ビューリーブロート(Bürlibrot)ハード系のスイスのパン
先日、知人にスイスで食されていると言われているビューリーブロート」(Bürlibrot)を焼いて差し上げたら、ご夫婦ともに大変気に入られ、フレンチのシェフが本業のご主人から、自分で焼いてみたいと言われ、一緒に作るところまで話が発展した。早速、5月の連休後に日程を取る段取りを考え始めたが、イースト菌を使わずホシノ天然酵母使用のため、発酵に時間がかかる。継続的な生地の観察と作業が途中に入るため、短時間で教えるのは難しい。と言うわけでまずは、ここにレシピを立ち上げることにした。
その前に、彼は、ネットでレシピの紹介はないかと探したそうだが、なかったらしい。パンの画像は見かけるが、確かに自分で作れるようなレシピは探した範囲では存在していない。ヨーローッパ最大のレシピサイトと言われる「シェフクック(Chefkoch)」(参照)に一点、レシピはあるが、材料を見ると、サワー種(酵母)を使った普通のフランスパンレシピだった。
では、ビューリーブロートとはいったいどんなパンか?フランスパンとは違うのか?
この質問に応えるよりもまず、食べてみてほしいと言いたいが、文章で説明すると、こんな感じ。 フランスパンのようなクラスト(皮)の色とは少し違って赤茶色をしている。味わいは、深みのある香ばしさであることと、何よりも生地のもちもちとした食感や気泡の入り方は、大小様々。引き千切るにはかなりの力を要する弾力だ。大きさの割にずっしりと重いのに、切った断面で分かるとおり、大きな気泡の空洞が沢山あって重さほど質感がない。薄くスライスしてトーストすると、カリカリとしたラスクような食感になる。とまあ、こんな感じかな。ポイントは皮と生地。うん、それってパンの全てじゃんって言われそうだけど、画像も今回はしっかり撮ったので、拙い文字表現と画像からその味わいを想像してみてほしい。
さて、どうしたらこんなパンが焼けるのか?それには、魔法が二つ必要だ。その魔法が上手く効果を発揮してくれたら誰にでも簡単に焼けるパンとも言える。
一つ目は、「モルト」を加えている。モルトというのは麦芽糖のことで、液状とパウダーの二種類あり、発酵を助ける役割がある。甘くないので、フランスパン系の生地に混ぜても生地が甘くならない上、焦げやすくなる。他に使用すると言えば、イギリスパンやベーグル。イギリスパンのレシピはここでも紹介しているが(参照)、普通の食パンと比べて焦げ色が違うのは歴然だ。また、ベーグルは、直に生地に混ぜるのではなく、焼く前の湯通しするお湯にモルトパウダーを少し加える。ベーグルの醍醐味は、あのクラストにもある。
二点目は、ビタミンC。レモン汁を代用してもいいと思う。パン材料の店で「ビタミンC」と言うと、白い粉末が出てくる。この粉末を水に加えて溶かしたものを5滴ほど生地に混ぜて使用する。ビタミンCを加えると生地が締まる効果がある。焼くとそれが生地の弾力にもなるが、何よりも、水分の多いフランパン系の生地は、ベタベタしているため成型時に生地を傷めやすい。扱いに注意しないとせっかくの発酵生地の気泡をつぶしてふくらみの悪いパンになってしまう。そこで、このビタミンCが活躍してくれる。生地に弾力がつきベタベタしなくなうえ、締まる。いくらかでも扱いやすくなるというわけだ。また、ビタミンCは熱で分解されてしまうので、焼き上がりのパンの味には影響しない。とまあ、理屈はこんな感じ。実際いろいろなパンを焼いてみれば、その違いも体験できると思う。当たり前だけど。
発酵に使用したのはホシノ天然酵母から起こした生種だが、イースト菌でももちろんオッケ。イースト菌で代用する場合は、強力粉100gに対して1gと覚えておくと良いと思う。例外的に、砂糖の多いパンは発酵を助けるために倍くらい加える。ホシノ天然酵母から起こした生種だと、100gの強力粉に対して5g(小さじ約1杯)を基準にしている。
