2016年7月16日、ハウステンボスに新たな王国が開業した。ロボットの複合施設「ロボットの王国」がそれだ。
同王国には、ロボットとの触れ合いが楽しめる体験型ミュージアム「ロボットの館」、200年後のレストランがテーマでロボットが調理を担当する「変なレストランROBOT」などの施設がある。すでに7月9日に先行して開業した「こどもロボット館」と併せて、7月16日に本格開業となったわけだ。
本格開業に先立って、報道関係者向けにロボットの王国が公開された。ここでは、目玉となる変なレストランを中心に紹介していこう。ちなみに同社が“変な”と付けた施設は、昨年7月にオープンした「変なホテル」に続いて2つ目。フロント業務などをロボットが担当する変なホテルは成功を収め、ロボットが従業員としてうまく機能しているという。
トークや表情が利用者を引き付ける
変なレストランがある建物(1階がレストラン「ソーセージワーフ」)に足を踏み入れると、まずハウステンボス内にあるすべてのレストランのコンシェルジュを担当するロボット「ベイカーズ」がお出迎え。かなりユニークな見た目だが、あなどることなかれ、彼はIBMの有名な人工知能「ワトソン」と連携し、利用者の話し言葉を理解して返事をする。試しに「肉を食べたい」と聞いてみたところ、場内にある佐世保バーガーのレストランを推薦してくれた。
ベイカーズのお薦めを無視する形になってしまったが、2階にある変なレストランに進んでいく。そこは、なんとも形容し難い、あえて言えば“カオス”な空間が広がっていた。変なレストランはビュッフェ形式なので、レストラン前方に料理やサラダが置いてあるのだが、これに加えて、ロボットがガラス越しにズラリと並んでいるのだ。事前にロボットが調理するレストランということは分かっていたが、想像以上にロボットが大きくて少し面を食らってしまった。
調理を担当するロボットは、全部で5体。その中でも注目されていたのがお好み焼きを作るロボット「アンドリュー」だ。事前の触れ込みでは、見事なコテさばきで、お好み焼きをひっくり返すという。どんな動きなのかは、下の動画で確認してほしいが、面白いのはアンドリューがペラペラと話すこと。自分がなぜお好み焼きを担当することになったのかなどを話してくれる。
アンドリュー以外のロボットもかなりよく話す。例えばアルコールなどを提供するバーテンロボット「ダニール」は、酒にまつわる話を聞かせてくれる。チャーハン担当の「アール」とドーナツ担当の「エル」は、掛け合いのトークを披露してくれる。しかも各ロボットには、ちゃんと性格などが設定されているうえに、口調や方言がそれぞれ異なっている。
それにしてもなぜ、ロボットの動きに目を奪われてしまうのだろうか? 変なレストランの演出のポイントはどこにあるのだろうか?
おそらく徹底した擬人化が演出のポイントだ。実は調理を担当するロボットは、元々は工場などで働く産業用ロボットだったケースが多い。無機質な産業用ロボットに顔を付けて、しゃべらせることで人間味を出しているのだ。アールとエルにはさすがに顔を付けられなかったようだが、大型のタブレットを使って表情を作っている。ハウステンボスの考える200年後のレストランは、ロボットがものすごい速さで正確に調理するというよりも、ロボットが人間のように調理するレストランのようだ。
ガンダムのジオラマに圧倒される!
変なレストランに続いてロボットの館(監修:ロボットゆうえんちの岡本正行氏)を見ていこう。入口の実物大の「パトレイパー」が建物の目印だ。結構な大きさに感心してしまう。
ロボットの館は、体験型を売りにしたミュージアムだ。ロボットを実際に操作したり、ロボットとの会話を楽しめる。しかも気に入ったロボットはその場で購入することも可能という。
ロボットの館の見どころのひとつが、「ロボットステージ」。「プリメイドAI」「MANOI」「KONDO/KHR-3HV」の3種類のロボットがダンスなどを披露してくれる。息の合った動きでラジオ体操をする3台のMANOIが微笑ましい。プリメイドAIは、ロボットとは思えないキレキレのダンスを見せてくれた。
ロボットの館では、ロボットの王国の本格開業を記念して「機動戦士ガンダム スペシャルシアター」を2017年の2月28日まで開催している。幅27m、高さ7mの巨大なスクリーンを三面使って、サンライズが手がけたオリジナル映像を上映。加えて、天井と壁などが鏡になっているので“合わせ鏡”で映像が無限に広がるような空間が現れる。映像の内容も機動戦士ガンダムシリーズの歴史を振り返るもので、子どもだけでなくお父さんも楽しめそうだ。
ガンダム関連の展示も見逃せない。特に144分の1スケールのモビルスーツ200機が作り出すジオラマは必見だ。「機動戦士ガンダム」(ファーストガンダム)の有名な戦い「オデッサ作戦」を再現したもので、「あんなところにズゴックがいる」と、さまざまな戦闘シーンを発見できる。
実証実験の場をどんどん提供する
今回のロボットの王国のプロジェクトを推進してきたハウステンボスのイベント企画3課の中平一旗課長は、「ロボットの王国ではアナログな調整に苦労した」と話す。うまくお好み焼きをひっくり返すためにロボットの動きを微調整したり、生地に切れ目を入れるとうまくいくといったノウハウを発見したりしたそうだ。今後は「さまざまな企業に、一緒にロボットの実証実験をしませんか、と声をかけていきたい」と、他社を巻き込んでの成長に意欲を見せる。
同社の技術顧問&CTO(最高技術責任者)の富田直美氏も、「一般の消費者にロボットなどを体験してもらえる場所をもっとたくさん作らないとテクノロジーが進化していかない。そうした体験の場が少ないから日本のロボットは産業用から広がっていない」と、消費者が体験でき、その様子やデータをフィードバックできる実証実験の重要性を説く。
最後に富田氏に改めてロボットの王国の魅力を聞いた。すると「世界初のロボットの王国で、最先端のものがたくさんあること。そして、どんどん変わっていくので、来るたびに楽しみがあること」と笑顔を見せた。今のロボットは完成度が上がっていき、新しいロボットも積極的に導入するので、毎回新鮮な発見があるというわけだ。
その一方で、「完成度は現時点とあまり変わらないかもしれない」とも話す。これは、既存のロボットの完成度が上がるペースよりも、新しいロボットを導入するペースのほうが速いことを意味しているのだろう。失敗を恐れず新しいロボットをどんどん取り入れていくという強い意志が感じられた。永遠に完成しないアトラクション――、それもまたロボットの王国の魅力なのかもしれない。
(文・写真/渡貫幹彦=日経トレンディネット)
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