夕方6時過ぎの30分間ほど、NHKで「海外ネットワーク」という海外のトレンディーな情報を紹介する番組がある。たまたま1月14日、途中からこの番組を観ていた。女優の紺野美沙子がゲストだと紹介していて、なんだか久しぶりに彼女の姿に触れて「老けたなぁ」などと思いながら番組に釣られた。
前段は、日本から送り出したPKOの南スーダン情報で、さすがに現地の人々が動いている姿には関心が寄った。その次に紹介されたのが、ブラジルに住む150万人(と言われる)の農地開墾時代の苦労話で、開墾の重労働で故郷を懐かしみながら沖縄からの移住者が食べた沖縄そばの話に移った。その「沖縄そば」の昔ながらの作り方がそのまま二世、三世と受け継がれ、現在、大きなレストランとして人気を呼ぶ名物店になったという話だった。調べてみると、1908年の第一回移民は780名で、沖縄出身者は325名と、半数に近かったことが分かった(参照)。
開店当初の話が面白かった。ずるずる音をたてて食べる日本式の麺の食べ方が恥ずかしく、カーテンをかけて店の中を見られないようにしたのが功を奏し、ブラジル人の関心をかい、ブラジルに広まったそうだ。へっ、沖縄そば!沖縄ではそばのことを「すば」と発音するという話や、現地でおジイと呼ばれる初老の男性から伝授されたその父親の手打ちそばが旨いという話を思い出した(参照)。動く画像でこのそばを見たのは初めてだった。沖縄名物の豚の三枚肉の煮物の厚切りと紅生姜、青々としたきざみ葱がこんもりのっている。想像通りのそばだった。いつか本物の沖縄そばが食べてみたいものだということだけが強烈にインプットされていた。そう、その想像していた通りの沖縄そばをブラジルの大きな店で、大勢人が食べている光景が番組で紹介された。ひょえー。これ作る!すぐにそう思った。
ここでちょっと番組の話になるが、紹介されていた沖縄そば店の初代オーナーであるおバア、のお年はお幾つくらいだろうか、90歳近いのだろうか、私の両親よりも少し上くらいだろうか。そう思って観ていた時、母から聞いた話を思い出していた。それは私が成人したころだった。ブラジル移民やその後の生活を伝える番組は昔からあり、たまたまそのような番組を当時NHKで親子で見ていた時だった。「長崎に住んでいた頃、ブラジル移民の話があって、家族でブラジルに移民しようかと本気で考えていた頃があった」と言うのである。これを聞いたとき、ああ、私はブラジルの日系人として育っていたら、もしかしたら農場の娘になっていたのかもと、わくわく胸がときめいたのだった。その後、私はイギリスへ一人で旅立ったが・・。母の話で興味深かったのは、政府の誘い方が巧妙で、楽天地のようなブラジルだという印象付けをしていたらしく、怪しいと勘ぐったそうだ。そして、その話に乗らなくてよかったと両親が安堵していたことだった。番組に登場していた移住した人々の話も、開墾作業の辛さやお腹が空いていつもひもじい思いをしていたといった苦労話ばかりであった。が、どうだろう、昨年のある番組では、養鶏で成功した大会社の社長もいたし、大牧場のオーナーの話もあった。そして、そこには苦労話もつきものであった。
母がブラジルへ移民しなくてよかったと言っていた頃は(1977年頃)、ブラジルの日系人二世が苦労している頃であっただろうか、そのうちの一握りの日系人が成功して今に伝えられている。と、そんな時の流れを感じ、また、老いを実感し、感慨深くしんみりした。何かをすればその結果は出すことができるが、何もしなかったとしてもそれも結果であり、自分の人生なのだと思うと、何となく何も残せていないような人生だったと思った。これから自分にどれだけのチャンスがあるかわからないが、何かをやろうと思ったらその時がチャンスなんだろうか。
さて、沖縄そば。これ食べたいと思った。今がそのチャンスなんだなということで、早速作ってみることにした。もちろん、伝統的な材料は入手できないので、以下の紹介を参考に作ることにした。その前に、雰囲気を盛り上げる意味で、その部分をちょっと読んでスタートしたいと思い、引用させてもらった。
