いよいよ終盤戦に入ったプロ野球のペナントレース。セントラルリーグで上位3チームから日本シリーズ出場チームを決めるクライマックスシリーズ進出へ向けて激しい争いを繰り広げているのが、横浜DeNAベイスターズだ。IT企業のディー・エヌ・エー(DeNA)がオーナーとなり、2012年から新体制で試合に臨んでいる。

 4年目の今年は序盤戦は好調だったが、後半線は苦しい戦いが続き、今は球団として初のクライマックスシリーズ進出を目指している。DeNAベイスターズで注目すべきなのは、チームの好不調にかかわらず観客動員数を増やしていること。今年の動員数は、昨年の156万人を上回る170万人に達する見通し。DeNAになってからの4年間で実に6割以上の成長である。

 試合後に花火を楽しめるユニークなイベントをはじめ、これまでなかなか取り込めていなかった20~30代をターゲットに仕掛けている施策が着実に成果を上げている。一体何が観客を魅了しているのか、横浜DeNAベイスターズ経営・IT戦略部部長の木村洋太氏に聞いた。

(聞き手は相馬 隆宏)

2012年にディー・エヌ・エー(DeNA)がオーナーとなってから、観客動員数を増やしています。今年は序盤戦、チームが好調だったので、さらに増えるのではないですか。

<b>木村 洋太[きむら・ようた]</b><br /><b>横浜DeNAベイスターズ経営・IT戦略部部長</b><br />1982年生まれ。東京大学大学院卒業後、外資系コンサルティング会社に入社。2012年、横浜DeNAベイスターズ1年目のシーズンに転職。(写真:北山宏一)
木村 洋太[きむら・ようた]
横浜DeNAベイスターズ経営・IT戦略部部長
1982年生まれ。東京大学大学院卒業後、外資系コンサルティング会社に入社。2012年、横浜DeNAベイスターズ1年目のシーズンに転職。(写真:北山宏一)

木村:今年は1試合の平均で約2万5000人のお客さんが来てくれています。このペースでいくと、年間の観客動員数は昨年の156万人を上回る170万人に達する見込みです。満員大入りの回数も飛躍的に伸びていて、日本一になった98年の満員大入り回数を超えて新記録を更新し続けています(98年は32回、今年は8月30日現在で35回を数える ※12年4回、13年15回、14年23回)。

前年比約9%アップですか。単純に売り上げもそれだけ上がると考えると、経営効果は大きいですね。新体制になってから、何が変わったのですか。

木村:まず、最初の頃はとにかく話題作りをしようということで、「全額返金チケット」をはじめ、とにかくメディアに取り上げられるような施策を多く実施しました。日によって、「シルバー割」「子供割」、さらに、「女子割」の日も作り、その日は女装でもいいということにして、メディアやSNSでネタになりそうなアクセントを入れたんです。事業としては儲からない企画ばかりでしたが、まずはDeNAベイスターズの方を向いてもらおうと取り組んでいました。

 インターネットを使った本格的な調査も始めました。それまでは、チケットを何枚売ったといった実績データがある程度で、お客さんの声を聞くことはほとんどしていなかったのです。調査結果を生かした施策を実行するようになった2013年に、観客動員数が前年比20%アップ。さらに、どういう人達が増えているのか調べてみました。その結果、20代後半から40代前半のアクティブな人達ということが分かりました。

アクティブというのは具体的にどういうことですか。

木村:例えば、野外フェスに行ったり、仕事が終わった後に同僚や友達と居酒屋に飲みに行ったり、週末は家族でキャンプに行ったりと、野球がものすごく好きというわけではないけれど、大勢で盛り上がるのが好きな人達です。

 私たちは、「アクティブサラリーマン」と呼んでいて、その層に向けていろんな施策を打っています。

アクティブサラリーマン層に対してどんなことを仕掛けているのですか。

木村:平均すると月1~2回、集客力や満足度向上を目的とした大きなイベントを開いています。

 例えば、試合後にチケットを持っている人なら誰でもグラウンドで遠投を体験できる「おやじだらけの遠投大会」や、昔、野球をやっていた人たちをターゲットにした「夢のプロテスト体験」などがあります。夢のプロテスト体験は、50メートル6秒5以内、遠投90メートル以上の人たちに厳選して、高田繁GMがちゃんと見てくれるんですよ(笑)。