さて、いよいよ作り方の手順だ。このパンの特徴的な作り方でもあるが、二段構えで生地の発酵を進める(水種法)。まず、「水種」と呼ばれる水分の多い発酵種を分量の小麦粉から取って作り、その種と残りの小麦粉や塩を混ぜて「本ごね」をし、一次発酵させる。この作り方は、フランスパンに多く用いられる。水分の多い生地なのでこの方法だと扱いやすく、発酵や熟成も時間が短縮できる。また、生地に弾力をつけるために、ガス抜きを数回行う。下の画像は、本ごね後の生地のガスを抜いて再発酵させ、再びガスを抜いた生地の状態だ。因みに、他の製法だと材料を最初から全部混ぜる「ストレート法」や、小麦粉と水だけ初めにこねて生地を安定させてから他の材料を混ぜる「オートリーズ法」などもある。
次に、成型についてだが、難しい点は特にない。でも、用意するものがいくつかある。まず、成型後の最終発酵は、「布どり」をする。これには、キャンバス地が必要になる。この分厚い木綿の布でうねを作り、畝の間に成型したパンを並べて最終発酵をする。柔らかい生地は、牡丹餅のように潰れやすいので、畝の間で発酵させることによって、パンを上に高く膨らむようにするためだ。
最後に焼き。手持ちのオーブンがどういう機能を持っているかによって方法も変わる。フランスパンのあのバリバリとしたクラストにするために水蒸気が必要だが、その機能があるオーブンなら手馴れた方法で良いと思う。私のは、大きな200Vの電気オーブンで水蒸気を出す機能はない。だから、底部のターンテーブルに小石を敷いて熱し、成型生地を投入後、すぐに水をこの小石の部分に入れて蓋を閉める。蒸気を充満させてパンの表面がしっとりし、これがフランスパンのクラストを作る秘訣となる。原始的な方法だが、失敗したことはない。我ながら、なかなか苦労している。因みに、なぜ小石を敷き詰めるか?前に聞かれた時に考えた理由は、もし、仮に小石を敷かずにいきなり250度に熱せられた天板に水を注ぎいれればどういうことになるだろうか。おっそろしい勢いで水が反発して大火傷を負うことになるんジャマイカ。お気をつけくださいませ。
このパンは、表面にライ麦粉がかかっていて、その香りがまた香ばしい。このパンの作り方を参考にしたのは、「手作りパン工房(島津睦子)」(参照)だが、酵母を使う点から、分量や焼き方は全く違う。
材料(二個分)
水種
- 国産強力粉・・100g
- ホシノ天然酵母生種・・25g
- ※イースト菌の場合は2.5g(発酵時間は約2時間ほど)
- モルトパウダー・・1g
- 水・・100g
本こね
- 国産強力粉・・150g
- 塩・・5g
- ビタミンC水溶液・・5滴
- 水・・70g
その他の材料
- スチーム用の水・・200cc
- ライ麦粉・・大さじ1程度
作り方
- 水種の材料をすべてボールに測り取り、ラップをして25度の室温で6時間発酵させる。出来上がりの状態は、発酵のピークが終わり、生地全体がしぼんで底に落ち他状態まで発酵させる。
- 本ごねの材料を混ぜ合わせ、水種を加えてこね合わせ、ラップをかけて室温25度で生地が約二倍になるまで発酵させる。
- 生地の底部にスケッパーなどを差し込んでガス抜き(パンチ入れ)をし、再び25度で生地が倍になるまで発酵させる。
- 3と同じことを2回繰り返してさらにパンチを入れて生地に弾力をつける。
- 4の生地を打ち粉をしたキャンバス地に取り、スケッパーで二等分する。
- 生地を四つにたたんで丸く整形し、布とりしたキャンバス地に、とじ目を下にして並べ、乾燥しないようにビニールで覆って最終発酵させる。
- 6が一回り大きく発酵したらとじ目を下にしてオーブンシートに並べ、ライ麦粉たっぷり振り、縦に1本、横に3本のクープ(切り込み)をいれる。
- オーブンに小石をセットし、250度で余熱をし7のパンをセットしたら水を200cc入れて蓋を閉めて2分蒸らす。
- 設定温度を230度にして25分、焼き色がつくまでじっくり焼く。
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