オジー伝承・手打ち麺の作り方だが、かんすいは使わない。ガジュマルの木灰の上澄みをかんすいの代わりにする。現在では、この製法で作る沖縄そばを「木灰そば」と呼ぶことがある。麺は白い(中華麺が黄色くなるのは本来はかんすいのため。現在では着色)。歯触りがぷりっとして噛むとぷちっと切れて心地よい。麺も滋味深い。余談だが、沖縄の豆腐もにがりを使わない。海水をそのまま使うと当然にがり成分が含まれているからだ。
オジーによる麺生地の裁断だが、うどんと同じである。伸ばして畳んで包丁でざくざくと切っていくのである。職人ではないからそう細くは切れない。それが沖縄そばが太い理由である。
ちなみに私も手打ちをしたが、うどん同様(参照)、パスタマシンで作った。ガジュマルの木灰ではなくベーキングパウダーを少量使った。重曹でもよいが、ベーキングパウダーだとつるっと感が出る。塩は入れない。
そば汁は、基本は豚ダシと鰹ダシである。豚ダシにはわけがある。そばに載せる三枚肉の煮た汁をダシとして使うのである。
三枚肉とは皮付きバラ肉である。塊で買う。東坡肉やラフテーもそうだが、皮の部分がゼラチンっぽくてうまいのである。が、沖縄とても本物の三枚肉はそう手に入るものではない。沖縄の豚肉の多くはオランダとかからの輸入品が多く、皮なしの二枚肉になる。
これを塊のまま水煮にする。小一時間煮る。沸騰したときにはアクを取る。スロークッカーとかだと煮るプロセスが簡単になるし、アクをとったらシャトルシェフに入れておいても、それなりに煮える。
煮たロース塊は8ミリくらいにスライスして、醤油と砂糖で甘辛く味付けする。これが叉焼よろしく具になる。三枚肉ではなく、豚スペアリブにすると「そーきそば」になる。
他の具では、かまぼこが欠かせない。これが内地ではあまり見かけない。方言でいう「かまぶく」は内地のかまぼこみたいな、プラスチック消しゴミみたいな感じはない。おでんの具の練り物や笹かまぼこなんかに近い。おそらく、沖縄のかまぼこは内地の昔の製法なのではないか。とりあえず、内地で作るなら笹かまぼこで代用する。
具というのもなんだが、散らすネギも欠かせない。内地・関西のネギと同じで万能ネギである。きざんで載せる。他に、紅ショウガを載せることもある。
まず、麺のつなぎにはベーキングパウダーを採用した。書いてある通り、つるっとした麺の食感がポイント。それに弾力だが、冒頭のNHK番組で人々が食べているのを目を凝らして見たが、口に運んでずるずる吸い込むというよりは一口運んで歯で噛み切り、その部分から下の箸でつまんだ部分は、どんぶりに戻っていた。かなりの量であった。食べ方も豪快であったが、歯で噛み切った時に切れた麺が弾き飛ばされるような弾力というか、ぶっつり切れていた。あの弾力なんだろうなぁ。ますます楽しみになってきた。が、ベーキングパウダーだけであの食感が再現できるかどうかちと心配もあった。それに、「塩を入れない」というのが常識概念から外れている。パンだって、塩が入っていないと良く膨らまないし、甘くてまずいパンになってしまう。でも、初回なのでまず、レシピに忠実にやってみることにした。
それと、三枚肉の煮物。これは沖縄で「らふてー」と呼ばれている料理のことかな。だとすると、塊肉のまま下茹でして余分な脂を取り、厚切りして泡盛で煮込んで柔らかくしてから砂糖と醤油で味付けする。皮つきの豚バラがあればよろしいが、なくても豚の角煮(東坡肉:トンポーロウ)と思えば同じである。それらなかなり簡単な作り方のレシピはここにもあるぜ(参照)。うーむ、どうしよう。その時間もなければ、スライス肉に同じような味をつけてもいいんジャマイカ。これは、身が締まって固くなりやすい鴨のスライスなどに味付けする方法で、うどんや日本そばにのせて頂く料理である。
と、ここまで書いて、行きつけの何軒かの店を回ってくることにしよう。豚の皮つき三枚肉があったらもちろん本格的にらふてーを作ってみよう。なんせこの煮汁が沖縄そばの出汁に使われるとあれば、それはやはり豚から出たコクのある出汁にしなくては意味がなくなりそうである。
結局、豚バラブロック肉に落ち着いた。思いは沢山あるが、まずは作ってみよう。材料と作り方は画像と一緒にできるだけ実況に近い形で書いてみようと思う。
沖縄そばの具材(三人分)
- 豚バラ煮物(沖縄らふてー)・・一人3枚
- 笹かまぼこ・・一人1枚
- 紅生姜・・適宜
