■鳩山由紀夫:見合いの数理
今週は「たけしのコマ大数学科」が休講だったので、鳩山由紀夫が専修大学で教鞭を取っていた頃に書いた論文「見合いの数理」を考えてみた。「見合いの数理」は、古くからある「見合いの問題」、「秘書の採用問題」、「海辺の美女問題」などと同じく、最適な結婚相手、有能な秘書、とびっきりの美女を選ぶ際の「意思決定」をどのように行えばよいかを考える問題、あるいは、どこでストップをかけるのがいいかという「最適停止問題」として考えることができる。
海辺の美女問題:海辺で寝そべる「あなた」の前を、20人の美女が通る。あなたの目的は、この20人の美女の中から、とびっきり(ランキング上位)の美女をひとり選び、声をかけること。ただし、一度「パス」した女性に戻ることはできない。さて、あなたはどのような戦略を立てて、ひとりの美女を選ぶ「意思決定」を行うか。
【遊び方】爺が作成したFlashでは、どの美女も同じ画像だが、ひとりひとりに爺のいいかげんな主観に基づく「美女ポイント」が与えられている。「パス」ボタンを押すと、次の美女が登場する。声をかける美女を決めたら「決定」ボタンを押す。ただし、19人目をパスしたときは、自動的に20人目を選んだことになる。
あなたは、とびっきりの美女をゲットすることができただろうか。どのように美女を選んだらいいか、その「意思決定」のメカニズムを説明する前に、もっと単純化したサイコロ・ゲームの場合を考えてみよう。
【ルール】サイコロは3回まで振ることができる。1投目で「決定」した場合は、2投目、3投目を振ることはできない(結果は表示される)。最後に振ったサイコロ(赤い矢印)の目の数が得点になる。できるだけ高得点を得るには、どのように考えたらいいか。
サイコロの目は、1~6までなので、期待値(平均値)は「3.5」だ。1投目で1~3の目が出たら、パスして2投目を振るだろう。そして2投目で4~6が出たら、そこで「決定」して3投目は振らない。
1投目で5や6の目が出たら、そこで「決定」したほうが無難だろう。では、1投目に4が出た場合は?
サイコロを3回振った場合の期待値は「3.5」だが、もしも、2投目で4~6の目が出たら、そこで止めるという選択肢がある。1投目以降の期待値を計算すると……。
※出典:秋山仁/著「数学流生き方の再発見」
くどいようだけど、2投目のサイコロの目が1~3の場合は、結局、3投目を振るので期待値は「3.5」、4~6の場合は、2投目で止めるということ。
つまり、このサイコロ・ゲームの「意思決定」は、以下のようにするのが、もっとも合理的と言えそうだ。
1投目→{1,2,3,4}パス。{5,6}決定。
2投目→{1,2,3}パス。{4,5,6}決定。
さて、それでは「海辺の美女」の場合は、どーだろうか。正六面体のサイコロを、そのまま単純に正20面体のサイコロに置き換えて考えるには無理がある。正20面体のサイコロならば、1投目で、もしも「20」が出たら、それ以上の数は期待できないことがハッキリしているからだ。
何を「美」とするかは、あくまで自分にとっての主観の問題である。ただし、このゲームを成立する条件として、20人という限られた人数の中で、無理矢理ランキング付けを行っている。どういうことかというと、Flashのゲームを作る爺の立場からすると、この20人の中で、誰が一番の美女なのか、プレイヤーにはわからないようにしなければならない。なおかつ、明確なランキングは存在して、サイコロのようなランダムではなく、同じ目が出ることもない。あくまで、目の前を通り過ぎる美女に対して、絶対値ではなく、相対的にこれまで目の前を通過した美女よりも、美女ポイントが高い、低いを判断してもらいたいわけだ。
「海辺の美女」問題がわかりにくいのは、まさに、この点なのでないかと、爺は素朴に思った。思考実験として、イメージしにくいんだよね(爺だけかも^^;)。そこで、美女ポイントを設け、ゲーム仕立てにしたわけ。
能書き(爺の言い訳)は、これくらいにして、「海辺の美女」の解答編。まずは、期待値を計算する。
※出典:数学セミナー増刊「数学100の問題」
上の数式をあてはめて、エクセルの表にすると、以下のようになる。「i」は、登場する順序。表は下から順に見てね。「C(i)」がそのとき得られる期待値(ランキングの順位)、「S(i)」は、これまでパスしてきた中でのランキング順位を表す。
表からわかる、「海辺の美女」を選ぶ、最適の方法は、
1:最初の5人は、S(i)が「0」なので、無条件にパスする(様子を見るだけ。美女ポイントはしっかり見ておこう^^;)
2:次の5人、6~10番目に登場する美女は、S(i)が「1」なので、これまでパスしてきた美女たちの中で、美女ポイントが最も高い、1位だったら、声をかける。
3:次の3人、11~13番目は、S(i)=2なので、1位か2位だったら、声をかける。
4:次の2人、14、15番目は、S(i)=3 これまでのランキング3位までに入っていれば、声をかける。
5:16番目は、S(16)=4 つまり、これまでのランキング4位以内なら声をかける。この辺から、あまり高望みはできなくなる。でも希望は捨てないぞ^^;
6:17番目は、S(17)=5 これまでのランキング5位以内。少々、後悔の念も……^^;
7:18番目は、S(18)=7 これまでのランキング7位以内。こうなりゃ、やけくそだ><;
8:19番目は、S(19)=10 とうとう、ここまで来てしまった。パスをして、最後の美女に一発逆転の夢をかけるか……;;
というわけで、20人の美女が、どんな順序で登場するかは、運次第なのだが、この方法で選ぶ限り、だいたい、ランキング3位に入るぐらいの美女をゲットすることができるはず。
鳩山由紀夫が同志社大学で行った講演「生活の中における情報と意思決定」によると……。
/*以下引用
1,000人の人とお見合いをする人はいないと思いますが、1,000の人の場合、最初の368人は付き合いを断って369番目から、368人の人と比べて一番いいと思う人が現れたらプロポーズする。それが正解で1,000人の中で一番の女性と結婚できる確率は3割6分8厘になる。相当高い確率で自分が一番期待している人と結婚できる話になります。
*/引用終わり
爺は、「海辺の美女」の問題文の中に、重要な条件を書くのを忘れていた。それは、美女に声をかけたら必ずゲットできるという設定である。現実問題としては、とびっきりの美女に声をかけても、振られるのがオチである><;向こうにだって拒否する権利があるのら。もし女性側からの「拒否あり」の数理モデルを考えたら、「海辺の美女」の問題の答えは、「とにかく声をかけまくる」ということになるのかも……^^;
≪出典≫
生活の中における情報と意思決定(鳩山由紀夫)
Journal of Culture and Information Science, 1(1), 37-45. (March 2006)
数学流生き方の再発見 数学嫌いに贈る応援歌 秋山仁/著 中公新書 ※「ガスコン研究所」の過去記事へのリンク |
数学100の問題 数学史を彩る発見と挑戦のドラマ 数学セミナー増刊 日本評論社 ※初版は1984年だが、その後1999年に復刻・新装版が刊行されたようだ。現在では、どちらも新品での入手は困難。 |
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