米シリコンバレーの新たなスターと言えば、新手のタクシー配車を手がける「Uber(ウーバー)」。6月下旬の1週間、米サンフランシスコを拠点にシリコンバレーを行き来する出張で、ウーバーが八面六臂の活躍を見せてくれた。聞くと乗るとでは大違いである。
もはや、ウーバーを知らない人はいないだろう。というくらいに、2009年、産声を上げたウーバーは全世界で有名となった。
6年で日本を含む世界58カ国、300以上の都市で展開。その企業価値は上場前にも関わらず400億ドル(約5兆円)を超えるとされる。すでに米ツイッターの時価総額(約230億ドル)を超え、国内の時価総額ランキングに照らせば全上場企業中15位の位置にある計算だ。
といっても、日本人にはあまり馴染みがない。その破壊的とも言えるビジネスモデルが世界各国で軋轢を生んでいる、という話をメディアを通じて見聞きしたことがあっても、実際に利用した人は少ないだろう。
渋谷・小田原間に匹敵する範囲を行き来
そのはず、日本ではウーバーの真骨頂とも言える「Uber(ウーバー)X」というサービスが始まっていない。ウーバーXは、一般の登録ドライバーが自家用車でタクシーよりも安く運んでくれるサービス。米国では簡単な登録をするだけで、誰でもすぐにウーバーのドライバーとなれる(一部の州を除く)のだが、規制が厳しい日本では「白タク」として違法扱いとなる。
そのため、ウーバーは2014年3月に日本進出を果たしているものの、国内では提携するハイヤー会社、タクシー会社のクルマを都内で配車する、というサービスにとどまっている。サービスを享受できるのは港区などの都心部に限られ、提携先のタクシー会社や台数も少なく、欧米のような充実したサービスとは言いがたい。
筆者は、試しにと、ハイヤーの配車サービスを都心で利用したことがあるが、それっきりだ。というウーバー初心者が、米サンフランシスコでウーバーを使い倒すこととなった。これは、結果論である。
ひとくちにシリコンバレーと言っても、その範囲は広大だ。かつては、サンマテオ以南、サンノゼあたりまでのベイエリアを指したが、近年はウーバーも含め、サンフランシスコに拠点を構える新興ネット企業が多い。サンフランシスコからサンノゼまでは約77km。日本で言えば、都心から小田原までの距離に匹敵する。
シリコンバレーの企業は「国道101号線(通称ワンオーワン)」と呼ばれるフリーウェイに沿って点在しており、筆者は当初、レンタカーを借りて行動する予定だった。タクシーで東京・小田原間を行き来するのは非現実的。カルトレインという列車を使う手もあるが、時間効率が悪く、1日4件入れられるアポイントメントが2件ほどになってしまう。
6年前も、サンフランシスコや、米グーグルの本社があるマウンテンビュー、米アップルの本社があるクパチーノなどをレンタカーで行ったり来たりした経験がある。クルマでなければ到底、回り切ることはできず、タクシーを使えば料金が膨大になる。レンタカー以外の移動手段は考えられなかった。
しかし、取材初日にウーバーXを使って、その考えが変わった。
目の前を過ぎていく“エアー空車”
全日程の半分ほどのアポイントメントを現地で五月雨式に入れる予定だったため、出発前に予約したのは、空港に夕方到着した後に宿泊するサンフランシスコ市内のホテルのみ。
翌日は、サンフランシスコ市内で2件のアポがあり、その翌日からは新規に入ったアポに応じて宿泊場所を流動的に変えていくつもりだった。レンタカーであればスーツケースを伴う移動も苦ではない。
取材初日、最初のアポはホテルからクルマで15分ほどの距離。チェックアウトしてスーツケースを預け、さっそくUberを試してみようと、スマートフォンのアプリを開いた。
サンフランシスコ近辺で選べるサービスは豊富だ。ウーバーXと高級な「ハイヤー」、日本と同じく商業タクシーの配車に加え、ウーバーXに他人と相乗りする「ウーバーPOOL」もある。料金を考えればこれが最も安いが、迎えも到着も時間がかかるし、見知らぬ人と相乗りになる抵抗もある。やはりウーバーX、一択だ。
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