最低賃金を引き上げるべき理由

引き続き最低賃金ネタ。Economist's ViewのMark Thomaが、theFiscalTimesで最低賃金引き上げを訴えている。
彼の論旨は概ね以下の通り。

  • 労働市場での賃金決定は、経済学の教科書通りに労働者の限界生産力に等しくなるように決まるわけではなく、労働者と経営者の交渉力によって決まる。
  • 労働者の生産性が上がって製品の付加価値が増えても、追加収入の大部分が経営側に渡ってしまった、というのが近年起きたことであり、それが格差拡大にもつながった。
  • 労働者側の交渉力を引き上げる一つの方法は組合。だが、右派の政治家が制定した法律や、企業が海外もしくは組合の力が弱い州に移転する能力により、組合の力は損なわれている。
  • 労働者側の交渉力を引き上げるもう一つの方法は最低賃金引き上げ。最低賃金労働者は元々交渉力が乏しいが、最低賃金引き上げはその乏しい交渉力の代わりとなる。
    • 最低賃金引き上げについては、より安い賃金で別の労働者を雇う、という企業側の脅しが効かない。
    • 連邦レベルで最低賃金を引き上げれば、企業はより最低賃金の低い場所に移るという選択肢が無くなる。
  • 最低賃金引き上げは雇用を減らすという懸念については、雇用への影響は最低限にとどまるという実証結果が優勢*1。それはまさに、最低賃金労働者に対して限界生産力を下回る賃金しか支払われていない場合に予想されること。その時、適度な最低賃金引き上げは歪みをもたらすのではなく、むしろ歪みを取り除くことになる。
  • 最低賃金引き上げが過去数十年間の労働者階級の所得停滞問題を解決するわけではなく、それにはまた別の解決法が必要となる。だが、最低賃金引き上げは正しい方向への一歩である。

*1:ここでリンクしているWaPo記事ではカード=クルーガー論文が一例として挙げられている。