを紹介しよう。

■周囲を見ると非常に多いです。異様に多いです。自分の部下も複数人追い込んでしまった経験がありますが,プロジェクトで独立して活動していますので,人事上の上司ができることも限られます。それどころか上司自身もいろんなプロジェクトにかり出されますので,とんでもない状況で仕事をしているのが通例です。(41際,プロジェクト・マネジャー,ベンダー)

■とにかく発生頻度が異常に高い。自分の知っている範囲だけでも,程度の差はあれ片手に余るほどの人数が発症しており,身体的な病気や事故よりはるかに多い。社内体制としては,一応相談窓口は用意されているものの,他の諸問題に比べて切迫感が見えない。しかし個人的には危機的状況だと考えている。(43歳,運用/管理,ユーザー企業)

■最近,周りでうつ病にかかる人が増えてますが,会社はあまりケアをしてくれないという話をよく聞きます。また休職しても復帰できないケースが多いように思います。プロジェクトの人員削減による過度の負荷,プロジェクトの全責任を押し付ける会社・上司との板挟み,ディスパッチに徹し責任をなすりつける上司とのあつれきなどが起こっている場合は病気になる確率が高いように思いますので,会社は逃げずに状況を把握して適切な対策を打ってほしいです。(36歳,マーケティング/営業,ベンダー)

■会社が成果主義になってきてからうつ病になる人が増えてきた。(47歳,プログラマ,ユーザー企業)

最大の理由は過重労働

 こうした意見を見ると,IT業界でこころの病が増えていることは間違いないようだ。では,エンジニアがこころの病にかかる原因は何だろうか。自身の体験をつづったコメントを見ると,やはり過重労働が最大の理由のようである。

■病気にかかったきっかけは,まずは重労働だと思います。運用担当で24時間365日電話がかかってくる状況でした。夜中零時前に家に帰ってもその数時間後には電話で呼び出されたり。夜中の2時や3時に起こされたり・・・。こんな生活を繰り返していました。そんなある日突然,こころの病はやってきます。もっと頑丈な体だと信じていましたが,実際には見えないところでボロボロになっていたようです。(31歳,SE,ベンダー)

■企画から何もかも1人で任されていたプロジェクトで激務,薄給で何のために働いているのか分からなくなり,「やっていた仕事を終えたら人生の集大成として死のう」と本気で考えていました。途中,不眠・情緒不安定で働くことができなくなり入院し,そのまま退職しました。実際お客さんからお金をもらう仕事ではないため,数多くいる営業に比べプログラマである自分が肩身の狭い思いをし,会社のパソコンの前で昼・晩ご飯も済ませ,1日14時間近く働いていました。事業系の会社だったのでプログラマへの配慮など一切なかった気がします。(20歳代,プログラマ,ユーザー企業)

■1000人月超規模のPMを担っていたが,基本設計は何とか期日どおりに納品したが,物理設計工程でスケジュール遅延が顕著(論理設計でユーザー要件が固まりきらず,物理工程においてリカバリを図ったが,さらに要求が増え,スケジュール見直しが必要となった)となり,再計画の必要性を顧客に説明するも納得されず,リカバリプランの作成などで過残業となった(もともと月300時間以上の勤務状況であったが・・・)。結局,PMを交代し,業務開発のリーダーとなったが,体調不良(耳鳴り,めまい,集中力の欠如)となり,通院したところうつ病と判断された。そのプロジェクトでは,自分も含めリーダークラスが3人,担当者2人が病欠もしくは退職することとなった。PMは自分の責任で何とかリカバリしようと頑張ってしまうため,上司およびPMOなどがアラームを出さなければならない。(42歳,品質管理,ベンダー)

■うつ病を発症して1年半。胃潰瘍と十二指腸潰瘍も同時に発症。職場に復帰して1年たちますが,まだ仕事ができない状態です。会社の組織変更で大幅に人員削減され,1人の業務量が膨大になり,70人の職場で16人が退社し,6人がうつ病に。それが原因で残った人の業務もさらに増加し,今後も退社,うつ病の患者が増えると予想します。ソフト会社での引き継ぎは非常に困難で,その人しか分からないことが多い。そういう人が多数退社したので,大変苦労しています。企業はもっと人を大切にすべきと考えます。利益優先で正社員が増えず派遣ばかりでは,正社員の体が不調になります。(40歳代,ベンダー)

■自分はうつ病になって会社を2カ月ほど休みました。理由は最初から絶対に無理な作業を引き受けたために過重労働になり,先が全く見えなくなってしまったためです。PJメンバー全員が忙しく,上司からは自分が作成する成果物の品質の低さにしかられる毎日でした。そのため,頭が全然働かなくなりました。自分の変化に気づくメンバーはおらず,手の震えが発生。これは限界と自分で判断し,会社の健康管理センターに相談しました。その時,涙が30分ぐらい止まらなかったのを記憶しています。結果的にうつ病と診断され,2カ月後復帰しました。(41歳,生産技術,ベンダー)

特定の上司の下にこころの病が発生

 上司との関係も,こころの病の大きな要因となっているようだ。

■私自身がうつ病になったときは,まだまだ世間の理解がない時代で,某大手メーカー系の大手販売店にいたんだけれども,退職を余儀なくされた。「あいつはだらしないやつ。あいつは弱いやつ」といまだに思っている人がいると聞いている。電子回路や電気回路,OSのオペーレーションなど,誰よりも知識があったにもかかわらず,それが理解されず非論理的で「つべこべ言うな。黙ってやれ」的な指示・命令。うつ病にもなりますよね。(45歳,SE,ベンダー)

■人事異動で多少畑違いの部署から独善的で高圧的な上司が来てからのことです。次々と社員がメンタルダウンしました。私がダウンした3人目です。私の後にも移動した同僚がいました。上司は確かに優秀なのですが,自分よりデキル分野を持つ部下を許容できないタイプ(これ故に優秀になったともいえます)で,会話をするだけのことも非常に大きなストレスでした。(39歳,プロジェクト・マネジャー,ユーザー企業)

■私の身近では,こころの病は,上司との信頼関係の喪失によって発病するケースが多い。上司に何を言ってもムダという感じがして,希望を持てなくなる。私の会社では組織変更に伴う異動が多くあり,上司が部下に対して「長期間続く部下」としてではなく,まるで外注の社員のように接することが原因の一つという気がする。(33歳,プロジェクト・マネジャー,ユーザー企業)

■ある特定の上司の下にこころの病が発生していますが,その上司は評判が悪いながらも,その地位を保っています。会社の七不思議の一つです。
(36歳,マーケティング/営業,ベンダー)