 アクティブサラリーマン層は、ネットリテラシーが高く、フェイスブックなどSNSを利用している人も多い。そういうところで拡散されやすいよう、イベントの内容や言葉の使い方を工夫しています。広告宣伝の予算はそれほど多くないので、できるだけSNSでネタとして取り上げてもらいやすいものを意識しています。SNSでちょっとバズったら、うまくいったねって。

(写真:北山宏一)
(写真:北山宏一)

イベントは誰がどういうふうに考えているのですか。

木村:最初の年は計画的なものではなく余力のある人が企画していたのですが、2013年からは各部署の人たちが全員参加できるような仕組みを作りました。

 いつも同じ意見に偏らないように、いろんな部署のいろんな年齢・性別の人に考えてもらっています。「去年はこういうイベントをやったから、今年は趣向を変えてこうした方がいいよね」といった意見が出やすいようにしたんです。

 今は10種類のプロジェクトがあります。それぞれ、担当チームが週1回ぐらいのペースで集まって話し合います。どんなイベントにして、お客さんに何をプレゼントするか、ゲストに誰を呼ぶか、チケットのプロモーション、メディア戦略をどうするかなどを考える。

それぞれのプロジェクトはずっと同じチームが担当するのですか。

木村:1年ごとにローテーションします。去年やったことの単純なバージョンアップではなく、新しい意見を取り入れて成長させていきたいからです。

 10種類のプロジェクトがそれぞれ1カード3試合以上でイベントを企画するので、ホーム球場で開催する試合の約半分は何かしらのイベントをやっていることになりますね。

 イベントの企画では、前年の集客を上回ることを目標にしています。なまじ、毎年メンバーを変えてそれぞれが全力で取り組むので、ハードルがどんどん高くなっちゃって(笑)。

 DeNAベイスターズになる前は、単発のイベントが中心で、去年、一昨年の流れを組んで継続しているものはありませんでした。話を聞いてみると、面白そうなエッセンスはあるのですが、うまくプロモーションできていなかったり、定着できていなかったりで。

 今は、10種類のイベントそれぞれについて、来場者にアンケートもしています。「何のイベントが面白かったか」「このプレゼントをもらって本当にうれしかったか」といったことを聞いて、来年も残すかどうか議論しています。

野球観戦の常識を覆す

もともと野球が好きで試合も見に来ていた人たちに対しては特に何もしないのですか。

木村:野球好き、さらにDeNAベイスターズ好きになると、イベントでコントロールするというより、チームのパフォーマンスが影響してきます。その層に対しては、ファンクラブを中心に対応していきますが、チームは強い時もあれば弱い時もある。その人達に集客を依存するのはやっぱりリスクが大きい。野球って、強いチームでさえ5回に2回は負けるんです。

 チームの勝敗にかかわらず、同僚や友達と居酒屋感覚で集まったり、家族のレジャーとして楽しんだり、純粋にボールパークというエンターテインメント空間で過ごすことを目的に来場してくれる方々もきっと多くいると思うんです。そういう環境を作ってもいいな、と。だから、座席の作り方も、家族や友達同士といったグループで来て、ワイワイ楽しめるボックスシートを増やしています。ボックスシートになると、必ずしも野球が見やすい向きになっていません。お客さんのニーズや環境に合っていれば、それはそれでいいのかなと割り切っています(笑)。

 野球を見てもらうための常識からすると間違っているけれど、そこは気にせずにやっていこうと決めました。居酒屋ではなく、野球場に行こうという感覚を持ってもらえればいい。

ビールを飲む場所を変えようと。

木村:そういうことです。

そうすることで、集客に結びついている。

木村:ターゲットにしているアクティブサラリーマン層の動員がグンと増えているし、その層が一緒に連れてきているであろう同年代の女性や子供も増えている。野球好きの男性だけが来る場所というイメージからは変わってきていると思います。

この記事は会員登録(無料)で続きをご覧いただけます
残り4118文字 / 全文文字

【初割・2カ月無料】お申し込みで…

  • 専門記者によるオリジナルコンテンツが読み放題
  • 著名経営者や有識者による動画、ウェビナーが見放題
  • 日経ビジネス最新号12年分のバックナンバーが読み放題