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2007年12月18日 (火)

初級、中級、上級

『世界』1月号の続きです。内橋克人・佐野誠両氏の対談「連帯・共生の経済を」は、正直いっていささか散漫な印象を受けましたが、次に引用するところ(佐野誠氏の発言)は、なかなか興味深いものがありました。

>新古典派の経済学にも、素朴な、旧来型の市場原理主義的な新古典派と、ノーベル賞を受賞するようなレベルの、進化した、旧来の新古典派を内部批判する新古典派があります。両者が混在しているのでわかりにくい。格差問題をあれこれ論じている方々は、後者の考え方ももちろんご存じですね。しかし、そういう方々やメインストリームの経済学者たちが、例えば大学でどのようなカリキュラムを組むかとなると、話は別なのです。

>初級の必須科目は、教科書を見れば一目瞭然ですが、19世紀末から20世紀前半にかけて確立された旧来型の新古典派に近い内容です。ところが、それを学生に刷り込み的に勉強させた挙げ句に、中級にいくと、旧来型の考え方は仮定が非現実的であるとして、最新理論の要約のようなことをまた勉強する。事実上、初級の内容を中級、上級で否定する、矛盾したカリキュラム構成になっています。

>中級、上級の理論を使った現状批判それ自体は、私たちの世界観とそう大きく違わない。世界銀行副総裁だったスティグリッツが、アフリカやラテン・アメリカ。アジアでのIMFの所行を厳しく批判するとき、学問的にも誠実に筋を通している。

>しかし、世界中のどれほど多くの学生が入門レベルで非現実的な仮定に立った経済学の刷り込みをされているかを考えると、恐ろしいものがあります。学部を終えてキャリア官僚やジャーナリスト、政治家となって、政策的、政治的に実践していくときに、よりどころとする世界観をどこに求めるかというと、結局、この刷り込まれた世界観に帰って行くのです。・・・

まさに、「初等経済学教科書嫁」厨の発生メカニズムというわけですが、まあブログに落書きして喜んでいるイナゴなどはどうでもいいのですが、ここで佐野氏が語っているように、最大の問題は現実に対するとぎすまされた感覚が必要であるはずの「キャリア官僚やジャーナリスト、政治家」が、刷り込まれた初級経済学の奴隷になってしまい、理論に合わない現実の方が間違っているなどという信仰告白をするに至るという事態にこそあるというべきでしょう。

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コメント

「初級」の仮定を外していくことが、「矛盾」というのは、単に腐したいだけのような気がします。(佐野氏のようなマル経ではそれを弁証法的発展と言ってもよいのでは。)あと、「新古典派的」というので分けるのが困難というのも、そもそも現状の経済学からすると分けるのがお門違い。

ともかく、要するに経済学をやるなら「初級」で終えるなということでしょうか。「中級・上級」も「初級」の簡単な仮定で論理自体に慣れた上で出てくるものですし。

今時の「入門」テキストなら、情報の非対称性やら不完備市場やらのさわりは、ちゃんと書いてあるのでは。政治家やジャーナリストはともかく、キャリア官僚(のOBで今は学者になっている人)が市場メカニズムを振りかざすのは、別に理論への帰依ではなく、自らへの利益誘導になるからという理由の方がはるかに強いのではないでしょうか。
実際、某改革会議などの議事録を見ていても、官僚OB学者氏は、初めは経済理論に基づいてうんぬんの話を振ってはいるものの、議論が白熱すると、例えば混合診療や教育バウチャーなどにしても、批判勢力に対しては初級教科書にも載っていないような屁理屈---というよりは情緒的・感情的な罵詈雑言---に終始されておられるようです(解雇規制が学歴差別の元凶だなんてのもありましたな)。
感情論や、全く理論的な裏付けのないブードゥー経済学(?)の跋扈する政策議論を回避するためにも、出発点を(きちんとした)入門教科書に置くことはむしろ望ましいのではないでしょうか。

そうかも知れません。私はこの佐野さんという人を全然知らないのですが、いささか主流派経済学に対する批判が克ちすぎているようには感じました。
実際、私が存じ上げているすぐれた労働経済学者の皆さん、大所では樋口美雄先生や清家篤先生、若手では神林龍さんなど、初級をきっちり踏まえた上で、労働問題の特殊性を適確に議論されていて、少なくともここでの佐野さんの批判が当たるような人々ではありませんね。
むしろ、Joshuaさんの指摘される「解雇規制が学歴差別の元凶だあ」氏のような人の方こそ、実証科学としての経済学ということを噛みしめていただきたいところです。

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