- きざみ葱・・一人大さじ2
- 沖縄そば3玉(300gの強力粉で作った手打ち麺)
- 鰹出汁・・1000cc
- 豚出汁(らふてーで出来上がった煮汁)・・一人大さじ2
- 塩・・一人一つまみ
豚バラの煮物(らふてー)の材料
- 豚バラブロック肉・・790g
- 水・・4㍑(肉の重さの約5倍)
- 鰹出汁・・3カップ(肉100gにつきカップ1)
- 砂糖・・大さじ4(肉200gにつき大さじ1)
- 泡盛・・大さじ4(肉200gにつき大さじ1)
- 醤油・・大さじ4(肉200gにつき大さじ1)
- 経木・・1枚またはオーブンシートを代用
- リードクッキングペーパー・・落し蓋代わり
作り方
こちらのサイト☞を参照したが、分量も煮る時間も違うので、今回作った通りにレシピを書いておくことにした。
- 塊で買ってきた豚バラ肉(790g)を約5倍の水(4㍑)で強火で蓋をしないで茹で始める。
2. 20分程すると泡と一緒にアクが浮き始めるので、こまめに掬い取る。
3. その後、30分ほど時々アクを掬いながら下茹でし、脂身を崩さないように取り出して茹でたお湯は捨てる。
4. 肉を7~8mmの厚みに切り分ける。
5. 平鍋に経木を敷いて4の肉を並べ、鰹出汁と泡盛を加えて落し蓋をし、蓋をして中火で煮始める。
6. 煮立ってきたら砂糖を加え、肉がわずかに動く程度の火加減に落とし、蓋を少し開けて10分ほど煮る。
7. 醤油の半量を加え、同様の火加減で10分煮てから残りの醤油を加え、6と同様に約1時間煮る。
※煮汁が1/3になるくらいまで煮るのが目安だが、肉がほろほろの状態までできればじっくり煮込む。途中、水分が蒸発して煮詰まるようなら、鰹出汁を少し足しながら様子を見る。
沖縄そばの材料(3人分)
- 国産強力粉・・300g
- ベーキングパウダー・・小さじ1
- 水・・150cc(粉の50%)
作り方は手打ちうどんと同じ方法で打つ(レシピ☞)。が、ベーキングパウダーだと麺を茹でると膨らむので、うどんよりも薄く延ばし、麺の幅も細目にすると喉越しが良くなる。これは沖縄そばに近づいているのだと思う。まずは、一人分だけ生地を切り取って作ってみた。
1. 分量の水にベーキングパウダーを混ぜ、ボールで小麦粉に少量ずつ加えながら菜箸で均一になるように混ぜる。
2. ひとまとめになったら丸めてスーパーのレジ袋の中央に置き、床の上で10分ほど足踏する。途中二三回袋から取り出して四つ折りにし、生地がなめらかになるまで踏む。
3. 生地の三分の一を切り出し、打ち粉をした台で手のひらで細長く伸ばす。
4. 綿棒に巻きつけて中央から外側に向けて少しずつ押しながら前方へ綿棒を送って生地を伸ばす。
5. 広げて綿棒を生地のう上で転がして生地を2mm以下の厚みに整える。(幅は約15cm長さは40cmくらい)
6. 生地が重なる部分に打ち粉をしながら三つ折りにし、包丁で2~3mmの幅に切り、持ち上げて台に軽く叩きつけて麺をバラす。
7. 鍋にたっぷりのお湯をたぎらせ、麺を2~3分茹でてざるに取る。
8. 温めておいた器に麺を落とし、鰹出汁と豚出汁、一つまみの塩を加えた出汁を通す。
9. 具をのせて完成。「どう見てもうどんだよね。これ。」「これでいい野田。」
また、茹で上がった麺をすぐに食べる場合は、同時進行で出汁に好みの分量の豚出汁を加えて塩を一つまみ加えて沸騰状態にしておくとスムーズだが、茹で麺をしばらく置く場合は、油をまぶして風に当てるなどで素早く冷まし、冷蔵庫保存すると良いようだ。その場合の美味しい作り方がこんな風にある。
さて、具はある、そばもある(買ったのでもいい)、汁もある、とする。
じゃ、丼に麺を入れ汁を入れ具を載せればいいのではないか。それはそうだが、そのままだと麺は冷えているし、丼も冷えている。麺は十分温まってこそ味わい深くなるものだ。
まず汁を鍋で煮立てる。軽く沸騰させる。汁を一人分丼に注ぎ、一人分麺を入れ、しばし待つ。麺と丼を暖めるのである。そして冷えた汁だけを鍋に戻す。
汁が鍋で再び煮立つのを待ち、煮立ったら、再び麺を持った丼にかける。具を載せる。うさがみそーれー。
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